貧血対策は鉄分だけじゃダメ!吸収率を上げる食事と栄養の全ポイント

貧血気味だと感じている、または貧血を予防するために、鉄分の摂取を意識している方は多いと思います。
鉄分が多い食品といえば「レバー」というイメージですね。ほかにはひじきも鉄分のイメージが強い食品です。
確かにレバーやひじきは鉄分を多く含む食品です。しかし「安全に」「しっかり」鉄分を吸収するためには、注意とコツが必要です。
目次
1.貧血が起こるメカニズム
貧血とは、血液中のヘモグロビンが不足し、全身へ十分な酸素を運べなくなる状態です。
ヘモグロビンは鉄を材料に赤血球の中で作られるため、鉄が不足すると十分に作られなくなり、酸素の供給が追いつかなくなります。
1-1.なぜヘモグロビンが不足するのか
ヘモグロビンが減少する原因は、主に次の3つに分けられます。
<材料である鉄が不足する>
食事からの摂取不足、吸収率の低下、月経や出血などが代表的な理由です。
<赤血球の生産がうまくいかない>
鉄だけでなく、葉酸やビタミンB12が不足しても赤血球が正常に作れなくなります。
<赤血球の寿命が短くなる>
溶血(ようけつ:寿命を迎える前の赤血球が何らかの原因により破壊されること)などがあると、供給が追いつかずヘモグロビン量が低下します。
一般的には「鉄不足」が最も多い原因ですが、それだけでは説明できないケースもあります。
【参考情報】『Anemia』Harvard Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/anemia/symptoms-causes/syc-20351360
1-2.なぜ鉄を摂っていても貧血になるのか
赤血球がちゃんと作られるには、鉄だけでなく、いくつかの栄養素や体の仕組みが一緒に働く必要があります。
<タンパク質>
ヘモグロビンや赤血球そのものの材料になります
<ビタミンC>
非ヘム鉄の吸収率を高めます
<葉酸・ビタミンB12>
赤血球が成熟するために必要です
鉄をしっかり摂っていても、吸収がうまくいかなかったり、他の栄養素が不足して赤血球が作れなければ、貧血は改善しません。
そのため、鉄だけに注目するのではなく、鉄の吸収を高める栄養素と、赤血球が作られる仕組みを整えることが大切です。
2.2種類の鉄分と吸収率
食事から摂れる鉄分には、ヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があります。これらは体内での吸収率が大きく異なるため、貧血対策では区別して理解することが重要です。
2-1.ヘム鉄と非ヘム鉄の違い
ヘム鉄は、肉や魚などの動物性食品に多く含まれる鉄で、吸収率が高いのが特徴です。一般に 10〜20%程度が吸収されるとされ、効率よく体内に取り込まれます。
非ヘム鉄は、野菜、豆類、海藻などに含まれる鉄で、 吸収率は2〜5%と低めです。しかし、食べ合わせによって吸収効率が大きく変わるという特徴があります。
この吸収率の差から、同じ量の鉄を摂っても、食品の種類によって体に入る量が大きく変わります。
【参考情報】『Iron』Harvard T.H. Chan School of Public Health
https://www.hsph.harvard.edu/nutritionsource/iron/
2-2.食品ごとの含有量と吸収率の比較
鉄分が多い食品としては以下のようなものがあります。
・レバー(豚・鶏):ヘム鉄が豊富で吸収率が高い
・赤身肉・魚(カツオ、マグロなど):ヘム鉄主体で貧血対策に有効
・大豆製品(豆腐、納豆):非ヘム鉄が中心
・ほうれん草・小松菜:非ヘム鉄が多く、単独では吸収率が低い
例えば、ほうれん草の鉄は数字上は多く見えますが、非ヘム鉄で吸収されにくいため、レバーや赤身肉と比較すると体内に入る鉄の量は大きく差が出ます。
2-3.妊婦さんはレバーを選ばないで!
鉄分といえばレバーという印象は強いかもしれませんが、妊娠中の方にはおすすめできません。
レバーに多く含まれるビタミンA(レチノール)は体に蓄積しやすく、妊娠初期に摂りすぎると胎児の成長に悪影響が出る可能性があります。
内閣府・食品安全委員会のファクトシートでも「妊娠中又は妊娠を希望する女性は、ビタミン A を含むサプリメントを摂らないこと。また、レバー及びレバー製品を摂らないこと」と明記されています。
【参考情報】『ビタミンAの過剰摂取による影響』食品安全委員会
https://www.fsc.go.jp/topics/factsheet-vitamin-a.pdf
妊婦さんがヘム鉄をしっかり取りたい場合は、赤身の肉や魚を中心にする方が安全です。
ちなみに、野菜に含まれるベータカロテン(プロビタミンA)は、必要な分だけ体内でビタミンAに変換されるため、通常の食事で過剰になる心配はありません。
3.鉄の吸収率を上げる栄養素
鉄分をしっかり摂っていても、吸収されなければ貧血の改善につながりません。
特に非ヘム鉄は吸収率が低いため、吸収を助ける栄養素を組み合わせて摂ることが重要です。
3-1.たんぱく質
鉄は、赤血球やヘモグロビンの材料となるタンパク質と結びついて働きます。
良質なタンパク質を十分に摂ることで、鉄が効率的に利用され、赤血球の生成もスムーズになります。
特に、肉・魚・卵・乳製品などの動物性タンパク質は、アミノ酸バランスが良く、鉄の吸収を高める効果が期待できます。
3-2.ビタミンC
ビタミンCには、非ヘム鉄を体に吸収されやすい形へ変化させる働きがあります。
そのため、野菜や大豆製品などの非ヘム鉄を摂るときは、ビタミンCが豊富な食品と一緒に食べると吸収率が大きく上がります。
<おすすめの食べ合わせ>
・ほうれん草+レモンなどの柑橘類
・大豆製品+ブロッコリー
ビタミンCは調理で損失しやすいため、生の野菜や加熱時間の短いメニューを取り入れるのも効果的です。
3-3.ビタミンB群
ビタミンB群のうち、ビタミンB12と葉酸は、赤血球が正常に成長し、成熟するために欠かせない栄養素です。
鉄が十分でも、これらが不足すると赤血球の生成がうまくいかず、結果として貧血につながります。
・ビタミンB12:貝類、レバー、鮭、卵、乳製品などに含まれます。
・葉酸:緑黄色野菜、豆類、海藻に多く含まれます
この2つはセットで働くため、どちらか片方だけを摂っても十分な効果は得られません。赤血球を育てる栄養として、意識して摂ることが大切です。
4. 鉄の吸収を妨げる食べ物・飲み物
貧血を改善しようとしている時期には、鉄の吸収を妨げたり、体内での利用効率を下げてしまう食事・飲み物に注意が必要です。
<コーヒー・紅茶・緑茶>
これらの飲み物に含まれているタンニンは、特に非ヘム鉄と結びついて吸収率を下げます。飲むなら食後1〜2時間空けると影響が少なくなります。
【参考情報】『Iron absorption and phenolic compounds: importance of different phenolic structures』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2598894/
<カルシウム>
牛乳やヨーグルトなどに含まれるカルシウムは、体の中で鉄と同じ場所で吸収されるため、一緒にとると鉄の入り方が弱くなりやすいです。
ただし、カルシウムそのものが悪いわけではありません。鉄をしっかり吸収したいタイミング(鉄の多い食事やサプリをとるとき)だけ避け、時間をずらせば問題ありません。
<加工食品・ファストフードの摂り過ぎ>
高度に加工された食品は、鉄以外の栄養素(タンパク質、ビタミンB群、ビタミンCなど)が不足しやすく、結果として赤血球をつくるプロセス全体が滞ります。
<アルコールの過剰摂取>
お酒を飲みすぎると胃や腸の粘膜が弱り、鉄をうまく吸収できなくなります。さらに、肝臓の働きも落ちるため、体の中で鉄を使う力まで下がってしまいます。
5.貧血になりやすい人は?
貧血のリスクや原因は、年齢や性別、生活背景によって大きく変わります。
<女性>
月経による定期的な出血が続くため、鉄の損失が多く、最も貧血が起こりやすい層です。
月経量が多い、期間が長い、レバー状の塊が出ることが多いといった場合は鉄欠乏が進みやすく、食事だけでは補いきれないことがあります。
<妊娠中・授乳中>
胎児の成長や母乳の産生によって、鉄の需要が大きく増えます。妊娠中は特に血液量が増加するため、通常よりも鉄不足に陥りやすい時期です。
妊婦健診で貧血が指摘されることも多く、医師から鉄剤が処方されるのは珍しくありません。
妊娠中・授乳中は自己判断で無理に食事だけで補おうとせず、医療的なサポートを併用するほうが安心です。
<高齢者>
加齢により胃酸の分泌が低下し、鉄の吸収効率が下がる傾向があります。また、食事量の減少によって鉄が慢性的に失われるケースもあります。
さらに高齢者は、ビタミンB12不足による「巨赤芽球性貧血(きょせきがきゅうせいひんけつ)」が起きやすい点も特徴なので、鉄だけでなく、B12・葉酸を含めた総合的な栄養状態の確認が重要です。
【参考情報】『巨赤芽球性貧血』小児慢性特定疾病情報センター
https://www.shouman.jp/disease/details/09_01_001/
<スポーツをする人>
運動量が多い人は、汗や尿、足裏への衝撃などで鉄の消費が増えるため、貧血になりやすい傾向があります。特にランナーは走るときの衝撃などで赤血球が壊れやすく、体が必要とする鉄の量がさらに増えます。
【参考情報】『スポーツ貧血』学校保健
https://www.gakkohoken.jp/special/archives/214
日常的に運動している人は、普通の食事量では必要量に届かない場合があるため、鉄源の確保とタンパク質摂取が欠かせません。
6. 受診の目安
貧血は食事で改善することも多い一方で、自己対策だけでは解決しないケースもあります。
6-1.食事で改善しないケース
鉄を意識した食事を続けているにもかかわらず、立ちくらみや動悸、疲れやすさなどが長引く場合は、単純な鉄不足以外の要因が関係している可能性があります。
例えば、消化管での吸収がうまくいっていない場合や、体内で鉄をうまく利用できない状態になっていることがあります。
自己判断で対策を続けても改善が見られない場合は、血液検査で原因を特定するほうが確実です。
6-2.他の病気が隠れている可能性
貧血は、消化管の出血(胃潰瘍、大腸ポリープ、痔など)、慢性炎症、腎臓の病気、甲状腺機能の異常など、別の病気のサインとして現れることがあります。
特に、「急に症状が強くなった」「便が黒い」「疲労感が極端に強い」「心拍が早くなる」といった症状がある場合は、早めの受診が必要です。
7.おわりに
鉄不足による貧血は、原因を正しく理解し、必要な栄養素を組み合わせて摂ることで改善しやすくなります。
鉄だけに注目するのではなく、吸収を助けるビタミンCやタンパク質、赤血球づくりに関わるビタミンB群などをバランスよく取り入れることが重要です。
一方で、食事を見直しても症状が変わらない場合や、症状が悪化していく場合は、別の原因が隠れていることがあるので、医療機関を受診しましょう。
貧血の改善には一定の時間がかかるため、短期間で結果を求めず、継続して取り組むことが大切です。
基本的なポイントを押さえながら、自分のペースで対策を進めていくことが、長期的な改善につながります。













