嚢胞性肺疾患とは?原因・症状・検査・治療を解説

肺に「嚢胞(のうほう)」と呼ばれる、袋のようなものができることがあります。嚢胞ができても多くは自覚症状がなく、健康診断や別の病気の検査中に偶然見つかることも少なくありません。
しかし、今は症状がなくても、嚢胞の種類や大きさ、発生の原因によっては、咳や痰、息苦しさ、胸の痛みなどの症状が現れることがあります。
この記事では、嚢胞性肺疾患の種類や症状、検査や治療についてわかりやすく解説します。肺の嚢胞について正しく理解し、必要な対応を知るための基礎知識を身につけましょう。
目次
1. 嚢胞性肺疾患とは?
嚢胞性肺疾患は、肺に嚢胞が主体となって現れる病態の総称です。
1-1.肺嚢胞の成り立ちと種類
嚢胞には、胎児期に肺が作られる過程でできた先天性のものと、肺炎や外傷などが原因で後からできた後天性のものがあります。
先天性のものは、生まれつき肺の構造に袋状の空間ができる病態で、後天性のものは炎症や感染による組織の変化が背景にあります。
嚢胞の内部には空気が入ることが多く、感染や炎症が起こると、液体がたまることもあります。
【参考資料】『Cystic Lung Disease』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/cystic-lung-disease
1-2.肺嚢胞とブラの注意点
肺嚢胞の中には、壁が非常に薄く1cm以上の大きさを持つ「ブラ(bulla)」と呼ばれるタイプがあります。
ブラは風船のように膨らんだ薄い嚢胞で、破裂すると肺から空気が胸腔内に漏れ、気胸を引き起こすことがあります。
また、大きくなると正常な肺を圧迫して呼吸困難や肺機能の低下につながる場合もあります。
さらに、嚢胞そのものが直接的な原因とは限りませんが、肺嚢胞やブラのある人では、正常な肺と比べて肺がんが多いことが報告されています。
【参考資料】『Lung cancer associated with cystic airspaces』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22997368/
そのため、肺嚢胞やブラが見つかった場合は、単に状態を確認するだけでなく、破裂や合併症の可能性を理解したうえで、定期的な経過観察や必要に応じた医療対応が重要です。
2. 嚢胞性肺疾患の主な分類(原因別)
肺嚢胞は見た目が似ていても、できる原因はさまざまです。
この章では、発生の背景ごとに代表的な分類を紹介します。
2-1. 先天性の嚢胞性肺疾患
胎児期に肺や気管支が作られる過程でうまく形成されないと、生まれつき肺の中に嚢胞が残ることがあります。
これらは先天性嚢胞性肺疾患と呼ばれ、発生は胎児期ですが、症状が出ないまま成長し、成人してから偶然見つかることも少なくありません。
<気管支原性嚢胞>
本来は気管支になるはずの組織が正常に分化せず、閉じた袋状の構造として残ったものです。
嚢胞の中には空気や粘液がたまることがあり、感染を起こすと発熱や咳、胸の違和感の原因になることがあります。
【参考資料】『Bronchogenic Cysts』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/22107-bronchogenic-cysts
<先天性肺気道奇形(CPAM)>
胎児期に未熟な気道の組織が異常に増殖することで、肺の中にさまざまな大きさの嚢胞が形成された状態です。
軽症では無症状のまま経過しますが、嚢胞が大きい場合や感染を伴う場合には、呼吸障害や繰り返す肺炎の原因になることがあります。
【参考資料】『CCAM/CPAM: Congenital Cystic Adenomatoid Malformation (Pulmonary Airway Malformation)』Children’s Hospital
https://www.chop.edu/conditions-diseases/congenital-cystic-adenomatoid-malformation-ccam
2-2. 感染症によって生じる嚢胞
細菌や真菌(カビ)、寄生虫などによる感染症では、強い炎症や組織の破壊が起こって膿や分泌物がたまった結果、肺の中に嚢胞状の空間ができることがあります。
このような嚢胞は、原因となる病気が回復した後も残ることがあります。
<ブドウ球菌性肺炎嚢胞>
主に黄色ブドウ球菌によって起こる細菌性肺炎で、特に乳幼児や免疫力が低下している人では重症化しやすいのが特徴です。重症化すると、肺に膿がたまり、炎症によって肺組織が壊れることで嚢胞が形成されることがあります。
【参考資料】『Post-Pneumonic Pulmonary Pneumatoceles』RSNA
https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/74.1.50
<ニューモシスチス肺炎(PCP)>
ニューモシスチス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii)という真菌によって起こる感染症です。HIV感染者や免疫抑制剤を使用している人など、免疫力が低下している人に発症することがあります。
この肺炎では、炎症や肺組織の変化により嚢胞状の空間ができることがあります。嚢胞は肺の上部にできやすく、破裂すると気胸を起こし、胸の痛みや息苦しさの原因になることがあります。
【参考資料】『Pneumocystis Pneumonia』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/pneumocystis-pneumonia
<寄生虫感染>
包虫症(エキノコックス症)では、寄生虫が肺に嚢胞状の腫瘤(しゅりゅう:コブのような塊)を作ることがあります。
【参考資料】『エキノコックス症について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000154886.html
感染症による嚢胞は、多くの場合、適切な抗菌・抗寄生虫治療によって炎症は改善しますが、嚢胞自体は残ることもあります。
大きな嚢胞や破裂した嚢胞は呼吸障害や再感染のリスクになるため、必要に応じて外科的治療を検討することもあります。
2-3. 非感染性の肺疾患に伴う嚢胞
感染症とは別に、炎症や免疫異常を背景とする非感染性の肺疾患でも、肺に嚢胞性の変化がみられることがあります。
<リンパ球性間質性肺炎(LIP)>
白血球の一種であるリンパ球が肺胞の周囲に異常に集まることで、肺の微細な構造が変化し、嚢胞が形成されることがあります。
この嚢胞は自己免疫疾患や甲状腺疾患、シェーグレン症候群などに関連してできることがあります。
【参考資料】『シェーグレン症候群』難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/111
<リンパ脈管筋腫症(LAM)>
平滑筋様細胞(LAM細胞)が気管支や血管、リンパ管の周囲に増殖し、肺全体に広く嚢胞性の変化がみられるようになります。
女性に多い疾患で、肺の機能が低下したり、気胸を起こしたりすることがあります。
【参考資料】『リンパ脈管筋腫症』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/i/i-06.html
その他、気胸を繰り返すバート・ホッグ・デュベ(BHD)症候群や、喫煙者に多い肺ランゲルハンス細胞組織球症でも、肺に嚢胞ができることがあります。
2-4. 遺伝性疾患に関連する嚢胞
遺伝的な病気が原因で、肺に嚢胞性の変化がみられる場合もあります。
<結節性硬化症(Tuberous Sclerosis Complex:TSC)>
遺伝子変異によって、全身のさまざまな臓器に良性の腫瘍や病変が生じる疾患です。
この病気では、合併症としてリンパ脈管筋腫症(LAM)を発症することがあり、その結果、肺に嚢胞が形成される場合があります。
【参考資料】『結節性硬化症』難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4384
<神経線維腫症(Neurofibromatosis)>
神経線維腫症は、皮膚や神経に特徴的な変化がみられる遺伝性の病気です。皮膚に色のついた斑点ができたり、神経にこぶのようなできものが現れたりします。
この病気では肺にも影響が出ることがあり、肺の中に嚢胞や風船のようなふくらみができる場合があります。こうした変化は、気胸の原因になることもあります。
【参考資料】『神経線維腫症Ⅰ型』難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/3991
3.嚢胞性肺疾患の検査
嚢胞性肺疾患の診断には、主に画像検査が用いられます。
胸部X線(レントゲン)では、肺の中にある異常な袋状の構造や陰影を確認できます。
CT検査では、嚢胞の大きさ、形、壁の厚さ、分布、周囲の肺組織との関係を詳細に把握できます。また、嚢胞に液体がたまっているか、空気だけが入っているかも確認でき、感染症や合併症の有無を評価するのに役立ちます。
必要に応じて、MRI(磁気共鳴画像)や超音波検査が補助的に使われることもあります。特に胎児期や新生児で嚢胞性病変が疑われる場合には、MRIで肺の構造を詳しく観察することがあります。
さらに、嚢胞性肺疾患の種類や性質を確認するために、血液検査や遺伝子検査、感染症の有無を調べる検査が併用されることもあります。
これらの検査を組み合わせることで、嚢胞の性質や合併症のリスクを把握し、治療方針や経過観察の計画を立てることが可能です。
4.嚢胞性肺疾患の治療
嚢胞性肺疾患の治療は、嚢胞の大きさや場所、症状の有無、合併症のリスクによって異なります。
症状がなく、嚢胞が小さく安定している場合は、定期的な経過観察が基本です。X線やCT検査で嚢胞の大きさや数、周囲の肺組織への影響を定期的に確認し、変化がないかを見守ります。
一方、嚢胞が大きく、呼吸機能に影響を与える場合や感染のリスクが高い場合、あるいは気胸を起こす恐れがある場合には、手術による切除が検討されます。手術は嚢胞の位置や数、患者の年齢に応じて行われ、肺機能をできるだけ温存することが重視されます。
また、感染や炎症が関係する場合には、抗生物質や抗真菌薬の投与が併用されることがあります。リンパ脈管筋腫症(LAM)や自己免疫疾患に伴う嚢胞性変化では、薬物治療(免疫抑制剤やmTOR阻害薬など)で進行を抑えることもあります。
5.おわりに
嚢胞性肺疾患は、種類や大きさによっては日常生活に影響を及ぼすこともありますが、ほとんどの場合は安定しており、適切な経過観察や必要な治療で管理できます。
重要なのは、嚢胞が見つかったときにただ不安になるのではなく、定期的な検査や医師の指導のもとで変化を確認することです。嚢胞の性質や合併症のリスクを正しく理解しておくことで、予期せぬトラブルを防ぎ、安心して日常生活を送ることが可能になります。
嚢胞性肺疾患について知ることは、自分の肺の状態を理解し、将来の健康管理につなげる第一歩です。




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