インフルエンザの治療薬~種類と特徴

インフルエンザの治療薬には、内服薬のタミフルとゾフルーザ、吸入薬のリレンザとイナビル、点滴薬のラピアクタがあります。
インフルエンザの症状が現れてから12時間~48時間の間に抗インフルエンザ薬を服用すると、症状の悪化を防いだり、早く良くなる可能性が高まります。
この記事では、それぞれの薬がどのような違いや特徴を持っているのかを説明します。
目次
1.インフルエンザとはどんな病気か
インフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染して起こる急性の呼吸器感染症です。毎年冬を中心に流行し、38〜40度の高熱、全身のだるさ、関節痛や筋肉痛などの全身症状が強く出るのが特徴です。
ウイルスは主に、咳やくしゃみで飛び散る飛沫を吸い込むことで感染します。感染から1〜3日ほどの潜伏期間を経て発症し、発熱以外にも喉の痛み、鼻水、咳などの症状が現れます。
一般的な風邪と比べると症状が急に強く出やすく、悪化すると肺炎や脳炎などの重い合併症につながることがあります。特に高齢者、乳幼児、妊娠中の方、基礎疾患のある人は注意が必要です。
予防には、手洗い・うがい・マスクに加え、毎年のワクチン接種が有効です。感染が疑われる場合は早めの受診がおすすめです。
【参考情報】『Influenza (flu)』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/flu/symptoms-causes/syc-20351719
2.抗インフルエンザ薬とはどんな薬か
抗インフルエンザ薬は、インフルエンザウイルスの増殖を抑えることで症状を軽くし、回復を早めるための薬です。
2-1.抗インフルエンザ薬の役割と効果
インフルエンザは発症後、体内でウイルスが急速に増えるため、薬によってその増殖を早い段階で止めることが重要です。
抗インフルエンザ薬にはいくつかの種類があり、ウイルスが細胞から出て広がるのを防ぐタイプや、ウイルスの複製に必要な酵素を阻害するタイプがあります。
どの薬も、発症直後のウイルス量が増える時期に効果を発揮し、発熱期間の短縮や全身症状の軽減に役立ちます。
また、高齢者や基礎疾患のある人では、重症化を防ぐ目的でも重要な治療です。
2-2.抗インフルエンザ薬を使うタイミング
抗インフルエンザ薬を症状出現から12~48時間のあいだに服用する方がよい理由は、ウイルスの増え方に関係します。
インフルエンザウイルスは、体内に入ってから非常に速いスピードで増殖します。発症してから48時間以内はウイルス量が急激に増える時期で、この段階で薬を使うとウイルスの増殖を効果的に抑えることができます。
一方で、48時間を大きく過ぎるとウイルス増殖のピークを過ぎてしまい、薬の効果が十分に発揮されにくくなります。そのため、症状が出て比較的早いタイミングで治療を始めるほど、発熱期間が短くなり、全身症状の軽減や合併症の予防につながります。
このため、薬は発症後12~48時間以内の服用が最も効果的とされています。
2-3.抗インフルエンザ薬の予防投与
抗インフルエンザ薬は、「同居する家族などがインフルエンザにかかった人」「インフルエンザにかかると重症化しやすい人」に限って、予防のために服用することもできます。
ただしその場合、治療費は全額自己負担となります。
【参考情報】『Treating Flu with Antiviral Drugs』CDC(Centers for Disease Control & Prevention)
https://www.cdc.gov/flu/treatment/antiviral-drugs.html
3.抗インフルエンザ薬の種類と特徴
この章では、5種類の抗インフルエンザ薬について解説します。
3-1.タミフル(オセルタミビル)
代表的な抗インフルエンザ薬です。1日2回、5日間服用します。
インフルエンザウイルスが体の中で増える際に必要とする酵素(ノイラミニダーゼ)の働きを阻害し、ウイルスが細胞から外へ広がるのを防ぎます。
この作用により、ウイルス量の増加を抑え、発熱期間を短くし、全身症状を軽減する効果が期待できます。
タミフルには「カプセル」と「ドライシロップ」の2つの形があり、年齢や症状に応じて使い分けられます。
【参考情報】『ドライシロップ』日本薬学会
https://www.pharm.or.jp/words/word00777.html
水に溶かして飲む顆粒状のドライシロップは、カプセルを飲みこみにくい小さな子どもに処方されることが多いのですが、味は苦いです。
飲みにくい場合は、チョコレート味のアイスやお薬ゼリー、ヨーグルト、オレンジジュース、スポーツドリンクに混ぜると苦みが和らぎます。
逆にバニラアイスや乳酸菌飲料、リンゴジュースに混ぜると、ますます苦くなってしまうので注意しましょう。
溶かしてから時間が経つと薬の苦味が出てくるので、食べ物や飲み物と混ぜたら、なるべく早めに飲んでください。
副作用として、吐き気や下痢などの消化器症状がみられることがありますが、多くは軽度です。
【子どもの異常行動について】
タミフルを服用した子どもの異常行動や転落事故が報告されたことから、10代の患者への投与は中止されていましたが、タミフルと異常行動の因果関係が明確ではないことから、2018年より10代にも投与が可能となりました。
治療薬を服用していても、いなくても、インフルエンザにかかった子どもが「幻覚を見る」「うわごとを言う」「興奮する」などの異常行動を起こすことがあります。
未成年者がインフルエンザと診断されたら、少なくとも2日間は1人にせず、大人が見守っていてください。
【参考情報】『タミフルを服用していて、子どもがいつもとちがう行動をとるような症状はありますか?』中外製薬
https://www.chugai-pharm.co.jp/ptn/products/tamiflu/faq/children_unusual.html
3-2.ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)
2018年3月に発売された、最も新しい抗インフルエンザ薬です。従来の薬のように数日間飲み続ける必要がなく、1回の服用で治療が完結します。
タミフルをはじめとするこれまでの治療薬は、細胞の中で増殖したウイルスが拡散することを防ぐものですが、ゾフルーザはウイルスの増殖そのものを抑える薬です。
便利さと即効性を併せ持つ薬ですが、ウイルスが薬に対して耐性を持つ「耐性ウイルス」が出現する可能性が指摘されています。
副作用としては、下痢や吐き気、頭痛などが報告されていますが、多くは軽度です。
3-3.イナビル(ラニナミビル)
容器に入った粉末の吸入剤です。容器は20mg入りで、成人および10歳以上の小児は40mg(容器2個)を、10歳未満の小児は20mg(容器1個)を1回吸入します。
1回吸入するだけで5日間効果が持続するので、その点は便利なのですが、幼児や高齢者だとうまく吸い込めないことがあります。そのため服用前に、吸入確認用の笛を吹くように指示されることがあります。
吸入方法は、製薬会社のホームページでも見ることができます。
【参考情報】『イナビル吸入方法』第一三共
https://www.influ-news.info/inhalation/index.html?/inhalation/usage.html
イナビルの添加物には、乳タンパクが含まれています。牛乳アレルギーのある方は、医師や薬剤師に必ず相談してください。また吸入薬のため、喘息など呼吸器に病気のある人も注意が必要です。
3-3.リレンザ(ザナミビル)
イナビルと同様、粉末の吸入薬です。1日2回5日間、「ブリスター」と呼ばれる薬が入ったディスクを専用の吸入器(ディスクヘラー)にセットして吸入します。
イナビルと同様、リレンザの添加物にも乳タンパクが含まれているので、牛乳アレルギーのある方は、医師や薬剤師に必ず相談してください。また、吸入薬のため、喘息など呼吸器に病気のある人も注意してください。
【参考情報】『リレンザ』グラクソ・スミスクライン
https://jp.gsk.com/ja-jp/products/our-prescription-medicines/relenza/
3-4.ラピアクタ
抗インフルエンザ治療薬の中で唯一の点滴薬です。錠剤や吸入剤がうまく服用できないお子さんや高齢者、障害のある方、入院中の患者さんなどに使われることが多いです。
約15分の点滴を1回するだけで効果が得られますが、腎機能障害のある方には注意が必要な薬なので、該当する方は必ず医師に申し出てください。
4.よくある質問と答え
この章では、抗インフルエンザ薬に関するよくある質問と答えをまとめました。
Q どの治療薬を選べばよいですか?
A 体調、年齢、持病、飲みやすさなどに応じて医師が判断します。患者の状況に合わせて使い分けます。
Q 48時間を過ぎてから薬を飲んでも意味がありますか?
A 効果は弱くなる可能性がありますが、重症化リスクの高い人では使われることがあります。
Q 抗インフルエンザ薬を飲んだら、すぐに熱は下がりますか?
A すぐに下がるとは限りません。一般的には1〜2日ほどで熱が落ち着くことが多いですが、個人差があります。
Q 抗インフルエンザ薬は、必ず飲まなければいけませんか?
A 必ずしも全員に必要ではありません。軽症で健康な人は自然に回復することも多く、症状や背景に応じて医師が判断します。
Q 抗インフルエンザ薬を使っても、人にうつすリスクはありますか?
A 完全には防げませんが、ウイルス量が減ることでうつす期間が短くなる可能性があります。薬を使っても、マスクや手洗いなどの感染対策は必要です。
5.おわりに
インフルエンザの患者さんには、抗インフルエンザ治療薬とともに、高熱が出た場合には熱を下げる薬(解熱鎮痛薬)を、咳が出る場合には咳をしずめる薬(鎮咳薬)など、出ている症状に応じた薬を使うこともあります。
医師は患者の年齢や重症度などを考慮して薬を選びます。自分に合った薬を処方してもらうためにも、持病やアレルギーのある方は必ず申し出てください。
熱が下がって元気になっても、インフルエンザウイルスが完全にいなくなったわけではありなせん。処方された薬は、必ず最後まで飲みきってください。














