肺真菌症とはどんな病気?カビが肺に感染したときの症状・検査・治療について

肺真菌症とは、呼吸で吸い込んだ真菌が肺の中に入り、感染して起こる病気です。真菌とは、カビの仲間の総称です。
真菌は、空気中や土の中などいたるところに存在し、皮膚に感染すると水虫やタムシなどの皮膚病を引き起こします。
水虫は健康な人でもかかることが多い病気ですが、肺が真菌に感染するのは、体力や免疫力が低下している人、病気や喫煙などで肺が弱っている人がほとんどです。
この記事では、肺真菌症という病気について解説します。咳や痰、微熱が続いている人、肺の病気を経験したことがある人、ステロイド剤や免疫抑制剤を使用している人、長年タバコを吸っている人は、ぜひ読んでください
目次
1.肺真菌症になりやすい人
私たちは毎日たくさんの真菌を吸い込んでいますが、健康な人なら真菌を吸い込んでも免疫の力で感染を抑えることができるので、肺真菌症にはなることはまれです。
しかし、以下のような原因で免疫力が低下している人や、肺の機能が弱っている人は、感染のリスクが高くなります。
・肺結核の後遺症、COPD、気管支拡張症など、肺に基礎疾患がある人
・喫煙の影響で肺機能が低下している人
・ステロイド薬を使用している人
・免疫抑制薬を使用している人
・抗がん剤治療を受けている人
・白血病などの血液疾患がある人
・エイズ(AIDS:後天性免疫不全症候群)を発症している人
・コントロール不良の糖尿病がある人
・喘息のある人
【参考情報】『Risk Factors for Fungal Diseases』CDC
https://www.cdc.gov/fungal/risk-factors/index.html
2.肺真菌症の種類
肺真菌症には以下のような種類がありますが、中でも一番多いのが肺アスペルギルス症です。
2-1.肺アスペルギルス症
空気中に広く存在するアスペルギルス属真菌を吸い込むことで起こる肺真菌症です。
アスペルギルス症は、患者さんの免疫状態や肺の状態によって、いくつかの病型に分かれます。
<アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)>
アスペルギルスに対する強いアレルギー反応によって起こります。喘息の人が発症しやすい疾患で、慢性的に咳や痰が出ます。
【参考情報】『アレルギー性気管支肺アスペルギルス症/真菌症』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-04.html
<アスペルギローマ(菌球)>
過去の肺結核や肺気腫などでできた肺の空洞内に、真菌が塊(菌球)を作るタイプです。無症状のこともありますが、血痰や喀血がみられることがあります。
【参考情報】『Pulmonary aspergilloma』MedLine Plus
https://medlineplus.gov/ency/article/000127.htm
<慢性肺アスペルギルス症(CPA)>
肺に慢性的な炎症や破壊が進行する病型で、咳、痰、息切れ、体重減少などが徐々に現れます。進行すると肺機能が低下します。
【参考情報】『Chronic Pulmonary Aspergillosis: A Brief Review』NCBI(National Center for Biotechnology Information)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8686779/
<侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)>
抗がん剤治療中、造血幹細胞移植後、重度の免疫抑制状態にある人に起こります。真菌が肺組織や血管内に侵入し、急速に悪化するため、命に関わることがあります。
【参考情報】『Invasive pulmonary aspergillosis』NCBI(National Center for Biotechnology Information)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16088462/
2-2.クリプトコックス症
クリプトコックスという真菌(カビ)によって起こる感染症です。土やハトのふんなどに含まれる真菌を吸い込むことで感染します。多くの場合、最初に感染するのは肺です。
健康な人では、感染しても症状が出ないか、軽い咳や微熱だけで自然に治ることもあります。一方で、免疫力が低下している人(ステロイドや免疫抑制薬を使っている人、がん治療中の人、HIV感染者など)では、肺で増えた菌が血流に乗って全身に広がることがあります。
特に注意が必要なのが中枢神経への感染で、脳や髄膜に広がるとクリプトコックス髄膜炎を起こします。この場合、頭痛、発熱、吐き気、意識障害などが現れ、命に関わることもあります。
【参考情報】『クリプトコックス症の概要』国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/5993-dj4281.html
2-3.カンジダ症
カンジダ属という真菌(カビ)によって起こる肺の感染症です。肺真菌症の中ではまれな疾患です。
カンジダは口の中や消化管、皮膚などにもともと存在する常在菌で、健康な人では問題を起こしません。しかし、抗がん剤治療中などで免疫の働きが低下している人は、感染症として症状が現れることがあります。
症状は発熱、呼吸困難、全身状態の悪化などで、細菌性肺炎と区別がつきにくいことがあります。画像検査でも特徴的な異常があまりなく、診断が難しい病気です。
2-4.ムコール症(ムーコル症)
ムコール目(接合菌)に属する真菌によって起こる、まれですが重症化しやすい真菌感染症です。
土や腐った植物など自然界に広く存在する真菌で、健康な人ではほとんど問題になりませんが、免疫力が著しく低下している人では発症リスクが高くなります。
特に、糖尿病(特にケトアシドーシスを伴う場合)、血液疾患、長期のステロイドや免疫抑制薬の使用中の人にみられます。
【参考情報】『高血糖・ケトアシドーシス・シックデイ』日本小児・思春期糖尿病学会
https://www.jspad.jp/ofs/patient/life/09.html
病変が起こる部位によって症状は異なりますが、肺に感染すると、発熱、咳、血痰、呼吸困難などがみられます。
ムコール症の特徴は、血管の中に入り込み、血流を妨げて組織を壊死させやすい点です。そのため進行が速く、早期診断と治療が極めて重要です。
【参考情報】『Mucormycosis』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/mucormycosis
2-5.その他の肺真菌症
日本ではまれですが、以下のようなものもあります。
・ヒストプラズマ症
・コクシジオイデス症
・ブラストミセス症
これらの診断の手がかりとして、海外渡航歴が重要となります。
3.肺真菌症を疑う症状
肺真菌症を疑う症状は、一般的な肺炎や結核と似ていることが多く、症状だけで見分けるのは簡単ではありませんが、以下のような症状が長く続く、あるいは徐々に悪化する場合は、肺真菌症の可能性を考える必要があります。
まず多いのは、咳や痰が続くことです。痰の量が増えたり、色が濃くなったりすることもあります。血痰や喀血がみられることもあり、特に慢性的な肺の病気がある人では注意が必要です。
◆「血痰が気になりますか?呼吸器内科で原因を調べましょう」>>
発熱は軽い場合もあれば、抗菌薬を使っても下がらないこともあります。全身のだるさ、疲れやすさ、食欲低下、体重減少といった症状がゆっくり進むこともあります。
肺に炎症や障害が広がると、息切れや呼吸困難が現れます。階段を上ると苦しい、少し動くだけで息が切れるなど、日常生活での変化がきっかけになることもあります。胸の痛みを伴う場合もあります。
免疫力が低下している人では、症状が急に悪化し、高熱や強い呼吸困難が出ることがあります。一方で、免疫が比較的保たれている人では、症状がはっきりしないまま、検査で異常を指摘されることもあります。
4.肺真菌症の検査
肺真菌症の検査では、症状やリスクに応じていくつかの方法を組み合わせて診断します。
<画像検査>
胸部X線やCTで、肺の病変の場所や広がりを確認します。
◆「呼吸器内科のレントゲン検査」について>>
<喀痰検査>
痰の中の真菌を培養して種類を確認します。
<気管支鏡検査>
気管支内からサンプルを採取し、真菌の有無や肺組織の状態を確認します。
【参考情報】『気管支鏡検査とはどのような検査ですか?』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q33.html
<血液検査>
真菌抗原検査や抗体検査で、体内で真菌に対する反応が起きているかを調べます。
これらの検査結果を総合して、真菌の種類、病型、進行度、重症度を評価し、最適な治療方針を決定します。
5.肺真菌症の治療
肺真菌症の治療は、真菌の種類や病型、患者さんの免疫状態や症状の重さに応じて決められます。
基本的には抗真菌薬による薬物治療が中心ですが、場合によっては外科的治療が必要になることもあります。
<薬物治療>
通常は内服ですが、免疫力が低下している人や重症の場合は点滴を行います。抗真菌薬は、真菌の種類によって使い分けます。
治療期間は病型や重症度によって数週間から数か月、場合によっては半年以上かかることもあります。
<外科的治療>
肺の空洞に菌が塊を作る「アスペルギローマ(菌球)」では、出血や感染のリスクが高い場合に、手術で菌球を取り除くことがあります。
外科治療は症状の改善や合併症予防のために行われ、薬物治療と併用されることもあります。
<免疫状態の改善>
ステロイドや免疫抑制剤を使用している場合は、可能な範囲で減量や調整を行い、体の免疫力を保つことが重要です。
糖尿病や栄養状態など、基礎疾患の管理も治療効果に大きく影響します。
<経過観察>
治療中は画像検査や血液検査で肺の病変や真菌反応の改善を確認します。
再発のリスクもあるため、完治後も定期的に経過観察することが推奨されます。
6.悪化を防ぐ対策
真菌は空気中や土、水など、私たちの身の回りの環境に広く存在しているため、完全に避けて生活することはできません。
ただし、以下のような日常生活の中の工夫で、真菌に触れる機会を減らし、肺真菌症のリスクを下げることは可能です。
・なるべくこまめにカビ取りをする
・エアコンや加湿器の清潔を保つ
・換気などで部屋の通気性をよくする
・工事現場や廃屋など、ホコリやカビの多い場所を避ける
・タバコを吸わない
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これらの対策は、肺真菌症を完全に防ぐものではありませんが、真菌への曝露を減らすための補助的な予防策として有効です。
家族に免疫力が低下している人や肺の機能が弱っている人がいる場合は、周囲の家族も、なるべく家の中にカビを持ち込まないよう意識するとよいでしょう。
◆「喘息・アレルギーを悪化させない、カビと掃除の注意点」>>
7.おわりに
肺真菌症は病型や免疫状態によって経過が大きく異なるため、呼吸器の専門医による継続的な管理と早期の対応が治療の成功に欠かせません。
症状が軽くても、免疫力が低下している人では重症化することがあるため、定期的な診察と検査を受けることが重要です。












