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亜鉛の特徴と味覚障害・嗅覚障害を改善するはたらき

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2024年03月19日

新型コロナウイルス感染症の症状や後遺症として、味覚障害や嗅覚障害を訴える人が目立ちます。

味覚障害や嗅覚障害は、コロナ以外の原因でも起こる症状ですが、亜鉛を補充することで改善される可能性があります。

この記事では、亜鉛のおもな特徴と、味覚障害・嗅覚障害を改善するはたらきについてまとめました。亜鉛を効率よく摂取する方法も紹介しますので、毎日の食事や栄養補給にぜひ役立ててください。

1.亜鉛とはどのような栄養素か

亜鉛とは、人間の体に必要な必須ミネラル16種のうちのひとつです。体内で作ることができないため、毎日の食事などから摂取する必要があります。

亜鉛は、皮膚や骨、肝臓など全身の臓器に存在し、代謝に必要な酵素のはたらきをサポートしています。

1日の亜鉛摂取推奨量は、成人男性で10mg、成人女性で8㎎ですが、最近では過度なダイエット、ファストフードや加工食品の摂りすぎなどが原因で、亜鉛摂取不足となっている人が増えています。こうした亜鉛摂取不足の人は、特にひとり暮らしの若い人に多くみられますが、高齢者夫婦や一人で食事をするお年寄りにもみられます。

ファストフードなどには亜鉛の摂取はほとんど見込めず、添加物の多い食品には亜鉛の吸収を妨げるものもあります。

過度な運動も亜鉛不足をまねく事があるので注意が必要です。

また、免疫やホルモン、生殖機能にも深くかかわっていて、不足すると以下のような症状が現れることがあります。

・口内炎
・肌荒れ
・抜け毛
・爪が割れる
・味覚障害
・嗅覚障害
・血糖値上昇
・生殖機能低下
・子どもの身長が伸びない

【参考情報】『ミネラル』e-ヘルスネット(厚生労働省)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-035.html

◆「亜鉛の主な特徴」>>

2.味覚障害とはどのような病気か

味覚障害とは、「味が薄く感じる」「食べ物の味がまったくしない」「何も食べていないのに口の中に味を感じる」「甘いものを食べても苦く感じる」「甘味だけ感じない」など、味覚の低下や異常が起こる病気です。

味覚は、舌にある味を感じる細胞の集団「味蕾(みらい)」から、神経を通して脳へ伝達されます。この経路のどこかに障害が発生すると、味覚障害になります。

風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症にかかった時にも味覚障害になることがあります。これは、ウイルスが神経細胞にダメージを与えることで起こると考えられています。

東京大学保健センターは、コロナ患者の味覚障害や嗅覚障害は、風邪と同じメカニズムで起きている可能性があると指摘しています。

◆「風邪の基礎知識」について>>

【参考情報】『新型コロナウイルス感染症と嗅覚・味覚障害』東京大学保健センター
 https://www.hc.u-tokyo.ac.jp/covid-19/smell_taste_disturbance/

通常、呼吸器感染症の回復とともに、味覚障害も治ります。しかし長引く場合は、別に原因がある可能性があります。

味覚障害の原因は、加齢、ドライマウス、鉄欠乏性貧血、糖尿病の合併症、薬の副作用、心因性など多岐にわたりますが、原因のひとつとしてよく挙げられるのが亜鉛不足です。

◆「健康診断で「貧血」と言われたら?」>>

3.嗅覚障害とはどのような病気か

嗅覚障害とは、「においがわからない」「においが感じにくい」「においがしないはずなのにするように感じる」など、嗅覚の低下や異常が起こる病気です。味覚障害を併発することもあります。

原因の多くは、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎など鼻の病気です。鼻が詰まることで、においの通り道がふさがってしまい、感じにくくなります。このような場合は、原因となる病気の治療によって回復していきます。

また、アルツハイマー病や脳腫瘍、頭部外傷、パーキンソン病などが原因で、脳がにおいを判別できなくなり、嗅覚障害が起こることもあります。

風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症にかかった時にも嗅覚障害になることがあります。これは味覚障害と同様に、ウイルスが神経細胞にダメージを与えることで起こると考えられます。

嗅覚障害も、亜鉛不足が原因で起こることがあります。亜鉛不足は食生活の乱れやお酒の飲みすぎのほか、亜鉛の吸収を抑制する作用を持つ薬の副作用で生じることがあります。

◆「咳が止まらないのは、お酒のせい?アルコール誘発喘息について」>>

味覚障害の原因の半分以上を占めているのが「亜鉛不足」ですが、降圧利尿剤・抗生物質・抗ヒスタミン剤などの摂取による「薬剤性」、糖尿病・肝臓疾患・胃腸疾患・腎臓病、舌の病気などの「全身や口腔の病気」、うつ病やストレスなどから引き起こす「心因性」が原因となることもあります。

4.亜鉛はなぜ味覚障害・嗅覚障害に有効なのか

味蕾の味細胞や鼻の奥にある嗅細胞は新陳代謝のスピードが速く、次々と新しい細胞に生まれ変わっていきます。この時、細胞分裂に必要な亜鉛が不足していると、新陳代謝のスピードが落ちてしまいます。

味細胞や嗅細胞は短期間に生まれ変わることで、その機能を保っています。そのため、新陳代謝のスピードが落ちてしまうと、味やにおいを正しく感じることが難しくなってしまうのです。

味覚障害や嗅覚障害の患者さんの多くは、亜鉛の摂取量が不足しています。その場合、足りない分を補充することで細胞分裂のサイクルが正常になり、症状が改善していく可能性があります。

【参考情報】『The role of zinc in the treatment of taste disorders』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23305423/

5.亜鉛を効率よく摂取する方法

亜鉛を十分に摂取するには、まずは食事の見直しから始めましょう。それでも不足する分は、サプリメントを上手に利用して補っていきましょう。

5−1.食事で摂取する

亜鉛が豊富な食品には、以下のようなものがあります。

・魚介類:牡蠣、カニ缶、うなぎの蒲焼き
・肉類:豚肉、牛レバー、牛肉
・その他:小麦胚芽、チーズ、ココア、きな粉、ナッツ

亜鉛はクエン酸やビタミンCと一緒に摂取すると吸収率がアップします。例えば、生牡蠣にレモン果汁をかけて食べるのは、とても良い組み合わせです。

◆「ビタミンCで感染症予防!」>>

また、亜鉛は水溶性のため、煮汁ごと食べられる鍋やスープにして食べるか、短時間でサッと加熱して調理すると、効率的に摂取できます。

5−2.サプリメントで摂取する

食事で必要な量を摂取することが難しい人は、サプリメントで効率よく摂取するのもおすすめです。

特に以下のような人は、食事だけで十分な量の亜鉛を摂取するのは難しいかもしれません。

・小食の人
・菜食主義の人
・加齢で食事量が減った人
・ダイエットで食事量を減らしている人
・お酒をよく飲む人
・激しいスポーツをしている人
・肝臓病、腎臓病、糖尿病の人
・亜鉛の吸収を妨げる薬を服用している人

ただし、早く症状を改善したいからといって、サプリメントで大量の亜鉛を続けて摂取すると、銅や鉄の吸収が妨げられて貧血になる恐れがあります。

サプリメントを服用する際は、適切な用法用量を守って利用してください。食べ物から摂取する分には、過剰摂取の心配はありません。

信頼できる製品を選ぶには「GMP認定工場」で作られているものかどうかを確かめると良いでしょう。

GMPとは「Good Manufactuiring Practice=適正製品規範」の略で、原材料の受け入れから製造、出荷に至るまで、製品が安全に作られ、一定の品質が保たれるために設けられた、医薬品レベルの厳しい製造工程管理基準です。

【参考情報】『GMPとは』日本医薬品原薬工業会
http://www.jbpma.gr.jp/bulk-pharmaceuticals/gmp

6.おわりに

味覚障害になると、食欲不振から栄養不足になったり、料理の味付けが濃くなって塩分や糖分を摂りすぎてしまう恐れがあります。

また、嗅覚障害になると、やはり食べ物の味がわかりにくくなったり、食べ物の腐ったにおいやガス漏れの異臭を感じることができずに危ない目に遭うことがあります。

味覚や嗅覚がおかしいと感じたときは、食事やサプリメントで亜鉛を十分に摂取し、味細胞や嗅細胞の再生を促してみましょう。

それでも良くならない場合は、病院を受診して原因を調べ、適切な治療を受けましょう。

◆当院の栄養カウンセリングについて>>

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