ブログカテゴリ
外来

【糖尿病ダイエット完全ガイド】安全で効果的な食事・運動法

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年08月25日

糖尿病と診断され、医師から「体重を減らしましょう」と言われた方は、ただ体重を落とせばいいというわけではありません。

糖尿病のある方にとってのダイエットは、一般的な減量法とは異なり、誤った方法を選ぶと健康を大きく損なうリスクがあります。

この記事では、糖尿病のある方が安全かつ効果的に減量を進めるためのポイントを、医学的な根拠に基づいてわかりやすく解説します。

 ✅ 糖尿病とダイエットの正しい関係
 ✅ 安全で続けやすい食事療法の方法
 ✅ 血糖値に配慮した運動の取り入れ方
 ✅ 注意すべき落とし穴とリスク
 ✅ 続けられるメニュー例と習慣化のコツ

糖尿病の改善と健康的な毎日のために、ぜひ最後までご覧ください。

1.糖尿病とダイエットの基礎知識


糖尿病におけるダイエットは、単なる体重減少ではなく、血糖管理の改善と合併症予防を目的とした医療行為です。

正しい理解なくして、安全で効果的な減量は実現できません。

1-1.内臓脂肪とインスリン抵抗性の関係

糖尿病の人は、インスリンという血糖を下げるホルモンが効きにくくなる(インスリン抵抗性)ことがよくあります。その原因のひとつが、おなか周りの脂肪(内臓脂肪)です。

内臓脂肪が増えると、体に炎症を起こす物質(「TNF-α」「IL-6」など)が分泌され、インスリンがうまく働けなくなってしまうのです。

【参考情報】『Belly Fat Promotes Diabetes Under Orders from Liver』Columbia Medicine
https://www.cuimc.columbia.edu/news/belly-fat-promotes-diabetes-under-orders-liver

1-2.どのくらいの減量で効果があるの?

アメリカ糖尿病学会(ADA)や日本糖尿病学会のガイドラインによると、体重の5〜10%の減量で以下のような効果が期待できるとされています。

 ・空腹時血糖値が下がる

 ・食後の血糖の上がり方が穏やかになる

 ・HbA1c(長期血糖指標)が0.5〜1%改善することもある

 ・血糖降下薬の量を減らせる場合がある

さらに、体重を10〜15%減らすと、薬が不要になるケースや、糖尿病の寛解(血糖値が正常化する状態)に近づく可能性もあります。

【参考情報】『Obesity and Weight Management for the Prevention and Treatment of Type 2 Diabetes: Standards of Care in Diabetes–2024』American Diabetes Association
https://diabetesjournals.org/care/article/47/Supplement_1/S145/153942/8-Obesity-and-Weight-Management-for-the-Prevention

1-3.1型糖尿病の体重管理について

1型糖尿病の方は、適切な体重を維持することがとても大切です。体重を無理に減らしすぎると、体に必要なインスリンの調整が難しくなり、危険な状態である「糖尿病ケトアシドーシス」という合併症を起こすリスクが高まります。

【参考情報】『Diabetic ketoacidosis』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/diabetic-ketoacidosis/symptoms-causes/syc-20371551

◆「糖尿病」についてくわしく>>

2.科学的根拠に基づく効果的なダイエット方法


最新の糖尿病治療ガイドラインと国際的な研究結果に基づき、安全で効果的なダイエット方法を体系的に解説します。

自己流ではなく、医学的に検証された方法を実践することで、リスクを最小限に抑えながら最大の効果を得ることができます。

2-1.安全で効果的な減量ペースとは?

糖尿病の予防や改善、健康管理のためには、無理のないペースでの減量がとても大切です。

医学的な研究やアメリカの大規模臨床試験(DPP:Diabetes Prevention Program)では、次のような減量ペースが「安全で持続しやすい」とされています。

 ・1週間で0.5〜1kg程度の減量

 ・6か月で体重の約5〜7%減

 ・年間で5〜10%の減量

急激なダイエットはリバウンドのリスクが高く、血糖コントロールにも悪影響を及ぼすことがあります。

「少しずつ、着実に体重を落とす」ことが、長い目で見て健康を守る最も効果的な方法です。

【参考情報】『National Diabetes Prevention Program』CDC
https://www.cdc.gov/diabetes-prevention/index.html

2-2.糖尿病とカロリー制限:正しい考え方

日本糖尿病学会をはじめとする専門機関では、1日の適切なカロリー摂取量を決める際に、「標準体重 × 身体活動レベル」で設定する方法を推奨しています。

これは、一人ひとりの体格や普段の運動量に合わせた、より適切なカロリー量を算出するためです。


<標準体重の計算方法>
身長(m) × 身長(m) × 22

<1日の目標エネルギー摂取量(kcal)の計算方法>
標準体重(kg) × 身体活動レベル

<身体活動レベルの目安(1kgあたり)>

・軽労作(デスクワーク中心で運動量が少ない方): 25~30 kcal/kg

・中等度(通勤・通学や軽い運動を習慣にしている方): 30~35 kcal/kg

・重労作(日常的に肉体労働や活発な運動をしている方): 35~40 kcal/kg


例えば、身長160cmの方の標準体重は、1.6m × 1.6m × 22 = 56.32kg です。この方が軽労作であれば、1日の目標エネルギー摂取量は約1400kcal〜1700kcalとなります。

【参考情報】『1日に必要なカロリー 推定エネルギー必要量』日本医師会
https://www.med.or.jp/forest/health/eat/01.html

2-3.糖質制限は本当に効果があるの?

糖質制限は、短期間で血糖値や体重を改善できる方法として、多くの研究で効果が示されています。

たとえば、6か月以内の取り組みで次のような変化が期待できます。

 ・HbA1c(血糖コントロールの指標):0.3~0.5%ほど改善

 ・体重:3~5kg減少

 ・中性脂肪:20~30%ほど改善

ただし、長く続けると、以下のような弊害が生じることがあります

 ・たんぱく質や脂質の摂取増加で腎臓に負担がかかることがある

 ・極端な糖質制限は食物繊維やビタミン不足を招きやすい

 ・体調や持病によって向き不向きがある

安全に続けるためには、以下のポイントに留意しましょう。

 ・炭水化物は「ゼロ」にせず、雑穀や野菜などから適度に摂る

 ・野菜・魚・良質なオイルを組み合わせて栄養バランスを保つ

 ・腎臓や血液検査の結果を定期的にチェックする

糖質制限は、短期間で血糖値や体重を改善する可能性がある有効な方法ですが、長く続けるには注意が必要です。

無理に自己流で行わず、医師や管理栄養士と相談しながら取り入れると安心です。

【参考情報】『Low-carb diet: Can it help you lose weight?』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/healthy-lifestyle/weight-loss/in-depth/low-carb-diet/art-20045831

2-4.血糖値が上がりにくい「低GI食品」を選ぼう

GI(グリセミック・インデックス)値とは、食品が血糖値をどのくらい早く上げるかを示す指標で、数値が低いほど血糖の上昇がゆるやかです。


<代表的な低GI食品の例(GI値55以下)>

 ・玄米(GI値 約55):白米は約76

 ・全粒粉パン(GI値 約51):食パンは約91

 ・そば(GI値 約46):うどんは約80

<どう活用すればいい?>

 ・白米を玄米や雑穀米に置き換える

 ・パンは全粒粉やライ麦パンを選ぶ

 ・麺類はそばや全粒パスタを取り入れる


低GI食品をうまく取り入れることで、食後の血糖値が急に上がるのを防ぎ、糖尿病や肥満のリスクを減らす手助けになります。

【参考情報】『Low-glycemic index diet: What’s behind the claims?』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/healthy-lifestyle/nutrition-and-healthy-eating/in-depth/low-glycemic-index-diet/art-20048478

2-5.血糖値を安定させる食べ方のコツ

<まずは野菜から食べる>
食事の最初に野菜を5〜10分かけてしっかり食べると、血糖値の急上昇を防ぎやすくなります。

<よく噛む>
一口につき30回以上噛むことで、満腹感が得られやすくなり、食べ過ぎを防ぎます。

<ゆっくり食べる>
食事は20分以上かけて、落ち着いて味わうことがポイントです。

【参考情報】『Eat veggies and protein first, carbs last through ‘meal sequencing’』Ohio State University
https://health.osu.edu/wellness/exercise-and-nutrition/veggies-first-carbs-last

3.糖尿病の方におすすめの運動プラン


糖尿病の方が運動をする際は、血糖値の変動や低血糖のリスクに注意することが大切です。

ここでは、安全に続けられ、血糖コントロールや体重管理に役立つ運動のポイントをご紹介します。

3-1.運動プログラムの基本

以下は、ACSM(米国スポーツ医学会)および関連するガイドラインに基づいた、糖尿病(主に2型)の方におすすめの運動プログラムです。

<頻度>
週に少なくとも5日
有酸素運動は毎週150分以上を目標にしましょう

<強度>
中等度(最大心拍数の約50~70%)
自覚強度は10段階で「5~6(やや軽い~やや重い)」程度

<時間>
1回30~60分
合計150分以上/週になるように調整

<運動の種類>
ウォーキング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動が中心

運動時の目標心拍数は、(220 − 年齢)× 0.5 〜 0.7 でおおよその範囲を把握できます。

目安は「会話しながら少し息が弾む」程度です。

【参考情報】『Recommendations on Type 2 Diabetes and Exercise』American College of Sports Medicine
https://acsm.org/exercise-recommendations-type-2-diabetes/?utm_source=chatgpt.com

3-2.筋トレ

有酸素運動に慣れてきたら、筋トレ(中~高強度)を週2~3回加えることで、血糖コントロールの改善効果がアップします。

筋トレは糖尿病の血糖コントロールにとても効果的です。筋肉が1kg増えると基礎代謝が上がり、血糖を下げやすくなります。

おすすめの筋トレは、週に2〜3回行うもので、スクワットや腕立て伏せ(膝をついてもOK)、腹筋、軽いダンベル運動などです。無理せず自分のペースで続けることが大切です。

3-3.低血糖に注意

運動前後には血糖値をチェックして、低血糖にならないよう気をつけましょう。

血糖が100mg/dL未満なら、軽く何か食べてから運動を始めるのがおすすめです。

100〜180mg/dLなら、そのまま運動して大丈夫。

250mg/dL以上だと血糖が高すぎるので、運動は控えて医師に相談してください。

また、低血糖になったときのために、ブドウ糖タブレットを3~4錠持ち歩きましょう。

運動するときは、周りの人に糖尿病だと伝えておくと安心です。もしもの時に備えて、緊急連絡先も必ず持っておきましょう。

◆「低血糖」についてくわしく>>

4.避けるべきダイエットと安全な減量のポイント


糖尿病の方にとって危険なダイエット法と、それを避けるための具体的な注意点をお伝えします。

無理な方法は健康を損なう恐れがあるため、安心して続けられる減量のやり方をしっかり理解しましょう。

4-1.極端な糖質制限は危険

極端に糖質を減らすダイエット(1日50g未満)をすると、体に必要なエネルギー源が足りなくなり、命にかかわる合併症である糖尿病性ケトアシドーシスになることもあります。

また、腎臓に負担がかかったり、栄養が不足して免疫のはたらきが下がったり、筋肉が減ってしまうこともあります。

4-2.薬物を使ったダイエットのリスク

糖尿病の薬を「やせ薬」として自己判断で使い、体調を崩すケースが世界中で報告されています。

たとえば、GLP-1受容体作動薬(オゼンピックやマンジャロなど)をダイエット目的で使用した人が、吐き気や下痢、激しい腹痛で救急搬送される事例が出ています。

中には、膵炎や腎不全、胆のうのトラブルといった重い副作用で入院したり、死亡に至ったケースも報告されています。

「早く痩せたいから」と自己判断で薬を使うのは非常に危険です。薬は医師や薬剤師の指示通りに使用しましょう。

5.よくある質問(FAQ)


Q:おやつは食べてもいい?
A:量と種類を工夫すればOKです。ナッツやヨーグルト、少量の果物は血糖値が上がりにくいおやつです。

◆「管理栄養士が教える、糖尿病の方でも血糖値に影響が出にくい間食“8つ”のルール」>>

Q:お酒は飲んでもいい?
A:飲まない方がいいです。特に、空腹時の飲酒は低血糖を招くことがあるので注意が必要です。

◆「糖尿病の人が知っておきたいお酒の飲み方とは」>>

Q:リバウンドを防ぐには?
A:急激な減量はリバウンドしやすいです。少しずつ減らす・筋肉量を落とさないことが成功のコツです。

Q:糖尿病の家族が健康的な食事を食べてくれません
A:いきなり「健康食」に切り替えると反発されがちです。まずは、「白米の一部を雑穀米にする」「揚げ物を焼き物にする」など、気づかれにくい工夫から始めましょう。

また、家族の説得より、第三者である医師や栄養士からのアドバイスの方が効果的なこともあります。診察や栄養指導の際に一緒に参加するのもおすすめです。

◆当院の栄養カウンセリングについて>>

6.おわりに:安全で効果的な糖尿病ダイエットの実現

糖尿病のダイエットは、血糖管理を最優先とした医学的アプローチが不可欠です。

適切な方法で実践すれば、体重減少だけでなく、血糖値の改善・薬の減量・合併症予防といった多くのメリットを得ることができます。

自己判断ではなく、必ず医療チームと連携しながら、安全で効果的な糖尿病ダイエットを実現しましょう。

健康的な体重管理により、糖尿病と上手に付き合いながら、質の高い生活を送ることが可能です。

◆横浜市で糖尿病の検査と治療ができる病院をお探しなら>>

電話番号のご案内
電話番号のご案内
横浜市南区六ツ川1-81 FHCビル2階