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咳の原因は加湿器?加湿器肺炎とはどんな病気か

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2024年01月09日

空気が乾燥する時期に、加湿器を使って部屋の湿度を保つ人は多いでしょう。

部屋の湿度を保つことにはいろいろなメリットがあります。例えば、風邪などの呼吸器感染症を予防できたり、肌の乾燥を防ぐこともできます。

しかし、その加湿器が原因で咳が出ることもあります。さらに、呼吸が苦しくなることもあるので注意が必要です。

この記事では、俗に「加湿器肺炎」と呼ばれる病気について説明します。自宅や職場で加湿器を使っている方は、ぜひ参考にしてください。

1.加湿器肺炎とは


加湿器肺炎は、アレルギー性肺炎の一種です。一般的には加湿器肺炎と言われていますが、医療現場では過敏性肺炎と呼んでいます。

過敏性肺炎は、カビやホコリ、化学物質などアレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を吸い込み続けることで、肺に炎症が起こる病気です。

加湿器肺炎の場合、加湿器の中に発生したカビ(真菌)が放出され、それらを吸い込むことでアレルギー反応が起こり、発症します。

健康な人なら、カビを多少吸い込んでも、病気になることはほとんどありません。

ただし、免疫が低下している高齢者や持病のある人などは、カビによる病気にかかりやすい傾向があります。

◆「過敏性肺炎」について詳しく>>

2.加湿器肺炎の症状


加湿器肺炎になると、下記のような症状が現れます。

 ・咳

 ・痰

 ・息苦しさ

 ・発熱

 ・倦怠感

 ・胸やのどのあたりの違和感

カビの胞子は非常に小さいので、肺の奥にまで入り込んでしまいます。気管支のさらに奥にある細気管支や、肺の末端にある肺胞(空気が入る小さな袋)にまで入り込んでアレルギー反応を引き起こし、咳が出ます。

肺胞は、酸素と二酸化炭素の受け渡しをする「ガス交換」を行う場所です。この場所に炎症が起こると、ガス交換に支障が生じるため、息切れや息苦しさなどが現れて呼吸が苦しくなります。

さらに、カビを長期間にわたり吸い続けていると、慢性的な炎症により肺胞が硬くなります。一度硬くなった肺胞は元に戻らないので、息苦しさがずっと続きます。

3.加湿器肺炎の診断と検査


加湿器肺炎の疑いがある場合、病院では必要に応じて検査をし、問診で聞き取った内容も含めて診断します。

3-1.問診

加湿器肺炎は、風邪と間違いやすい症状が多いので、問診も重要になります。

例えば、「家に帰ると咳が出る」「加湿器を使うと咳が出る」「市販の風邪薬や咳止め薬を服用しても効かない」などの情報があれば、加湿器肺炎を疑うことができます。

症状の出る時間帯や場所、症状が出ている期間など、伝えられる情報はすべて伝えておきましょう。

◆「なぜ家に帰ると咳が出る?考えられる原因と対策」>>

3-2.画像検査

X線(レントゲン)、CT(コンピュータ断層撮影)などで胸部を撮影し、肺の状態や炎症など異常の有無を確認します。

また、肺の画像を見ることで、他の呼吸器疾患ではないことも確認します。

◆「レントゲン写真から、呼吸器内科でわかること」>>

3-3.血液検査

血液を採取して、総IgEや抗原特異的IgE抗体、好酸球数を調べます。これらの数値を調べることで、アレルギーの有無が分かります。

さらに、アレルギーによる炎症の有無なども確認します。

3-4.その他の検査

患者さんの状態によっては、呼吸機能検査や気管支鏡検査を行うこともあります。

呼吸機能検査は、医療機器を用いて呼吸をし、肺の状態や肺活量などを調べる検査です。

気管支鏡検査は、肺の中にカメラを挿入して肺の状態を確認したり、肺の組織や分泌物を採取する検査です。鎮静剤を使用し、眠っている間に行います。

【参考情報】『Q33 気管支鏡検査とはどのような検査ですか?』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q33.html

4.加湿器肺炎の治療


加湿器肺炎が進行すると、肺が硬くなり元の状態に戻らなくなるため、早めの治療が肝心です。

4-1.加湿器の使用を止める

軽症であれば、加湿器の使用を中止するだけで症状が改善することがあります。

原因となるカビを吸い込むことがなくなれば、アレルギー反応が起こらなくなります。

4-2.吸入ステロイド薬

アレルゲンを避けても改善がみられない場合は、喘息治療などに用いる吸入ステロイド薬を使用します。

吸入ステロイド薬は、アレルギー反応によって起こる炎症を抑えてくれます。

◆「吸入ステロイド薬の副作用」について>>

4-3.その他の薬

重症の患者さんには、免疫抑制剤や抗繊維化薬を使用することもあります。

免疫抑制剤は、アレルギーによって起こる過剰な反応や炎症を抑えてくれます。抗繊維化薬は、肺が硬くなること(繊維化)を阻止します。

5.加湿器の正しい使い方と選ぶポイント


加湿器肺炎を防ぐためには、加湿器の正しい使い方を知り、実行しましょう。

5-1.加湿器の使い方

加湿器の水は、毎日取り替えましょう。毎日清潔な水を使用し、カビの増殖を防ぐことが大切です。

水道水に含まれる塩素は、カビの増殖を防いでくれます。一方、ミネラルウォーターや浄化した水は、塩素が含まれていないので入れないでください。

加湿器は、最低でも週に一度は掃除しましょう。フィルターなどにもカビが発生する可能性があるため、忘れずに洗いましょう。

自宅ではきちんと掃除していても、ホテルや旅館、実家などの加湿器がカビに汚染されていることもあるので注意しましょう。

5-2.加湿器の選び方

水は加熱によって殺菌されます。そのため、加湿器はスチーム式など水を加熱して水蒸気を発生させるスチーム式の製品だと、カビの発生が抑えられます。

一方、水を加熱しない超音波式は、水に含まれるカビや雑菌がそのまま放出される可能性が高いです。

加湿器肺炎を防ぐには、カビが発生しにくい製品、また、お手入れしやすい製品を選ぶとよいでしょう。

【参考情報】『Humidifiers for Respiratory Infections: Are They Helpful or Harmful?』Nationwide Children’s Hospital
https://www.nationwidechildrens.org/family-resources-education/700childrens/2018/01/humidifiers-for-respiratory-infections-are-they-helpful-or-harmful

◆「加湿器を選ぶポイントと注意点」>>

6.おわりに

風邪などの呼吸器感染症を防ぐためには、加湿器を使って適切な温度を保つのは良いことです。

しかし、加湿器の使い方が不適切だとカビが発生し、アレルギー性の肺炎を起こすことがあります。

原因不明の咳が続いているときは、風邪だと決めつけずに、病院を受診して原因を調べましょう。

もし、加湿器肺炎が咳の原因であれば、放っておくと重症化して、入院治療が必要となることもあります。

◆横浜市で呼吸器内科をお探しなら>>

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