薬剤性肺炎とはどんな病気?原因・症状・治療を解説

特に中高年の方や、すでに肺の病気を持っている方、リウマチやがんの治療を受けている方は注意が必要です。これらの症状の背景に「薬剤性肺炎」と呼ばれる病気が隠れている可能性があるからです。
この記事では、薬剤性肺炎の基本的な特徴や原因となりやすい薬、症状の現れ方、診断・治療の流れについて解説します。
「風邪だと思っていた症状がなかなか良くならない」「新しい薬を使い始めてから咳が出るようになった」と感じる方は、ぜひ参考にしてください。
1.薬剤性肺炎とは?
薬剤性肺炎とは、特定の薬を使用したことがきっかけで肺に炎症が起こる病気です。
1-1.発症のメカニズム
肺炎と聞くと、多くの人は細菌やウイルスに感染して起こる「感染性肺炎」を思い浮かべるでしょう。
しかし薬剤性肺炎は、感染ではなく「薬そのもの」や「薬に対する体の反応」によって発症する点が大きな特徴です。
薬剤性肺炎の発症メカニズムは一つではありません。薬が直接的に肺の組織を傷つける場合もあれば、免疫反応を介して炎症が起こる場合もあります。
また、体質や遺伝的要因によって薬に対する過敏性が強く出てしまう人もおり、同じ薬を使っても全員が発症するわけではありません。
つまり「薬を飲んでいる人すべてに起こる副作用」ではなく、「特定の条件が重なったときに起こり得る副作用」と考えられています。
実際に報告されている例では、抗がん剤や免疫抑制薬、抗菌薬、抗てんかん薬などが薬剤性肺炎の原因となることがあります。
特に近年は、新しい種類の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など、効果の高い薬が登場していますが、その一方で薬剤性肺炎のリスクも知られるようになりました。
【参考情報】『Drug-Induced Pneumonitis』The Ohio State University Wexner Medical Center
https://wexnermedical.osu.edu/lung-pulmonary/ohio-states-lung-center/interstitial-lung-disease/drug-induced-pneumonitis
1-2.症状の特徴と注意点
薬剤性肺炎の症状は、咳、発熱、息切れ、倦怠感などで、一見すると風邪や通常の肺炎と変わりません。
そのため「薬が原因かもしれない」と気づかずに市販薬で対応してしまったり、受診が遅れてしまったりするケースも少なくないのです。
もう一つ重要なのは、薬剤性肺炎の発症タイミングです。薬を飲み始めてすぐに起こることもあれば、数週間から数か月経ってから症状が出る場合もあります。
服薬歴と症状の関係を見極めることが診断の鍵となるため、「いつからどんな薬を使っているか」を医師に正確に伝えることがとても大切です。
2.薬剤性肺炎の原因となり得る薬
| 薬のカテゴリ | 代表的な薬 | 備考・特徴 | 発症リスク |
|---|---|---|---|
| 抗心不全薬・抗不整脈薬 | アミオダロン | 発症頻度が比較的高く注意が必要 | 高 |
| 抗がん剤 | メトトレキサート、ブレオマイシン、イマチニブ、ニボルマブ、シスプラチン、パクリタキセル | 薬によって発症頻度が異なる。免疫チェックポイント阻害薬は重篤化の可能性あり | 中 |
| 抗リウマチ薬・免疫抑制薬 | メトトレキサート、シクロスポリン、レフルノミド | 慢性的服用でリスク増加 | 中 |
| 抗菌薬 | レボフロキサシン、シプロフロキサシン、マクロライド、ペニシリン系 | まれに肺炎を引き起こすことがある | 低 |
| その他 | カルバマゼピン、造影剤、抗PD-1/PD-L1抗体 | 稀に発症、免疫系薬剤は重篤化することも | 低 |
薬剤性肺炎は、特定の薬によって引き起こされる副作用の一つです。
すべての薬で起こるわけではありませんが、報告例が多い薬の種類を紹介します。
2-1.抗がん剤・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬
最も知られているのが抗がん剤です。抗がん剤はがん細胞に強く作用する一方、肺など正常な組織にも影響を及ぼすことがあります。
特に分子標的薬(病気の原因となっている特定の分子だけを標的にして作用する治療薬)や免疫チェックポイント阻害薬(免疫のブレーキを外して、がん細胞への攻撃力を高めるがん治療薬)は、副作用として肺炎を起こす可能性があることが知られています。
【参考情報】『「分子標的薬(ぶんしひょうてきやく)」とは、なんですか。』日本製薬工業協会
https://www.jpma.or.jp/about_medicine/guide/med_qa/q48.html
【参考情報】『免疫療法 もっと詳しく』がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu02.html
これらは革新的な薬である一方、免疫反応を過剰に刺激してしまうことで肺に炎症が生じる場合があります。
2-2.免疫抑制薬・抗リウマチ薬
リウマチや膠原病の治療に使われる薬は、免疫の働きを抑えることで炎症をコントロールします。
しかし免疫が過度に抑制されたり、逆に薬への免疫反応が起こったりすると、肺に炎症を起こすことがあります。
リウマチ患者の中には長期間こうした薬を服用する方も多く、薬剤性肺炎のリスクを知っておくことが重要です。
2-3.抗菌薬・抗てんかん薬
抗菌薬は感染症治療に欠かせませんが、体質によって過敏反応を起こし、薬剤性肺炎につながることがあります。
抗てんかん薬では、特にカルバマゼピンによる肺炎の報告があります。長期服用されることが多いため、副作用に気づきにくい点に注意が必要です。
【参考情報】『Carbamazepine (oral route)』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/drugs-supplements/carbamazepine-oral-route/description/drg-20062739
2-4.抗不整脈薬・造影剤
抗不整脈薬の一つであるアミオダロンは、薬剤性肺炎の代表的な原因薬の一つです。長期投与により、間質性肺炎を発症するケースが知られています。
また、CT検査などで用いられる造影剤でも、ごくまれに免疫反応を介した肺炎が報告されています。
3.症状の特徴と受診の目安
薬剤性肺炎の大きな特徴は、症状が一般的な風邪や感染性肺炎と非常によく似ている点です。
そのため、患者自身が「ただの風邪だろう」と思い込み、受診のきっかけを逃してしまうことがあります。
3-1.風邪や感染症に似た症状
最も多いのが咳です。特に痰があまり出ない「乾いた咳」が続くケースが多く、夜間や会話中に強く出ることもあります。
また、息切れや呼吸困難も重要なサインです。階段を上るだけで息苦しさを感じたり、普段より長く歩けなくなったりすることがあります。さらに発熱や倦怠感を伴う場合もあります。
3-2.薬との関連を見逃さない
薬剤性肺炎には「薬と症状の関係性」が存在します。例えば以下のような経過は、薬の影響を疑う重要なポイントです。
・新しい薬を使い始めてから咳が出るようになった
・薬の量を増やしたら息苦しさが悪化した
こうした変化に気づいたときは、自己判断せず医師に相談することが大切です。
<受診の目安>
・2週間以上咳が続いている
・市販の風邪薬を飲んでも改善しない
・少しの動作で息苦しさを感じる
・薬を変更した後に体調の変化が出てきた
薬剤性肺炎の症状は一見すると風邪や他の病気に似ていますが、「薬の使用歴」と「症状のタイミング」を意識することが早期発見につながります。
特に持病のある人や高齢者は、症状が進みやすいため注意が必要です。
また、「薬をやめれば治るのでは?」と自己判断で服薬を中断するのは危険です。薬剤性肺炎の可能性を考える際は、薬を中止するかどうかも含めて医師が総合的に判断します。
勝手に薬をやめると、もともとの病気が悪化するリスクがあるため、必ず医師に相談してください。
4.診断の流れ
薬剤性肺炎の診断は簡単ではありません。症状が風邪や感染性肺炎、さらには心不全や他の肺疾患とも似ているためです。
医師は患者の「服薬歴」や「症状の経過」を詳しく確認し、複数の検査を組み合わせて総合的に判断します。
4-1.問診:服薬歴と症状経過の確認
最初に行われるのは問診です。
・いつから症状が始まったか
・どんな薬をどのくらいの期間使っているか
・薬の量や種類を変更したタイミング
これらを丁寧に確認します。薬の名前を正確に伝えるため、診察時にはお薬手帳や処方内容がわかるものを持参すると診断の助けになります。
【参考情報】『eお薬手帳3.0 | スマホで安心!おくすり管理』日本薬剤師会
https://www.nichiyaku.or.jp/e-okusuri3/
4-2.画像検査:肺の状態を把握
次に胸部レントゲンやCT検査を行い、肺の炎症の広がりや影の特徴を確認します。
画像検査は有力な手がかりになりますが、これだけで薬剤性肺炎と断定することは難しく、他の情報との照合が必要です。
4-3.血液検査・気管支鏡検査:感染との鑑別
血液検査では、炎症の程度や感染を示す数値を確認し、細菌・ウイルスと薬の影響を見極めます。
必要に応じて気管支鏡検査を行い、肺の組織や分泌物を採取して、より正確な診断を目指します。
【参考情報】『気管支鏡検査とはどのような検査ですか?』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q33.html
5.治療と対応
薬剤性肺炎の治療は、「原因となっている薬をどう扱うか」が中心になります。
5-1.原因薬の中止
最も基本的な対応は、原因薬の中止です。薬による炎症が続いている状態では、いくら他の治療を行っても改善が難しいため、まずは疑わしい薬を一旦中止することが検討されます。
ただし、薬を自己判断でやめるのは危険です。薬剤性肺炎を疑う場合でも、必ず医師が総合的に判断し、元の病気の治療とのバランスを考えて中止や変更を決めます。
5-2.入院治療
症状が重い場合や炎症が強い場合は 入院治療が必要になることがあります。酸素投与や点滴治療が行われ、状態が安定するまで慎重に経過を観察します。
特に高齢者やもともと肺疾患を持つ人では、軽度の炎症でも呼吸機能が大きく落ちることがあるため、早めの入院管理が安全です。
5-3.ステロイド薬による炎症の抑制
医師の判断で ステロイド薬などを用いて炎症を抑えることもあります。薬剤性肺炎は免疫反応が関わっていることが多いため、炎症を抑える治療が有効なケースがあります。
ただし、すべての患者に必要なわけではなく、症状の程度や進行の速さに応じて適切に選択されます。
5-4.回復後の再発予防と今後の治療
回復したあとの対応も大切です。原因になった薬を再び使うと、再発するおそれがあります。
そのため、原因と考えられる薬は今後の治療から外し、代わりの薬を使ったり、治療方法を見直したりして治療を続けます。
また、「薬剤性肺炎になった」という事実を患者本人がしっかり覚えておき、次の診察でも伝えられるようにしておくことが重要です。お薬手帳に記録しておくと役立ちます。
6.薬剤性肺炎を予防するには
薬剤性肺炎は、薬を使う以上リスクを完全にゼロにはできません。しかし、早期発見と重症化の予防は可能です。
6-1.定期的な診察と検査を受ける
薬剤性肺炎は、服薬開始から数週間〜数か月後に症状が出ることもあります。
自覚症状がないまま進行することもあるため、長期で薬を使う人は定期的に通院し、必要に応じてレントゲンや血液検査を受けることが大切です。
6-2.日常の体調変化に注意する
咳の増加、階段での息切れ、微熱やだるさなど、普段と違う小さな変化にも気を配りましょう。
特に新しい薬を始めた直後や量を変えた直後は、副作用が出やすい時期です。違和感があれば早めに医師に相談しましょう。
6-3.お薬手帳を活用する
過去に薬剤性肺炎を起こした場合は、その情報をお薬手帳に記録しておきます。
これにより、今後の処方でリスクのある薬を避けやすくなり、再発予防にも役立ちます。
6-4.病気への理解を深める
「薬が原因で肺炎になることがある」と知っておくだけでも、早期の気づきにつながります。
知識があることで、症状が出たときに素早く医療機関を受診しやすくなります。
7.薬剤性肺炎に関するよくある質問
Q1. 薬剤性肺炎は一度かかると必ず再発するのですか?
一度薬剤性肺炎を経験すると、同じ薬を再び使用した際に再発する可能性は高いと考えられています。
ただし、すべての薬で再発するわけではなく、代替薬を用いて治療を続けられる場合もあります。
再発リスクの有無は薬の種類や患者さんの体質によって異なるため、主治医と十分に相談する必要があります。
Q2. 薬剤性肺炎とアレルギー反応の違いは何ですか?
アレルギー反応は免疫系が薬を「異物」と認識して起こる反応で、皮膚や消化器にも症状が出ることがあります。
一方、薬剤性肺炎は必ずしも典型的なアレルギーではなく、薬が肺に直接的・間接的に炎症を引き起こすケースを含みます。
Q3. 薬剤性肺炎はどのくらいの期間で治るのですか?
A. 薬を中止してから数日〜数週間で改善する場合もあれば、炎症が長引いて数か月かかることもあります。
治癒のスピードは症状の重さや基礎疾患の有無によって大きく異なります。
また、肺に炎症の跡が残ることもあるため、「完全に治るまでの期間」を一概に示すことはできません。
Q4. 薬剤性肺炎は人にうつることはありますか?
薬剤性肺炎は感染症ではないため、家族や周囲にうつることはありません。ただし、症状が似ている感染性肺炎との鑑別は専門的な判断が必要です。
「うつらないから大丈夫」と自己判断するのではなく、症状がある場合は必ず医療機関での確認をおすすめします。
Q5. 薬剤性肺炎を避けるために薬を選ぶことはできますか?
残念ながら「絶対に薬剤性肺炎を起こさない薬」というものはありませんが、薬を始める前に「肺への影響はありますか」と質問しておくと安心につながります。
Q6. 薬剤性肺炎で救済制度や補助は利用できますか?
薬剤性肺炎が医薬品の副作用として認められた場合、厚生労働省の医薬品副作用被害救済制度を利用して、治療費や入院費、通院費の一部補助や一時金などが支給されることがあります。
申請には医師の診断書、服薬履歴(お薬手帳や処方箋)、症状の経過をまとめた資料などが必要です。
【参考情報】『医薬品の副作用等による健康被害救済制度について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001h1mn-att/2r9852000001h1p9.pdf
8.おわりに
薬剤性肺炎は、薬を使う以上誰にでも起こり得るリスクではありますが、過度に不安になる必要はありません。
定期的な通院や検査を続け、体調の小さな変化に気づいたら早めに相談することで、重症化を防ぐことができます。
私たちの体は薬の恩恵を受けながら健康を維持していますが、その一方で薬による副作用のリスクもゼロではありません。
やみくもに薬を怖がるのではなく、「こういうことが起こる可能性がある」と理解しておくことが、安心して治療を続ける第一歩になります。
もし「咳が長引いている」「薬を飲み始めてから息苦しさを感じる」といった症状に心当たりがある場合は、早めに呼吸器内科を受診してください。
症状が軽いうちに相談することが、体への負担を最小限に抑えることにつながります。











