薬の副作用で咳が出る?薬剤性咳嗽の特徴と対処法

薬を飲み始めてから、「咳が出るようになった」「咳がひどくなった」と感じたことはありませんか?
実は、こうした症状の中には、薬の副作用によって起こる「薬剤性咳嗽(やくざいせいがいそう」が含まれていることがあります。
薬剤性咳嗽は、風邪のような呼吸器の病気と見分けがつきにくく、咳止め薬だけで対処してしまうケースも少なくありません。
この記事では、薬剤性咳嗽の特徴や原因となる薬、見分け方、適切な対処法について解説します。
目次
1. 薬剤性咳嗽とは何か
咳が続いているのに原因がはっきりしない場合、服用中の薬が影響している可能性があります。
1-1.薬の副作用で咳が出る
薬剤性咳嗽とは、薬の作用によって引き起こされる咳のことです。特定の薬が気道を刺激したり、咳に関わる物質のバランスを乱したりすることで、咳が生じます。
代表的な例が、高血圧の治療に使われるACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬です。この薬を飲み始めてから数日〜数週間後に、乾いた空咳が出ることがあります。
【参考情報】『ACEI-induced cough: A review of current evidence and its practical implications for optimal CV risk reduction』National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7670268/
風邪などの呼吸器感染症や、喘息などの持病に心当たりがないのに咳が続く場合は、薬の副作用を疑ってみることも大切です。
1-2. 風邪や喘息との違い
風邪の場合は、発熱や喉の痛み、痰などを伴うことが多い一方、薬剤性咳嗽ではこれらの症状がみられず、乾いた咳だけが続くことが一般的です。
ただし、軽い風邪や感染後に咳だけが長引くケースもあり、症状だけで見分けるのは難しいことがあります。
また、喘息では、ゼーゼー・ヒューヒューといった喘鳴や息苦しさを伴うことが多いのに対し、薬剤性咳嗽は乾いた咳が主体となります。
ただし、咳喘息のように咳だけが続くタイプの喘息もあり、この場合は薬剤性咳嗽との区別が難しくなります。
さらに、もともと喘息や気道過敏性がある人では、薬の影響で症状が悪化することもあり、単純に区別できない場合もあります。
このように、症状だけで判断するのは難しく、「薬を飲み始めたタイミングと咳の出現が一致しているか」という視点が重要になります。
2. 薬剤性咳嗽のチェックリスト
薬剤性咳嗽には、以下のような共通点があります。
<主な判定ポイント>
☐ 乾いた咳(空咳)が続く
☐ 発熱や痰など感染症の症状はない
☐ 新しく薬を飲み始めたあとに咳が出現
☐ ACE阻害薬など、咳の副作用が知られている薬を服用中
☐ 薬の開始や変更のタイミングで症状に変化がある
☐ 咳が2週間以上続く
☐ 他の呼吸器疾患や感染症の兆候がない
<補助的な特徴>
☐ 夜間や横になると咳が強くなることがある
☐ 就寝中に咳が続くことで睡眠の質が低下する場合がある
3. 薬を飲むと咳が出る・ひどくなる主な原因薬
薬剤性咳嗽を引き起こす薬には、よく知られているものと、見落とされがちなものの注意が必要なものがあります。
3-1. ACE阻害薬
薬剤性咳嗽の代表例として知られるのが、高血圧などの治療にACE阻害薬です。服用開始から数日〜数週間後に、コンコンという乾いた空咳が出ることがあります。
<主な薬剤>
・レニベース
・タナトリル
・ゼストリル/ロンゲス など
これはACE阻害薬の作用でブラジキニンなどの物質が体内に蓄積し、気道を刺激して咳反射を引き起こすためと考えられています。ブラジキニンは血管を広げたり、炎症や痛みを感じさせたりする物質です。
咳が日常生活に支障を及ぼす場合は、医師の判断でARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)など別の薬に変更されることがあります。
【参考情報】『Angiotensin II receptor blockers』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/high-blood-pressure/in-depth/angiotensin-ii-receptor-blockers/art-20045009
3-2. β遮断薬
高血圧や不整脈の治療に使われるβ遮断薬(ベータブロッカー)は、心臓の負担を軽くしたり脈を整えたりする薬です。
【参考情報】『Beta-Blockers』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/treatments/22318-beta-blockers
ただし、気道を広げる働きを持つβ2受容体も同時に抑えてしまうため、気道が狭くなりやすく、咳や喘鳴(ゼーゼーした呼吸)が出ることがあります。
<主な薬剤>
・メインテート
・テノーミン
・ロプレソール/セロケン など
β遮断薬の副作用による咳は、チモロールなどの緑内障用点眼薬でも現れることがあります。
特に、もともと喘息がある人や、気道が過敏な人は影響を受けやすく、症状が悪化することもあるため注意が必要です。
3-3.NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬・解熱鎮痛薬)
NSAIDs(エヌセイズ)は、痛みや炎症、発熱を抑えるためによく使われる薬のグループで、頭痛や生理痛、発熱時など、日常的な症状に対して幅広く用いられます。
【参考情報】『NSAIDs』NHS
https://www.nhs.uk/medicines/nsaids/
<主な薬剤>
・ロキソプロフェン
・イブプロフェン
・アスピリン など
これらの薬は、体の中で痛みや炎症を引き起こす物質(プロスタグランジン)の働きを抑えることで、症状を和らげます。
その一方で、気道を収縮させるロイコトリエンという物質の働きが強まり、気道が狭くなることがあるため、咳や喘鳴(ゼーゼーとした呼吸)が起こることがあります。この反応は「アスピリン喘息」と呼ばれています。
もともと喘息や慢性副鼻腔炎、鼻茸(ポリープ)のある方は特に起こりやすく、重症化すると呼吸困難を伴うこともあるため、注意が必要です。
3-4.抗がん剤・免疫関連薬
抗がん剤や免疫チェックポイント阻害薬の一部では、薬剤性肺障害(薬剤性肺炎)が起こることがあり、咳もその症状の一つです。
薬剤性肺炎は、薬の影響で肺の組織に炎症が生じ、酸素をうまく取り込めなくなったり、気道が過敏になったりすることで発生します。
進行すると、肺炎や呼吸不全など重篤な状態につながることもあります。咳に加えて、息切れ・呼吸困難・発熱・胸の痛み・全身のだるさといった症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
また、薬を中止しても症状が必ず改善するとは限らず、肺障害の程度によってはステロイドなどによる治療が必要になることもあります。
3-4.その他
薬剤性咳嗽とは少し異なりますが、薬の服用が間接的に咳を引き起こすことがあります。
たとえばカルシウム拮抗薬は、食道と胃のつなぎ目の筋肉をゆるめる作用があるため、胃酸が逆流しやすくなることがあります。これは、いわゆる胃食道逆流症に関連した咳と考えられます。
また漢方薬でも、含まれる生薬への体質的な反応やアレルギーによって、まれに咳や気道の違和感が生じることがあります。
4.薬剤性咳嗽の対処法と治療
薬剤性咳嗽の治療は、原因となっている薬の見直しが基本です。咳の原因と考えられる薬剤を中止、または別の薬へ変更することで、多くの場合は症状の改善が期待できます。
特に、ACE阻害薬による咳では、同じく血圧を下げる薬でありながら咳の副作用が起こりにくいARBへ切り替えることで、症状が改善することが多いです。
ただし、原因薬を中止した後も咳はすぐになくなるとは限らず、数日から数週間、場合によっては数か月程度続くことがあります。しかし、多くは時間の経過とともに自然に改善していきます。
また、咳が強い場合には、鎮咳薬や吸入薬などによる対症療法が行われることもありますが、根本的な解決には原因薬への対応が不可欠です。
5.薬剤性咳嗽と間違えやすい咳
薬を飲み始めた後に咳が出ると「薬の副作用ではないか」と考えがちですが、実際には別の原因による咳であることも少なくありません。
たとえば、喘息や咳喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)といった呼吸器の病気が背景にある場合、薬の開始時期と重なって症状が現れることで、薬剤性と誤解されることがあります。
さらに、胃食道逆流症による胃酸の逆流や、アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎に伴う後鼻漏も、慢性的な咳を引き起こします。これらは薬とは直接関係がなくても起こるため、区別が難しいケースがあります。
このように、薬の服用と咳の出現が重なっていても、必ずしも薬剤性咳嗽とは限りません。原因を正確に見極めるためには、症状の経過や背景となる疾患も含めて総合的に判断することが重要です。
6. おわりに
薬を飲んだあとに咳が出る、あるいは咳がひどくなる場合には、副作用としての「薬剤性咳嗽」の可能性を考える必要があります。
乾いた咳が続く、発熱や痰がない、服用開始後に症状が出ているといった特徴を押さえておくことで、早い段階で気づくことができます。
ただし、咳の原因は一つとは限らず、自己判断で薬を中止すると治療中の病気に影響が出るおそれもあります。気になる症状がある場合は、服用中の薬を確認したうえで、医師に相談することが重要です。












