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腸内環境を整えて免疫力をアップさせる食事の基礎知識

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年12月12日

腸は「第2の脳」とも言われ、食べ物を消化するだけではなく、アレルギーや肥満など、全身の健康と深くかかわっていることが明らかになっています。

特に最近は、体内に入ったウイルスや細菌、異物などから体を守るシステムである「免疫」をコントロールする力に注目が集まっています。

この記事では、食事内容が腸内細菌のバランスにどのように影響し、それが免疫やアレルギー反応にどんな変化をもたらすのか、わかりやすく整理していきます。

腸内環境を改善したい人はもちろん、アレルギー体質や肌トラブルに悩んでいる人にとっても、日々の参考になる内容です。



1.腸内環境と免疫力の関係


私たち人間の腸には1000種類、100兆以上の細菌が、人間が食べたものをエサにして生きています。このバラエティー豊かな細菌たちの群れは、電子顕微鏡で見るとまるでお花畑(フローラ)のように見えるので「腸内フローラ」と呼ばれています。

腸内に棲みついている細菌たちはお互いに影響を及ぼし、複雑なバランスを保ちながら共に生きています。そして、この細菌たちのバランスこそが、免疫力を左右するカギを握っているのです。
細菌バランス
腸内の細菌は、善玉菌、悪玉菌、そして腸内の環境によって善玉菌にも悪玉菌にもなる日和見(ひよりみ)菌の3種類に分けられます。

腸内の善玉菌が優勢だと、体のあらゆる機能を健康な状態に保ってくれますが、悪玉菌が優勢だと免疫力がダウンして、生活習慣病やアレルギー性疾患が発症しやすくなります。

つまり、心身の健康を保つには、善玉菌を増やして悪玉菌の力を抑え、腸内環境を整えて免疫力をアップすることが重要なのです。

【参考情報】『The role of gut microbiota in immune homeostasis and autoimmunity』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3337124/

2.65才を過ぎると、ビフィズス菌がゼロになる人も


善玉菌の一種であるビフィズス菌ですが、残念なことに老年期(65歳以上)になると、10人のうち3人の腸内にはビフィズス菌がまったく見られなくなるといわれています。

人間の腸内環境は、胎児のときは無菌状態ですが、生まれてから母乳を飲み始めると、生後1週間で90%以上がビフィズス菌で占められるようになります。

その後、離乳食を食べるようになるとほかの菌も徐々に増えていき、大人と同じような腸内環境になります。この段階で、ビフィズス菌は腸内細菌全体の20%程度まで減少し、成年期から老年期になるにしたがって、さらにビフィズス菌は減少していきます。

善玉菌が減って悪玉菌が優勢になると、腸内環境が悪化して、アンモニアなどの有害物質や発がん性物質が増え、それらの有害物質、血液によって全身に運ばれていきます。

すると、肌荒れや口臭、免疫力の低下、生活習慣病の原因となるほか、自律神経の乱れや食欲不振など、さまざまな不調が生じてきます。

高齢になるほど健康面で問題を抱える人が増えるのは、ビフィズス菌をはじめとした善玉菌の減少により、腸内環境が悪化することも理由のひとつと考えられます。

【参考情報】『日本人における加齢に伴う腸内細菌叢の変化を確認』森永乳業
https://www.morinagamilk.co.jp/assets/release/17758.pdf

3.腸内環境に良い食事とは?

善玉菌のえさ
腸内環境は、食生活や生活環境の変化、ストレスによって大きく変化します。

3-1.善玉菌を増やす食品


善玉菌は、食物繊維やオリゴ糖、納豆などの発酵食品をエサにして増えていきます。腸内で善玉菌が優位になると、腸内環境が整い、便通の改善だけでなく、免疫機能の維持や有害物質の排出にも役立つとされています。

特に食物繊維には、水に溶ける「水溶性」と溶けない「不溶性」があり、それぞれ異なる形で腸をサポートします。

水溶性食物繊維は善玉菌のエサになり、短鎖脂肪酸をつくることで腸内を弱酸性に保ち、有害菌の増加を抑えます。

一方、不溶性食物繊維は便のカサを増やして腸のぜん動運動を促すため、不足すると便が硬くなって出にくくなり、便秘につながりやすくなります。

【参考情報】『食物繊維』e-ヘルスネット(厚生労働省)
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/food/ye-016

現代人の食生活は食物繊維が不足気味だと言われており、特に野菜や豆類、海藻の摂取が少ない人は意識的に補うことが重要です。

野菜ならごぼう、キャベツ、ブロッコリー、海藻ならわかめやひじき、豆類なら大豆・レンズ豆などが取り入れやすいでしょう。

発酵食品では、ぬか漬けやキムチ、納豆、味噌、塩麹などがおすすめで、毎日の食事のどこかに少量でも取り入れると効果が期待できます。

また、オリゴ糖は大豆、タマネギ、ニンニク、バナナなどに多く含まれており、善玉菌の増殖を助けます。

さらに、善玉菌が働きやすい腸内環境を保つには、水分補給や適度な運動、規則正しい生活も役立ちます。腸のリズムが整うことで、善玉菌の定着や便通改善がよりスムーズになります。

「アレルギー体質を改善したい人は「善玉菌」を増やそう」>>

3-2.悪玉菌を増やす食品


一方、悪玉菌は糖質や脂質を好み、これらを過剰に摂ると腸内で増えやすくなります。

麺類・パン・ご飯といった主食も糖質であり、特に精製された白米や白いパン、菓子類などを頻繁に食べると、悪玉菌のエサが多くなり腸内のバランスが崩れやすくなります。

◆「糖質がアレルギー疾患に与える影響とは?」>>

悪玉菌が優位な状態が続くと、腸内ではアンモニアや硫化水素などの有害物質が発生し、腸の粘膜を刺激します。この刺激が慢性的に続くと、腸のバリア機能が弱まり、腸壁に微細なすき間が生じる「腸もれ(リーキーガット)」につながる可能性があります。

腸もれが起きると、通常は吸収されないはずの未消化物質や細菌由来の毒素が血液に入り込み、免疫系を混乱させることがあります。その結果、ウイルス感染に弱くなるだけでなく、慢性炎症が起こりやすくなり、生活習慣病、アレルギー、自己免疫疾患、さらには気分の落ち込みやうつ病リスクの上昇とも関連すると指摘されています。

こうしたリスクを抑えるためには、まず糖質の摂り過ぎを避け、血糖値が急上昇しにくい食事を心がけることが重要です。特に精製された糖質を控え、代わりに野菜、豆類、全粒穀物など、食物繊維が豊富で腸のバリア機能を支えやすい食品を増やすと良いでしょう。

◆「腸が喜ぶ食事」について>>

合わせて、腸の炎症を抑えるオメガ3脂肪酸、腸粘膜の修復を助けるビタミンA・亜鉛、そして善玉菌のエサになる発酵食品やオリゴ糖などを取り入れると、腸内環境の改善がよりスムーズに進みます。糖質を控えるだけでなく、腸を守る食材を意識的に組み合わせることが、腸もれの改善につながります。

◆「ビタミンAのおもな特徴」をチェック>>

4.ヨーグルトは善玉菌を増やすのか?

ヨーグルト

乳酸菌というと真っ先にヨーグルトなどの乳製品を思い浮かべる人が多いでしょう。特に健康意識の高い人ほど「腸に良いから」と毎日ヨーグルトを習慣にしていることがあります。

しかし、乳製品だけで腸内環境を根本から整えるのは実際には難しく、期待した効果が得られないケースも少なくありません。

まず、私たちの腸内には、幼少期からの食生活や生活習慣によって形成された複雑な腸内フローラがあります。

このバランスは非常に個人差が大きく、一度できあがると外部から新しい菌が入ってきても定着しにくい特性があります。

たとえ生きた乳酸菌が腸に届いたとしても、多くは腸内に住み着く前に便として排出されてしまい、長期的な改善にはつながりにくいのです。

さらに、乳製品に含まれる「カゼイン」というたんぱく質は、人によっては消化しづらく、腸の粘膜を刺激してしまうことがあります。

このカゼインが原因で、ヨーグルトを食べるほど逆にお腹が張りやすくなる、便通が乱れる、アレルギー症状が悪化するといったケースも報告されています。

特に日本人は、乳糖や乳製品に対する耐性が低い人が多く、乳製品で腸を整えようとすると体質に合わず逆効果になる可能性があります。

【参考情報】『牛乳・乳製品|原因別アナフィラキシー|食物アレルギー』アナフィラキシーってなあに.jp
https://allergy72.jp/cause/food/allergen/milk.html

加えて、一般的なヨーグルトには脂肪分や砂糖が多く含まれることがあり、カロリー過多や血糖値の急上昇につながる場合もあります。

無糖タイプを選んだとしても、乳製品自体に含まれる飽和脂肪酸を毎日摂り続けるのは、体質によっては腸内環境や血管に負担となることがあります。

こうした理由から、「乳酸菌=ヨーグルトさえ食べていれば良い」という考え方は必ずしも正しくありません。

腸内環境を整えるには、発酵食品や食物繊維、オリゴ糖など多方面からのアプローチが必要であり、乳製品はその一部に過ぎない、もしくは体質によっては適さない食品であることを理解しておくと良いでしょう。

5.おわりに

腸内環境 食品
腸内環境のバランスが乱れている人も、善玉菌のエサとなる食材を積極的に取り入れることで、弱った免疫力を整えることができます。

喘息や花粉症、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患に悩む人はもちろん、便秘がちな人や、いつまでも元気で健康な生活を送りたい人も、ぜひ今日から善玉菌が喜ぶ食事を増やしてみてください。

自分に合った食事やサプリメントを知りたい方は、当院の管理栄養士に相談することもできます。興味のある方は、診察時または受付で「栄養カウンセリングを受けたい」と、お気軽にお申し出ください。

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