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喘息とインフルエンザ~流行期に押さえておきたい予防・治療・重症化サイン

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2026年01月16日

毎年冬になると、普段は安定しているにもかかわらず「急に咳が出る」「息苦しくなる」といった経験をされる喘息患者さんがいらっしゃいます。

流行期のインフルエンザ感染は、気道に影響を与え、喘息を悪化させるリスクがあります。

この記事では「喘息 × インフルエンザ」の視点から、予防・発症時の初動・重症化サインまで、家族と一緒に押さえておきたいポイントを整理します。

1. なぜインフルエンザは喘息を悪化させやすいのか

まずは、流行期にインフルエンザが喘息患者さんにとってなぜ注意すべきなのか、気道の仕組みと誘因の整理からご説明します。

1-1. 気道炎症と喘息の基本

喘息は、気道(気管支)が慢性的に「炎症を起こしている」「刺激に敏感になっている」状態です。

このため、ちょっとした風や冷気、ほこり、ウイルス・細菌の感染などでも、気道が狭くなったり、咳・息切れ・ゼイゼイを起こしたりします。さらに長く続くと気道の形そのもの(リモデリング)が変化してしまうこともあります。

1-2. ウイルス感染(インフルエンザなど)が気道に与える影響

インフルエンザウイルスを含む呼吸器ウイルスは、気道に直接作用し、炎症をさらに強めるため、喘息悪化の大きな誘因となります。

例えば、日本アレルギー学会の改訂版ガイドでは、ウイルス感染は「喘息を悪化させる重要な増悪因子」であると明記されています。

具体的には、ウイルスが気道の細胞に侵入して増殖し、免疫反応が活性化することで、もともと敏感になっていた気道の反応性が高まり、ちょっとした刺激でも発作につながる可能性があります。

【参考情報】『新型インフルエンザと喘息(改訂版)』一般社団法人日本アレルギー学会
https://www.jsaweb.jp/modules/important/index.php?content_id=6&utm_source=chatgpt.com

1-3. 流行期・冬季に特にリスクが高まる理由

冬から春先にかけてインフルエンザが流行する時期、気温や湿度の変化、室内での密集、換気の悪さなど複数の要因が重なります。

また、冷たい空気を吸い込むことで気道が刺激されるため、ウイルス感染+気道反応性亢進(気道が過敏になっている状態)という二重の負荷がかかります。

こうした状況では症状が急に悪化しやすいため、流行期の注意が必要です。

さらに、インフルエンザ感染が入院や重症化に至るリスク群に喘息が含まれていることも指摘されています。

◆『インフルエンザとは』について>>

2. 予防の基本

流行期に喘息患者さんが安心して過ごすために、まず押さえておきたい“予防”の基本を整理します。

2-1. ワクチン接種の意義と時期

喘息をお持ちの方にとって、インフルエンザワクチンの接種はとても大切です。

実際に、ワクチンを接種した人は、インフルエンザ様の症状を伴う喘息悪化の頻度が低かったという報告もあります。また、厚生労働省のQ&Aでも「インフルエンザの予防にはワクチン接種が有効」とされています。

国内の多くの医療機関でも、ワクチン接種によって喘息発作や入院のリスクを減らせる可能性があるとされています。

ワクチンの効果が出るまでには接種からおよそ2週間ほどかかります。

そのため、インフルエンザが流行する前の秋から冬にかけて早めの接種を済ませておくのがおすすめです。

【参考情報】『ぜん息、COPD患者さんが知っておきたい「インフルエンザ」の基礎知識』独立行政法人環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202212_1/

【参考情報】『Respiratory Infections and Asthma』Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/asthma/respiratory-infections/index.html

2-2. 日常の感染予防対策(手洗い・マスク・換気)

ワクチンだけでは感染を完全に防ぐことはできないため、日常でできる対策も大切です。

例えば、厚生労働省のインフルエンザパンフレットでも「喘息を含む慢性呼吸器疾患のある人は、混雑回避・マスク着用・手洗い・うがい」が推奨されています。

具体的には、

・外出・人混みに行くときはマスクを着用する

・帰宅後・食事前には手洗い・うがいを行う

・室内では定期的に換気を行い、湿度管理も意識する

特に喘息の方は気道が敏感なため、「冷たい乾燥した空気」「ほこり・たばこの煙」「大勢の人がいる場所」の刺激を避けることも大切です。

◆『インフルエンザを予防する方法』について>>

【参考情報】『令和6年度 今シーズンのインフルエンザ総合対策』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/index2024.html

2-3. 家族・同居者ができること

ご家族や同居者の皆さまも、安心して過ごせる環境づくりに協力することが大切です。

たとえば、ご家族も予防接種を受けてウイルスを家庭内に持ち込まないようにする、お部屋をこまめに換気する、そしてたばこの煙を避けることなどが挙げられます。

特に、たばこの煙は喘息を悪化させる原因のひとつとして知られています。喫煙者がいる場合は、禁煙や喫煙場所の見直しを検討してみましょう。

また、インフルエンザが流行する時期には、家族の誰かが発熱や咳などの症状を感じた際に、早めに対応するという共通ルールを決めておくことも大切です。

これにより、患者さんの不安を減らし、感染拡大を防ぐことができます。

さらに、咳やくしゃみをする際はティッシュやハンカチで口と鼻を覆い、使用後はすぐに捨てるなど、「咳エチケット」を心がけましょう。

【参考情報】『個人、家庭及び地域における 新型インフルエンザ対策ガイドライン
』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/09-12.pdf

【参考情報】『Preventing Seasonal Flu』Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/flu/prevention/index.html

3. いつもの吸入治療は続ける?流行期の“継続・追加”の考え方


次に、日頃からの喘息治療に加え、インフルエンザ流行期に意識すべき「吸入ステロイド継続」「リリーバー(発作治療薬)携行」「アクションプラン」の考え方について、呼吸器内科視点で整理します。

3-1. 吸入ステロイドなどのコントローラー薬は中断しない

喘息治療ガイドラインでは、症状を安定させ、将来のリスク(発作・入院・肺機能低下)を減らすために、定期的なコントローラー薬(長期管理薬)の使用が重要とされています。

流行期に「ワクチンも打ったし大丈夫だろう」と思って吸入薬を自己判断で中断するのは危険です。むしろ同時期にウイルス感染などの負荷がかかりやすいため、吸入ステロイド(ICS)などコントローラー薬を継続することが安心です。

毎日忘れずに吸入を続けるのは難しいですが、朝起きたら吸入、歯磨き前に吸入などタイミングを工夫しましょう。

◆『喘息治療に使う吸入ステロイド薬』について>>

【参考情報】『正しい吸入方法を身につけよう』独立行政法人環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/control/inhalation.html

3-2. リリーバー(発作時使用薬)の携行と使い分け

発作治療用(リリーバー)として使われる気管支拡張薬(例:短時間作用型β₂刺激薬)は、万が一咳・息切れ・ゼイゼイが出た際に素早く使える体制を整えておくことが重要です。

流行期は発作のきっかけが増えるため、「急変時にどうするか」をあらかじめご自身・ご家族で確認しておきましょう。

具体的には、リリーバー薬の使用回数が普段より増えていないか、夜間に目覚める咳が増えていないか、というセルフチェックを習慣にしておくことが望ましいです。

3-3. アクションプラン(いつどう動くかを決めておく)

流行期に備えて、以下のような「アクションプラン=もしも発症・悪化したらこうする」という流れをあらかじめ決めておくと安心です。

・安定時(グリーンゾーン):普段通り吸入・日常対策を継続

・ちょっと変化あり(イエローゾーン):咳・喉の違和感・少し息切れなど。いつもの吸入+リリーバーを早めに使い始め、体調変化に注意

・発熱・咳が明らか+リリーバー使用増・夜間目覚める咳(レッドゾーン):速やかに受診またはクリニック・病院に連絡

ご家族がいる場合には、このプランを共有しておくことで「本人が我慢してしまう」「急に進んでしまう」というリスクを減らせます。

なお、流行期には医師との定期フォロー、服用薬・吸入手技・残薬チェックなども確認しておくと安心です。

【参考情報】『Treatment and Action Plan』National Heart, Lung, and Blood Institute
https://www.nhlbi.nih.gov/health/asthma/treatment-action-plan

4. 発熱・咳が出た時はどうする?


インフルエンザ流行期に、咳・発熱など異変を感じた時、まず何をすべきか、喘息患者さんならではの視点で「セルフチェックから受診まで」の流れを整理します。

4-1. セルフチェック項目

咳・発熱・喉の痛み・倦怠感など風邪やインフルエンザの前兆と思われる症状が出た時、以下の点をまず確認しましょう。
発熱(37.5℃以上、あるいは平常時より明らかに高い)

いつもより多い咳・痰・息切れ・夜間目覚める咳

リリーバー使用回数が増えていないか/夜間に目覚めたことがあるか

いつもの息苦しさ・ゼイゼイではない感覚(「いつもとちょっと違う」)

家族・同居者にインフルエンザ・風邪の人はいないか

セルフチェックで「いつもと違う」と感じたら、「いつ受診すべきか」を速やかに考えましょう。

◆『咳が止まらない時に心配な病気の症状・検査・治療の基本情報』について>>

4-2. 受診の目安

喘息をお持ちの方が熱・咳が出た場合の受診のタイミングとして、下記のようなサインに気をつけてください。

高熱(38℃以上が続く)や、きっかけなく息苦しさ・ゼイゼイが急に出た

いつものリリーバーを使ってもすっきり改善しない、夜間または明け方に息苦しさで目が覚める

発症から24〜48時間以内に症状が悪化してきている(インフルエンザではこの早期対応が鍵となります)

咳・痰・息切れやだるさがある

こうした場合は、早めに医療機関(特に呼吸器内科・内科)を受診することをおすすめします。

◆『呼吸器内科を受診すべき症状とは?』について>>

流行期であるため「ただの風邪かな?」と見過ごしてしまうと、喘息発作や肺炎など重篤化に至る可能性があります。

なお、流行期では抗インフルエンザ薬の早期投与が有用とされており、発症後なるべく早く医療機関につながることが安心につながります。

【参考情報】『ぜんそくなどの呼吸器疾患のある人へ』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/09-18-01.pdf

4-3. 受診前に家族で準備しておきたいこと

受診の際にスムーズに対応できるよう、以下を準備しておくと安心です。

吸入薬の種類・使用状況(通常薬・リリーバー)を記録しておく

直近2~3日の体調の変化・セルフチェックの記録(リリーバー回数・夜間目覚めたか等)をメモ

家族・同居者の中で発熱・風邪症状がないか確認し、隔離・マスク着用・換気などしておく

受診先(クリニック・病院)の営業時間・連絡先を手帳・スマホに記録しておく

こうした準備があると、慌てずに対応できます。

5. 重症化を疑うサインと家族ができるサポート


ここまで予防・初動の話をしてきましたが、「万が一重症化したかもしれない」と思った時に、どんなサインを見逃さず、家族としてどんなサポートができるかを整理します。

5-1. 重症化を示す客観的なサイン

喘息患者さんがインフルエンザなどのウイルス感染を契機に重症化する場合、以下のサインに注意が必要です。

呼吸が速く、息苦しさが強くなっている
安静時でも息苦しさが強く、「深呼吸をしても楽にならない」感覚がある
夜間~明け方に激しい発作が続く
普段の薬(リリーバーなど)でも落ち着かない

こうした状況は、単なる咳・風邪以上の「気道・肺に大きな負荷がかかっている」サインです。

特に高齢者・基礎疾患がある方・吸入ステロイドを大量使用してきた方・これまで発作が多かった方では、危険性が高くなるため早めの医療判断が求められます。

◆『重症の喘息・重症度チェックと治療法』について>>

【参考情報】『Signs and Symptoms of Flu』Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/flu/signs-symptoms/index.html

5-2. 家族ができる「観察と援助」

喘息のある方が安心して過ごせるように、ご家族が意識したいポイントをご紹介します。

日々のセルフチェック(夜間の咳・リリーバー使用回数・息切れ・体温)をきちんと確認し、異変があればすぐ医療機関へつなぐ

本人が「我慢しよう」「いつもの咳だから大丈夫だ」と思ってしまわないよう、変化に気づいたら「普段と違うね」と声を掛ける

家の中の環境を整える(室温・湿度・換気・空気清浄、たばこの煙を避ける、ほこり・カビを減らす)

医療機関との連絡手段を確保し、必要な時にすぐ対応できるように備えておく

薬・吸入機器・説明書などがすぐ出せるように整えておく

家族が一緒に「今の状態をみる」姿勢があるだけでも、安心感につながります。

5-3. “万が一”に備えた段取り

重症化リスクがある場合、以下のような段取りをあらかじめ共有しておきましょう。

担当医師・クリニックの連絡先・夜間や休日の代替医療機関をメモしておく

発作・息苦しさが始まったらリリーバーを使いながら15〜30分経過を見て、改善がなければすぐ受診する旨を決めておく

家族で「自宅でどこまで様子を見て、いつ受診するか」をあらかじめ話し合っておく

こうした準備があれば、万が一状況が進んでも慌てず “冷静な対応” ができるようになります。

6. おわりに

冬のインフルエンザ流行期、喘息をお持ちの方とそのご家族にとって「予防・初動・重症化サイン」の3ステップをあらかじめ押さえておくことが、安心して過ごすための鍵になります。

ワクチン接種・日常の手洗い・換気・マスク、いつもの吸入治療の継続とリリーバーの携行、発熱・咳が出た時の受診目安を家族で共有し、ご自身のアクションプランを整えておきましょう。

準備をしておくことで、安心して冬を迎えられます。

【参考情報】『Flu and People with Asthma』Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/flu/highrisk/asthma.html

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