新型コロナウイルスが喘息患者に及ぼす影響とは?

喘息がある人にとって、「新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいのではないか」という不安は避けて通れないものです。
咳や息苦しさといった症状が共通しているため、情報を調べるほど不安が増してしまう人も少なくありません。
この記事では、喘息と新型コロナの関係について、正しく理解しておくべき事実を解説します。
現時点でわかっている医学的な知見をもとに、冷静に判断するための情報を整理していきます。
目次
1.喘息と新型コロナの基本的な関係
喘息がある人は、咳や息苦しさが出たときに「喘息の悪化なのか」「もしかしてコロナに感染したのか」と判断に迷う場面が少なくありません。
ここでは、喘息の基本的な仕組みと新型コロナが呼吸器に及ぼす影響を整理し、両者が重なったときに注意すべきポイントを解説します。
1-1.喘息は「気道の慢性炎症」が続く病気
喘息は、気道に慢性的な炎症があることで、咳や息苦しさなどの症状が現れる病気です。冷たい空気やホコリなどを吸ったことがきっかけで気道が収縮すると、症状が現れます。
治療では、吸入ステロイド薬を中心とした薬を使用しますが、症状が落ち着いている時期でも、気道の炎症が完全に消えているわけではありません。
そのため、自己判断で治療を中断したり、風邪やコロナなどの呼吸器感染症にかかったりすると、再び症状が悪化することがあります。
1-2.新型コロナは呼吸器に強い炎症を起こす
新型コロナウイルスに感染すると、発熱や倦怠感、喉の痛み、咳などの症状が現れます。しかし、症状が軽い場合は、風邪とほとんど区別がつかないこともあります。
一方で、重症化すると肺炎を発症し、呼吸機能に大きな影響を及ぼします。
1-3.喘息とコロナが重なると注意が必要な理由
喘息と新型コロナは、いずれも気道や肺に炎症を起こすため、咳や息苦しさ、胸の圧迫感といった症状が重なりやすい傾向があります。
特に、日常的に咳が出ている喘息患者さんは、そこにウイルス感染が加わると、いつもの喘息症状なのか、それとも感染による変化なのかを見分けることが難しくなります。
【参考情報】『Asthma and COVID-19』Allergy & Asthma Network
https://allergyasthmanetwork.org/news/asthma-and-covid/
また、新型コロナを含むウイルス感染は、気道の炎症を一時的に強めるため、喘息発作の直接的な引き金になることがあります。
【参考情報】『COVID-19 Infections and Asthma』NationalLibrary of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8613003/
普段は吸入薬で安定している人でも、咳が急に増えたり、夜間や早朝の息苦しさが強くなったりすることもあるでしょう。
【参考情報】『Impact of COVID-19 on people with asthma: a mixed methods analysis from a UK wide survey』BMJ Open Respiratory
https://bmjopenrespres.bmj.com/content/9/1/e001056
こうした変化は、単なる体調不良と見過ごされやすい一方で、放置すると呼吸状態が悪化するリスクもあります。
そのため、咳や息苦しさが普段より明らかに強い場合や、吸入薬を使っても改善しにくい状態が続く場合、発熱や全身のだるさを伴う場合には、病院を受診しましょう。
2.喘息があるとコロナは重症化しやすい?
喘息があると、新型コロナに感染した際の重症化リスクが高いのではないかと心配する人は少なくありません。
しかし、現在の研究や臨床データを見ると、その関係は単純ではありません。
2-1.喘息があっても重症化しやすいとは限らない
これまでに蓄積された研究や臨床データを見ると、「喘息がある」という理由だけで新型コロナが必ず重症化するとは言えないことがわかっています。
新型コロナ流行当初は、喘息を含む呼吸器疾患が重症化リスクになるのではないかと懸念されていましたが、その後、患者数が増えるにつれて詳細な解析が進みました。
その結果、軽症から中等症の喘息患者については、新型コロナに感染しても、重症化する割合が非喘息の人と大きく変わらないとする報告が複数示されています。
【参考情報】『Asthma does not influence the severity of COVID-19: a meta-analysis』NationalLibrary of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33863266/
特に、日常的に治療を受け、症状が安定している喘息患者では、感染後の経過も比較的落ち着いているケースが多いとされています。
このような知見から、喘息の有無だけで一律にリスクを判断するのではなく、喘息の重症度や治療状況、他の基礎疾患の有無などを含めて評価することが重要だと考えられています。
【参考情報】『Consequence of COVID-19 on allergic asthma outcomes: a systematic review and meta-analysis』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38970268/
2-2.重症化リスクが高まる喘息のタイプとは
喘息の多くは、適切な治療によって気道の慢性的な炎症がコントロールされています。特に、吸入ステロイド薬を継続して使用している場合、気道の炎症が不安定になりにくい状態が保たれていると考えられています。
これまでの研究でも、吸入ステロイド薬の使用が新型コロナの重症化リスクを明確に高めるという証拠は示されていません。そのため、「喘息がある=新型コロナが重症化しやすい」と一律に結論づけることはできないとされています。
注意が必要なのは、重症喘息や症状のコントロールが不十分な場合です。発作を繰り返している人や治療を中断している人では、もともとの呼吸機能が低下しているため、感染時に状態が悪化しやすくなります。
また、高齢、肥満、心疾患や糖尿病などの基礎疾患を併せ持つ場合は、喘息の有無にかかわらず重症化リスクが高まります。
【参考情報】『Risk of serious COVID-19 outcomes among adults and children with moderate-to-severe asthma: a systematic review and meta-analysis』National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9724896/
3.喘息発作とコロナ症状の見分け方
この章では、喘息発作と新型コロナに共通する症状と異なるポイントを整理し、自己判断が難しい理由と注意すべき点を解説します。
3-1.喘息発作とコロナに共通する症状
喘息発作と新型コロナの初期症状には、咳、息苦しさ、胸の苦しさといった共通点があります。
どちらも気道や肺に炎症が起こるため、呼吸がしづらくなり、動いたときに息切れを感じることがあります。
そのため、症状だけを見て両者を区別するのは容易ではありません。
3-2.コロナを疑う手がかりとなる症状の違い
新型コロナでは、発熱、強い倦怠感、筋肉痛、頭痛、喉の痛みなどの全身症状を伴うことが多く、呼吸器症状以外の変化が目立ちやすい傾向があります。
また、数日のうちに症状が急激に悪化したり、息切れが進行したりする場合は、感染症の影響を考える必要があります。
一方、喘息発作では、特定の誘因をきっかけに症状が出やすく、吸入薬で改善することが多いのですが、新型コロナの症状は、喘息治療用の吸入薬で改善するものではありません。
ただし、新型コロナの感染をきっかけに喘息発作が誘発されている場合には、喘息由来の息苦しさや咳に対して、吸入薬が効いたように感じることがあります。
3-3.自己判断が難しい理由と注意点
ウイルス感染は喘息発作の引き金になるため、喘息の悪化と新型コロナ感染が同時に起きることもあります。この重なりにより、症状の原因を自己判断するのは困難です。
◆「新型コロナウイルス感染症が呼吸器の病気に及ぼす影響」>>
いつもと違う息苦しさが続く場合や、吸入薬を使っても改善しにくい場合、発熱や全身症状を伴う場合には、早めに医療機関へ相談することが重要です。
4.新型コロナと喘息治療・ワクチン接種の考え方
新型コロナに感染した場合の喘息治療の考え方や、ワクチン接種をめぐる不安は、多くの喘息患者が直面する問題です。
この章では、新型コロナ感染時の喘息治療の基本と、ワクチン接種に関する考え方や注意点を整理します。
4-1.コロナ感染時の喘息治療
新型コロナに感染すると、「喘息の薬は続けてよいのか」「発作が起きたらどう対応すべきか」と迷う人は少なくありません。しかし、新型コロナに感染しても、喘息治療の基本は変わりません。
吸入ステロイド薬は気道の炎症を抑えるための重要な治療であり、自己判断で中止すると喘息が悪化するリスクが高まります。症状が軽い場合でも、処方されている治療は原則として継続することが重要です。
咳や息苦しさが強くなった場合は、短時間作用型β2刺激薬などの発作止めを、医師から指示された方法で使用します。
4-2.ワクチン接種と喘息
喘息がある人の中には、「ワクチンを接種しても大丈夫なのか」「発作やアレルギーの心配はないのか」と不安を感じる人も少なくありません。
しかし喘息患者でも、新型コロナワクチンは原則として接種できますし、重症化予防の観点からも接種が推奨されています。
接種時は、その日の体調や喘息のコントロール状況を確認することが重要です。発作が出ている最中や、咳や息苦しさが強い場合は、症状が落ち着いてからの接種を検討します。
接種当日は普段どおり治療を続け、発作止めの吸入薬を携帯しておくと安心です。
ただし、過去にワクチン接種でアナフィラキシーを起こした経験がある場合や、特定の薬剤に強いアレルギーがある場合は、事前に医師へ相談し、適切な観察体制のもとで接種を受けることが重要です。
【参考情報】『アナフィラキシーの症状』アナフィラキシーってなあに.jp
https://allergy72.jp/anaphylaxis/symptom.html
5.おわりに
喘息があるからといって、新型コロナを過度に恐れる必要はありません。これまでの研究や臨床データからも、喘息そのものが必ずしも重症化につながるわけではないことが分かっています。
重要なのは、日頃から喘息を適切にコントロールしておくことです。処方された治療を継続し、症状を安定させておくことで、感染時のリスクを下げることができます。また、咳や息苦しさが「いつもと違う」と感じた場合に、早めに対応する判断力も欠かせません。
少しでも不安があるときは、自己判断で様子を見るのではなく、医療機関に相談することが安全につながります。正しい知識と適切な行動が、喘息と新型コロナの両方に向き合うための基本です。









