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アレルギー体質を改善したい人は「善玉菌」を増やそう

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年12月15日

今や日本人の30%以上が、何らかのアレルギー性疾患を抱えていると言われています。

しかし50年前の日本では、アレルギーに悩む人はほとんどいなかったのです。それはなぜでしょうか。

1.アレルギーが「文明病」と呼ばれる理由


アレルギーとは、病気を防いで健康を守る「免疫」のシステムが、何らかの原因によって逆に体を傷つけてしまう反応です。

アレルギーの原因としては、環境の変化やストレスに加え、現代人の食生活の影響も大きいと指摘されています。

1-1.現代の食生活とアレルギーの関係

かつての日本では、野菜や海藻などの食物繊維、味噌をはじめとする発酵食品を多く取り入れた和食が一般的でした。これらの食材は善玉菌のエサとなり、腸内環境を整えることで免疫機能の維持に役立っていました。

善玉菌とは、腸内にすむ細菌のうち、体にとって有益なはたらきをする細菌の総称です。主にビフィズス菌や乳酸菌などが知られており、腸内で糖や食物繊維を発酵させて乳酸や酢酸などの有機酸を産生します。これにより腸内が弱酸性に保たれ、病原菌や有害菌が増えにくい環境がつくられます。

また、善玉菌は腸のぜん動運動を促して便通を整えるほか、腸の粘膜を守り、バリア機能を維持する役割も担っています。さらに、腸には体内の免疫細胞の多くが集まっているため、善玉菌が優勢な腸内環境は、免疫の過剰反応を抑え、アレルギーや感染症のリスクを下げることが示唆されています。

このように、善玉菌は消化・吸収だけでなく、免疫や全身の健康を支える重要な存在です。

【参考情報】『The development of gut immune responses and gut microbiota: effects of probiotics in prevention and treatment of allergic disease』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12022809/

1-2.加工食品の増加と腸内環境への影響

アレルギーが起こる原因としては、環境の変化やストレスのほか、現代人の食生活にも大きな問題があると指摘されています。

文明の発達とともに、ファストフードやコンビニ食品、出来合いのお惣菜を食べる機会が増えています。これらの食品には、化学調味料や食品添加物、保存料、着色料などの化学物質に加え、トランス脂肪酸やリノール酸、糖分・脂肪分・塩分が多く含まれがちです。

そのため、栄養バランスの面から見ると、体に負担をかけやすい食事になりやすいといえます。

◆「糖質がアレルギー疾患に与える影響とは?」>>

1-3.食生活の単調化が招くリスク

インスタント食品やファストフードはメニューが似通っているため、食生活が単調になりやすい傾向がありますが、同じものばかりを食べ続けると、腸内に存在する約1000種類の腸内細菌のうち、特定の菌だけが増え、腸内環境のバランスが崩れやすくなります。

腸内環境の乱れは、肥満や生活習慣病、アレルギー性疾患のリスクを高める要因とされています。また、善玉菌は加齢とともに減少しますが、若い世代でも偏った食生活を続けていると、高齢者と同様の腸内環境になることがあります。

【参考情報】『腸内細菌叢の乱れがアレルギー疾患の原因か』関西医科大学
https://www.kmu.ac.jp/news/laaes7000000g08n-att/202100405PressRelease.pdf

◆「アレルギー」についてもっとくわしく>>

2.善玉菌を増やすために知っておきたい食事の基本


アレルギーの発症には、腸内環境が深くかかわっていいます。体質を改善するためには、腸内に住む「善玉菌」を増やし、腸内環境を整える必要があります。

善玉菌を増やすには、善玉菌そのものを摂るだけでなく、善玉菌のエサとなる食品を日常的に取り入れる視点が欠かせません。

2-1.食物繊維と発酵食品、オリゴ糖の役割


善玉菌の主なエサとなるのが食物繊維です。野菜、海藻、きのこ、豆類、未精製の穀類に多く含まれ、特に水溶性食物繊維は腸内で発酵されやすく、腸内環境の改善に役立ちます。

【参考情報】『「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」との違いは? またそれぞれの作用は? どちらをどのくらいとればいいの?』女子栄養大学出版部
https://eiyo21.com/blog/dietaryfiber/

さらに、オリゴ糖も善玉菌のエサとして重要な成分です。オリゴ糖は消化されにくく、大腸まで届いてビフィズス菌などの増殖を助ける働きがあります。玉ねぎ、にんにく、バナナ、大豆、はちみつなどに含まれています。

【参考情報】『オリゴ糖(oligosaccharide)』腸内細菌学会
https://bifidus-fund.jp/keyword/kw062.shtml

また、味噌、納豆、ぬか漬け、ヨーグルトなどの発酵食品には乳酸菌やビフィズス菌が含まれています。ただし、体質によって合わない場合もあるため、少量から取り入れることが大切です。

伝統的な和食を基本に、時間がない方はチーズやバナナ、アボカドなど手軽に食べられる食材を取り入れるのも良いでしょう。

2-2.腸内環境を乱しやすい食習慣に注意

糖質や脂質に偏った食事、加工食品やインスタント食品中心の食生活は、善玉菌が減りやすい要因になります。さらに、同じ食品ばかりを食べる単調な食事は、腸内細菌の多様性を低下させます。

善玉菌を増やす食事とは、特定の食品に頼ることではなく、食材の種類を増やし、バランスの取れた食事を継続することです。これがアレルギー体質改善の土台となります。

3.善玉菌サプリメントとの正しい付き合い方


腸内環境を整える方法としてサプリメントに関心を持つ人は多いですが、正しく位置づけて活用することが重要です。

善玉菌を直接補う方法と、善玉菌が育ちやすい環境を整える方法の違いを理解したうえで取り入れる視点が求められます。

3-1.プロバイオティクスとプレバイオティクスの違い

プロバイオティクスとは、ビフィズス菌や乳酸菌など、体に有益なはたらきをする菌や、その菌体成分そのものを指します。

これらは腸内に直接取り入れることで、腸内細菌のバランスを整え、腸内での有害菌の増殖を抑えるはたらきが期待されています。

ただし、摂取した菌のすべてが腸内に定着するわけではなく、通過する過程で作用する点も特徴です。

一方、プレバイオティクスは、食物繊維やオリゴ糖のように人の消化酵素では分解されにくく、大腸まで届いて腸内の善玉菌のエサとなる成分です。

プレバイオティクスを摂取することで、もともと腸内に存在する善玉菌が増えやすくなり、腸内環境が安定しやすくなると考えられています。

腸内環境の改善を目指す場合、プロバイオティクスで善玉菌を補うだけでなく、プレバイオティクスによって善玉菌が育ちやすい環境を整えることが重要です。

両者を組み合わせて取り入れることで、善玉菌が一時的に増えるだけでなく、腸内環境の改善を継続しやすくなります。

【参考情報】『Prebiotics vs. Probiotics: What’s the Difference?』Cleveland Clinic
https://health.clevelandclinic.org/prebiotics-vs-probiotics-whats-the-difference

3-2.利用する際の注意点と考え方

食事だけで必要な量を補いきれない場合には、サプリメントを活用するという選択肢もあります。

ただし、腸内環境や体質は人によって大きく異なるため、同じサプリメントを摂取しても得られる効果には個人差があります。

短期間で明確な変化を期待したり、特定の製品に万能な効果を求めたりするのではなく、あくまで補助的な手段として位置づけることが重要です。

サプリメントを利用する際は、一定期間継続しながら、便通の変化やお腹の張り、体調全体の様子などを観察し、体に合っているかを判断します。

頻繁に製品を切り替えるよりも、同じものをしばらく続けて経過を見るほうが、変化を把握しやすくなります。

また、善玉菌関連のサプリメントであっても、摂りすぎれば下痢や腹部不快感などの不調が出ることがあります。体調に違和感が現れた場合は無理に続けず、使用を中止することが大切です。

持病がある場合や薬を服用している場合には、自己判断せず、医師や管理栄養士などの専門家に相談しながら取り入れる姿勢が求められます。

4.乳酸菌生産物質とは


善玉菌を増やすには、乳酸菌のような善玉菌を含む食材を摂ることと、善玉菌のエサになる食物繊維やオリゴ糖を含む食材を摂ることが大切ですが、最近、乳酸菌が発酵する過程でできる「乳酸菌生産物質」にも注目が集まっています。

4-1.乳酸菌から生まれる有効成分

私たちが食べた物は、胃で消化されたのちに腸に運ばれ、乳酸菌をはじめとした善玉菌のはたらきによってオリゴ糖が生み出されます。すると、そのオリゴ糖をエサにして、善玉菌が増殖します。

増殖した善玉菌は、酵素、核酸、アミノ酸、ビタミン、ミネラルなど、からだの健康維持に必要不可欠な有効成分を生み出します。乳酸菌生産物質とは、この乳酸菌から生まれる有効成分を、大豆由来の成分などを用いて培養・発酵させたものです。

乳酸菌生産物質は、サプリやエキスとして販売されています。選ぶ際は、味や飲みやすさ、価格だけではなく、糖分や添加物などもチェックして、信頼できる製品かどうか確認しましょう。

4-2.乳酸菌と乳酸菌生産物質との違い

“乳酸菌”という言葉が入っているので、乳酸菌と乳酸菌生産物質は同じようなものだと思われるかもしれませんが、この2つはまったく違う性質を持っています。

乳酸菌は「生きている」ため、食べると胃や腸の消化液の影響でほとんど死んでしまいます。一方、乳酸菌生産物質は生き物ではなく物質なので、胃や腸の消化液の影響を受ける心配がありません。そのため、腸に直接届いて腸内環境にはたらきかけ、善玉菌を増やすことができるという利点があります。

また、ヨーグルトに入っている乳酸菌の種類は製品によってさまざまですが、その特定の乳酸菌が、自分の腸内環境と相性が良いとは限りません。相性が合わない場合、その乳酸菌は腸内に棲みつくことができず、便と一緒に排出されてしまいます。

その点、乳酸菌生産物質はどんな腸内環境でも変わりなく、もともと自分の腸内に棲んでいる乳酸菌を増やすことができます。

◆「感染予防と腸内環境」について>>

5.おわりに

腸内環境はすぐに改善できるものではありませんが、善玉菌が喜ぶ食材や物質を摂り続けることで、理想のバランスに近づいていきます。

まずは「ランチにサラダをプラスする」など、すぐにできることから始め、体質改善を目指しましょう。

自分に合った食事やサプリメントを知りたい方は、当院の管理栄養士に相談することもできます。興味のある方は、診察時または受付で「栄養カウンセリングを受けたい」と、お気軽にお申し出ください。

◆当院の栄養カウンセリングについて>>

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