糖尿病の検査でわかる血糖値・HbA1cの見方と受診の目安

健康診断で血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が高いと指摘され、「自分は糖尿病なのか?」「病院を受診すべきなのか?」と戸惑う人は少なくありません。
糖尿病は自覚症状が乏しいまま進行することが多く、検査の意味や数値の見方を正しく理解していないと、判断を先送りにしてしまいがちです。
この記事では、糖尿病の検査で何がわかるのか、主な検査の種類と役割、結果の見方、再検査や受診が必要になる目安までを整理して解説します。
検査結果をどう受け止め、次に何をすべきかを判断するための基礎知識として活用してください。
1.糖尿病の検査でわかること
糖尿病の検査では、単に糖尿病かどうかの判定だけでなく、血糖値が一時的に高い状態なのか、長期間にわたって高い状態が続いているのかといったの傾向まで読み取ることができます。
1-1.糖尿病か?境界型か?
糖尿病の検査では、現在の血糖の状態が糖尿病に該当するのか、それとも境界型(糖尿病予備群)にとどまっているのかを判断することができます。
この判定は、空腹時血糖値やHbA1cなどの検査結果をもとに行われ、1つの数値だけでなく、複数の指標を総合して評価されます。
1-2.過去から現在までの傾向がわかる
血糖値は食事や運動、ストレス、体調不良などで一時的に変動しますが、HbA1cを測定することで、過去1〜2か月間の平均的な血糖状態を把握できます。
これにより、たまたま一時的に数値が上昇したのか、慢性的に血糖が高い状態が続いているのかを区別できます。
さらに、境界型と判定された場合でも、将来的に糖尿病へ進行するリスクを把握する手がかりとなり、生活習慣の見直しや定期的なフォローにつなげる判断材料になります。
2. 糖尿病の主な検査項目と特徴
糖尿病の検査にはいくつかの種類があり、それぞれ役割や読み取り方が異なります。
この章では、糖尿病の診断や評価で用いられる主な検査項目について、特徴や違い、結果をどう受け止めるべきかを整理して解説します。
2-1. 空腹時血糖値
空腹時血糖値は、一定時間(通常10時間以上)食事をとらない状態で血液を採取して、血液中のブドウ糖の濃度を測る検査です。
<基準値の目安>
・正常:100mg/dL未満
・境界型:100〜125mg/dL
・糖尿病型:126mg/dL以上
ただし、空腹時血糖値は睡眠不足、強いストレス、感染症、前日の飲酒や過度な運動などにより、一時的に高く出ることがあります。
そのため、1回の結果だけで判断せず、他の検査と合わせて評価されます。
【参考情報】『Fasting Blood Sugar Test』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diagnostics/21952-fasting-blood-sugar
2-2. HbA1c
HbA1cは、過去1〜2か月間の平均的な血糖状態を反映する検査です。
腕の静脈から少量の血液を採取し、その血液を用いて、赤血球中のヘモグロビンとブドウ糖が結びついた割合を測定することで、一定期間の血糖の推移を把握できます。
<基準値の目安>
・正常:5.6%以下
・境界型(糖尿病予備群):5.7〜6.4%
・糖尿病型:6.5%以上
血糖値が「その時点の数値」であるのに対し、HbA1cは「過去の平均値」を示します。この違いにより、両者を組み合わせることで、現在の状態と長期的な傾向の両方を評価できます。
【参考情報】『Hemoglobin A1C (HbA1c) Test』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/lab-tests/hemoglobin-a1c-hba1c-test/
2-3. 75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)
75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)は、空腹時血糖値やHbA1cだけでは判断が難しい場合に行われる検査です。
10時間以上の絶食後に空腹時血糖値を測定してから、75gのブドウ糖液を飲み、その後、30分後、1時間後、2時間後などに血糖値を測定してます。
主に、ブドウ糖を摂取してから2時間後に測定した血糖値(2時間値)で判断します。
<基準値の目安>
・正常:2時間値 140 mg/dL未満
・境界型(耐糖能異常):2時間値 140~199 mg/dL
・糖尿病型:2時間値 200 mg/dL以上
この検査では血糖を処理する力(耐糖能)を直接評価できるため、境界型かどうかの判断に役立ちます。空腹時血糖値やHbA1cが正常範囲でも、OGTTで異常が見つかることがあります。
【参考情報】『Glucose tolerance test』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/tests-procedures/glucose-tolerance-test/about/pac-20394296
2-4. 尿検査(尿糖・尿たんぱく)
糖尿病の補助的な検査として、尿の中に排出された糖とたんぱく質を調べる尿検査を行うことがあります。
<尿糖>
尿糖を調べる目的は、血糖値が高い状態になっていないかを簡単に確認するためです。
血糖値がある程度以上に上がると、余った糖が尿に出てきます。尿糖検査では、そのような強い高血糖が起きていないかを目安として見ています。
ただし、尿糖が出ていなくても糖尿病が否定できるわけではなく、逆に一時的に血糖が高くなっただけで尿糖が出ることもあります。
尿糖は血糖が高いときに出ますが、一時的な高血糖で陽性になることもあります。また尿糖が陰性でも糖尿病は否定できません。
【参考情報】『Glucose in Urine Test』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/lab-tests/glucose-in-urine-test/
<尿たんぱく>
尿たんぱくを調べる目的は、腎臓に負担や障害が出ていないかを確認するためです。
糖尿病では、高血糖の状態が続くことで腎臓の働きが徐々に低下し、通常は尿に出ないたんぱく質が漏れ出すことがあります。尿たんぱくを調べることで、糖尿病性腎症などの合併症の兆候を早い段階で捉えることができます。
【参考情報】『Protein in Urine』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/lab-tests/protein-in-urine/
尿検査は補助的検査であり、診断は血液検査(血糖値・HbA1c等)と総合的に判断されます。
3.健康診断と医療機関の検査の違い
糖尿病の検査は、健康診断と医療機関で行う検査とで、目的や役割が明確に分かれています。どちらも重要ですが、得られる情報の深さや次の対応は異なります。
3-1.健康診断
健康診断で行われる血糖値やHbA1cの測定は、自覚症状がない段階でも異常の可能性を早期に拾い上げるためのスクリーニングが目的です。
短時間で多くの人を対象に行うため、検査項目は必要最低限に絞られており、数値に異常があれば「要再検査」「要精密検査」として次のステップにつなげる仕組みになっています。
3-2.医療機関
医療機関で行う検査は、糖尿病かどうかを診断することや、現在の血糖状態を詳しく評価することが目的です。
血糖値やHbA1cに加え、必要に応じて75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)などを行い、数値の変動や体の反応を総合的に確認します。
3-3.再検査と言われたら
健康診断で「要再検査」「要精密検査」と指摘された場合は、自己判断で様子を見ず、医療機関を受診することが重要です。
再検査では、食事条件や体調を整えたうえで同じ検査を繰り返したり、HbA1cやOGTTなどの追加検査を行い、数値が一時的な上昇なのか、継続的な異常なのかを見極めます。
どの検査を受けるべきかは、これまでの検査結果、指摘された数値の程度、年齢や生活習慣などによって異なります。
医師の指示に従って検査条件を守り、必要な検査を段階的に受けることで、過不足のない評価と正確な判断につながります。
4. 検査前に知っておきたい注意点
糖尿病の検査結果は、検査前の生活状況や体調によって影響を受けることがあります。正しく評価するためには、いくつかの点を知っておくことが重要です。
4-1.食事・飲酒・運動の影響
検査前の食事内容や摂取時間は、血糖値に直接影響します。特に空腹時血糖値やOGTTでは、指示された絶食時間を守ることが重要です。
前日の多量の飲酒は血糖を乱し、数値が高く出たり、逆に低く出ることもあります。
また、検査直前や前日の激しい運動は血糖を一時的に変動させるため、普段どおりの生活を保つことが望まれます。
4-2.風邪や体調不良時の注意
発熱、感染症、強い痛みやストレスがあると、血糖値が上がりやすくなります。
そのため、風邪をひいている時や体調が明らかに悪い時の検査結果は、慢性的な血糖状態を正確に反映しない可能性があります。
体調不良がある場合は、検査時に医療機関へ伝えることが大切です。
4-3.自己判断で安心しない
検査結果が一度正常範囲だったとしても、それだけで安心できるとは限りません。
血糖異常は徐々に進行することが多く、初期は数値が揺れ動くことがあります。また、境界型と診断された場合でも、経過観察や生活習慣の見直しが必要です。
5. こんな場合は早めに受診を
健康診断や過去の検査で血糖値の異常を指摘されても、「今は症状がないから」と受診を先延ばしにしてしまう人は少なくありません。
しかし、以下のような場合は早めに医療機関を受診すべきです。既に糖尿病が進行している恐れがあります。
5-1.数値を指摘されたまま放置している
健康診断で血糖値やHbA1cの異常を指摘されたにもかかわらず、その後の受診や再検査をしていない場合は注意が必要です。
これらの数値は、食事や体調の影響で一時的に変動することもありますが、背景に糖代謝異常が隠れていることも少なくありません。
放置すると、次に検査を受けた時にはすでに糖尿病の診断基準を満たしているケースもあります。
一度でも異常を指摘された場合は、医療機関で条件を整えた再検査を行い、現在の血糖状態を正確に把握することが重要です。
5-2.境界型と言われた後、検査を受けていない
境界型(糖尿病予備群)は、正常と糖尿病の中間に位置する状態で、生活習慣の影響を強く受けます。
この段階では自覚症状がほとんどないため、検査を受けずに放置されがちですが、数年のうちに糖尿病へ移行する人も少なくありません。
定期的に血糖値やHbA1cを確認することで、悪化の兆しを早期に捉え、食事や運動などの対策を見直すことが可能になります。
少なくとも年1回、指摘内容によってはそれ以上の頻度での検査が勧められます。
5-3.症状が出始めている
強い喉の渇き、多尿、体重減少、疲れやすさ、視界のかすみなどの症状が現れている場合、血糖値がかなり高い状態が続いている可能性があります。
これらの症状は、糖尿病がある程度進行してから出やすく、すでに治療が必要な段階に入っていることもあります。
症状が軽い、あるいは一時的だと感じても、自己判断で様子を見るのは避けるべきです。早めに医療機関を受診し、血液検査などで状態を確認することが、重症化や合併症の予防につながります。
6.おわりに
糖尿病は初期に自覚症状がほとんどなく、気づかないまま進行する病気です。そのため、体調に問題がなくても検査で早期に異常を見つけることが重要です。
糖尿病の検査は診断だけでなく、発症や進行を防ぐための「予防」にも役立ちます。境界型の段階で気づけば、生活習慣の改善だけで対処できる場合もあります。
検査結果は一つの数値だけで判断せず、複数の項目や経過を踏まえて評価されます。異常を指摘された場合は自己判断せず、医療機関で相談し、定期的な検査で早めに対応しましょう。











