湿布で喘息発作が起こる?注意すべきポイントを解説
湿布は、腰や膝、肩など痛みを感じる部位に直接働きかけるため、多くの人が愛用しています。
しかし、喘息の患者さんが湿布を使用する際には注意が必要です。一部の湿布に含まれる成分が原因で、アスピリン喘息を引き起こす可能性があるからです。
この記事では、湿布に含まれる成分とアスピリン喘息との関係についてくわしく解説します。
喘息の方が湿布を比較的安全に使うための注意点も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
1.喘息とはどのような病気か
喘息は、空気の通り道である気道に慢性的な炎症が生じることで、咳や息苦しさなどの症状が現れる病気です。
この病気の原因は、アレルギーによるものと、アレルギー以外のものがあります。
アレルギー性は、ダニや花粉、カビ、ペットの毛などのアレルゲン(アレルギーを引き起こす原因物質)に反応して症状が現れます。このタイプは、特に子どもに多いと言われています。
一方、非アレルギー性は、呼吸器感染症、疲労、ストレス、タバコ、寒暖差など、アレルゲン以外の要因がきっかけとなり発症しますが、原因がはっきりしない場合もあります。こちらのタイプは、大人に多いのが特徴です。
喘息の人の気道は、症状が出ていない時でも炎症が続いています。そのため、健康な人なら何ともないわずかな刺激にも敏感に反応し、炎症が悪化することがあります。
例えば、冷たい空気や強い香りを吸ったときや、運動をしたことがきっかけで、激しい咳などの発作が起こることがあります。
2.湿布に含まれる抗炎症・鎮痛成分
湿布は大きく分けて、第一世代と第二世代に分類されます。
第一世代の湿布は、刺激や血行改善によって痛みを和らます。第二世代の湿布には、強力な消炎鎮痛作用を持つNSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)が含まれており、痛みに直接作用します。
2-1.サリチル酸メチル
第一世代の湿布薬に含まれる成分です。痛みのある部位の血流を改善し、皮膚や筋肉の血行を促進することで、治癒を早めます。また、湿布を貼った場所に刺激を与えることで知覚神経が鈍り、痛みを和らげる効果もあります。
サリチル酸メチルが含まれている湿布には、他にもいくつかの成分が加えられていることが多いです。
例えば、ハッカ油やメントールが含まれていると冷感が感じられ、唐辛子エキスなどが含まれていれば温かさを感じることができます。これらの温度感覚も、サリチル酸メチルの作用と相まって、痛みの緩和に役立っています。
効果はNSAIDsより穏やかで、子どもや妊婦、授乳中の人でも使用できます。
2-2.サリチル酸グリコール
こちらも第一世代の湿布薬に含まれる成分で、サリチル酸メチルと同様の効果を発揮します。
サリチル酸メチルよりも、湿布特有のにおいが抑えられています。
2-3.インドメタシン
第二世代の湿布薬に含まれる成分で、湿布のほか、塗り薬などの外用薬によく使われています。
痛みを和らげるだけでなく、抗炎症作用も期待できるため、炎症を伴う痛みに対して用いることが多いです。
しかし、効果が強い一方で、副作用が発生することがあるため、使用には注意が必要です。
【参考情報】『Indomethacin』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/druginfo/meds/a681027.html
2-4.ロキソニン(ロキソプロフェン)
第二世代の湿布薬に含まれる成分です。鎮痛作用のある飲み薬としてもよく知られていますが、炎症部位に素早く届くため、痛みを速やかに緩和することができます。
一時的な痛みに対してだけでなく、長期的に使用する場合にも用いることがあります。
2-5.ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム)
第二世代の湿布薬に含まれる成分で、NSAIDsの中でも消炎鎮痛作用が最も強いとされています。
そのため、急な痛みや普段より強い痛みに対して、一時的に使用されることが多いです。
効果が強い反面、副作用が現れやすいことがあります。例えば、貼付部位に赤みやかゆみが出ることがあるので、肌が敏感な人は特に注意が必要です。
2-6.セルタッチ(フェルビナク)
第二世代の湿布薬に含まれる成分で、湿布や塗り薬などの外用薬によく含まれています。
皮膚への刺激が少ないため、肌が敏感な人にも使いやすい湿布です。
2-7.ケトプロフェン
第二世代の湿布薬に含まれる成分です。光線過敏症(日光アレルギー)という副作用が現れることがあります。
光線過敏症は、湿布を貼った部位に紫外線が当たることで反応を引き起こし、皮膚に赤みやかぶれ、かゆみ、痛み、腫れなどの症状が現れる病気です。
湿布を剥がした後でも、貼付部位には成分が残っているため、使用後も紫外線を避けることが重要です。
【参考情報】『Sun allergy』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/sun-allergy/symptoms-causes/syc-20378077
3.なぜ、湿布で喘息の症状が悪化するのか
第二世代の湿布に含まれる成分は、喘息の発作を引き起こす可能性があります。
以下、その理由を説明します。
3-1.NSAIDsとは
第二世代の湿布に含まれる成分であるNSAIDs(エヌセイズ)は、痛みや炎症を抑える働きがあります。
体の細胞が傷つくと、細胞から「アラキドン酸」という物質が放出されます。アラキドン酸は、体内で「シクロオキシゲナーゼ(COX)」という酵素によって、「プロスタグランジン」という物質に変わります。
【参考情報】『プロスタグランジン』日本薬学会
https://www.pharm.or.jp/words/post-103.html
プロスタグランジンは、痛みを強くしたり、炎症を起こす原因になります。この物質が脳に伝わることで、痛みを感じるようになります。
NSAIDsは、シクロオキシゲナーゼを抑えることで、プロスタグランジンの生成を減らし、痛みを和らげる効果があります。
【参考情報】『NSAIDsとアセトアミノフェン』日本ペインクリニック学会
https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_keynsaids.html
NSAIDsは、その効果が実感しやすいため、肩こりや頭痛、腰痛などのよくある症状から、術後の痛みや関節リウマチ、がん性疼痛といった強い痛みに対しても幅広く使われています。
しかし、NSAIDsは内服薬だけでなく、湿布や軟膏、座薬などでも副作用が現れることがあるため、注意が必要です。
特に多い副作用は、胃腸障害です。プロスタグランジンは消化管粘膜を保護したり、消化管の血流を維持する役割を担っていますが、NSAIDsによってプロスタグランジンの生成が抑制されると、消化管粘膜が保護されず、胃腸障害を引き起こすことがあります。
また、腎障害もよく見られる副作用です。プロスタグランジンが腎血流の維持に関わっているため、その生成が抑えられると、腎機能が低下することがあります。
【参考情報】『医療関係者の皆様へ』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1g03.pdf
湿布などの外用薬として使用する場合は、貼った部分にかぶれや赤み、かゆみなどの皮膚症状が現れることもあります。
3-2.アスピリン喘息とは
上記の副作用のほか、NSAIDsはアスピリン喘息を引き起こすことがあります。
アスピリン喘息とは、鎮痛剤のアスピリンやNSAIDsを使用した際に、激しい咳や息苦しさのような喘息の症状が現れる病気です。さらに、鼻づまりや腹痛、吐き気、下痢、じんましんなどが現れることがあります。
先に、NSAIDsがシクロオキシゲナーゼを抑えてプロスタグランジンの生成を減らし、痛みを和らげる仕組みについて説明しましたが、アスピリン喘息は、この過程で「ロイコトリエン」という物質が過剰に作られることが原因で起こると考えられています。
【参考情報】『ロイコトリエンB4受容体の生理・病態における役割』日本生化学会
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2021.930124/data/index.html
ロイコトリエンは炎症だけでなく、アレルギーにもかかわっています。そのため、増えすぎるとアレルギー反応や過敏反応として気道が収縮して狭くなり、喘息発作のような症状が現れることがあります。
アスピリン喘息は、成人喘息の約5~10%程度に現れると言われています。また、内服薬だけでなく、湿布や軟膏でも発症します。
アスピリン喘息の症状は、アスピリンやNSAIDsを使用してから約30分〜数時間後に現れ始めます。症状が急速に悪化するため、早急な対処が必要です。
症状が最も強くなるのは使用後4〜5時間で、その後は徐々に治まっていきますが、呼吸困難を伴う重い発作が起こることもあるため、その場合はすぐに救急車を呼ぶことが必要です。
3-3.湿布に含まれるNSAIDs
湿布に含まれるNSAIDsには、インドメタシン、ロキソニン、ボルタレン、セルタッチ、ケトプロフェンなどがあります。
病院で処方される湿布だけでなく、市販の鎮痛剤にもNSAIDsが含まれていることがあります。
購入する際は、成分表を確認し、アスピリン喘息を引き起こす成分が含まれていないかをチェックすることが重要です。念のため、薬剤師に相談するのもいいでしょう。
4.喘息の人が湿布を使う際の注意点
アスピリン喘息を発症していない人も、実は自覚していないだけで、NSAIDsに対する過敏性を持っている場合があります。
喘息の患者さんは、今まで湿布や鎮痛剤を使っても問題なかったからといって安心せず、今後症状が現れる可能性があることを考えておくことが大切です。
喘息の患者さんが消炎鎮痛剤を使用したい場合は、自己判断せず必ず医師に相談しましょう。
また、アスピリン喘息を発症したことがある人は、消炎鎮痛剤を処方してもらう前に必ず医師に伝えるようにしてください。
市販の湿布には、NSAIDsが含まれているかどうかがわかりにくいことがあります。市販薬を使用したい場合も、医師に相談してから使用することをおすすめします。
NSAIDsを含まないサリチル酸メチルやサリチル酸グリコールは、比較的安全とされていますが、アスピリン喘息を持つ人は刺激に対する防御反応が低下しているため注意が必要です。
比較的安全に使用できるとはいえ、湿布を大量に貼ったり、長期間貼り続けたりすることは避け、使用中も喘息発作に注意することが大切です
5.おわりに
痛みは日常生活に大きな影響を与えるため、薬や湿布ですぐに和らげたいと考える人は多いでしょう。
しかし、喘息の人が湿布を使用すると、湿布に含まれるNSAIDsが原因でアスピリン喘息を発症することがあります。
喘息の患者さんが湿布を使いたい場合は、必ず医師に相談し、できれば自分にあった湿布薬を処方してもらいましょう。