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睡眠時無呼吸症候群の治療に使う「ASV」とは?

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2026年02月18日

睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に呼吸が止まったり乱れたりすることで、体が一時的に無呼吸・低酸素状態に陥る病気です。

こうした状態が繰り返されると、日中の強い眠気や頭痛に悩まされるだけでなく、放置すれば脳卒中や心筋梗塞といった深刻な病気につながるリスクもあります。

治療法としては、CPAP(シーパップ)療法やマウスピースを使った方法が広く知られていますが、近年では新たな選択肢としてASV(Adaptive Servoventilation)が注目を集めています。

この記事では、このASVについてわかりやすく解説していきます。

1.新しい呼吸補助療法・ASV


ASVはもともと、慢性心不全の患者さんが在宅で使用する人工呼吸器として開発・活用されてきました。

慢性心不全の患者さんは、睡眠中に呼吸が止まったり、逆に過剰に速くなったりと、呼吸リズムが大きく乱れやすい傾向があります。この不規則な呼吸パターンは「チェーンストークス呼吸」と呼ばれ、全身への酸素供給が滞ることで低酸素状態を引き起こします。

【参考情報】『チェーン・ストークス呼吸』日本救急医学会
https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0117.html

こうした状態が毎晩のように続くと、心臓への負担がさらに増し、睡眠も浅くなるという悪循環に陥ってしまいます。実際、慢性心不全の患者さんの半数以上がこのような問題を抱えていると言われています。

ASVはこうした呼吸の乱れを感知し、リアルタイムで気道に送る圧力を自動調整することで、呼吸を安定させるマスク式の人工呼吸器です。

慢性心不全における「呼吸指令の乱れによる低酸素状態」と、睡眠時無呼吸症候群における「気道閉塞による低酸素状態」は、発生するメカニズムこそ異なりますが、どちらも睡眠中の低酸素状態を繰り返すという点では共通しています。

そのため、睡眠時無呼吸症候群の患者さん、特にCPAPで効果が不十分だった方や中枢型・複合型の無呼吸を抱える方に対して、ASVが有効なケースがあると考えられています。

【参考情報】『Basics of Sleep Apnea and Heart Failure』American College of Cardiology
https://www.acc.org/latest-in-cardiology/articles/2014/07/22/08/25/basics-of-sleep-apnea-and-heart-failure

2.CPAPとASVの違い


CPAPとASVはどちらも、マスクを通じて気道に空気を送り込み、睡眠中の呼吸を助ける装置です。しかし、その仕組みには大きな違いがあります。

CPAPは「持続陽圧呼吸療法」とも呼ばれ、あらかじめ設定した一定の圧力で空気を送り続けるシンプルな構造が特徴です。

【参考情報】『CPAP Machine』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/treatments/22043-cpap-machine

気道が塞がることで起こる閉塞型の睡眠時無呼吸症候群に対して高い効果を発揮し、長年にわたって標準的な治療法として広く普及しています。

◆「CPAP」についてくわしく>>

一方のASVは、患者さんの呼吸をリアルタイムでモニタリングしながら、送り込む圧力を自動的に細かく調整できる点が最大の特徴です。

呼吸が止まりそうになれば圧力を高め、呼吸が安定していれば圧力を抑えるなど、その瞬間の呼吸状態に合わせて柔軟に対応します。

このため、呼吸リズムが不規則に変動するチェーンストークス呼吸や、閉塞型と中枢型が混在する複雑な睡眠時無呼吸症候群など、CPAPだけでは対応しきれないケースでも効果が期待できます。

簡単にまとめると、CPAPが「一定の圧力で気道を開き続ける装置」であるのに対し、ASVは「呼吸パターンを読み取りながら圧力を自在に調整できる、より高度な装置」と言えるでしょう。

症状の種類や重症度によって、どちらが適しているかは異なるため、医師と相談のうえで最適な治療法を選ぶことが大切です。

【参考情報】『ASV Machine』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/procedures/asv-machine

3.ASVが使える人


日本では、ASVは保険診療の対象となっていますが、使用できる患者さんには一定の条件が設けられています。

まず大前提として、睡眠時無呼吸症候群と診断されていることが必要です。そのうえで、CPAPによる治療を試みたものの十分な効果が得られなかった方や、チェーンストークス呼吸を伴う中枢型の睡眠時無呼吸症候群の方が、主な適応対象となります。

具体的には、1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数を示す「AHI(無呼吸低呼吸指数)」が20以上であることが保険適用の条件のひとつとされています。また、導入後も定期的に医療機関を受診し、治療の効果や使用状況を確認することが求められます。

◆「AHI」についてくわしく>>

一方で、注意が必要なのが慢性心不全を合併している方です。以前はASVが有効とされていましたが、2015年に発表された大規模な臨床試験(SERVE-HF試験)により、心臓の収縮機能が低下した慢性心不全の患者さんにASVを使用すると、死亡リスクが高まる可能性があることが明らかになりました。

【参考情報】『Adaptive Servo-Ventilation for Central Sleep Apnea in Systolic Heart Failure』The New England Journal of Medicine
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1506459

このため、左室駆出率(心臓の左心室が1回の収縮で送り出す血液の割合)が45%以下の慢性心不全の患者さんへのASV使用は、現在では原則として禁忌とされています。

4.ASVの使用方法

ASVの使用方法は、基本的にCPAPと大きく変わりません。就寝前にマスクを装着し、電源を入れるだけで治療が始まります。


<導入前の準備>
ASVを使い始める前に、医療機関で睡眠検査を受け、適応かどうかを確認します。

適応と判断された場合は、医師や専門スタッフによる指導のもとで、装置の操作方法やマスクの装着方法を丁寧に説明してもらえます。


<マスクの選択と装着>
ASVはマスクを通じて気道に空気を送り込む仕組みのため、自分の顔にフィットしたマスクを選ぶことが重要です。

マスクの種類は、鼻だけを覆うものや、鼻と口を両方覆うタイプなど複数あります。マスクが顔にしっかりフィットしていないと、空気が漏れて十分な治療効果が得られないため、フィット感の確認は欠かせません。


<就寝時の使用>
就寝前にマスクを装着し、電源を入れます。ASVは自動的に呼吸をモニタリングしながら圧力を調整するため、患者さん側で細かい設定を操作する必要はありません。

装置が呼吸パターンを読み取り、最適な圧力を自動で調整してくれます。


<日常的なメンテナンス>
清潔な状態を保つために、マスクやチューブは定期的に洗浄することが大切です。また、装置内部のフィルターも定期的に交換する必要があります。

メンテナンスを怠ると、雑菌が繁殖して感染症のリスクが高まることがあるため、医療機関の指示に従ってこまめなケアを心がけましょう。


<定期的な通院>
ASVによる治療は、装置を使い続けるだけで完結するものではありません。治療の効果や使用状況を確認するために、定期的に医療機関を受診することが保険適用の条件にもなっています。

5.ASVの保険診療と費用について


ASVは、日本では健康保険が適用されるレンタル機器として提供されています。購入するのではなく、医療機関を通じて月額で借りる形になります。

ASVが使用できるかどうかは、医師が総合的に判断します。具体的には、睡眠検査の結果やCPAP治療の経過などを踏まえ、ASVが適切と考えられる場合に導入が検討されます。

ASVは原則として第一選択ではなく、CPAPで十分な効果が得られないケースなどで適応となることが一般的です。

費用の目安としては、3割負担の場合、月額7,000~9,000円前後が一般的です。この金額には装置のレンタル料や管理料が含まれますが、医療機関や契約内容によって多少前後します。

保険適用を継続するためには、原則として毎月の外来受診が必要です。受診時には、装着時間やAHI(無呼吸低呼吸指数)などの使用状況を確認し、治療効果や体調の評価が行われます。

十分な使用実績が確認できない場合には、保険算定が認められないことがあります。

なお、CPAPの自己負担額(3割負担)は月額約5,000円前後が目安とされており、ASVはそれよりやや高額です。これは、ASVが呼吸状態を解析しながら圧力を自動調整する高度な制御機構を備えているためです。

6.おわりに

ASVもCPAPも、睡眠中に繰り返される無呼吸や低呼吸を改善し、体内の酸素不足を防ぐために用いられる有効な治療装置です。ただし、その仕組みや得意とする病態は異なります。

どちらを使用するかは、無呼吸のタイプ、重症度、心機能の状態、CPAP治療への反応などを総合的に評価したうえで決定されます。

また、機器による治療だけでなく、生活習慣の改善も不可欠です。加えて、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの併存疾患がある場合は、その管理を徹底することが重要です。

睡眠時無呼吸症候群は、脳卒中や心筋梗塞、不整脈、心不全などの心血管疾患リスクと関連していることが知られています。

無呼吸そのものを適切に治療しつつ、全身のリスク因子を同時に是正していくことが、長期的な合併症予防につながります。

◆「当院の睡眠時無呼吸症候群治療について」>>

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