ブログカテゴリ
外来

インフルエンザを予防する方法とは~医師が解説する流行への備え

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年12月05日
インフルエンザワクチン

インフルエンザにかかると、高熱が出て苦しむことが多く、学校や仕事も強制的に1週間程度休まなくてはなりません。

「大事な試験の前なのに…」
「よりによってこんなときに…」

そう困った経験をお持ちの方も多いのはないでしょうか。

この記事では、インフルエンザを予防するために現時点で医学的に効果のあると考えられている方法についてわかりやすく解説します。流行に備えて、基本的な知識を身につけておきましょう。

1.インフルエンザとはどんな病気?


インフルエンザの症状は風邪とよく似ていますが、風邪よりも強い感染力と急激な進行が特徴です。

1-1.インフルエンザの特徴と症状

インフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染することで発症する急性の呼吸器感染症で、毎年多くの患者が発生します。

ウイルスは非常に感染力が強く、学校や職場など人が集まる場所では短期間で広がることがあります。

症状は突然の高熱、強い倦怠感、関節痛や筋肉痛で、一般的な風邪よりも症状が重く、進行も急激です。

また、のどの痛み、鼻水、咳が続くことが多く、場合によっては食欲低下や頭痛、寒気などの全身症状もみられます。乳幼児では嘔吐や下痢といった胃腸症状が出ることもあります。

感染は、咳やくしゃみに含まれる飛沫を吸い込むことで広がりやすく、気温が低く乾燥する時期に特に流行します。

冬場は空気が乾燥するためウイルスが空気中で生き残りやすく、さらに室内で過ごす時間が増えることで人と人の距離が近くなり、感染しやすくなります。

【参考情報】『Influenza (Flu)』CDC
https://www.cdc.gov/flu/index.html

1-2.インフルエンザA型とB型の特徴

インフルエンザウイルスは、大きくA型・B型・C型・D型に分けられますが、流行するのは主にA型とB型です。

<インフルエンザA型>

毎年の流行の中心になりやすい型です。

高熱(38〜40℃)や強い倦怠感、関節痛などが出やすく、症状が重くなることもあります。

ウイルスの変異が大きく、新しい型が生まれやすいため、感染が広がりやすい傾向があります。

2025年流行の「サブクレードK」も、A型から派生した変異株です。

<インフルエンザB型>

A型ほど大規模な流行にはなりにくいものの、毎年一定の流行があります。

症状はA型に比べるとやや軽めとされますが、胃腸症状(腹痛・下痢)が出ることが比較的多いのが特徴です。

家庭や学校など、限られた集団で流行しやすい傾向があります。

1-3.インフルエンザの重症化に注意

インフルエンザに感染しても、多くの患者さんは1週間程度で改善します。それにもかかわらず、なぜインフルエンザがこれほど社会的な問題になるのでしょうか。

それは、肺炎や脳症などを起こして入院が必要になったり死亡する患者さんがいるからです。これをインフルエンザの「重症化」といいます。

健康な大人では、重症化は多くはありませんが、子どもや高齢者、妊婦、基礎疾患のある方では重症化しやすいため、予防と早めの対応が特に重要とされています。

こうしたインフルエンザの感染拡大、重症化を防ぐために、学校保健法ではインフルエンザに感染した場合の出席停止期間が法律で定められています。

【参考資料】『学校保健安全法施行規則改正に関する報告書』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002mcip-att/2r9852000002mdf9.pdf

社会人の場合、法律には定められていませんが、インフルエンザにかかったときの対応が会社ごとに決められています。

2. インフルエンザワクチン接種をおすすめする理由


厚生労働省は、インフルエンザ対策としてワクチンを接種することを強く推奨しています。その最大の理由は「重症化」を防ぐためです。

平成11年に日本国内で行われた研究では、65歳以上の高齢者福祉施設に入所している人のうち34~55%の発病を阻止し、82%の死亡を阻止する効果があったと報告されています。

【参考情報】『インフルエンザワクチンの効果に関する研究』平成11年度 厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症研究事業 
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/01/dl/s0115-8c.pdf

また、インフルエンザワクチンには「発病」を抑える効果も認められています。

6歳未満のこどもを対象とした研究では、インフルエンザワクチンの発病防止に対する有効率は60%と報告されています。

【参考情報】『ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究』平成28年度 厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000137138.pdf

このように、インフルエンザワクチンは感染後の発病率を低下させることや、発病後の重症化や死亡を防ぐ効果があることが証明されています。

特に、喘息やCOPDなど呼吸器系の病気をお持ちの方や、糖尿病や肥満、高齢などで免疫力が低下している状態の方は、インフルエンザをきっかけに肺炎などの合併症が引き起こされるリスクも高いので、流行前にワクチンを接種しておきましょう。

◆「インフルエンザの合併症」の情報をチェック>>

3. インフルエンザ予防のため日常生活でできること


インフルエンザは毎年多くの人がかかる身近な感染症ですが、日常のちょっとした習慣でリスクを大きく下げることができます。

この章では、ワクチン接種以外にも有効な対策を紹介します。

3-1. 外出後の手洗い

手洗いや手指のアルコール消毒は、手や指についたインフルエンザウイルスを除去するための基本的な対策です。

特に、ドアノブ・電車のつり革・エレベーターボタンなど、不特定多数が触れる場所を触った後は、できるだけ早く手を清潔にしましょう。

また、石けんを使った15〜30秒の流水手洗いは、ウイルスの除去効果が高いことが確認されています。

アルコール消毒は便利ですが、汚れが多い場合は効果が落ちるため、できるだけ石けんによる手洗いを優先しましょう。

【参考情報】『手洗いマニュアル』日本食品衛生協会
http://www.n-shokuei.jp/eisei/sfs_tearai.html

3-2. 適度な湿度を保つ

室内の空気が乾燥していると、気道粘膜の防御機能が低下して、インフルエンザウイルスに感染しやすくなります。

加湿器や濡れタオル、洗濯物の室内干しなどを利用して、適切な湿度(50~60%)を保つと良いでしょう。

◆「咳が止まらない時こそ乾燥に注意!」>>

3-3. 十分な休養とバランスのとれた栄養摂取

感染症を防ぐためには、体の防御力を落とさないことが基本です。

<睡眠の質量を高める>
睡眠不足は免疫細胞の働きを低下させ、インフルエンザ感染リスクを高めることが知られています。

【参考資料】『The public health impact of poor sleep on severe COVID-19, influenza and upper respiratory infections』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35194621/

ウイルスへの抵抗力を高めるには、日頃から十分な睡眠を意識することが重要です。

<肥満体型の方は減量する>
肥満は呼吸機能や炎症反応に影響し、症状が重くなるリスクを高めると考えられています。

【参考情報】『Obesity Promotes Virulence of Influenza』American Society for Microbiology
https://asm.org/Press-Releases/2020/Obesity-Promotes-Virulence-of-Influenza

『Impact of Obesity on Influenza A Virus Pathogenesis, Immune Response, and Evolution』National Center for Biotechnology Information
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6523028/

体脂肪が多い人や、BMIが25以上の人は、食生活を見直して適正な体重に近づけていきましょう。適度な運動も免疫機能を維持するうえで効果的です。

【参考情報】『BMI』e-ヘルスネット |厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-002.html

<免疫機能に関わるビタミンを摂取>
ビタミンA、C、Dなどの栄養素は免疫機能に関わっており、不足しないようにバランスよく摂ることが大切です。

特にビタミンDは、免疫の働きをサポートし、感染症予防に役立つと考えられています。

◆「ビタミンDで危険なウイルスに抵抗する力をつける」>>

3-4.人混みや繁華街への外出を控える

インフルエンザが流行してきたら、以下のような方はできるだけ外出を控えましょう。

  1. (1) 持病がある人
  2. (2) 高齢者
  3. (3) 妊婦
  4. (4) 疲れが溜まっている
  5. (5) 睡眠不足

やむを得ず人混みへ外出する場合は、飛沫感染のリスクを低下させるためにマスクをつけて出かけましょう。

◆「マスクの付け方と選び方」>>

インフルエンザウイルスに感染していても、まったく症状が出ない(不顕性感染)場合や、発熱がなく軽い風邪症状(鼻水、咳)だけのことがあります。

【参考情報】『不顕性感染』日本救急医学会
https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0623.html

このような人たちは、自分が感染していることに気付かないため、知らないうちにウイルスをまき散らしている恐れがあります。

インフルエンザが流行し始めたら、元気な人も「咳エチケット」を意識して以下の対策をとり、ウイルスを拡げないように心がけましょう。

  1. (1) 咳やくしゃみを他の人に向けて発しない
  2. (2) 咳やくしゃみが出ているときはマスクをつける
  3. (3) マスクを着けていない時に咳やくしゃみが出たら、ティッシュや手で口と鼻を覆い、顔を他人に向けない
  4. (4) 鼻水や痰を拭ったり、咳やくしゃみをしたときに使ったティッシュはすぐにゴミ箱へ捨てる
  5. (5) 手で咳やくしゃみを受け止めた時は、できるだけすぐに手を洗う

◆「咳エチケット」についてくわしく>>

4. おわりに

インフルエンザは身近な病気ですが、つらい症状を避けるためにも、毎年のワクチン接種が重要です。

特に、持病のある人や高齢者など重症化のリスクが高い人は、流行前に早めの接種を心がけましょう。

日常生活では、十分な睡眠や栄養などで体調を整え、免疫力を保つことが基本です。

あわせて、こまめな手洗いや人混みを避けるなど、ウイルスとの接触を減らす行動も欠かせません。

これらのポイントを意識しながら、インフルエンザを予防して、毎日を健康に過ごしていきましょう。

◆横浜市で呼吸器内科をお探しなら>>

電話番号のご案内
電話番号のご案内
横浜市南区六ツ川1-81 FHCビル2階