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新型コロナウイルス感染症が呼吸器の病気に及ぼす影響

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2024年04月04日
コロナ呼吸器

日本アレルギー学会は2020年2月、「新型コロナウイルス感染における気管支喘息患者への対応Q&A(医療従事者向け)」を発表しました。

この資料には「新型コロナウイルス感染症では肺炎を生じていることから、気管支喘息患者が新型コロナウイルス感染症に罹患した場合も喘息増悪をきたし、それに伴って呼吸不全が重症化する危険性が考えられます」と書いてあります。

新型コロナウイルス感染症対策として、喘息の患者さんもそうでない人も予防を徹底することが大事ではありますが、感染を恐れるあまり、かえって持病を悪化させる行動をとっている患者さんもいることが心配です。

この記事では、喘息や慢性閉塞性肺疾患 (COPD)など呼吸器の病気の患者さんが、正しい対策をとることができるよう、知ってほしいことや気をつけてほしいことを説明します。

1.気道の炎症や肺の機能低下による危険

喘息の患者さんは、風邪やインフルエンザにかかると気道が敏感になって発作が引き起こされることがあります。同じように、新型コロナウイルスも喘息の発作を引き起こす可能性はあります。

また、新型コロナウイルスに感染して肺炎を起こした人は、肺の中の「間質」という細胞が傷ついていることがわかっています。間質が傷つくと、肺は「線維化」という状態になって硬くなり、元に戻らなくなります。すると、空気を吸っても肺が十分にふくらむことができず、体の中に酸素を取り込みにくくなります。

新型コロナウイルスに感染して肺が線維化した人は、回復後も息切れや疲労などに悩まされるかもしれません。この影響は、かなり長期にわたる可能性があります。

喘息や慢性閉塞性肺疾患 (COPD)など呼吸器の病気があるからといって、新型コロナウイルスに感染しやすいというデータは今のところありません。しかし、病気の症状として慢性的な気道の炎症や肺の機能低下があるため、感染したときに重症化しやすいリスクはあると考えられるでしょう。

◆「喘息のタイプ~原因別・年齢別」について>>

◆「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」について>>

2.ネブライザーによる治療は一時中止

喘息の治療では、ネブライザーという吸入器を用いることがあります。しかし、新型コロナウイルス感染症が流行してからは、ネブライザーの使用が難しくなりました。

ネブライザーは治療薬を霧状にすることで、薬を気管支へと確実に送り込むはたらきを持っています。しかし、液体の薬を霧状にする際に発生するエアロゾル(空気中をただよう微粒子)の中に、新型コロナウイルスが混じっていた場合、エアロゾルによる感染のリスクが高まることが指摘されているためです。

【参考記事】日本小児アレルギー学会 COVID-19流行期における喘息発作に対するネブライザー使用時の注意喚起
https://www.jspaci.jp/news/member/20200326-1235/

病院では、ネブライザーによる治療を一時中止しているところもあります。これまでネブライザーを使用していた患者さんは、かかりつけ医の指示に従い別の方法で薬を服用してください。

3.通院を中断するリスクと続けるメリット

持病のある患者さんが、新型コロナウイルスに感染することを恐れて定期的な通院を中断し、薬が切れたまま放っておいてしまうことが問題視されています。

喘息患者さんの場合、たとえ症状がなく落ち着いているとしても、気道の炎症が治ったわけではありません。そのため、薬の服用をやめてしまうと、気道の症状が悪化して発作を起こし、最悪の場合、命にかかわることもあります。

「感染が怖いから」と思ってしまうお気持ちも良くわかるのですが、喘息による気道の炎症を抑えるためには、毎日の薬の使用が欠かせません。また、医師は診察時に患者さんの呼吸音の変化などを確認し、症状を診ながら必要に応じて薬の量を調整しているので、定期的な通院は中断しないでください。

◆「喘息治療のゴールと治療法」について>>

COPDで薬物治療を受けている方も毎日の服薬は欠かせないので、やはり定期的な通院は中断しないようにしましょう。

持病がコントロールできていて、体調を良い状態に保つことができれば、他の病気への抵抗力も高まります。栄養や睡眠、運動にも気を配りながら、心身の健康を管理していきましょう。

ちなみに当院では、院内のアルコール消毒などの感染防止対策を実施しています。みなさまにしっかりと治療を継続していただけるよう、安心して通院していただける環境を整えています。

◆「新型コロナウイルスに対する当院の取り組み」(動画)>>

4.消毒液の吸入による発作に注意

次亜塩素酸

新型コロナウイルス感染症が拡大してから、店舗や建物内で消毒液が噴霧されていることがありますが、呼吸器疾患をお持ちの方は、この消毒液に含まれる塩素などの成分を吸い込むことで発作が起きる危険があります。

除菌・消毒をうたった製品には、においがきついものや、刺激の強いものがあります。それらの成分を吸い込むと気道が刺激されるので、注意が必要です。

消毒用によく使われる「次亜塩素酸水」ですが、世界保健機関(WHO)は消毒液の噴霧を推奨していませんし、文部科学省も児童生徒がいる空間で次亜塩素酸水を噴霧しないよう、全国の教育委員会などに通知しています。

次亜塩素酸とよく似た名称の「次亜塩素酸ナトリウム」(キッチン用の漂白剤や哺乳瓶の消毒液の成分)を消毒液として使用するのは、新型コロナウイルスに有効とされています。ただし噴霧はせず、ドアノブやテーブルなどを拭くときに水で薄めて使用してください。

【参考記事】独立行政法人 製品評価技術基盤機構 新型コロナウイルスに有効な界面活性剤が含まれている製品リスト
https://www.nite.go.jp/information/osirasedetergentlist.html

5.タバコの悪影響はやはり大きい

タバコが呼吸器に悪影響を及ぼすのは明白な事実なので、新型コロナウイルス感染症の重症化リスクとなっても不思議ではありません。

また、タバコを手に持ち口元に近づけるという一連の動作が、手指から口の中にウイルスを運ぶことにもつながります。さらに、人が密集する喫煙所への出入りも感染のリスクを高めます。

愛煙家には耳が痛い話かもしれませんが、喫煙者は非喫煙者に比べ、新型コロナウイルス感染症のリスクが高くなるとの研究結果が相次いで発表されています。これまで禁煙に挫折した方も、ぜひこの機会にタバコをやめる決心をしてください。

【参考情報】『WHO statement: Tobacco use and COVID-19』WHO
https://www.who.int/news/item/11-05-2020-who-statement-tobacco-use-and-covid-19

◆「タバコは新型コロナウイルス感染症のリスク」について>>

6.おわりに

いったん感染が収まってきても、次の感染拡大がいつ起こるかわかりません。手洗いやマスク着用などの感染予防対策とともに定期的な通院や服薬を続け、ウイルス感染から身を守りましょう。

【参考情報】
・日本アレルギー学会 新型コロナウイルス感染における気管支喘息患者への対応Q&A(医療従事者向け)
https://www.jsaweb.jp/uploads/files/%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%84%9F%E6%9F%93%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E6%B0%97%E7%AE%A1%E6%94%AF%E5%96%98%E6%81%AF%E6%82%A3%E8%80%85%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%AF%BE%E5%BF%9CQ%26A%EF%BC%88%E5%8C%BB%E7%99%82%E5%BE%93%E4%BA%8B%E8%80%85%E5%90%91%E3%81%91%EF%BC%89.pdf

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