子どもに多い「RSウイルス感染症」とは?

赤ちゃんや小さな子どもに鼻水や熱が出て、「風邪かな?」と思っていたら、咳がひどくなり、呼吸が苦しそうで、症状が重くなってきた……。
そんなときは、RSウイルス感染症の疑いがあります。特に、生後6カ月未満の赤ちゃんは重症化しやすいので、注意が必要な病気です。
この記事では、RSウイルス感染症という病気の基本について解説します。病院を受診する際の目安や、家庭でのケアの参考にしてください。
目次
1.RSウイルス感染症とはどのような病気なのか
RSウイルスは、主に呼吸器に感染するウイルスです。
1-1.RSウイルス感染症の症状と特徴
RSウイルスに感染すると、鼻水、鼻づまり、咳、発熱などの症状が現れますが、軽症であれば数日で自然に回復します。そのため、一般的な風邪と区別がつきにくいでしょう。
感染経路は、咳やくしゃみによる飛沫感染と、ウイルスが付着した手指やおもちゃ、ドアノブなどを介した接触感染です。
また、家庭内や保育園、幼稚園など、人との接触が多い環境で広がりやすいため、年長児や大人が軽い風邪症状のままウイルスを持ち込み、乳幼児に感染させてしまうケースも少なくありません。
RSウイルスの感染力は非常に強く、多くの人が2歳までに一度は感染するとされます。また、一度感染しても十分な免疫がつきにくく、再感染することもよくあります。
ただ、感染を重ねるうちに免疫が徐々にできるため、大人は感染しても軽症で済むことが多くなります。
【参考情報】『Respiratory syncytial virus (RSV)』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/respiratory-syncytial-virus/symptoms-causes/syc-20353098
1-2.乳幼児の重症化に注意
一方、乳幼児では、RSウイルス感染症が細気管支炎や肺炎へ進行することがあります。
乳幼児は気道が細いため、鼻水や痰などの分泌物が増えると、大人より呼吸がしにくくなりやすいからです。さらに、炎症により気道が腫れると、さらに気道が狭くなって苦しくなります。
呼吸の状態が悪化すると、ミルクや母乳を十分に飲めなくなることもあります。これは、呼吸を優先するために哺乳に集中できなくなるためで、脱水や体力低下につながるおそれがあります。特に生後間もない乳児では、哺乳量の低下が全身状態の悪化のサインになることがあります。
呼吸の際に「ヒューヒュー」「ゼイゼイ」という音がしたり、息を吸い込むときに胸のろっ骨のあたりがへこむ様子が見られたら、すぐに病院を受診してください。
【参考情報】『RSV in Infants and Young Children』CDC(Centers for Disease Control and Prevention)
https://www.cdc.gov/rsv/infants-young-children/index.html
2.RSウイルスの検査方法と検査のタイミング
この章では、RSウイルス検査の種類と、検査が有効となるタイミング、検査が実施されない場合がある理由について説明します。
2-1.RSウイルス検査の方法と特徴
RSウイルス感染症では、症状や年齢、流行状況を踏まえて検査が必要かどうか判断されます。特に重要なのが検査のタイミングで、実施する時期によってウイルスの検出率が変わります。
主に行われる迅速抗原検査では、鼻の奥から採取する鼻咽頭ぬぐい液を用い、数十分程度で結果が出ます。
医療機関によっては、PCR検査などの遺伝子検査が行われることもありますが、一般診療では迅速検査が中心です。
2-2.検査が有効なタイミング
RSウイルスは発症初期にウイルス量が多く、検査で検出されやすいとされています。目安としては、発症から1~5日目が最も陽性になりやすい時期です。
発症から時間が経過すると、症状が続いていてもウイルス量が減少し、検査が陰性になることがあります。
そのため、受診が遅れた場合には、RSウイルス感染症にかかっている人でも、検査では確認できないことがあります。
2-3.検査が行われない場合と注意点
一方、RSウイルス感染症の疑いがあっても、検査が行われないこともあります。
RSウイルス感染症には、原因そのものを治す薬はないため、つらい症状を和らげる治療が中心となります。そのため、検査をしても治療内容が変わらない場合は、医師の判断で検査を行わないことがあります。
検査は、重症度の判断や他の感染症との鑑別が目的で行われることもあります。呼吸状態が悪い場合や入院の判断が必要なケースでは、診断を明確にするため検査が実施されやすくなります。
このように、RSウイルス検査は万能ではなく、検査のタイミングと目的を踏まえて使われる補助的な手段です。検査結果だけに頼らず、症状の経過や全身状態を総合的に評価することが重要とされています。
3.RSウイルス感染症の治療
RSウイルス感染症には、病気そのものを直接治す特効薬はないため、症状を和らげ、体が回復するのを支える治療とケアが行われます。
治療は、発熱や咳、鼻水、呼吸のしにくさなど、これらの症状に応じて行う対症療法が基本です。具体的には、解熱剤の使用、水分補給、鼻水や痰の吸引、呼吸を楽にするケアなどが含まれます。
多くの場合は自宅での経過観察とケアで回復しますが、以下のような状態では入院して点滴をしたり、人工呼吸器が必要になるケースもあります。
・呼吸が苦しそうで呼吸回数が多い
・呼吸の際にゼーゼー音が強い
・血中酸素飽和度が低下している
・ミルクや水分が十分に取れない
・ぐったりして元気がない
特に乳児、早産児、心臓や肺に基礎疾患のある子供では、重症化を防ぐために入院することがあります。
早産で生まれたお子さんや、基礎疾患のあるお子さんは、医師からシナジス(パリビズマブ)の注射を勧められることがあります。
シナジスは、RSウイルス感染症の重症化を予防する薬剤ですが、非常に高価なこともあり、健康保険の適応になる対象は限られています。
4.鼻水が多いときには吸引
RSウイルス感染症では、鼻水が増えることで呼吸がつらくなることがあります。
4-1.吸引の役割
RSウイルス感染症では、鼻水が多くなりやすく、これが呼吸のしづらさにつながることがあります。
特に乳幼児は、自分で鼻をかむことが難しいため、吸引は症状を和らげるうえで重要な対応の一つです。
吸引によって鼻水を取り除くと、空気の通り道が確保され、呼吸がラクになります。
そして、鼻づまりが改善すると、息苦しさが軽減されるだけでなく、「哺乳や食事がしやすくなる」「眠りやすくなる」といった効果も期待できます。
4-2.医療機関での吸引と家庭での鼻吸い
医療機関では、専用の機器を使って鼻や喉の奥までしっかり吸引を行います。呼吸状態が不安定な場合や、痰が多くゼーゼー音が強い場合には、繰り返し吸引が行われることもあります。
一方、家庭では市販の鼻吸い器を使い、鼻の入口付近の鼻水をやさしく取り除く方法が中心になります。家庭での吸引は、症状を完全に治すものではありませんが、つらさを和らげるケアとして有効です。
4-3.吸引を行う目安と注意点
吸引を行う目安としては、「鼻づまりで呼吸が苦しそうなとき」「ミルクや母乳を飲みにくそうなとき」「眠りが浅く何度も目を覚ますとき」などが挙げられます。
ただし、吸引を繰り返し行うと鼻の粘膜を刺激してしまうことがあります。「無理に奥まで器具を入れない」「嫌がる場合は一度中止する」など、安全に配慮して行うことが大切です。
5.RSウイルス感染症の予防
RSウイルス感染症の予防には、基本的な感染対策に加え、近年はワクチンや抗体製剤といった新しい予防手段も選択肢に加わりました。
5-1.基本的な感染対策
RSウイルス感染症の予防では、手洗いの徹底やマスク着用など、基本的な感染対策が重要です。
また、咳や鼻水がある場合、タオルや食器の共用を避けることは、家庭内や集団生活での感染拡大を防ぐうえで有効です。
5-2.ワクチン・抗体製剤
近年、RSウイルスに対するワクチンや抗体製剤が予防手段として位置づけられるようになりました。これらは、すでに感染した後の治療ではなく、重症化を防ぐための予防目的で用いられます。
<アブリスボ>
妊娠24~36週の妊婦にアブリスボ(Abrysvo)を接種することで、母体で作られた抗体が胎盤を通じて胎児に移行し、生後早期の乳児をRSウイルスから守る効果が期待されます。
生後間もない時期は重症化リスクが高いため、この方法は乳児予防の一つの選択肢とされています。
【参考情報】『RSV protection starts with Pfizer’s ABRYSVO® (Respiratory Syncytial Virus Vaccine)』Pfizer
https://www.abrysvo.com/
<アレックスビー>
RSウイルスに対するワクチンには、アレックスビー(Arexvy)もあります。これは、60歳以上の成人の重症化予防を目的としたワクチンです。
【参考情報】『AREXVY (Respiratory Syncytial Virus Vaccine, Adjuvanted)』GSK
https://arexvy.com/
<ベイフォータス>
ベイフォータス(ニルセビマブ)は、乳児に直接投与される長期作用型の抗体製剤です。
これはワクチンとは異なり、体内で抗体を作らせるのではなく、あらかじめ作られた抗体を投与する方法です。
1回の投与で流行シーズンを通して効果が持続するのが特徴で、重症化リスクの高い乳児を中心に用いられます。
【参考情報】『Beyfortus® (nirsevimab-alip) for RSV』SANOFI
https://www.beyfortus.com/us
6.RSウイルス感染症と喘息の関係
RSウイルス感染症にかかると、症状が治まった後も気管支が敏感になり、季節の変わり目や風邪をひいた時に、喘息のような症状が出ることがあります。
6-1.感染後の気道過敏と症状
RSウイルス感染症になると、気道に強い炎症を起こすことがあります。この炎症は一時的な症状にとどまらず、その後の呼吸器の状態に影響を及ぼすことがあります。
特に、乳児期にRSウイルスによる細気管支炎を起こした子供では、回復後もしばらくの間、気道が刺激に敏感な状態が続くことがあり、風邪をひいたときや運動後、夜間などに咳やゼーゼーとした呼吸(喘鳴)が出やすくなります。これらの症状は、喘息や喘息性気管支炎と区別がつきにくいこともあります。
また、RSウイルス感染をきっかけに、もともとアレルギー体質をもつ子供で喘息のような症状が表面化することもあります。ただし、RSウイルス感染症そのものが必ず喘息を引き起こすわけではなく、感染後の喘鳴や咳が成長とともに自然に改善するケースも少なくありません。
6-2.喘息患者に対するRSウイルス感染の影響
一方で、すでに喘息の診断を受けている人では、RSウイルス感染が発作の誘因となり、症状が悪化することがあります。この場合、咳や息苦しさが強く出やすく、治療や経過観察が必要になることがあります。
このように、RSウイルス感染症と喘息は完全に別の病気ですが、気道の炎症や過敏性という共通点があり、症状が重なりやすい関係にあります。感染後に咳や喘鳴が長く続く場合や、繰り返す場合には、成長過程の一時的な反応なのか、喘息なのかを、医師が経過を見ながら判断します。
7.おわりに
RSウイルスは繰り返し感染するうちに、徐々に免疫ができるため、成長とともに症状は軽くなっていきます。
大切なのは、重症化しやすい乳幼児、特に生後6か月未満の乳児への感染を防ぐことと、乳幼児に呼吸困難が見られたら、ただちに病院を受診することです。
自分で対策できない乳幼児への感染を防ぐには、大人のサポートが欠かせません。保護者をはじめ、保育園・幼稚園のスタッフ、子ども向けの施設や教室で働いている人は、風邪のような症状が出たら、たとえ症状は軽くても、子どもにうつさないように対策を講じてください。











