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胸膜炎とは何か?その原因や症状、治療について解説

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年12月15日

胸膜炎(きょうまくえん)とは、肋膜炎(ろくまくえん)とも呼ばれ、肺を包んでいる膜「胸膜」が炎症を起こす病気です。

胸膜は肺と胸壁の間で滑りを助ける役割を担っていますが、炎症が起きると胸膜同士がこすれ合い、痛みを引き起こします。

胸膜炎は急性または慢性で進行し、場合によっては胸水が溜まることがあります。

この記事では、胸膜炎の原因や症状、診断方法、治療法について解説します。

早期発見と適切な治療が重要なので、胸膜炎に関する情報を知り、健康管理に大いに役立てていきましょう。

1.胸膜炎とは何か?


胸膜炎とは、何らかの原因により胸膜に炎症が生じ、それによって胸水が過剰に溜まってしまい、胸痛呼吸困難などを引き起こす病気です。

通常、二重の胸膜の間にはごく少量の胸水があり、肺を守るクッションの役割をしています。

しかし、胸膜に炎症が起き胸水が過剰に溜まると、本来肺を守っているはずの胸水が逆に肺を圧迫してしまうため、胸痛や呼吸困難などにつながるのです。

胸膜炎には「乾性胸膜炎(胸水がほとんどないタイプ)」「滲出性胸膜炎(胸水が多いタイプ)」の2つのタイプがあります。

乾性胸膜炎では胸痛が強く出やすく、胸水が増えて滲出性(しんしゅつせい)胸膜炎になると痛みが軽くなる一方で、息苦しさが悪化することがあります。

これは、胸水が胸膜のこすれを減らす一方で、肺の膨らみを妨げるためです。

局所的な胸膜炎の場合、比較的軽症で治療が早期に行われれば回復が見込まれますが、全体的な炎症が進行すると胸膜癒着膿胸(のうきょう:肺の周りの胸膜腔に膿がたまること)などの合併症を引き起こす可能性が高くなります。

【参考情報】『胸膜炎』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/g/g-01.html

【参考情報】”Pleurisy” by National Institutes of Health
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK558958/

2.胸膜炎の原因について


胸膜炎を起こし胸水が溜まる原因は、感染症がん関節リウマチなどの膠原病心不全腎不全肝硬変などさまざまです。

中でも、

・心不全
肺炎に伴う胸水(肺炎随伴性胸水)
・がんが原因の胸水(悪性胸水)
・エコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)

などが原因として多いと考えられています。

男女比は同じ程度ですが、原因の病気によっては異なります。

関節リウマチによる胸水や乳がん・婦人科系のがんが原因の悪性胸水は女性、アスベストを扱う職歴に影響する悪性胸膜中皮腫による胸水やアルコールによる慢性膵炎による胸水は男性に多いです。

【参考情報】”Pleurisy – Symptoms and causes” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/pleurisy/symptoms-causes/syc-20351863

さらに、結核も胸膜炎の原因として世界的に多い疾患であり、日本でも高齢者を中心にみられます。

結核性胸膜炎はゆっくり進行することが多く、発熱全身のだるさを伴うことが特徴です。

【参考情報】『結核』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/index.html

ウイルス感染も原因の一つで、特にインフルエンザウイルスコクサッキーウイルスCOVID-19などが関与するケースが報告されています。

このようなウイルス性胸膜炎は比較的軽症で自然に良くなることもありますが、肺炎を合併して重症化する場合もあるため注意が必要です。

◆「インフルエンザによる合併症」について>>

【参考情報】”Coronavirus Disease (COVID-19)” by WHO
https://www.who.int/health-topics/coronavirus

3.胸膜炎の症状について


代表的な症状は、息を吸うときや咳をしたときにひどくなる胸痛です。

胸痛により呼吸が浅くなることで、呼吸困難になることがあります。

血が混じった痰が出ることもあります。

胸膜炎の原因となる病気によっては発熱などの症状が出る場合があります。

◆「血痰」について>>

胸膜炎の胸痛は、特に「鋭い痛み(ズキッとする痛み)」で、横になると悪化し、座ったり前かがみになったりすると楽になることがあります。

これは心膜炎(心臓の膜の炎症)でもみられる症状のため、鑑別が非常に重要です。

症状が悪化する場合、胸水の増加に伴い、腹部や足のむくみ体重増加が見られることもあります。

これは、胸水が溜まることで心臓や他の臓器に負担をかけるためです。

また、肺が圧迫されると、酸素の供給が不足し、呼吸が困難になることもあります。

感染症が原因の場合には急激に症状が起き、がんなどの病気が原因の場合は少しずつ症状が悪化することが多いです。

【参考情報】『悪性胸膜中皮腫』国立がん研究センター
https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/mesothelioma/index.html

また、胸膜炎の症状は、急性のものと慢性のものに分けられる場合もあります。

急性症状では胸痛呼吸困難が突然現れ、慢性症状では、痛みが軽減しても息苦しさが続くことがあります。

特に、悪性胸水結核が原因の場合、患者の全身状態が悪化し、体力が低下することが多く見られます。

これらの場合、症状が長期間にわたって続くことがあり、治療を怠ると生活の質に大きく影響を受けることもあるため、早期発見が重要です。

◆「咳をすると胸が痛い」考えられる理由と病気>>

【参考情報】”Pleural Disorders” by National Heart, Lung, and Blood Institute
https://www.nhlbi.nih.gov/health/pleural-disorders

4.胸膜炎の検査について


胸膜炎の検査では、胸部レントゲン検査胸部CT検査を行い、胸水が溜まっているかを確認します。

胸水がある場合は、胸水を採取して検査を行います。

pHや糖の量、総コレステロールの量などを確認することにより、胸水が溜まった原因の病気を絞り込みます。

必要に応じて胸膜を切り取り、詳しい検査を行います。

胸水は「漏出性(心不全などで水分がにじみ出るタイプ)」と「滲出性(炎症やがんが関係するタイプ)」に分類され、ライト基準という国際的な基準で判定します。

この分類により、病気の原因が大きく絞り込まれます。

また、超音波検査(エコー)を使うことで、胸水量や胸膜の厚さをリアルタイムで評価でき、胸水穿刺(せんし)の安全性も高まります。

放射線を使わないため、妊娠中の方にも行える検査です。

◆「呼吸器内科で行われる専門的な検査について」>>

5.胸膜炎の治療について


胸膜炎の主な治療は抗菌薬の使用と、胸水をドレーンと呼ばれる器具で体外に排出してコントロールすることが治療の基本となります。

また、胸水の原因となった病気にも対応していきます。

【一般細菌が原因の場合】
数週間抗菌薬を使用します。
抗菌薬は胸膜炎が細菌感染に起因する場合、症状の改善と感染の拡大を防ぐために必要です。
治療期間中は定期的な診断と、必要に応じた抗菌薬の調整を行います。

【ウイルス性胸膜炎の場合】
自然に治ることも多く、痛みに対して消炎鎮痛薬(NSAIDs)を用います。
過度の安静は避け、深呼吸や軽い体位変換を行うと肺の膨らみが保たれ、治りが早くなることが知られています。

【参考情報】『胸膜炎』社会福祉法人済生会
https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/pleuritis/

5-1.悪性胸水の治療

がんが原因で胸水が溜まる「悪性胸水」は、胸膜炎とは異なるメカニズムで生じるため、治療内容も大きく異なります。

悪性胸水の場合は、原因となるがんのタイプ、化学療法への反応性などにより治療方針が決定され、悪性胸水はがんによる胸膜の浸潤が原因であり、これに対しては、がん治療と並行して胸膜癒着術化学療法が行われるのが一般的です。

化学療法に反応しない場合には、別の治療法として免疫療法が考慮されることもあります。

胸水をドレーンで完全に排出したり(完全ドレナージ)、胸水が溜まる空間を閉じて胸水が溜まらないようにする“胸膜癒着術”でコントロールするのが有効です。

胸膜癒着術は、胸水の再発を防ぐために非常に重要で、胸水の再発リスクを大幅に減少させます。

この手術は、胸膜の表面を人工的に癒着させることで胸水の再発を防ぐものです。

再発を防ぐために患者には術後の経過観察とともに、定期的な胸部X線検査が行われます。

悪性胸水の場合、胸膜癒着術のほか、胸腔ポートという小さな器具を皮膚の下に留置し、自宅で繰り返し胸水を排出する方法が選ばれることもあります。

生活の質を保ちながら治療を続けられる点がメリットと言われています。

【参考情報】”Malignant Pleural Effusion” by National Cancer Institute
https://www.cancer.gov/publications/dictionaries/cancer-terms/def/malignant-pleural-effusion

6.胸膜炎にならないために、日常生活で気をつけること

胸膜炎は日常生活での予防策を実践することで、リスクを大幅に減らすことができます。

以下のポイントを心掛けましょう。

6-1.感染症対策を徹底する

風邪や肺炎などが原因となる胸膜炎を予防するため、手洗い・うがいマスクの着用を徹底し、予防接種(インフルエンザや肺炎球菌ワクチン)の受診が効果的です。

◆「咳エチケット」について>>

6-2.喫煙を避ける

喫煙は肺へのダメージを与え、呼吸器疾患のリスクを高めます。

禁煙することで、胸膜炎やその他の呼吸器疾患を予防できます。

紙タバコだけでなく、加熱式タバコや電子タバコでもリスクはゼロではありません。

周囲の人の煙(受動喫煙)でも肺への負担は増えるため、家族に喫煙者がいる場合は、禁煙や屋外での喫煙をお願いすることも大切です。

自力での禁煙が難しい場合は、禁煙外来での治療ニコチンパッチ・ガムなどの利用も選択肢になります。

◆「喫煙のリスク」について>>

6-3.健康的な食事と運動

免疫力を高めるためにビタミンC(ピーマン、ブロッコリー、キウイなど)ビタミンD(鮭、サンマ、きのこ類など)が豊富な食事を心がけ、適度な運動で体力を維持しましょう。

ウォーキングや軽い運動は呼吸器の健康をサポートします。

「少し息が弾むくらい」を目安に、1日20〜30分を週数回続けるとよいでしょう。

6-4.定期的な健康チェック

胸膜炎の原因となる病気を早期に発見するため、定期的な健康診断を受け、「咳が長く続く」「息切れがひどい」「胸が痛い」「熱がなかなか下がらない」といった異常があれば早期に対処することが大切です。

7.おわりに

胸膜炎は、感染症やがん、心不全など様々な原因で発症します。

感染症が原因の場合、うがいやマスクなどの咳エチケットを実践し、他人に移さないよう注意が必要です。

持病がある方は、適切な治療を受けて病気をコントロールすることが大切です。

胸膜炎の症状である胸痛や息苦しさを感じた場合は、早期に呼吸器内科を受診しましょう。

特に、突然の胸痛や冷や汗を伴う息苦しさ、血痰が出る場合は、胸膜炎以外の重大な病気が原因の可能性があり、緊急の対応が求められます。

早期治療により改善が見込める病気ですが、自己判断は避け、すぐに医療機関に相談することが重要です。

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