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抗インフルエンザ薬の予防投与の方法と効果、対象者

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2024年02月05日

新型コロナウイルス感染症の影響もあってか、近年流行していなかったインフルエンザが、季節に関係なく流行するようになりました。

インフルエンザの予防にはワクチンによる予防接種が有効ですが、通常、治療に使用する抗インフルエンザ薬を予防的に服用する「予防投与」という方法もあります。

この記事では、抗インフルエンザ薬の予防投与について解説します。対象となる人や、薬剤別の服用方法も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

1.インフルエンザとはどんな病気か


インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる呼吸器感染症です。ウイルスの型にはA型・B型・C型・D型があり、さらに細かい亜型に分かれていきます。

よく流行するのは、A型とB型のウイルスによるインフルエンザですが、新しい亜型のウイルスが出現して、新型インフルエンザとして大流行することもあります。

インフルエンザウイルスに感染すると、1〜3日程度の潜伏期間を経て、次のような症状があらわれます。

 ・発熱(多くは38℃以上の高熱)

 ・頭痛

 ・全身のだるさ

 ・筋肉痛

 ・関節痛

上記のほか、のどの痛みや咳、鼻水といった症状が出る人も多いです。一般的な風邪より症状は重くなりがちで、場合によっては気管支炎や肺炎などが引き起こされることもあります。

【参考情報】『Influenza (Flu)』Yale Medecine
https://www.yalemedicine.org/conditions/flu

特に、高齢者、呼吸器・循環器・腎臓に疾患がある人、糖尿病の人、免疫機能が低下している人は重症化しやすく、入院や死亡のリスクも高いことから、念入りな予防が必要です。

また、乳幼児を中心に、けいれん・異常な言動や行動・意識障害といった症状が出るインフルエンザ脳症が引き起こされることもあります。

【参考情報】『インフルエンザ脳症ガイドライン【改訂版】』厚生労働省 インフルエンザ脳症研究班
https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/hourei/2009/09/dl/info0925-01.pdf

これまで、インフルエンザは12月〜3月に流行することが多かったのですが、最近はそれ以外の時期の患者数も多くなっており、季節感がなくなってきている状況です。

その理由として、新型コロナウイルス感染症の影響で近年インフルエンザが流行せず、抗体を持つ人が少なくなったことが関係していると言われています。

◆「インフルエンザ」についてもっと詳しく>>

2.予防投与とは何か


通常、インフルエンザの予防では、ワクチンの接種を行います。しかし、インフルエンザの症状が重症化しやすい人に対しては、抗インフルエンザ薬を使用した予防投与を行うこともあります。

2-1.予防投与とはどんな治療法か

予防投与とは、インフルエンザ患者に接触した人に対して行う治療法です。インフルエンザ患者との接触から48時間以内に抗インフルエンザ薬の服用を開始します。

予防投与は必ずしなくてはならないというわけではありません。また、保険適用のない自由診療で行われる点には注意しましょう。

2-2.予防投与の対象者

対象者は、原則、インフルエンザ患者と同居している人や共同生活をしている人で、次の条件にあてはまる人です。

 ・65歳以上

 ・呼吸器または心臓に慢性的な疾患がある人

 ・糖尿病などの代謝性疾患がある人

 ・腎機能障害のある人

上記の人たちは、インフルエンザの症状が重くなりやすいと言われています。インフルエンザ患者の同居家族や、介護施設などで一緒に生活している人、施設の職員が対象となることが多いです。

2-3.予防投与の効果とその期間

抗インフルエンザ薬の予防投与により、インフルエンザの症状は出にくくなりますが、100%予防できるわけではありません。

また、インフルエンザ患者との接触から48時間(リレンザは36時間)以上経過してからの投与や10日間以上の投与では、予防効果のあるデータが得られていません。そのため、予防投与はすみやかに決められた期間だけ行う必要があります。

予防効果があるのは、抗インフルエンザ薬を投与している期間のみとなります。

2-4.予防投与の注意点やデメリット

先ほど説明したように、抗インフルエンザ薬の予防投与で、インフルエンザを100%予防できるわけではありません。

また、抗インフルエンザ薬によるインフルエンザ予防では保険が適用されません。病院や薬局での支払いは自費(10割負担)となり、医療機関ごとに支払額が異なる点には注意しましょう。

インフルエンザの予防は、流行する前のワクチン接種や日常的な予防行動が基本です。予防投与はいざというときの特別な対応と認識しておきましょう。

3.予防投与可能な抗インフルエンザ薬


インフルエンザの予防に使用できる抗インフルエンザ薬をご紹介します。それぞれ服用方法が異なるため、服用に際しては医師や薬剤師の説明をよく聞いておきましょう。

3-1.タミフル

タミフルは、オセルタミビルという成分の飲み薬で、A型・B型インフルエンザウイルスに対して有効です。ノイラミニダーゼ阻害薬に分類され、インフルエンザウイルスが感染細胞から離れて体内に拡散されることを阻害します。

体重37.5kg以上から服用でき、予防投与の場合は1回75mgを1日1回、7~10日間続けて服用します。

主な副作用としては、腹痛や吐き気、下痢などがあります。

横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニックでは、自費診療5,000円(+税)で行っています。そのほか、薬局で支払う薬代が約4,000円(+税)かかります。

◆「タミフル」について詳しく>>

3-2.イナビル

イナビルは、ラニナミビルという成分の吸入薬で、A型・B型インフルエンザに有効です。タミフルと同じく、ノイラミニダーゼ阻害薬に分類され、インフルエンザウイルスが体内に広がることを防ぎます。

予防投与の場合、10歳未満は1容器を1回に吸入、10歳以上は2容器を1回または2回(2日間)に分けて吸入します。

副作用としては、下痢や腹痛がよく起こり、息苦しさが起こることもあるでしょう。

イナビルは、湿気を避けるためアルミ包装に入っています。吸入直前まで、包装を開けないでください。

横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニックでは、イナビルの予防投与は行っていません

◆「イナビル」について詳しく>>

3-3.リレンザ

リレンザも、A型・B型インフルエンザに有効な吸入薬です。ザナミビルという成分を含み、ノイラミニダーゼを阻害して体内でのインフルエンザウイルスの広がりを抑えます。また、気道からインフルエンザウイルスが離れることも阻害し、感染拡大を防ぐのが特徴です。

予防投与では、専用の容器を使用して、1日1回10日間の吸入を続けます。

よくある副作用は、発疹・下痢・吐き気です。

予防投与は基本的にインフルエンザ患者との接触から48時間以内に開始しますが、リレンザは36時間以内に投与を開始しないと予防効果が得られません。

横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニックでは、自費診療5,000円(+税)で行っています。そのほか、薬局で支払う薬代が約4,000円(+税)かかります。

◆「リレンザ」について詳しく>>

3-4.ゾフルーザ

ゾフルーザは、バロキサビルという成分を使用したA型・B型インフルエンザに有効な飲み薬です。インフルエンザウイルスのキャップ依存性エンドヌクレアーゼを阻害してウイルスの増殖を防ぎます。

ゾフルーザには錠剤と顆粒があり、体重や年齢に応じて服用する量が異なります。予防投与の場合、服用回数は1回のみです。

主な副作用には下痢や吐き気、出血(鼻からの出血や血便など)があります。

横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニックでは、ゾフルーザの予防投与は行っていません

◆「ゾフルーザ」について詳しく>>

4.予防投与以外の予防策


予防投与を行なった場合でも、生活上の予防策は必要です。周りに感染させないよう配慮しましょう。

4-1.手洗い

石けんを使った手洗いは、体についたインフルエンザウイルスを除去するために有効です。1分程度の時間をかけて、手首や指の間まで丁寧に洗うようにしましょう。アルコールによる手指の消毒も有効です。

4-2.マスクの着用

インフルエンザの感染を避けるためには人混みを避けることが大切ですが、どうしても人混みに入らなければいけない場合はマスクを着用しましょう。

不織布製のマスクを着用することで、飛沫による感染をある程度避けられます。

◆「マスクの付け方と選び方」>>

4-3.人混みを避ける

人混みでは、人との距離が近くなり、会話や咳によって飛沫感染してしまうリスクが上がります。

特に、インフルエンザの症状が重症化しやすい子どもや高齢者、慢性的な疾患がある人は、流行時はなるべく人混みを避けて生活してください。

4-4.適切な湿度を保つ

空気が乾燥すると、気道の粘膜の防御機能が弱まり、インフルエンザに感染する可能性が上がります。適切な湿度である40〜60%を保てるよう、室内の加湿を行いましょう。

また、複数人がいる部屋では、換気を行うことも効果的です。

◆「加湿器を選ぶポイントと注意点」>>

4-5.予防接種

予防接種は、インフルエンザが流行する前に済ませておきましょう。インフルエンザワクチンには、インフルエンザウイルスに感染したあとに症状が出ることを抑えたり、症状を弱めたりする効果があります。

13歳以上は1回、13歳未満や、13歳以上でも基礎疾患があり免疫が低くなっている人は2回ワクチンを接種します。

5.おわりに

抗インフルエンザ薬の予防投与は対象となる人が限られており、医師が必要と判断した人のみできる点と、保険適用がない自費診療となる点には注意してください

対象となる人が予防投与を希望する場合は、呼吸器内科や内科、小児科などで相談してください。

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