「糖尿病予備軍」と言われたら知っておきたいこと
健康診断などで「糖尿病予備軍」と指摘されても、気になる症状がないからと、深刻には捉えない人もいるかもしれません。
しかし、糖尿病になる一歩手前である「予備軍」のうちに対策を講じないと、気がついた時には既に糖尿病を発症し、悪化している恐れがあります。
この記事では、糖尿病予備軍とはどのような状態なのかを説明します。糖尿病にならないための対策も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
1.糖尿病とはどのような病気か
糖尿病とは、血液中のブドウ糖の上昇を抑える「インスリン」というホルモンが不足したり、はたらきが悪くなることで、血糖値が高くなる病気です。
1-1.血糖値が高くなる理由
通常、食事をすると血糖値は上昇します。それに伴い、すい臓からインスリンが分泌され血糖値が下がります。このインスリンのはたらきにより、血糖値は一定に保たれる仕組みとなっています。
【参考情報】『Insulin』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/body/22601-insulin
糖尿病になると、このインスリンの分泌が不足したり、効果が低下したりします。その結果、血液中のブドウ糖が処理されず、血糖値が高い状態が続くのです。
糖尿病の診断基準は、下記の通りです。
・HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー) 6.5%以上
・空腹時の血糖値が126mg/dL以上
または食後2時間後の血糖値が200mg/dL以上
または時間に関係なく測った血糖値が200mg/dL以上
HbA1cとは、赤血球中のヘモグロビンというタンパク質が、どの程度ブドウ糖と結合しているかを示す値です。
1-2.糖尿病の種類
糖尿病は、大きく分けると1型と2型があります。
1型は、主に自己免疫が原因だと考えられています。本来は細菌などの異物を攻撃する免疫のシステムが、誤ってすい臓のβ(ベータ)細胞を攻撃することで、インスリンが分泌できなくなり発症します。
2型の発症は、過食や運動不足などの生活習慣や遺伝が関与しています。日本人の患者のほとんどは2型です。
1-3.糖尿病の合併症
一度糖尿病を発症すると、一部の糖尿病を除いて治ることはありません。さらに、さまざまな合併症が引き起こされ、命にかかわる場合もあります。
例えば、血糖値が高い状態が続くと血管が傷つけられて動脈硬化が進み、心血管疾患や脳血管疾患などのリスクが高くなります。
ほかにも、手足のしびれや目の病気、腎臓の病気などが生じることがあります。
2.糖尿病予備軍(境界型糖尿病)とは
糖尿病予備軍とは、糖尿病と診断されるほど血糖値は高くないものの、正常値よりは高くなってきている状態です。境界型糖尿病とも言われています。
具体的には、下記が糖尿病予備軍の基準です。
・HbA1c 6.5%未満
・空腹時血糖値が110~125mg/dL
または75g経口ブドウ糖負荷後2時間の血糖値が140~199mg/dL
糖尿病予備軍だと言われても、「予備軍」という言葉に安心してしまい、たいしたことがないと見くびってしまう人もいるかもしれません。
しかし、予備軍の段階でもインスリンのはたらきは徐々に弱くなってきていますし、合併症である動脈硬化も既に始まっています。
ですから、予備軍のうちに何もしなければ、このまま糖尿病になるという危機感を、しっかりと持ってください。
3.糖尿病予備軍になりやすい人
2型糖尿病の原因には遺伝もありますが、生活習慣の乱れも無視できません。
以下、糖尿病予備軍になりやすい人について説明します。
3-1.血縁者に糖尿病の人がいる
糖尿病と遺伝に関する研究では、2型糖尿病の発症に関わる遺伝子が発見されています。
【参考情報】『糖尿病に関わる遺伝素因』老年医学学会雑誌第47巻1号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/47/1/47_1_44/_pdf/-char/ja
【参考情報】『2型糖尿病に関連する遺伝子「KCNQ1」を発見』理化学研究所生命医科学研究センター
https://www.ims.riken.jp/pdf/20080818_1.pdf
2型糖尿病の発症には、遺伝的な要因が関係しているとされています。そのため、血縁者に糖尿病患者がいる人は、生活習慣に大きな問題はなくても、血糖値が高めになることがあります。
3-2.肥満体型
肥満になると、増えた脂肪の影響でインスリンのはたらきが低下します。すると、すい臓はインスリンの分泌量を増やして血糖値を下げようとしますが、次第に対応できなくなってきます。
【参考情報】『インスリン抵抗性』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-012.html
その結果、血糖値がうまくコントロールできなくなり、血糖値が高い状態が続くようになります。
食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足などの生活習慣の乱れによって肥満体型になっている人は、減量によってリスクを減らすことが大切です。
3-3.喫煙者
喫煙が糖尿病と関係する理由は2つあります。
1つ目は、タバコに含まれるニコチンが交感神経を刺激し、消化管のはたらきを抑えてインスリンの分泌量を減少させるため、血糖値が上昇することです。
2つ目は、インスリンに対する抵抗性が高まることです。インスリンが十分に分泌されていても、その効果が低下してしまうので、血糖値が上がりやすくなります。
喫煙の習慣がある人は、ない人に比べて、2型糖尿病に1.4倍かかりやすいと言われています。
【参考情報】『喫煙と糖尿病』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-03-004.html
【参考情報】『喫煙と代謝および肥満』喫煙科学研究財団
https://www.srf.or.jp/history/10nen/10nen_14.html
4.糖尿病にならないためにできること
糖尿病予備軍と診断されたら、まずは生活習慣を見直しましょう。
食事や運動の改善により、糖尿病になるリスクを減らすことができます。
4-1.食事
食事では、血糖値が上がりにくい食材やメニューを意識して選びましょう。
例えば、野菜やきのこ、海藻、豆類など食物繊維の豊富な食材を積極的に摂るといいでしょう。
また、食事をする際は、食物繊維やタンパク質の多い食材から先に食べると、血糖値の急激な上昇が抑えられます。
反対に、ご飯やパン、麺類など糖質が多い食事を摂ると、血糖値が急激に上昇します。主食の量が多い丼物などのメニューはなるべく避け、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。
お菓子に含まれる糖質にも注意が必要です。小腹がすいたときは、ナッツやゆで卵など、糖質が少ない食品を選んでください。
◆「管理栄養士が教える、糖尿病の方でも血糖値に影響が出にくい間食“8つ”のルール」>>
また、肥満になるとインスリンのはたらきが悪くなるため、バターやマヨネーズなど脂質を多く含む食品も控えめにしましょう。
同じ食材でも、調理法によって脂質の量は変わってきます。油で揚げた調理法だと脂質が多くなりますが、蒸したりゆでたりすると脂質が抑えられます。
ただし、過度な食事制限は続けるのが難しく、ストレスが溜まる原因となります。まずは、おなかいっぱいになるまで食べずに腹八分目にすること、そして、主食やお菓子を減らすことから始めてみてください。
【参考情報】『健康食スタートブック』日本糖尿病学会
https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/kenkoshoku_startbook/kenkoshoku_startbook.pdf
4-2.運動
運動はインスリンの効果を高め、血糖値の上昇を抑えるはたらきがあります。さらに、肥満の改善にもつながります。
とはいえ、普段あまり体を動かさない人が、いきなり激しい運動を始めると、負担が大きく続かないかもしれません。
運動は毎日続けることが大切です。無理をせず、体を慣らしながら、徐々に強度を上げていきましょう。
種目は、ウォーキングやジョギング、水泳などがおすすめです。自分が好きなもの、できそうなものを選んで、週3回程度行いましょう。
余裕がある人は、筋力トレーニングを取り入れるのもおすすめです。
【参考情報】『糖尿病を改善するための運動e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-05-005.html
4-3.禁煙
タバコを吸い続けていると、血糖値のコントロールが難しくなります。糖尿病予備軍と言われたら、きっぱりと禁煙しましょう。
しかし、長年タバコを吸い続けている人が禁煙するには、意志の力だけでは難しいことも多いでしょう。
禁煙は、一人で頑張るよりも、周りのサポートや病院での治療を活用した方がうまくいきます。禁煙外来や禁煙アプリなどを利用して、短期間で結果を出しましょう。
5.おわりに
一度糖尿病を発症すると、治ることは期待できません。糖尿病予備軍と指摘されたら、糖尿病にならないように、早めに対策を講じましょう。
特に肥満体型の人は、予備軍のうちに食事と運動を中心に生活習慣を改善していけば、まだ間に合います。
併せて、定期的に健診を受け、日頃から体の状態をチェックしておけば、予備軍から脱することも可能になるでしょう。