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知っておきたい!低血糖の原因・症状・対処法

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年06月17日

低血糖とは、血液中のブドウ糖(血糖)が正常の範囲よりも低下した状態です。初期症状は、冷や汗や動悸、手の震えなどです。

主に糖尿病の治療中に起こることが多いのですが、ダイエット中の人やハードなスポーツを行う人にも見られることがあります。

この記事では、低血糖の原因や症状、対処法についてわかりやすく解説します。初期症状に気づかず放っておくと、命にかかわることもあるため、ぜひご一読ください。

1.低血糖とはどんな状態か


低血糖とは、血液中のブドウ糖(血糖)が少なくなっている状態のことを指します。一般的に、血糖値が70mg/dL以下になると低血糖とされます。

血糖値は、すい臓から分泌されるインスリンというホルモンによって調整されています。そのため健康な人であれば、極端に下がることはほとんどありません。

しかし、糖尿病の人では、薬の作用が強く出すぎるなどの理由で、血糖値が必要以上に下がってしまうことがあります。そのため、糖尿病の治療を受けている人は、高血糖だけではなく、低血糖にも注意を払う必要があります。

低血糖の状態を放置すると、めまいや意識障害、ひどい場合には昏睡に陥るなど、命に関わる事態になることもあります。

なお、低血糖は糖尿病の人だけに起こるわけではありません。例えば、過度なダイエットをしている人や、激しい運動を行うアスリートなどは、食事の量や内容、運動量のバランスによって、血糖値が必要以上に低下してしまうことがあります。

【参考情報】『低血糖|重篤副作用疾患別対応マニュアル』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1d45.pdf

◆「糖尿病」についてくわしく>>

2.低血糖の原因


この章では、低血糖を引き起こす原因を紹介します。

2-1.糖尿病治療薬やインスリン注射による影響

糖尿病は、インスリンの働きが悪くなったり、分泌量が不足することで、血糖値が高い状態が続く病気です。そのため、多くの場合はインスリン注射や薬によって血糖値をコントロールする必要があります。

しかし、食事の量と薬の量が合っていなかったり、食事のタイミングによっては、血糖値が必要以上に下がってしまい、低血糖を引き起こすことがあります。

◆「糖尿病治療薬・メトグルコの特徴と効果、副作用」>>

2-2.食生活の乱れ

不規則な食事や過度な食事制限も、低血糖を招く原因になります。例えば、食事の間隔が空きすぎたり、極端に炭水化物を控えたりすると、体に必要なエネルギーが不足しやすくなり、血糖値が下がる原因になります。

特に、ダイエット中の人は炭水化物を控えたり、絶食時間が長くなったりして糖質の摂取が不十分になりがちです。すると、体のエネルギーが不足し、低血糖に陥ることがあります。

また、糖尿病の薬を使っている人も、食事量が少ないと薬の量とのバランスが崩れ、低血糖を起こすことがあります。

◆「糖尿病になったら知っておきたい食事のポイント」>>

2-3.飲酒の影響

アルコールを摂取すると、肝臓はアルコールの分解を優先するので、血糖値が下がったときに肝臓が糖を作り出す「糖新生」という働きが後回しになってしまいます。そのため、血糖値が上がらなくなってしまいます。

特に、空腹時の飲酒や多量の飲酒は低血糖のリスクを高めるため、控えるようにしましょう。

当院に通院されている患者様の中にも、アルコール依存症が原因で低血糖を繰り返し、救急搬送されるケースが見られました。

このような場合、低血糖だけでなく、肝機能の障害や電解質の異常など、さまざまな体調不良を引き起こす可能性がありますので、十分にご注意ください。

2-4.激しい運動によるエネルギー不足

激しい運動や長時間の運動では、体が多くのエネルギー(糖分)を消費します。そのため、エネルギー補給が不十分だと、運動中や運動後にも低血糖が起きることがあります。

アスリートや運動習慣のある人は、運動前後の食事や間食に気を配りましょう。

2-5.臓器の機能低下とホルモン異常

たとえば、腎不全や肝不全などの病気の影響で、肝臓や腎臓が正常に働いていない場合、血糖値を保つための糖新生がうまく機能せず、低血糖を起こしやすくなります。

【参考情報】『腎疾患と糖代謝』日腎会誌 2019;61(5):560‒562.
https://jsn.or.jp/journal/document/61_5/560-562.pdf

また、インスリンが過剰に分泌されるインスリノーマという病気や、血糖値を上げるホルモンが不足する副腎不全や成長ホルモン欠乏症などでも、低血糖が起こることがあります。

【参考情報】『インスリノーマ』小児慢性特定疾病情報センター
https://www.shouman.jp/disease/details/05_34_077/

3.低血糖の症状


特に、糖尿病の薬を使って血糖値を下げている人は、低血糖が起こりやすくなります。そのため、できるだけ早く低血糖に気づくことがとても大切です。

この章では、低血糖の症状を3つのタイプに分けてご紹介します。

3-1.初期症状

低血糖の初期には、冷や汗、動悸、手の震え、強い空腹感などの症状があらわれます。これらは「交感神経症状」と呼ばれ、低血糖にいち早く気づくためのサインとなります。

これらの初期症状は、血糖値が70mg/dL以下になると出やすくなりますが、血糖値が急激に下がった場合には、それより高い値でも症状が出ることがあります。

血糖値が低くなると、体はそれを元に戻そうとして働きます。その際に分泌されるのが、インスリン拮抗ホルモンである「グルカゴン」や「アドレナリン」などです。

【参考情報】『グルカゴン』日本薬学会
https://www.pharm.or.jp/words/word00599.html

【参考情報】『アドレナリン』日本薬学会
https://www.pharm.or.jp/words/post-8.html

これらのホルモンは主に肝臓に働きかけ、血糖値を上げるよう促します。特にアドレナリンは、交感神経を刺激することで分泌されるため、冷や汗や動悸といった交感神経症状を引き起こします。

このような初期のサインで低血糖に気づくことが、重症化を防ぐうえでとても重要です。

3-2.中等度の症状

低血糖が進んで中等度になると、めまい、集中力の低下、倦怠感、強い眠気、頭痛といった「中枢神経症状」があらわれてきます。これらの症状は、血糖値が50mg/dLくらいまで下がると出やすくなります。

脳は、エネルギー源としてブドウ糖を必要としています。そのため、血糖値が低くなって脳に十分な糖が届かなくなると、脳の働きが鈍くなり、中枢神経の症状が出てしまうのです。

【参考情報】『Sugar and the Brain』Harvard Medical School
https://hms.harvard.edu/news-events/publications-archive/brain/sugar-brain

3-3.重度の症状

低血糖がさらに進行して重度になると、意識がもうろうとしたり、けいれんや昏睡(こんすい)といった深刻な症状が現れます。こうした症状は、血糖値が50mg/dL以下になると起こることが多いです。

通常、血糖値が下がると体は「インスリン拮抗ホルモン」と呼ばれるホルモンを分泌して血糖値を上げようとします。しかし、低血糖を何度も繰り返していたり、血糖値がゆっくりと下がったりすると、このホルモンの働きが弱くなってしまうことがあります。

その結果、冷や汗や動悸などの前ぶれ(交感神経症状)が出ないまま、いきなり意識障害や昏睡といった重い症状が現れる場合があります。このような状態を「無自覚性低血糖」と呼び。特に高齢者や乳幼児に多くみられます。

高齢者の場合、認知症と間違われる恐れもあります。普段と様子が違うと感じたときは、血糖値を測って確認することが大切です。

【参考情報】『Diabetic coma』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/diabetic-coma/symptoms-causes/syc-20371475

4.低血糖の対処法


低血糖の症状が出たときは、できるだけ早く対応することが大切です。そのまま放っておくと、命に関わるおそれもあります。

以下の方法で、すぐに血糖値を回復させましょう。

4-1.軽度の場合

冷や汗や動悸、手の震えなどの交感神経症状を感じたら、すぐに糖分を補給しましょう。可能であれば、その前に血糖値を測定し、現在の状態を確認することも大切です。



<効果的な糖分補給のポイント>
以下のような、すばやく吸収される糖分を選びましょう。

・ブドウ糖10g程度

・ブドウ糖を含むジュース


ブドウ糖は、薬局やドラッグストアなどで販売されているタブレット型のものが便利です。外出時などに備えて、常に携帯しておくと安心です。

ジュースを選ぶときは、必ず「ブドウ糖」が含まれているものを選んでください。果糖や人工甘味料だけの飲み物では血糖値は上がりません

また、チョコレートや飴は油分が多く、吸収に時間がかかるため、緊急時には適していません。

ブドウ糖を摂取すると、通常は5~15分以内に症状が改善します。改善が見られない場合は、もう一度ブドウ糖を摂取して様子をみましょう。

ただし、たとえ一度症状が落ち着いても、時間がたってから再び低血糖になることもあります。その後の体調や血糖値の変化にも、引き続き注意が必要です。

4-2.重度の場合

重度の場合、自分で対処することが難しいことが多いため、周囲の人が速やかに救急車を呼んでください。

また、医師からグルカゴンが処方されている場合は、すぐに投与するようにしましょう。

重症時は意識障害が起き、経口での摂取が難しくなるため、グルカゴンは注射や点鼻薬として処方されることがあります。

家族や介助者が状態をしっかりと確認し、適切に使用することで、重症化や死亡のリスクを防ぐことが大切です。

5.低血糖の予防法


低血糖が何度も起こらないよう、予防を行うことも重要です。

この章では、低血糖の予防法について説明します。

5-1.食事の注意

規則正しい食事とバランスの取れた栄養は、血糖値を正常な範囲でコントロールするための基本です。

糖尿病の治療で薬を使っている場合、炭水化物などの糖分の摂取量や食事のタイミングによって、薬が効きすぎてしまうことがあります。

その結果、高血糖や低血糖を繰り返しやすくなり、血糖コントロールがうまくいかなくなることもあります。

このように、血糖値の乱れが続くと、合併症のリスクも高まるため、毎日の食事には十分注意が必要です。

◆「糖尿病の合併症」についてくわしく>>

また、極端な糖質制限や無理なダイエットでも、血糖値のバランスを崩してしまうことがあります。

体に必要な栄養素をしっかりと摂りながら、血糖値を安定させ、健康的に体重を管理していきましょう。

低血糖の予防・改善において、日々の食事内容と食べ方は極めて重要です。当院では「血糖値の安定」を第一に考え、以下のような食事法を推奨します。


朝食は必ず食べる

朝食を抜くと、空腹の時間が長くなり、そのあと血糖値が急激に下がってしまうことがあります。これが低血糖の原因になるため、朝ごはんは必ず食べましょう。

朝食では、卵や納豆、魚などのたんぱく質、ナッツやMCTオイルといった良質な脂質をしっかり取り入れるのがポイントです。これによって糖の吸収がゆるやかになり、血糖値が安定しやすくなります。


糖質の“質”を見直す

糖質をとるときは、その種類に気をつけましょう。

白米やパン、うどんなどの精製された糖質は、血糖値を一気に上げたあと、急降下させることがあります。こうした急激な変動は低血糖を引き起こしやすくなります。

代わりに、全粒穀物や雑穀米、さつまいもなど、食物繊維が豊富な「低GI食品」を選ぶようにすると、血糖値の上がり方がゆるやかになります。


タイミングを工夫して間食を取り入れる

血糖値の変動が大きい人は、1日3食に加えて、間食を上手に取り入れるとよいでしょう。特に午前10時や午後3時など、血糖値が下がりやすいタイミングに、次のような軽食を摂るのがおすすめです。

 ・ナッツ類

 ・チーズ

 ・ゆで卵

これらはたんぱく質や脂質が中心の食品なので、血糖値の変化が穏やかになります


「甘いものをとれば安心」は間違い

低血糖のとき、「とにかく糖をとればいい」と思われがちですが、実はそれでは根本的な改善にはつながりません。むしろ、急に糖をとることで血糖値が急上昇し、そのあと急降下してしまうという悪循環になることも。

血糖値の変動をできるだけゆるやかに保つ“質のよい食事”を意識することが、低血糖の根本対策につながります。


お酒との付き合い方

糖尿病だからといって、必ずしもお酒を飲んではいけないというわけではありません。治療を長く続けていくうえでは、ストレスをためないことも大切です。

そのためにも、お酒に含まれる糖分やアルコールの量を把握し、自分にとって適量を守ることが重要です。無理のない範囲で、お酒を楽しむ工夫をしましょう。

◆「糖尿病の人が知っておきたいお酒の飲み方とは」>>

5-2.運動の注意

糖尿病の人にとって、運動は血糖値をコントロールするうえで非常に大切です。

ただし、運動のし過ぎや、糖分を摂取するタイミングによっては、低血糖を引き起こすことがあります。運動を行う前後には、血糖値をチェックするようにしましょう。

もし、運動によって血糖値が下がっている場合は、あらかじめ軽く何かを食べておく「補食」が必要になることもあります。

また、運動のたびに低血糖を起こしてしまう場合は、服用中の薬の調整が必要になる可能性があるので、早めに医師に相談しましょう。

5-3.その他

毎日の血糖値のチェックとコ血糖ントロールは、糖尿病管理の基本です。自分が「いつ」「どんな状況で」低血糖になりやすいのかを知っておくことで、異常の早期発見につながります。

また、万が一のときに備えて、家族や職場の人など身近な人にも、低血糖が起きた際の対処法をあらかじめ共有しておくことが大切です。

軽度の低血糖であれば自分で対処できますが、重症になると意識を失うなど命に関わる危険性もあります。

どれだけ気をつけていても、思わぬタイミングで低血糖になることはあり得ます。いざというときに慌てないよう、緊急時の対処法を準備しておきましょう。

6.低血糖と間違えやすい病気


低血糖のような症状があっても、似たような症状のある他の病気が隠れていることもあります。

6-1.貧血

貧血とは、血液中のヘモグロビンの濃度が低くなり、全身に十分な酸素が届けられなくなる状態です。特に女性は、月経による出血が原因で貧血になりやすい傾向があります。



<主な症状>

 ・めまい

 ・倦怠感

 ・動悸

 ・冷や汗

 ・立ちくらみ


また、過度なダイエットをしている人は、必要な栄養が不足しがちになり、貧血と低血糖の両方を引き起こすこともあるため注意が必要です。

◆「あなたのその症状、隠れ貧血かも!?」>>

6-2.自律神経失調症

自律神経失調症は、自律神経の交感神経と副交感神経のバランスが崩れることで起こる病気です。ストレスや精神的な状態、生活環境などが深く関わっているとされています。



<主な症状>

 ・動悸

 ・発汗 

 ・手のふるえ

 ・めまい

 ・不安感

 ・集中力の低下


これらの症状は、低血糖のときにも見られます。ただし、自律神経失調症では、血糖値に異常はありません。

空腹時に限らず、特に原因が思い当たらないタイミングで上記のような症状がよくあるなら、自律神経失調症の可能性も考えてみましょう。

【参考情報】『自律神経失調症』日本臨床内科医会
https://www.japha.jp/doc/byoki/019.pdf

6-3.甲状腺疾患

甲状腺疾患は、甲状腺ホルモンの分泌異常によって、代謝が過剰になったり低下したりする病気です。

代謝が過剰になる甲状腺機能亢進症の場合、発汗、動悸、不安感、手のふるえなどの症状がみられます。これらは低血糖の症状と似ており、間違えやすい点に注意が必要です。

代謝が低下する甲状腺機能低下症では、倦怠感、集中力の低下、無気力などが主な症状として現れます。

甲状腺ホルモンは糖代謝にも深く関わっており、亢進症では血糖値が高くなりやすく、逆に低下症では血糖値が下がることもあります。

そのため、甲状腺の不調が疑われるときは、血糖値の変化にも気を配りながら体調を管理することが大切です。

【参考情報】『甲状腺の病気』ヘルスケアラボ|厚生労働省
https://w-health.jp/woman_trouble/thyroid/

7.おわりに

糖尿病の治療中は、常に低血糖のリスクを意識しておくことが重要です。薬を使い始めた直後だけでなく、生活リズムの変化や食事・運動のタイミングによっても、血糖値は簡単に変動します。

低血糖は、何度も繰り返すうちに体がその症状に慣れてしまい、自覚しにくくなることもあります。

日常生活の中でこまめに血糖値をチェックし、異変に気づけるようにしておくことが、低血糖の予防や早期発見に役立ちます。

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