亜鉛のおもな特徴とアレルギー疾患を改善するはたらき

亜鉛は、アトピー性皮膚炎をはじめとした皮膚のトラブルに悩んでいる人や、喘息や花粉症などのアレルギーに悩んでいる人に注目してほしい栄養素です。
この記事では、亜鉛のおもな特徴と、アレルギー性疾患を改善するはたらきについてまとめました。亜鉛を効率よく摂取する方法も紹介しますので、病気の予防や症状の緩和にぜひ役立ててください。
目次
1. 亜鉛とはどのような栄養素か
亜鉛は、体内で幅広い働きを持つ必須ミネラルで、特に細胞の新陳代謝やたんぱく質合成に深く関わっています。
1-1.皮膚・味覚・成長を支える亜鉛の重要性
皮膚や髪、爪などはたんぱく質を材料にして作られていますが、亜鉛はその合成に欠かせないため、不足すると口内炎、肌荒れ、髪のハリ低下、爪が割れやすくなるなどの症状が現れます。
また、舌の表面にある「味蕾(みらい)」という味覚を感じるセンサーは寿命が短く、常に再生を繰り返していますが、その再生に亜鉛が必要です。
【参考情報】『味覚を守る (味蕾の構造と機能を一定に保つしくみの解明)』鹿児島大学
https://www.kagoshima-u.ac.jp/researcher/2022/02/post-37.html
そのため、亜鉛が不足すると味蕾の働きが低下し、食べ物の味を感じにくくなる味覚障害を引き起こすことがあります。
亜鉛は、成長にかかわるホルモンの合成や働きをサポートするため、成長期の子どもにとって特に重要です。
骨や筋肉の形成、細胞分裂のスピードが速いこの時期には、通常より多くの亜鉛が必要とされます。
亜鉛が不足すると、骨の伸びが妨げられたり、筋肉量が増えにくくなったりすることで、同年代の子どもに比べて身長や体重の伸びが遅れることがあります。
また、食欲を調整する酵素にも関与しているため、亜鉛不足が続くと食欲不振を招き、さらに成長が遅れるという悪循環につながることもあります。
【参考情報】『Zinc supplementation and growth in children』WHO
https://www.who.int/tools/elena/bbc/zinc-stunting
1-2.亜鉛不足が血糖調整と生殖機能に及ぼす影響
すい臓のランゲルハンス島にあるβ(ベータ)細胞では、亜鉛を使ってインスリンの合成・貯蔵が行われています。
そのため、亜鉛が不足するとインスリンの分泌量が低下し、食後の血糖値が下がりにくくなる可能性があります。
また、インスリンの働きをサポートする酵素反応にも亜鉛が関与しているため、不足するとインスリン抵抗性が高まり、血糖コントロールが乱れやすくなります。
さらに、亜鉛は生殖機能の維持にも重要です。女性ではホルモン分泌や排卵リズムの調整に関与し、男性では精子をつくる際の酵素反応に使われています。
亜鉛不足の男性では精子濃度や運動率が低下する可能性があり、不妊の一因となることも指摘されています。
【参考情報】『Zinc is an Essential Element for Male Fertility: A Review of Zn Roles in Men’s Health, Germination, Sperm Quality, and Fertilization』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6010824/
1-3.亜鉛が不足しやすい人は?
偏食気味の人や菜食主義の人、加工食品をよく食べる人は、食事からの亜鉛摂取量が不足しやすく、慢性的な不足につながることがあります。
また、十分に摂っているつもりでも、消化器系に炎症や吸収障害がある場合、腸での取り込みがうまくいかず、結果として不足に陥ることがあります。慢性胃炎、潰瘍性大腸炎、セリアック病などの疾患ではこの傾向がみられます。
【参考情報】『セリアック病』腸内細菌学会
https://bifidus-fund.jp/keyword/kw068.shtml
さらに、お酒を大量に飲む人は注意が必要です。アルコールの代謝過程で亜鉛が消費されるため、飲酒量が多い生活が続くと、摂取量が十分でも不足しやすい状態になります。
2. 亜鉛はなぜアレルギー疾患の改善に必要なのか
亜鉛には、白血球の数を増やして免疫機能を直接高める働きがあります。
さらに、粘膜を守るビタミンAの利用を助け、花粉やウイルスの侵入を防ぐことで、間接的にも免疫を支えています。
<細胞生成とアレルギー症状の関係>
亜鉛は細胞の生成にも深く関わっているため、亜鉛が不足すると細胞が十分に作られず、アレルギー物質が細胞から漏れ出しやすくなります。
その結果、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、食物アレルギー、アナフィラキシー、アレルギー性鼻炎などの症状につながることがあります。
<皮膚の回復と新陳代謝を支える働き>
亜鉛は細胞の新生に関わる酵素の材料でもあるため、アトピーで傷んだ皮膚の回復を促し、新陳代謝を助けます。
実際、アトピー性皮膚炎の人では亜鉛不足がみられることがあり、「傷が治りにくい」「跡が残りやすい」といった傾向が出ることがあります。
<炎症を抑えるために欠かせない役割>
アトピー性皮膚炎では皮膚、喘息では気道など、アレルギー性疾患のある人は体のどこかで炎症が続いています。
炎症を抑えるには活性酸素を除去する酵素(SOD:スーパーオキシドジスムターゼ)が欠かせませんが、この酵素の構成要素として亜鉛が必要です。亜鉛が不足するとSODがうまく働かず、炎症が長引きやすくなります。
また、脂質代謝の過程でも亜鉛は重要で、不足するとアトピー性皮膚炎や喘息を抑える働きをもつプロスタグランジン(局所ホルモン)が十分に作れなくなります。
3. 亜鉛を効率よく摂取する方法
推奨される亜鉛の1日の摂取量は、成人男性10mg、成人女性8mg(妊婦は+2mg、授乳婦は+3mg)です。まずは食事でしっかり補い、不足分はサプリメントで摂取しましょう。
3-1. 食事で摂取する
亜鉛が豊富な食品には、以下のようなものがあります。
・牡蠣、スルメイカ、タラバガニなどの魚介類
・豚肉、牛レバー、牛肉などの肉類
特に牡蠣は「海のミルク」とも呼ばれ、同じ重量あたりの含有量が非常に高いのが特徴です。加熱しても一定量の亜鉛を摂取できますが、生牡蠣にはとくに豊富に含まれています。
亜鉛はクエン酸やビタミンCと一緒に摂ると吸収率が上がるため、生牡蠣にレモン果汁をかける食べ方は理にかなった組み合わせです。レモン以外にも、酢やトマトなど酸味のある食品と合わせると同様の効果が期待できます。
◆「ビタミンCのおもな特徴とアレルギー疾患を改善するはたらき」>>
玄米や雑穀、豆類、ナッツ類などの植物性食品にも亜鉛は含まれていますが、亜鉛を多く含む植物性食品にはフィチン酸も含まれていることが多く、フィチン酸が亜鉛と結合して吸収を妨げてしまいます。
【参考情報】『Dietary phytate, zinc and hidden zinc deficiency』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25439135/
3-2. サプリメントで摂取する
亜鉛が不足しやすい人や、食事で必要な量を摂取することが難しい人は、サプリメントで効率よく摂取するのもおすすめです。
ただし、気になる症状があるからといって、サプリメントで大量の亜鉛を続けて摂取すると、銅や鉄の吸収が妨げられて貧血になったり、抗酸化酵素であるSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)のはたらきが弱くなる可能性もあるので、適切な用法用量を守って利用してください。食べ物から摂取する場合は、過剰摂取の心配はありません。
信頼できる製品を選ぶには「GMP認定工場」で作られているものかどうかを確かめると良いでしょう。
GMPとは「Good Manufactuiring Practice=適正製品規範」の略で、原材料の受け入れから製造、出荷に至るまで、製品が安全に作られ、一定の品質が保たれるために設けられた、医薬品レベルの厳しい製造工程管理基準です。
【参考情報】『GMPとは』日本医薬品原薬工業会
http://www.jbpma.gr.jp/bulk-pharmaceuticals/gmp
3-3. 亜鉛と一緒に摂りたい栄養素
<ビタミンC>
亜鉛の吸収をサポートし、免疫機能の強化にも相乗効果があります。皮膚や粘膜の修復にも関与するため、肌荒れが気になる人にも好相性。
<ビタミンB6>
たんぱく質の代謝を助け、亜鉛の利用効率を高めます。特に皮膚・髪・爪などの再生を促す働きが重なり、欠乏予防に役立ちます。
<たんぱく質(特に動物性たんぱく質)>
亜鉛の吸収率を上げる働きがあります。卵、肉、魚に含まれるアミノ酸が亜鉛の取り込みを助けます。
<クエン酸やリンゴ酸(有機酸)>
亜鉛を吸収されやすい形に変える作用があります。レモン、梅干し、酢、りんごなどと一緒に摂ると吸収率が上がります。
4. おわりに
病院で「亜鉛欠乏症」と診断された場合は、亜鉛製剤が処方されることがあります。
【参考情報】『亜鉛欠乏症の診療指針2018』日本臨床栄養学会
http://jscn.gr.jp/pdf/aen2018.pdf
皮膚炎や口内炎が頻繁にある人は、病院で血液中に含まれる亜鉛の量を調べてみるのもよいでしょう。赤ちゃんのおむつかぶれや、介護を受けている人の褥瘡(じょくそう)が頻繁にできるときも、亜鉛不足が原因のことがあります。
免疫力が低下して風邪をひきやすくなるのも、亜鉛不足を示すサインです。風邪やインフルエンザなど、呼吸器の感染症にかかると喘息が悪化しやすくなるので、喘息の患者さんは亜鉛不足に注意してください。










