ビタミンDは、骨に作用する食品成分の1つです。
そのなかでも中心的な役割を果たしており、ビタミンDの血中濃度をあげることが骨を丈夫にすることに繋がるため、骨粗鬆症の予防と治療に効果があるといわれています。
ビタミンDは食品からの摂取や、紫外線を浴びると体内で作ることができます。
ビタミンDの生成に関係している紫外線は服やガラスを通過することができないため、普段外出をあまりしない方や夜型の生活の方は特にビタミンDが不足しやすいです。
1.ビタミンDとは
ビタミンDは脂溶性ビタミンの1つです。
天然には、きのこ類に含まれるビタミンD₂と魚肉や魚類の肝臓に含まれるビタミンD₃があります。
また、皮膚にはプロビタミンD₃が存在し、紫外線によりビタミンD₃に変換されるため、適度に紫外線に浴びることが重要です。
宗教、または文化的理由で頭にスカーフを巻いたり、肌を隠したりする女性への研究で全体の96%が血中ビタミンD濃度20μg/mL未満で、60%が12μg/mL以下であったと言われています。
【参考情報】『Vitamin D status and determinants of deficiency among non-pregnant Jordanian women of reproductive age』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22415337/
ビタミンDは血中のカルシウム濃度が低下するとカルシウムの吸収を促進するなどカルシウム濃度を上昇させるために働いており、相互に作用することで血中の濃度を維持しています。
そのため、ビタミンDが不足すると骨軟化症やくる病、骨量減少、骨折リスク増加など骨に関係するリスクが増大します。
2.ビタミンDの骨粗鬆症予防・治療効果
骨は常に新しい状態にしておくために、骨を破壊する「骨吸収」と骨を作る「骨形成」が同時に進行しています。
ビタミンDは骨形成に関わっているため、不足すると骨の状態が悪くなり、十分摂取できると骨が丈夫になり悪化を予防することができます。
骨粗鬆症の予防としては、800~1,000 IU/日のビタミンDが高齢者の骨折率を減らすのに役立つのではないかと考えられています。
【参考情報】
『ビタミンD』微量栄養素情報センター
https://lpi.oregonstate.edu/jp/mic/ビタミン/ビタミンD#重篤な欠乏症
骨粗鬆症とは、骨が傷つきやすくなり骨折しやすくなった状態のことをいい、加齢とともに発症率が上昇します。
骨粗鬆症は生活習慣や遺伝など様々な要因が重なることによって発症する多因子疾患で、栄養や運動に関連するものなど生活習慣に関することを改善することで予防になります。
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版では、特に重要な栄養素として、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKがあげられています。
骨粗鬆症の薬物治療で広く用いられているビスホスホネートという薬剤は、ビタミンDが不足している場合、薬物効果である骨折予防効果が発揮されにくいことが懸念されています。
3.ビタミンDの免疫調整としての役割
分子栄養医学(オーソモレキュラー)の観点からビタミンDの役割を見ていくと、骨との関係だけではなく免疫とも深い関係があります。
正常な細胞は、異物を体内に入れないように細胞同士が手をつないで防止しているような状態になっています。
細胞同士を結びつけるためにはビタミンDが必要で、ビタミンDが不足していると結びつきが弱くなり異物が侵入しやすくなってしまいます。
異物とは、ウイルスや細菌、アレルギーの元になるアレルゲンなどがあります。
これらの異物が体内に侵入するとアレルギー反応の原因になります。
免疫に関係するビタミンDの働きを詳しく見ていきましょう。
3-1.抗菌タンパク質を生産する力の向上
抗菌タンパク質とは、菌を攻撃して殺菌作用を発揮してくれます。
抗菌タンパク質が生産されることで、異物に反応して体内への侵入を防ぐ働きをしています。
3-2.免疫細胞を増やす
免疫細胞とは、細菌やウイルスなど異物が体内に侵入してきた場合に攻撃をして体を守る働きをしています。
そのため、免疫細胞が不足していると体内に異物が侵入したときにウイルスなどの活性を弱めることができず感染症にかかりやすくなったり、症状が重症化したりしてしまいます。
3-3.炎症性サイトカインの産生を阻害する
私たちの体内は普段ウイルスや病原体などを免疫細胞が認知すると、炎症性サイトカインが炎症を引き起こし、免疫細胞を活性化させることで体を守っています。
炎症性サイトカインが過剰に分泌されることで正常な細胞にも反応してしまうサイトカインストームを引き起こしてしまい、これが自己免疫疾患を引き起こす可能性があります。
3-4.過剰な免疫反応を抑える
免疫反応が過剰に起きないように炎症性サイトカインと同時にその働きを抑制するための、抗炎症性サイトカインが働いています。
しかし、炎症性サイトカインが過剰に分泌されることでこのバランスが崩れ、過剰に免疫反応が起きてしまいます。
4.骨粗鬆症以外の疾病との関係
ビタミンDはがんとの関係もあると言われています。
1980年代からいくつかの前向き研究で、ビタミンD摂取と様々な種類のがんとの関連が調べられていて、血中ビタミンD濃度が20ng/mL増加するごとにがんの発生率が11%減少し、がんの死亡率も17%低下することが報告されています。
数多くの研究から、血中ビタミンD濃度が高いことで結腸直腸がんの発生率減少が示唆されています。
ビタミンDとがんについて関連付けられるエビデンスは現在のところ限られていますが、関連の可能性が示唆される研究が進んでいます。
5.ビタミンDの血中濃度を上げる方法
東京慈恵会医科大学による大規模な調査によると日本人の約98%が不足していることが明らかになっています。
ビタミンDを不足なく取り入れるためにはどのようにしたら良いのでしょうか。
【参考情報】『Determination of a Serum 25-Hydroxyvitamin D Reference Ranges in Japanese Adults Using Fully Automated Liquid Chromatography–Tandem Mass Spectrometry』The Journal of Nutrition
https://jn.nutrition.org/article/S0022-3166(23)05587-6/fulltext
5-1.食品から取り入れる
ビタミンDは鮭、さんま、さば、マグロなどの脂肪性の魚類や、きくらげ、舞茸、干ししいたけなどのきのこ類に含まれています。
日本人の食生活は魚類が主である和食中心から、肉類が主である洋食中心に変化して食の欧米化が進むことでビタミンDの摂取が不足していると考えられています。
5-2.日光を十分に浴びる
日光の紫外線を浴びることでビタミンDを生成することができます。
夏なら20分以上、冬なら30分以上日焼け止めを塗らずに屋外で過ごすと良いです。
日焼け止めや窓ガラスなどはビタミンDの生成に必要な紫外線をカットしてしまうため、日光浴する際は避ける必要があります。
5-3.サプリメントを活用する
食品や日光浴でビタミンDを十分に取り入れることが難しい場合は、サプリメントで補うこともできます。
しかし、過剰に取りすぎることで高カルシウム血症、腎障害、軟組織の石灰化障害などのリスクもあるため、18歳以上の男女ともに上限値として100㎍/日(4000 IU/日)未満の量が推奨されています。
食事や日常生活でどのくらいの量が摂取できているかによってサプリメントで補強する量は一人一人異なるため、ビタミンDのサプリメントを摂取する場合は必ず専門家に相談しましょう。
【参考情報】『日本人の食事摂取基準 脂溶性ビタミン』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586561.pdf
6.おわりに
ビタミンDを摂取することで骨を丈夫にすることができ、歩行速度の減少の防止にも繋がります。
それだけではなく、がんや自己免疫性疾患にも関係すると言われています。
年齢を重ねても元気に健康に過ごすためには、ビタミンDを意識して摂取しましょう。