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【医師監修】COPD治療薬「ウルティブロ」の効果・副作用・使い方を徹底解説

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年09月09日

最近「階段を登るだけで息が切れる」「咳や痰が止まらない」といった症状に悩まされていませんか? 

それらの症状は加齢によるものと思われがちですが、実はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の初期サインである可能性があります。

厚生労働省などのデータでは、日本では約530万人がCOPDに罹患していると推定されていますが、実際に診断を受けている人はそのうちの数%に過ぎません。

この記事では、COPD治療薬の一つである「ウルティブロ」について、次のポイントを分かりやすく解説します。

 ✅ COPDとはどんな病気か?
 ✅ ウルティブロの効果と副作用は?
 ✅ 吸入方法と継続のコツは?
 ✅ アノーロとの違い

正しい知識をもとに、日々の健康に役立ててください。

1.COPDとはどんな病気か?


COPDは、主にたばこの煙や汚れた空気を吸い続けたことが原因で起こる「息苦しくなる病気」です。

1-1.COPDの症状と呼吸が苦しくなるしくみ

COPDになると、息の通り道である気道や、肺の中で酸素を取り入れる場所である肺胞にダメージがたまり、炎症が続きます。

その結果、気管支が細くなったり、肺がうまくふくらまなくなったりして、「息切れ」「咳」「痰」などの症状が、ずっと続くようになります。

特に「息を吐ききれない」という状態になりやすく、息を吸おうとしても肺に空気が残ったままで、「吸いにくい」と感じるようになります。

体を動かすとたくさん酸素が必要になることから、階段をのぼったり、荷物を持ったりするとすぐに息が切れるのも、COPDの大きな特徴です。

【参考情報】『Chronic Obstructive Pulmonary Disease (COPD)』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/8709-chronic-obstructive-pulmonary-disease-copd

1-2.進行性の呼吸器疾患/気道・肺胞の変化

COPDは少しずつ進んでいく病気で、治療をせずに放っておくと、だんだん息苦しさが強くなっていきます。

そして、肺の中にある肺胞という小さな袋が壊れてしまうと、「肺気腫」という状態になります。肺胞は空気の中の酸素を体に取り込む場所ですが、壊れてしまうと、うまく酸素を吸収できなくなります。

【参考情報】『Emphysema』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/emphysema/symptoms-causes/syc-20355555

また、空気の通り道である気道に炎症が続くことで、その内側が狭くなり、たんがからむような咳が長く続く「慢性気管支炎」という状態になることもあります。

【参考情報】『Chronic Bronchitis』Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/chronic-bronchitis

このような変化は、一度進んでしまうと元に戻すことは難しいため、できるだけ早めに気づいて治療を始めることがとても大切です。

1-3.日本国内の推定患者数・死亡率・原因

COPDの一番の原因はたばこで、患者さんの約9割に喫煙の経験があります。その他、PM2.5のような大気汚染や職場で吸い込む粉じんなども、原因として挙げられます。

厚生労働省がまとめたデータでは、2021年時点で日本国内の死亡原因としてCOPDは第10位に位置しているとされていて、決して珍しい病気ではありません。

【参考情報】『性別にみた死因順位(第10位まで)別死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei21/dl/10_h6.pdf

この病気が厄介なのは、初期には自覚症状がほとんどなく、風邪と似たような「咳」「痰」といった症状が続くので、気づかず放置してしまう人が多いという点です。

また、階段の上り下りなどでの息切れは、「年齢のせい」や「運動不足」と誤認されることが少なくありません。

そのため、実際に診断を受けている人は推定患者数のごく一部にとどまっているのが問題となっています。

しかし、早期に発見し、禁煙や吸入薬による治療、定期的な医師のフォローを受けることで、進行を抑えることは可能です。

◆「COPD」についてもっとくわしく>>

2.COPD治療薬「ウルティブロ」とは?


ウルティブロは、2つの薬のはたらきを組み合わせた吸入薬です。

2-1.2つの薬の力を合わせたCOPD治療薬

ウルティブロには、「インダカテロール」と「グリコピロニウム」という2種類の有効成分が入っています。

インダカテロールは、吸ってすぐに効果を感じやすく、息苦しさが和らぎやすいのが特徴です。

【参考情報】『Indacaterol (inhalation route)』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/drugs-supplements/indacaterol-inhalation-route/description/drg-20075006

グリコピロニウムは、1日中じっくり効いてくれる成分で、呼吸の状態を安定させてくれます。

【参考情報】『Glycopyrrolate (inhalation route)』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/drugs-supplements/glycopyrrolate-inhalation-route/description/drg-20165175

この2つを一緒に使うことで、1種類の薬だけを使うよりも、COPDの症状悪化(増悪)を防ぐ効果が高いと報告されています。

そのため、日本呼吸器学会の治療ガイドラインでも、中等度以上のCOPDの方には、この2つを組み合わせた治療が推奨されています。

【参考情報】『COPD 診断と治療のためのガイドライン 2022』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/publication/file/COPD6_20220726.pdf

2-2.1日1回でOK!続けやすい吸入タイプの薬

ウルティブロは、「ブリーズヘラー」という専用の吸入器を使って吸い込むタイプの薬です。

この吸入器は、カプセルに入った粉末の薬を吸い込むしくみになっていて、自分の吸う力を使って薬を肺の奥まで届けます。

ウルティブロは1日1回、毎日同じ時間に使えば、効果が24時間続くのが特長。日中の息切れをやわらげたり、夜間の息苦しさを軽くして眠りやすくしたりするのに役立ちます。

1日に何度も吸入が必要な薬もある中で、ウルティブロは1日1回でいいため、忙しい方でも続けやすいのがメリットです。

2-3.ステロイドを使わないから、肺炎のリスクが少ない

ウルティブロは、「ステロイド」が入っていないタイプの吸入薬です。

ステロイドは喘息にはとても効果的な薬ですが、COPDの治療では肺炎のリスクを高める可能性があるため、使うかどうかは慎重に判断する必要があります。

その点、ウルティブロはステロイドを使わずに気道を広げて呼吸をラクにする薬なので、肺炎のリスクを減らしながら治療できるのが大きなメリットです。

特に、過去に肺炎になったことがある方や、ステロイドの副作用が気になる方にとっては、ウルティブロは安心して使いやすい治療の選択肢のひとつです。

3.ウルティブロの効果と副作用


ウルティブロは、症状の一時的な悪化増悪を減らす働きが注目されており、入院や重症化のリスクを下げることが期待されています。

しかし、持病や体調によっては、別の薬を使った方がよい場合もあります。

3-1.臨床試験で示された効果

ウルティブロの効果を調べた大きな研究に、「FLAME(フレーム)試験」という国際的な調査があります。

この研究では、ウルティブロと、サルメテロール/フルチカゾン(アドエア)という別の吸入薬(ステロイドを含むタイプ)を使った治療を比べました。

◆「喘息・COPD治療薬アドエアの特徴と効果、副作用」>>

その結果、ウルティブロを使った人のほうが、症状が悪化する回数(息苦しさが強くなるなど)が1年間で11%少なかったと報告されています。

また、呼吸のしやすさや生活の質(QOL)に関しても、ウルティブロのほうが良い結果が出たとされています。

このような研究結果からも、ステロイドを使わずにCOPDを治療したい人にとって、ウルティブロは信頼できる選択肢だと考えられています。

【参考情報】『Indacaterol–Glycopyrronium versus Salmeterol–Fluticasone for COPD』The New England Journal of Medicine
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1516385

3-2.ウルティブロの副作用と注意点

ウルティブロは比較的副作用の少ない薬ですが、いくつか注意しておきたい症状があります。

よく見られるのは、口の渇きや喉の違和感です。これは薬の作用によるもので、水をこまめに飲んだり、うがいをしたりすることで軽くなることが多いです。

また、まれに動悸や脈が速くなるといった症状が出ることがあります。特に高齢の方や心臓に病気がある方は、使い始めたあとに体調の変化がないか、よく様子を見ることが大切です。

さらに、前立腺の病気がある方や、排尿に問題がある方では、尿が出にくくなる(尿閉)ことがあるため、注意が必要です。

【参考情報】『尿がまったく出ない』日本泌尿器学会
https://www.urol.or.jp/public/symptom/06.html

3-3.使用禁忌や、使用できないケース

ウルティブロに含まれている薬の成分にアレルギーがある方は、この薬を使うことができません。

また、重い心臓の病気(不整脈や心不全など)や、尿が出にくくなる病気がある方は、使う際に特に注意が必要です。

もし薬を使っていて「いつもと違う」「体調が変だ」と感じたら、自分の判断で中止せず、必ず医師に相談しましょう。

4.アノーロとの違い

COPDの治療に用いるLABA+LAMAの配合剤には、ウルティブロ以外にも「アノーロ(ビランテロール+ウメクリジニウム)」があります。

【参考情報】『アノーロ』グラクソ・スミスクライン
https://jp.gsk.com/ja-jp/products/our-prescription-medicines/anoro/

どちらも吸入薬で、1日1回の使用が基本です。ただし、使われている成分が少し異なります。

ウルティブロは「インダカテロール」と「グリコピロニウム」という成分の組み合わせで、インダカテロールは効果が比較的早く現れる特徴があります。

一方、アノーロは「ビランテロール」と「ウメクリジニウム」という成分を含み、こちらも長時間効果が持続しますが、成分の違いから患者さんによって合う・合わないがある場合もあります。

また、吸入する器具にも違いがあります。ウルティブロは「ブリーズヘラー」というカプセルタイプの吸入器を使い、粉末がカプセルに入っているため、吸うときにカプセルをセットする手間があります。

【参考情報】『ブリーズヘラー®のご使用方法』ノバルティスファーマ
https://www.okusuri.novartis.co.jp/breezhaler

一方、アノーロは「エリプタ」という一体型の吸入器で、薬剤が内蔵されていてカプセルを使う必要がないため、操作がシンプルで使いやすいと感じる方も多いです。

【参考情報】『エリプタ(吸入器)』グラクソ・スミスクライン
https://gskpro.com/ja-jp/products-info/ellipta/instruction/

つまり、両者は似た効果を持ちながらも、成分や吸入器の使い方に違いがあるため、患者さんの体調や好み、使いやすさを考慮して医師が適切な薬を選んでいます。

特に、高齢者や視力・指先の動作に不安がある方には、使いやすいデバイスを選ぶことが重要です。

5.ウルティブロの吸入方法と継続のコツ


ウルティブロの効果を最大限に引き出すには、吸入の流れをしっかり覚えておく必要があります。

5-1.ウルティブロの吸入方法

吸入の基本手順は以下のとおりです。

 1.デバイスのキャップを外す

 2.カプセルを本体にセット

 3.吸入口を開け、ボタンを押してカプセルに穴を開ける

 4.ゆっくり息を吐く

 5.しっかりと深く吸い込む(音が鳴るのが正しい吸入の証)

 6.息を10秒ほど止める

 7.息をゆっくり吐く

吸入後はカプセルが空になっていることを確認し、残薬がないようにします。また、吸入後はうがいをすることで、喉の刺激を予防できます。

【参考情報】『ウルティブロ ブリーズヘラー®の吸入手技』ノバルティスファーマ
https://www.pro.novartis.com/jp-ja/products/ultibro/inhalation

5-2.吸入のタイミング・1日の生活に組み込む工夫

ウルティブロは1日1回の吸入でよいため、朝または夜の決まった時間に吸入する習慣をつけましょう。

特に「毎朝起きたら歯磨きのあとに吸入する」「朝食前に服薬する」など、生活の一部としてルーティン化することが継続のコツです。

忘れないようにする工夫として、スマートフォンのリマインダーを使ったり、薬の管理アプリを活用する方法もあります。

【参考情報】『eお薬手帳3.0 | スマホで安心!おくすり管理』日本薬剤師会
https://www.nichiyaku.or.jp/e-okusuri3/

吸入を忘れてしまった場合は、気づいた時点でなるべく早く吸入し、1日に2回吸入しないように注意しましょう。

5-3.ウルティブロはいつまで続けるべき?

ウルティブロは症状をコントロールする薬であり、根本的な完治を目指す薬ではありません。そのため、「症状が軽くなったからもう薬はいらない」と自己判断で中止するのは危険です。

COPDは慢性進行性の疾患であり、無症状でも肺の機能は徐々に低下していくことがあります。そのため、継続的に吸入治療を行うことで、進行を遅らせ、急性増悪の予防にもつながります。

医師の判断なしに中止することなく、定期的な診察を受けながら治療を継続してください。

5-4.家族によるサポートの重要性

高齢の患者や一人暮らしの方にとって、吸入薬の管理は思いのほか難しいこともあります。

そんなときは、家族が吸入のタイミングを一緒に確認したり、薬の残数をチェックしたりすることで、治療の継続がスムーズになります。

また、吸入手技を確認するために医療機関での定期的な吸入指導を受けることもおすすめです。

介護をされているご家族も、吸入デバイスの使い方を理解しておくと安心です。

6.ウルティブロに関するよくある質問(FAQ)


Q1:ウルティブロは効果が出るまでにどれくらいかかる?
個人差はありますが、ウルティブロは即効性のあるインダカテロールを含むため、吸入後30分〜1時間ほどで息苦しさの軽減を感じる方が多いとされています。

ただし、長期的な効果(息切れの改善や増悪の予防)は数週間以上の継続使用によって得られます。

Q2:吸入を忘れた日はどうすればいい?
ウルティブロは1日1回の使用が原則です。吸入を忘れたことに気づいた時点で、なるべく早く吸入してください。

ただし、次回の吸入時間が近い場合は、1回分を飛ばし、次の通常の時間に吸入するようにしてください。2回分を一度に吸入してはいけません。

【参考情報】『お薬を飲み忘れてしまったら』全国保険健康協会
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/shibu/ishikawa/cat080/20180806-3/20181004003/

Q3:ウルティブロが効かない気がするのですが?
まず、吸入手技が正しく行われているかどうかを確認しましょう。誤った手技によって薬剤が肺に届いていない場合、効果が得られにくくなります。

使用方法を見直し、可能であれば医療機関で吸入指導を受けましょう。それでも改善が見られない場合は、他の治療への切り替えを医師と相談してください。

Q4:他の薬と併用できますか?
ウルティブロは他のCOPD治療薬(去痰薬など)や高血圧・糖尿病などの基礎疾患の薬と併用されることがあります。

ただし、同系統の吸入薬(他のLABA・LAMA・ICS製剤)との併用は原則として推奨されていません。必ず医師に確認のうえ、指示された薬を正しく服用してください。

7.おわりに

COPDは長期的な管理が必要な慢性疾患であり、ウルティブロのような吸入薬はその日々の呼吸を支える「生活の一部」として取り入れていく必要があります。

症状が軽くなったからといって中断せず、正しい吸入方法と継続によって、より良い呼吸状態を保つことができます。

医師の診察とサポートを受けながら、ひとりで抱えず、家族や医療者と協力して取り組んでいきましょう。

当院では、ウルティブロを含む吸入薬の正しい使用方法に関する指導を行っています。使い方が不安な方はお気軽にご相談ください。

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