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鉄のおもな特徴とアレルギー疾患を改善するはたらき

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年12月09日
鉄

鉄が不足して貧血になると、皮膚や呼吸器の健康にも影響が現れ、アトピー性皮膚炎や喘息が悪化する恐れがあります。

この記事では、鉄のおもな特徴と、アレルギー性疾患を改善するはたらきについてまとめました。鉄を効率よく摂取する方法も紹介しますので、病気の予防や症状の緩和にぜひ役立ててください。

1.鉄とはどのような栄養素か

ヘモグロビン
鉄が不足すると、日常生活に支障をきたす不調につながることがあります。

1-1.鉄と赤血球の役割

鉄は、赤血球に含まれるヘモグロビンの主要成分で、体のすみずみに酸素を運ぶために欠かせない栄養素です。

【参考情報】『Iron』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/iron.html

ヘモグロビンは肺で取り込んだ酸素を全身へ届け、細胞がエネルギーを生み出すための基盤となっています。

鉄が不足すると質の良い赤血球をつくれなくなり、全身に酸素が十分に行きわたらない状態が生じます。

1-2.鉄不足で起こる体の不調

鉄が不足して酸素が体の末端まで届かなくなると、以下のような貧血の症状が現れます。

 ・手足の冷え

 ・頭痛

 ・胸の痛み

 ・立ちくらみ

 ・めまい 

 ・疲れやすさ

 ・息切れ

 ・集中力の低下

◆「健康診断で貧血と言われたら?」>>

また、鉄不足が進むと、睡眠中や夜に足がむずむずする「むずむず脚症候群」が起こったり、氷を無性に食べたくなる「氷食症」といった異食行動がみられることもあります。

【参考情報】『Restless legs syndrome』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/restless-legs-syndrome/symptoms-causes/syc-20377168

1-3.鉄が不足しやすい人は?

鉄が不足しやすい人には、体質・ライフステージ・生活習慣などに共通する特徴があります。


<月経のある女性>
毎月の出血で鉄が失われるため、最も不足しやすい層です。特に経血量が多い人は慢性的に不足しやすくなります。

<妊娠中・授乳中の女性>
胎児の発育や母乳の生成に多くの鉄が必要となるため、需要が急増します。食事だけでは追いつかず、貧血になりやすい時期です。

<成長期の子ども・思春期の若者>
体の成長に伴い血液量が大きく増えるため、鉄の必要量が高まります。食事量や栄養バランスが不十分だと不足につながります。

<高齢者>
食欲の低下や吸収力の衰えが重なり、必要な鉄を十分にとれないことがあります。

<激しい運動をする人(アスリートなど)>
汗や尿からの鉄の損失が増え、足裏の衝撃で赤血球が壊れやすくなる溶結性貧血も影響するため、鉄不足に陥りやすい層です。

<偏食・ダイエット中の人>
食事量が少ない、肉や魚をあまり食べないなど、摂取不足が直接的な原因になります。

<胃腸の病気がある人>
胃切除後、慢性胃炎、炎症性腸疾患など、鉄の吸収が低下する病気がある場合も不足しやすくなります。

<薬の影響を受けている人>
胃酸を抑える薬(PPI:プロトンポンプ阻害薬など)を長期間使っていると、鉄の吸収が低下することがあります。


鉄不足は、複数の要因が重なることで起こりやすくなります。「疲れやすい」「立ちくらみが増えた」などの変化があるときは、鉄の状態を確認すると役立ちます。

2.鉄はなぜアレルギー疾患の改善に必要なのか


鉄は酸素を運ぶだけでなく、皮膚や粘膜の健康、子どもの成長、さらには胎児・乳児の発達にも深く関わる重要な栄養素です。

2-1.鉄不足と皮膚バリアの低下

鉄が不足すると、皮膚や粘膜に十分な酸素が届けられなくなり、その結果、細胞の新陳代謝が低下します。

すると、皮膚バリアの修復力も落ちるため、乾燥やかゆみが起きやすくなり、アトピー性皮膚炎の悪化要因になります。

◆「アトピー性皮膚炎とはどのような病気か?」>>

2-2.子どもの発達と鉄の重要性

皮膚のターンオーバーには継続的な酸素供給と栄養素が必要で、鉄欠乏が続くと肌が荒れやすく、炎症が長引くことがあります。

特に、小児のアトピー性皮膚炎では、皮膚バリアが未成熟なうえに、成長のため多くの栄養を必要とするため、鉄をしっかり補うことが重要です。

2-3.妊娠・授乳期の鉄不足が与える影響

胎児期や乳幼児期は、脳や臓器が急速に発達する重要な時期です。この時期に鉄が不足すると、酸素供給が不十分になり、免疫機能の発達にも影響が及ぶことが知られています。

実際、いくつかの研究では、早期の鉄欠乏が乳幼児の喘鳴や呼吸機能の低下、さらには喘息などのアレルギー疾患と関連する可能性が示されています。

【参考情報】『Linking anemia to asthma: maternal, childhood and adult perspectives from a meta-analysis of 20 studies』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40305492/

鉄は、妊娠が分かった段階から意識して十分に摂取しておくことが大切です。特に妊娠後期や授乳期は鉄の需要が急増するため、食事だけで足りない場合はサプリメントや医師の指導による補充を検討するとよいでしょう。

3.鉄を効率よく摂取する方法


鉄不足改善のためには毎日の食事が大切ですので、より鉄を効率よく摂る食べ方を紹介します。

3-1.食事で摂取する

鉄には、肉や魚などの動物性食品に含まれている「ヘム鉄」と、ほうれん草やプルーンなどの植物性食品に含まれている「非ヘム鉄」の2種類があります。

2種類の鉄の違いは、体への吸収率です。ヘム鉄が10~30%に対して、非ヘム鉄は5%以下しかありません。

食事から鉄を摂るなら、吸収されやすいヘム鉄が豊富な肉や魚を意識して食べましょう。特にレバーには豊富に含まれています。牛肉、あさり、かつお、ぶり、まぐろもおすすめです。

鉄と一緒にビタミンCも摂ると、より効率よく鉄を摂取できます。たとえば、肉や魚にレモンをしぼったり、ビタミンCが豊富に含まれる野菜と一緒に調理することで、鉄の吸収率が高まります。

◆「ビタミンC」の情報をチェック>>

3-2.サプリメントで摂取する

推奨される1日の鉄の摂取量は、以下となります。

 ・成人男性:7.0~7.5mg
 ・生理のない女性:6.0~6.5mg
 ・生理のある女性:10.5mg
 ・妊娠初期の女性:8.5~9mg
 ・妊娠中期、後期の女性:21~21.5mg
 ・授乳期の女性:8.0~8.5mg

20歳以上の日本人女性の1日あたりの平均鉄摂取量は7.8mgです。女性は毎月の生理で約30mgの鉄が失われていますから、生理のある年齢の女性のほとんどは鉄不足です。

また、食事で鉄分10mgを摂取するには、およそ以下の量になります。

 ・納豆: 10パック
 ・ほうれん草のおひたし: 10皿(1皿100g)
 ・牛ステーキ: 5皿(ヒレ・赤身1皿100g)
 ・かつお: 5皿(春獲り1皿100g)

これだけの量を食べるのは少し大変なので、サプリメントで効率よく鉄を摂取するのもいいでしょう。食事と同じように、サプリメントも「ヘム鉄」の製品を選んでください。

「非ヘム鉄」のサプリメントは体への吸収が悪く、胃のむかつきや便秘が起きやすくなります。また、吸収されない非ヘム鉄が体内に増えると、腸内の悪玉菌が鉄を奪って繁殖し、腸内環境が悪化してしまいます。

腸内環境が悪化すると腸の粘膜が傷つき、体のあちこちに炎症やアレルギーが起こる状態にもなりかねません。体に吸収しやすいヘム鉄なら、悪玉菌に栄養を与えることなく、鉄を効率的に補給できます。

◆「アレルギー体質の人が知っておきたい、食事と腸の関係」>>

ただし、サプリメントで過剰に鉄を摂り続けると、嘔吐などの症状を引き起こしてしまうこともあります。

部活などで激しい運動をしている人は、貧血予防のために鉄を積極的に摂っていることも多いでしょうが、摂り過ぎには注意しましょう。通常の食事から摂取する分には、鉄の過剰摂取を心配する必要はありません。

【参考情報】『マラソン選手の貧血対策から鉄中毒になる健康管理上の問題』日本陸上競技連盟
https://www.jaaf.or.jp/pdf/about/publish/2006/2006_23.pdf

信頼できる製品を選ぶには「GMP認定工場」で作られているものかどうかを確かめると良いでしょう。GMPとは「Good Manufactuiring Practice=適正製品規範」の略で、原材料の受け入れから製造、出荷に至るまで、製品が安全に作られ、一定の品質が保たれるために設けられた、医薬品レベルの厳しい製造工程管理基準です。

【参考情報】『GMPとは』日本医薬品原薬工業会
http://www.jbpma.gr.jp/bulk-pharmaceuticals/gmp

3-3.鉄と一緒に摂りたい栄養素は?

<ビタミンC>
鉄の吸収率を大きく高める代表的な栄養素。特に、吸収されにくい非ヘム鉄と一緒に摂ると、吸収されやすい形に変えてくれます。

<動物性たんぱく質>
肉・魚・卵のたんぱく質は、腸内で鉄の吸収を促進する働きがあります。ヘム鉄そのものも多く含むため、鉄と一緒に自然と摂りやすい組み合わせです。

<ビタミンB群(特にB6・B12・葉酸)>
これらは赤血球の生成に不可欠で、鉄と連携して造血をサポートします。

<ビタミンA>
粘膜の健康を保ち、鉄不足で起きやすい皮膚・粘膜のトラブルを予防するうえで重要。さらに、鉄の利用効率にも関わっています。

4.おわりに

病院で貧血と診断された場合は、鉄剤が処方されることがあります。しかし、通常病院で処方される鉄は「非ヘム鉄」なので、体への吸収率はヘム鉄に比べると劣るのが難点です。

「最近疲れやすい」「皮膚の乾燥が気になる」「体のあちこちがかゆい」など、鉄が不足しているサインに気づいたら、鉄が豊富な食材を増やしたり、ヘム鉄のサプリメントを摂取して、貧血が悪化する前に体を整えてください。

自分に合った食事やサプリメントを知りたい方は、当院の管理栄養士に相談することもできます。興味のある方は、診察時または受付で「栄養カウンセリングを受けたい」と、お気軽にお申し出ください。

◆「当院の栄養カウンセリングについて」>>

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