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外来

「腸もれ」と免疫力の関係性

執筆者: わたなべゆうか(管理栄養士)
最終更新日 2025年11月07日

腸には食べ物の消化・吸収だけでなく、外部から入ってくる細菌やウイルス、有害物質から体を守る役割があります。

そのため多くの免疫細胞が集まっており、全身の免疫システムの約70%が腸に存在するとされています。腸はまさに、体内最大の免疫器官といえます。

ところが、腸の粘膜バリアが弱まり、通常は通さない物質が体内に入り込む「腸もれ」の状態にになると、免疫システムに余計な負担がかかります。

異物が次々と侵入し、それに対処するために免疫が過剰反応を起こす一方で、肝心の防御機能は低下し、風邪や感染症などにかかりやすくなる可能性があります。

さらに、腸もれ状態が続くと、慢性的な炎症が起こり、アレルギー、自己免疫疾患、肌トラブル、疲労感や不調など、全身への悪影響が指摘されています。

この記事では、腸もれと免疫機能の関係、腸のバリア機能が乱れる原因、そして改善・予防のポイントについて解説します。

1.腸と免疫の関係


腸を含む消化管は、口から肛門までつながった1本の管で、実質的には外界と接している臓器です。

そのため、食事と一緒に、細菌・ウイルス・化学物質など、体にとって有害になり得るものが常に入り込む可能性があるため、体内に異物を侵入させないための強力な防御機構が備わっています。

この防御システムの中心となるのが「腸のバリア機能」で、機械的バリア・化学的バリア・微生物的バリアの3つが相互に働くことで、健康を守っています。

1-1.機械的バリア(物理的バリア)

機械的バリアは、腸の粘膜細胞や粘液によって構築される、もっとも基本的な防御ラインです。

腸の内側は「上皮細胞」と呼ばれる細胞がすき間なく並び、タイトジャンクションという細胞同士を密着させる構造によって、異物が体内へ通り抜けないようにしています。

【参考資料】『If you want to boost immunity, look to the gut』UCLA Health
https://www.uclahealth.org/news/want-to-boost-immunity-look-to-the-gut

この構造がゆるむと、未消化物や毒素が体内に漏れ出しやすくなり、いわゆる「腸もれ(リーキーガット)」の状態につながります。

また、腸の表面を覆う粘液は、外部刺激から上皮細胞を守るクッションの役割も果たしています。

1-2.化学的バリア(免疫バリア)

化学的バリアは、免疫物質によって異物の侵入を防ぐ仕組みです。

腸では、外敵を無害化するためにIgA抗体や、異物を粘液に絡め取って腸壁へ接触させないようにするムチンが分泌されています。

これらは粘膜層に存在し、ウイルス・細菌・アレルゲンなどを捕捉し、腸管内で排出へと導きます。

さらに、消化液に含まれる酵素や胃酸なども、侵入してきた病原体を減らす働きを持っています。

1-3.微生物的バリア(腸内細菌バリア)

微生物的バリアは、腸内細菌(腸内フローラ)によって保たれるバリア機能です。

腸内細菌は、善玉菌・悪玉菌・日和見菌の3種類に分類され、バランスが重要です。

善玉菌は、悪玉菌の増殖を抑える抗菌物質を作り出すほか、外から入ってきた有害微生物が腸内で増えないように働きます。

また、善玉菌が作る短鎖脂肪酸(酪酸など)は、上皮細胞のエネルギー源となり、腸のバリア機能強化にも貢献します。

一方で、悪玉菌が増えすぎると腸内が炎症状態になり、バリア機能の低下や免疫異常が起こりやすくなることが指摘されています。

【参考資料】『おなかのカビが病気の原因だった』(内山葉子/マキノ出版)
https://www.google.co.jp/books/edition/%E3%81%8A%E3%81%AA%E3%81%8B%E3%81%AE%E3%82%AB%E3%83%93_%E3%81%8C%E7%97%85%E6%B0%97%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E3%81%A0/MQw8swEACAAJ?hl=ja

2.「腸もれ」とその原因

2-1.「腸もれ」とは何か?

「腸もれ(リーキーガット)」とは、腸粘膜の細胞同士を密着させているタイトジャンクションが緩み、細胞間にすき間が生じることで、通常は通らない未消化物質、毒素、細菌、アレルゲンなどが血液中へ漏れ出してしまう状態を指します。

本来、腸は必要な栄養のみを選択的に吸収しています。しかし、腸もれが生じると、免疫細胞が異物を攻撃し、慢性的な炎症反応が起こりやすくなります。

この炎症が続くことで免疫の働きに負担がかかり、免疫力の低下、自己免疫反応の誘発、全身の不調につながる可能性があります。

<腸もれが起こる背景>

 ・ストレス

 ・高脂肪/高糖質の食生活

 ・食品添加物やアルコールの過剰摂取

 ・抗菌薬(抗生物質)や薬剤による腸内細菌叢の乱れ

 ・不眠、過労、加齢

以下のような症状が続く場合、腸のバリア機能が低下しているサインの可能性があります。

 ・よく風邪を引く、治りにくい

 ・お腹が弱く、下痢や便秘を繰り返す

 ・食物アレルギーや花粉症がある、悪化している

 ・疲労感が抜けない、倦怠感が続く

 ・情緒不安定になりやすい、集中力低下

 ・頭痛、肌荒れ、慢性的な肩こりや不調がある

腸は免疫だけでなく、自律神経や脳の働きとも深く関係しているため、腸もれを放置すると体全体の機能低下につながる可能性があります。

◆「アレルギー体質の人が知っておきたい、食事と腸の関係」>>

2-2.清潔すぎる環境は腸もれを引き起こす?

腸もれの要因の一つとして、過度に清潔な環境で育つことが挙げられます。

これは「衛生仮説(Hygiene Hypothesis)」として知られ、乳幼児期に多様な細菌や微生物に触れる機会が少ないと、免疫機能の発達が十分に行われず、アレルギーや自己免疫疾患のリスクが高まる可能性があると指摘されています。

【参考資料】『The ‘hygiene hypothesis’ for autoimmune and allergic diseases: an update』UCLA National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2841828/

乳児が様々な物を口に入れる行為は、単なる癖ではなく、体に必要な菌を取り込み、腸内細菌叢(腸内フローラ)を育てる自然な行動と考えられています。腸内細菌の多様性は免疫バランスに影響し、のちのアレルギー体質や腸の強さにも関係します。

過度な除菌や抗菌製品の多用、自然との触れ合い不足は、腸内細菌の多様性を損ない、結果的に腸のバリア機能を弱める可能性があります。

土や自然、動植物、他者との適度な接触は、腸内細菌を豊かにし、免疫力向上につながります。

2-3.「グルテン」が腸粘膜を荒らす可能性


小麦に含まれるタンパク質「グルテン」は、特に腸の弱い人にとって腸粘膜を刺激し、腸もれを悪化させる可能性が指摘されています。

グルテンを摂取すると、体内でゾヌリン(Zonulin)という物質が分泌されます。ゾヌリンにはタイトジャンクションを緩める作用があり、腸壁のすき間を広げてしまうことが分かっています。

【参考資料】『Zonulin』ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/topics/medicine-and-dentistry/zonulin

グルテン不耐症(過敏症)、セリアック病、自己免疫疾患、アレルギー傾向がある人は、グルテンの影響を受けやすいと言われています。

【参考資料】『セリアック病(celiac disease)』腸内細菌学会
https://bifidus-fund.jp/keyword/kw068.shtml

パン、麺類、パスタ、菓子類などを日常的に多く食べる生活を続けていると、腸粘膜の炎症やバリア機能低下が起こりやすくなります。

腸もれが疑われる場合は、小麦製品を控える(グルテンフリーを一時的に試す)、代替食品(米粉、そば粉、オーツなど)の活用などが有効とされています。

また、グルテン以外にも、アルコール、過度の糖質、食品添加物、人工甘味料なども腸粘膜に負担をかけることがあるため、併せて見直すと腸の回復が早まります。

【参考資料】『「腸もれ」があなたを壊す!』(藤田紘一郎/永岡書店)
https://www.google.co.jp/books/edition/%E8%85%B8%E3%82%82%E3%82%8C_%E3%81%8C%E3%81%82%E3%81%AA%E3%81%9F%E3%82%92%E5%A3%8A%E3%81%99/fhoAMQAACAAJ?hl=ja

◆「腸内環境を整えて免疫力をアップさせる食事の基礎知識」>>

3.腸もれを改善するには?


腸もれを改善するには、腸内細菌を増やしつつ、傷んだ腸粘膜のバリア機能を回復させることが重要です。食事内容と生活習慣の見直しが、改善の基本になります。

3-1.グルテンを控える

グルテンは、パン、パスタ、うどん、ピザ、ケーキ、クッキーなどの小麦製品に多く含まれています。

「朝はパン、昼は麺類、間食にクッキー」という生活が続くと、グルテン過多になりやすく、腸粘膜の炎症を助長します。

グルテンを減らす方法として、主食を米中心にするのが有効です。米粉パン、玄米、雑穀米、そば(十割)、大豆や米由来のグルテンフリー麺も選択肢になります。

まずは「1日1食を米に切り替える」など、無理のない範囲から始めましょう。

3-2.高たんぱく質・低糖質の食事にする

腸粘膜細胞の修復に必要なたんぱく質は、肉、魚、卵、大豆製品(豆腐、納豆、味噌など)、乳製品に多く含まれます。特に魚や発酵食品は腸内環境も整えやすい食品です。

食事は「たんぱく質のおかずをしっかり、主食は少なめ」を基本にした定食型が適しています。

菓子パンやおにぎり単品の食事は、たんぱく質不足と糖質過多を招き、腸内細菌のバランスを乱します。血糖値の急上昇は炎症を悪化させる点でも避けるべきです。

【参考資料】『If you want to boost immunity, look to the gut』UCLA Health
https://www.uclahealth.org/news/want-to-boost-immunity-look-to-the-gut

◆「たんぱく質をたっぷり摂って美と健康を。」>>

3-3.食物繊維を積極的に摂る

腸内細菌が増えるには、エサとなる食物繊維が必要です。食物繊維は、野菜、豆類、きのこ類、海藻、果物、全粒穀物に多く含まれます。

食物繊維には、水溶性(善玉菌を増やす)と不溶性(腸の動きを促す)があり、両方を意識することが大切です。

 ・水溶性の多い食品:納豆、オクラ、海藻、りんご、もち麦

 ・不溶性の多い食品:ごぼう、きのこ、豆、葉物野菜

「日本人の食事摂取基準」では、成人男性20g以上、女性18g以上が目標ですが、実際の平均摂取量は約10gにとどまっています。毎食「野菜+海藻 or きのこ」を組み合わせると目標に近づきます。

◆「ワクチンも大切ですが、感染予防には「腸内環境」が大事!」>>

4.おわりに

免疫力を高めるには、腸もれを防ぎ、腸のバリア機能を正常に保つことが欠かせません。

腸は免疫細胞の集まる重要な臓器であり、腸壁が傷んで異物が体内に入り込むと、慢性的な炎症が起こり、免疫力の低下につながります。

感染症対策として、手洗いやマスクなど外部からの侵入を防ぐ対策はもちろん必要ですが、それだけでは不十分です。

体の内側から感染に負けない状態をつくるには、腸の状態を整える食生活が大切です。

普段の食事を意識するだけで、腸内環境は大きく変わります。外側の対策と内側のケアを組み合わせて、感染症に強い体を作りましょう。

◆「当院の栄養カウンセリングについて」>>

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