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激しい咳で脇腹が痛い!筋肉痛や疲労骨折の可能性は?

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年12月29日

咳が長引いていても「そのうち治るだろう」と様子を見てしまいがちですが、体の中では筋肉や骨に想像以上の負担がかかっていることがあります。

腹筋や脇腹の痛みが単なる筋肉痛だと思っていたら、実は肋骨(あばら骨)の疲労骨折が起きていたというケースも珍しくありません。

この記事では、咳によって体に生じる痛みの仕組みから、骨折リスクが高まる背景、注意すべき症状、適切な対処と受診の目安までを解説します。

1.咳で腹筋やわき腹が痛くなる理由


咳が続くと、胸やおなかのあたりに思わぬ痛みを感じることがあります。

1-1.咳によって起こる筋肉痛の仕組み

風邪やウイルス感染による体調不良の際にみられる肩や筋肉の痛みは、単なる「こり」ではなく、複数の身体的要因が重なって生じます。

例えば、発熱や炎症反応による筋肉代謝の変化に加え、咳や息苦しさで呼吸が浅く速くなると、肋間筋や横隔膜などの呼吸筋、首や肩の補助呼吸筋に負担がかかりやすくなります。

また、体調不良時には、無意識のうちに前かがみや緊張した姿勢が続くことも、筋肉痛や違和感を助長します。

1-2.咳で腹部・胸部の痛みが起こる理由

咳をする際には、横隔膜、内肋間筋(ないろっかんきん)、腹直筋を含む腹筋群が連動して強く働きます。

この動作が繰り返されることで、腹筋運動を続けているような状態となり、腹部や胸部に筋肉痛に近い痛みが生じます。

また、咳に伴う腹圧の変化によって、みぞおち周辺に不快感や痛みを感じることもあります。

【参考情報】『Respiratory muscle activation and action during voluntary cough in healthy humans』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31568991/

1-3.回復の目安と受診のサイン

多くの場合、これらの痛みは咳や感染症が改善するとともに自然によくなります。

しかし、強い咳が長く続いた場合や、高齢者、骨密度が低い人では、まれに肋骨の疲労骨折など骨へのダメージが生じることがあります。

【参考情報】『疲労骨折』日本整形外傷学会
https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip10.html

「特定の部位を押すと強く痛む」「呼吸や動作で鋭い痛みが出る」「痛みが数日以上続く」場合は、医師に相談しましょう。

◆「咳をすると胸が痛いときに考えられる理由と病気」>>

2.咳で肋骨が疲労骨折することがある


咳が続くと、胸やわき腹の痛みを「筋肉痛のせい」と考えてしまいがちですが、実際には肋骨に負担が蓄積し、疲労骨折が起きていることもあります。

2-1.咳によって起こる肋骨の疲労骨折とは?

咳によって骨に異常が起こるケースの多くは、あばら骨(肋骨)の疲労骨折です。

これは、転倒や事故など一度の強い衝撃で起こる骨折とは異なり、激しい咳によって同じ部位に小さな力が何度も加わることで、骨にひびが入ったり折れたりする状態を指します。

強い咳が長く続くと、肋間筋や腹筋が繰り返し強く収縮し、その力が肋骨に伝わります。特に、激しい咳が毎日のように続く場合、少しずつ骨への負担が蓄積し、健康な骨でも疲労骨折に至ることがあります。

【参考情報】『Multiple Rib Stress Fractures Associated with Chronic Coughing Caused by Untreated Bronchial Asthma in a Premenopausal Woman』PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10750931/

2-2.初期症状と受診の目安

初期の段階では症状が軽く、咳や体を動かしたときに違和感や軽い痛みを感じる程度のことも少なくありません。そのため、日常生活に大きな支障がなく、様子を見てしまう人も多いかもしれませn。

しかし、咳の原因が喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの慢性疾患である場合、咳が長期間繰り返されることで骨への負担が続き、疲労骨折が進行する可能性があります。

症状が進むと、通常の動作でも痛みを感じるようになり、痛む部位を押すと強い圧痛が出ることがあります。咳や呼吸、体をひねる動作で痛みが増す場合は、単なる筋肉痛と自己判断せず、医療機関での確認が重要です。

◆「咳が続いて肋骨が痛い」受診のタイミング>>

3.骨が弱くなる原因と疲労骨折の関係


高齢の女性に多い骨粗しょう症は、些細な刺激でも骨折の原因になることがあるため。咳によって生じる疲労骨折のリスクも高くなります。

また、骨を弱くする生活習慣が続くと、若い人でも骨密度が低下して骨折しやすくなります。

3-1.骨粗しょう症による骨折リスク

高齢の女性は骨粗しょう症になりやすく、骨折のリスクが高いことが知られています。

骨粗しょう症とは、加齢やホルモンバランスの変化によって骨量や骨の質が低下し、骨がもろくなる病気です。その結果、転倒などの大きな衝撃だけでなく、咳やくしゃみのような刺激でも骨折しやすくなります。

特に女性では、閉経後に女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に減少します。エストロゲンには骨の破壊を抑える働きがあるため、その低下によって骨密度が下がり、閉経後数年で骨量が大きく減少することがあります。

【参考情報】『閉経後骨粗鬆症』日本内分泌学会
http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=51

3-2.骨を弱くする生活習慣

骨の健康には、年齢やホルモンの影響だけでなく、日々の生活習慣が大きく関係しています。骨は一度つくられて終わりではなく、古い骨が壊され、新しい骨がつくられる「骨代謝」を繰り返しており、そのバランスは栄養や運動、生活環境の影響を強く受けます。

【参考情報】『骨代謝とは』日本骨代謝学会
https://jsbmr.umin.jp/basic/kotutaisha_ma.html

例えば、極端なダイエットによって食事量が不足すると、骨の材料となるカルシウムやたんぱく質が十分に摂れなくなります。

◆「カルシウムが不足すると、どうなる?」>>

さらに、カルシウムの吸収を助けるビタミンDが不足すると、摂取量が足りていても骨にうまく取り込まれません。この状態が続くと、骨量が徐々に減少し、骨折しやすくなります。

◆「ビタミンD」についてくわしく>>

また、運動不足も骨を弱くする大きな要因です。骨は、歩行や筋肉の収縮といった負荷がかかることで強さを保っています。体を動かす機会が少ない生活が続くと、骨への刺激が減り、骨密度が低下しやすくなります。

過度な飲酒や喫煙も、骨の健康に悪影響を及ぼします。アルコールの過剰摂取は骨形成を妨げ、転倒リスクを高める要因にもなります。喫煙は骨をつくる細胞の働きを低下させることが知られており、骨密度の低下や骨折リスクの上昇と関連しています。

このように、栄養不足、運動不足、飲酒や喫煙といった要因が重なることで、実年齢以上に骨が弱くなり、骨折のリスクが高まることがあります。

4.激しい咳を止める方法は?


咳による骨折を防止するためには、咳が出ないようにすることが最も重要になります。

市販の咳止め薬もいろいろありますが、根本的な解決にならないケースが多々あるため注意が必要です。

4-1.自宅でできる咳の緩和方法

咳が出始めたとき、すぐに医療機関を受診する前に、自宅で試せる対処法があります。

これらは咳の原因そのものを治すものではありませんが、喉や気道への刺激を和らげ、一時的に症状を楽にする目的で行うものです。


<室内の湿度を調整する>
空気が乾燥すると気道の粘膜が刺激され、咳が出やすくなります。

加湿器などを使い、室内の湿度を40〜60%程度に保つことで、気道の乾燥を防ぎ、咳の軽減につながることがあります。

◆「加湿器を選ぶポイントと注意点」>>

<室内の湿度を調整する>
白湯や温かいお茶は喉を潤し、咳による違和感を和らげます。また、はちみつを加えた飲み物は、上気道感染による咳を軽くする効果が報告されています。

【参考情報】『Honey for acute cough in children』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25536086

ただし、1歳未満の乳児にはハチミツを与えてはいけません。乳児ボツリヌス症という病気が引き起こされる危険があります。

【参考情報】『ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161461.html

<喉や首元を冷やさない>
冷たい空気は咳反射を誘発しやすいため、マフラーやタオルなどで保温すると刺激を減らすことができます。

<刺激物を避ける>
タバコの煙やホコリ、花粉などのアレルゲンは咳を悪化させる原因になります。受動喫煙を含め、できるだけこれらの刺激から離れるようにしましょう。


ただし、これらの対処法は、あくまで一時的に症状を和らげるためのものです。咳が2週間以上続く場合は、自己判断で様子を見続けず、早めに医療機関を受診することが大切です。

◆「咳が止まらなくて夜眠れない時の対処法と予防法」>>

4-2.市販の咳止め薬では止まらない咳に注意


一時的な対処法を試したり、市販の咳止め薬を使っても咳がなかなか改善しない場合、単なる風邪ではない可能性があります。

例えば、喘息や咳喘息、COPDなどが原因の場合、市販薬では十分な効果が得られないことがあります。

◆「喘息」についてくわしく>>

また、肺炎や結核、心不全などの病気が隠れていることもあります。

◆「肺炎」の情報をチェック>>

特に、以下に当てはまる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

 ・咳が2週間以上続く

 ・夜間や早朝に咳が悪化する

 ・息切れや胸苦しさを伴う

 ・発熱が続く

 ・痰に血が混じる

◆「血痰」についてくわしく>>

5.おわりに


咳による脇腹や腹筋の痛みの多くは筋肉の疲労によるもので、通常は体調が回復すれば自然と痛みもなくなります。

しかし、咳が長引き、痛みが強くなったり、特定の部位を押すと鋭い痛みが出る場合は、肋骨に疲労骨折が生じている可能性も否定できません。

こうした症状がある場合は、早めに呼吸器内科を受診しましょう。適切な診断と治療を受けることで、咳の原因をしっかり抑え、骨への負担を最小限にしながら日常生活を安全に過ごすことができるようになります。

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