カルシウムが不足すると、どうなる?

日本人の栄養摂取量は、平均的に多くの栄養素で所要量をほぼ満たしています。しかし、その中でも国民健康・栄養調査が始まって以来、一度も所要量に到達していない栄養素があります。
それがカルシウムです。
大人のカルシウムの推奨量は1日600~800mg、成長期の子どもは700~1000mgとなりますが、日本人のカルシウム摂取量は平均約500mg前後で推移しており、年代を問わず不足しています。
この記事では、カルシウムの体内での役割や、不足した場合に起こりうる影響について解説します。
さらに、吸収率を高める組み合わせや、食品別の含有量、日常生活で取り入れやすい摂取法についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
1.カルシウムとはどのような栄養素か
カルシウムは、人体に最も多く存在するミネラルで、成人では体重の約1kgを占めています。
骨や歯をつくるというイメージが強い栄養素ですが、それだけではなく、全身の生理機能を支える幅広い役割を果たしています。
1-1. 歯や骨を形成する基礎素材
体内のカルシウムの約99%は、骨や歯に「リン酸カルシウム」の形で蓄えられています。これが骨の強度や歯の硬さを保つ土台となっています。
骨量は成長期に大きく増加し、18歳~20歳ごろに最大値(ピークボーンマス)に達します。その後は加齢とともに緩やかに減少していくため、若い時期にどれだけ骨量を高められるかが将来の骨の健康に直結します。
また、閉経後の女性は骨量が急激に減りやすく、カルシウム不足が骨粗しょう症発症リスクを高めることも知られています。
【参考情報】『閉経後骨粗鬆症』日本内分泌学会
https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=51
1-2. 筋肉・神経・血液の安定に関わる
体内の残り約1%のカルシウムは、血液や細胞内にカルシウムイオンとして存在し、生体機能の調節に重要な役割を持ちます。
<筋肉の収縮>
カルシウムは筋肉細胞内でスイッチのような働きをし、収縮の引き金になります。
<神経伝達の調整>
神経の興奮を抑えたり、神経伝達物質の放出に関わることで、体の動きや感覚を整えます。
<血液凝固>
止血に必要な凝固因子の働きにも関わり、出血を防ぐ仕組みを支えています。
これらの働きが維持されるためには、骨に蓄えられたカルシウムが必要に応じて血液中へ供給される体内バランスが重要です。
摂取量が不足すると、体は不足分を補おうとして骨を溶かす方向に働くため、骨量低下につながります。
【参考情報】『Calcium』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/calcium.html
2.カルシウム不足で起こる症状
カルシウムが不足すると、さまざまな症状や病気を引き起こします。
2-1.骨粗しょう症
骨粗しょう症は、骨の量(骨量)が減り、骨の内部構造がスカスカになることで、骨がもろく折れやすくなる病気です。
骨は常に壊されて再び作られる「骨代謝」を繰り返していますが、このバランスが崩れて骨を作る力より壊す力が上回ると、骨量が急速に減少します。
【参考情報】『骨代謝とは』日本骨代謝学会
https://jsbmr.umin.jp/basic/kotutaisha_ma.html
とくに閉経後の女性は、女性ホルモン(エストロゲン)の減少によって骨の破壊が進みやすく、発症リスクが高くなります。
また、高齢者では、加齢による骨量の自然減少や運動不足、食事の偏りなども関係します。
骨粗しょう症になると、わずかな衝撃や日常の動作で骨折することがあります。多いのは、背骨(脊椎)、太ももの付け根(大腿骨頸部)、手首(橈骨遠位端)などです。
脊椎の骨折は気づかないうちに進行し、身長が縮んだり、背中が曲がったり、慢性的な腰痛の原因にもなります。
予防には、カルシウムやビタミンD・ビタミンKの十分な摂取、適度な運動、日光を浴びてビタミンDを活性化させることが重要です。
【参考情報】『骨粗鬆症(骨粗しょう症)』日本整形外科学会
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/osteoporosis.html
2-2.動脈硬化や高血圧
カルシウムが不足すると、まず体は生命維持を優先するため、骨に蓄えられているカルシウムを溶かして血液中へ補充しますが、血液中のカルシウム濃度はわずかでも変動すると、ホルモン分泌や神経・筋肉の働きに影響します。
たとえば、副甲状腺ホルモン(PTH)やカルシトニンなど、カルシウム調整に関わるホルモンが過剰に分泌され、体内のバランスが崩れやすくなります。その結果、筋肉のけいれん、手足のしびれ、動悸などの症状が現れることもあります。
さらに、カルシウムは細胞内での情報伝達にも使われるため、不足すると細胞が正常に働けなくなり、免疫機能や代謝の面でも悪影響が出ます。
逆に、溶け出したカルシウムが血管壁に沈着すると、血管が硬くなり動脈硬化を進める一因になります。これが慢性的に進むと、心筋梗塞や脳梗塞など循環器疾患のリスクも高まります。
3.カルシウムの摂り方
カルシウムを効率よく摂取するには、含有量の多い食品を選ぶだけでなく、吸収率を高める条件を整えることが重要です。
3-1.カルシウムが豊富な食品
カルシウムが多く摂れる食品は、次のようなものです。
・牛乳、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品
・ししゃもなど骨ごと食べられる小魚
・豆腐や納豆などの大豆製品
・小松菜や切り干し大根などの野菜類
まず、基本となるのは乳製品です。牛乳、ヨーグルト、チーズはカルシウムが多く、吸収率も高いため日常的に取り入れやすい食品です。
ただし、牛乳やヨーグルトなどの乳製品に含まれる「カゼイン」というたんぱく質が、アレルギーの原因となることがあります。
【参考情報】『原因別アナフィラキシー|食物アレルギー 牛乳・乳製品』アナフィラキシーってなあに.jp
https://allergy72.jp/cause/food/allergen/milk.html
牛乳・乳製品が体に合わない人は、野菜や小魚、豆類からカルシウムを摂りましょう。アレルギーのない人も、いろいろな食品からカルシウムを補給しましょう。
魚類では、骨ごと食べられる小魚(しらす、いわしの丸干し、さけ缶など)が効率的です。
3-2.カルシウムの吸収をよくする「ビタミンD」
ビタミンDは、腸管でカルシウムが吸収される際のサポート役として欠かせない栄養素です。
ビタミンDが不足すると、カルシウムを十分に摂っていても腸で吸収されにくくなり、結果として骨量の低下や筋力の衰えにつながります。
ビタミンDを多く含む食品には、しらす、紅鮭、サンマなどの魚類、さらにきくらげやしいたけをはじめとするきのこ類があります。
特に干ししいたけや乾燥きくらげは、日光に当たることでビタミンD量が増えるため効率的です。
また、ビタミンDは日光(紫外線)を浴びることで体内でも合成できます。季節や天候にもよりますが、手や顔に1日15分程度日光を当てるだけで十分な量がつくられます。
屋外での軽い散歩や、窓辺で日なたにいる時間を確保するだけでも役立ちます。
ただし、日焼け止めを厚く塗りすぎると合成量が低下するため、短時間であれば日焼け止めなしの時間を作るのも一つの方法です。
高齢者や屋内で過ごす時間が長い人は不足しやすいため、食事と日光の両方を意識してビタミンDを確保することが大切です。
3-3.カルシウム吸収を妨げる「リン」
リンには、体内のカルシウムバランスを乱す性質があり、摂りすぎると尿としてカルシウムを排泄させてしまいます。
その結果、せっかくカルシウムを十分に摂っていても吸収が妨げられ、骨の健康に悪影響を与えることがあります。
リン自体は体に必要なミネラルですが、現代の食生活では過剰になりがちです。特にスナック菓子、加工肉(ハム・ソーセージ)、インスタント食品、ファストフード、清涼飲料水などには、保存性や食感を高めるために食品添加物として「リン酸塩」が多く使われています。
これらを頻繁に食べると、カルシウムとのバランスが崩れ、骨量低下の一因になることがあります。また、リンの過剰摂取は腎臓への負担にもつながるといわれています。
食生活では、加工度の高い食品に偏らず、肉・魚・野菜・乳製品など自然のままの食材を中心にすることが、リンのとりすぎを防ぐうえで有効です。
カルシウムを効率よく体に取り入れるためにも、リンとのバランスを意識した食事を心がけましょう。
【参考情報】『High Consumption of Soft Drinks Is Associated with an Increased Risk of Fracture: A 7-Year Follow-Up Study』National Center for Biotechnology Information
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7071508/
4.おわりに
カルシウムは吸収率が高いわけではないため、ビタミンDや適度な日光浴、運動などと組み合わせることで利用効率が高まります。
成長期、妊娠・授乳期、中高年期など、必要量が増えるタイミングもあるため、日常的に意識して摂ることが大切な栄養素です。
・乳製品、小魚、大豆製品などカルシウムが多い食品を積極的にとる
・紅鮭やきのこ類などビタミンDの多い食品も積極的にとる
・スナック菓子や加工食品はリンが多いので控える
上記のポイントを意識して、丈夫な骨や体を保ちましょう。
【参考情報】『平成30年度国民健康・栄養調査報告』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/001066884.pdf









