過敏性肺炎について

皆さんは「過敏性肺炎」という病名を耳にしたことはありますか?
一般的な細菌やウイルスによる「肺炎」とは異なり、人から人へうつることはありません。
しかし、原因物質はカビ、加湿器、羽毛布団、職場環境など身近な場所に潜んでいることが多く、気付かないうちに症状が進行することもあるため注意が必要な病気です。
この記事では、「過敏性肺炎」の原因や症状、診断から治療法について解説します。
目次
1.過敏性肺炎とは
過敏性肺炎は、特定の物質を繰り返し吸い込むことにより、アレルギー反応が起こり、気管支や肺に炎症が生じる病気です。
聞きなじみのある肺炎とは異なるため注意しましょう。
肺炎は細菌やウイルスなどの微生物が増殖することで発症しますが、過敏性肺炎はカビ(真菌)や細菌、鳥の糞、羽毛、ポリウレタンの原料となるイソシアネートが原因となって発症します。
【参考情報】『過敏性肺炎』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-02.html
これらの物質に対する免疫反応によって肺に炎症が生じ、肺の組織(間質)に影響を及ぼします。
アレルギー疾患であるため、花粉症と同様に同じ抗原を吸い込んでも発症する人と発症しない人がいるのが特徴です。
1-1.過敏性肺炎の病明と原因抗原
過敏性肺炎は、その病名ごとに原因物質(抗原)が以下のように異なります。
●夏型過敏性肺炎:高温多湿な住居で増殖したカビ
●鳥飼病、鳥関連過敏性肺炎:鳥の糞や羽毛
●農夫肺:牧草に繁殖したカビや菌
●塗装工肺:塗料に含まれるイソシアネート
●加湿器肺:放置した加湿器で増殖したカビ
●きのこ栽培者肺:きのこ胞子や栽培環境の菌
日本では、鳥抗原が60%と最も多く、次いで自宅環境中の真菌(カビ)が25%と続きます。
紹介した原因以外にも、アレルギーを引き起こす原因物質は100~200種類以上あるといわれているため、「咳が長引く」「呼吸が苦しい」「原因不明の発熱が続く」といった症状がある場合は早めに呼吸器内科を受診し、原因物質を特定する検査を受けることが大切です。
1-2. 過敏性肺炎の分類と内訳
過敏性肺炎は経過の違いから、「急性型」と「慢性型」の2つに分類されます。
・急性過敏性肺炎:数時間~数週間での体調不良を生じる
(内訳)夏型過敏性肺炎74%、農夫肺8%、加湿器肺4%、鳥飼病4%
・慢性過敏性肺炎:数か月から数年で進行する
(内訳)鳥関連過敏性肺炎60%、夏型過敏性肺炎15%、住居関連過敏性肺炎11%
夏型過敏性肺炎は夏期に発症し、加湿器肺や羽毛製品による鳥関連過敏性肺炎は冬期に発症する傾向があります。
また、2022年の日本呼吸器学会のガイドラインでは、肺のCT像や肺組織の所見に注目した新しい分類もあります。
・非線維性過敏性肺炎:炎症が主な変化で、急性過敏性肺炎に多いタイプ
・線維性過敏性肺炎:線維化という肺が硬くなる変化を伴い、慢性過敏性肺炎に多いタイプ
【参考情報】『過敏性肺炎とは』近畿中央呼吸器センター
https://kcmc.hosp.go.jp/shinryo/concept62.html
2.過敏性肺炎の症状と病型について
過敏性肺炎の症状は、病気の進行度や病型(急性型か慢性型)によって異なります。
早期発見・早期治療のためには、それぞれの症状の特徴を理解することが大切です。
2-1. 主な症状
過敏性肺炎では以下のような症状があります。
・痰が出ない乾いた咳
・呼吸困難(息切れ)
・発熱 ・運動時の息苦しさ
・全身の倦怠感
症状の現れ方は急性型と慢性型で異なりますが、咳や息切れといった呼吸器症状自体は他の呼吸器疾患でもみられるため、過敏性肺炎特有の症状というわけではありません。
抗原吸入によるアレルギー疾患であるため、吸入後数時間で症状が出現・悪化し、原因抗原を吸入しなければ、数日で症状が自然に軽快・消失するのが、この病気の非常に特徴的なところです。
2-2. 急性過敏性肺炎(急性型)の症状
急性過敏性肺炎では、抗原にさらされた後、4~8時間程度で発熱、咳、悪寒、息切れといった症状が現れます。
患者さんが高熱や強い倦怠感を訴えることも多く、風邪やインフルエンザと間違われる場合もあるでしょう。
抗原との接触がなければ通常1~2日で症状は改善しますが、炎症がおさまり肺機能が完全に回復するまでに数週間かかることもあります。
また一旦良くなっても再び同じ抗原に大量さらされると再発し、これを繰り返すうちに慢性型へ移行してしまうこともあります。
【参考情報】『Hypersensitivity Pneumonitis Symptoms and Diagnosis』American Lung Association
https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-disease-lookup/hypersensitivity-pneumonitis/symptoms-diagnosis
2-3. 慢性過敏性肺炎(慢性型)の症状
慢性過敏性肺炎では、発症初期には自覚症状がほとんどなく、月~年単位で徐々に乾いた咳や呼吸困難が進行します。
そのため、患者さん自身も「年のせいかな」「運動不足かな」などと考えてしまいがちです。
慢性過敏性肺炎には、症状経過において2つのタイプがあります。
①再燃症状軽減型:
初期には発熱、倦怠感を伴う急性の症状を繰り返します。
時間経過とともに発熱、倦怠感は全体症状は次第に改善しますが、呼吸困難、咳が徐々に強くなるタイプです。
②潜在性発症型:
初期は症状がなく、気付かないうちに徐々に呼吸困難や咳が進行するタイプです。
自覚症状に乏しく気付きにくいという特徴があり、症状がかなり悪化してから受診するケースもみられます。
慢性過敏性肺炎が進行した場合には、手の指が太鼓のばちのように変形する「ばち指」を認めることがあります。
【参考情報】『Hypersensitivity pneumonitis』 Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/17898-hypersensitivity-pneumonitis?utm
3.過敏性肺炎の診断と検査について
過敏性肺炎の診断には、様々な検査を組み合わせて総合的に判断することが必要です。
ここでは、診断のポイントと主な検査方法について説明します。
3-1. 診断で最も重要なポイント
過敏性肺炎の診断に最も重要なのは、「抗原曝露(ばくろ)・回避」と「症状の増悪・改善」の関係性を見つけることです。
簡単に言えば、何かを吸い込むと病気が悪くなり、吸い込まないと良くなるということがないかを調べることが大切です。
そのため、問診が最も重要となります。
【問診で確認するポイント】
・鳥の飼育歴
・カビが発生しやすい住環境
・職場環境での粉塵(ふんじん)曝露
・加湿器の使用状況
・羽毛布団やダウン製品の使用など
患者さんの生活中に抗原となり得るものが存在しないか徹底的に確認し、それらと症状出現との関係性を調べます。
症状に季節変動があるかも重要な手がかりです。
抗原の量は季節により変動し、(例えば夏はカビ繁殖が多く、冬は羽毛製品の使用が増えるなど)、特定の季節に症状が悪化・出現するかどうかも診断のヒントになります。
3-2. 胸部CT検査
胸部CT検査では、炎症の影があるかを確認します。
過敏性肺炎では両側の肺にすりガラス状陰影と呼ばれる淡い影がモザイク状に分布することが多いとされています。
これは肺の一部に炎症や肺胞(肺の最末端にある直径約0.1〜0.2mmの小さなブドウの房のような空気の袋)の周囲や中に水分がたまっている状態です。
また慢性過敏性肺炎では、下肺野(かはいや:肺を上下3等分した際に一番下に位置する領域)を中心に線維化(硬くなること)が進行していることもあります。
CT検査だけで病名を断定できるわけではありませんが、同じ間質性肺炎の中でも、特発性肺線維症などの他の病気と見分けたり、病気がどの程度進んでいるかを判断したりするのに役立つでしょう。
3-3. 血液検査
血液検査では、原因物質(抗原)に対する抗体(IgG抗体)があるかを確認します。
血液検査で調べるアレルギーの検査は2種類です。
●トリコスポロン・アサヒ(夏型過敏性肺炎の原因となるカビ)に対する抗体検査
●鳥(鳩、インコなど)に対する抗体検査
これらの抗体価(IgG抗体)が高ければ、カビや鳥への曝露歴がある程度考えられるため診断の手がかりになります。
ただし血液検査はあくまで目安であり、抗体が陽性だからといって必ずしもそれが過敏性肺炎の原因抗原であると断定はできません。
逆に抗体検査が陰性でも、カビや鳥が無関係とは言い切れないのです。
したがって血液検査の結果だけに頼らず、問診や画像、その他の検査結果を踏まえて総合的に判断する必要があります。
3-4. その他の検査
原因物質を吸入する吸入誘発試験、気管支鏡で肺に生理食塩水を入れ回収した液の成分を調べる気管支肺胞洗浄、胸腔鏡または開胸術で肺の一部を採取して調べる肺生検などを行う場合もあります。
ただ、患者さんの体への負担がある検査となるため、他の検査で診断がつかない場合に検討されるでしょう。
4.過敏性肺炎の治療
過敏性肺炎の治療の基本は、原因物質を避けることです。
特に急性過敏性肺炎の場合は原因抗原を全く吸わなければ、薬を使わなくても症状は消失し、再発しないこともあります。
また、慢性過敏性肺炎の場合は、原因抗原を避けても進行してしまうケースもありますが、抗原量を減らすことで進行が緩やかになる可能性も報告されているため、抗原を避けることは極めて重要です。
4-1. 原因物質の除去方法
具体的な原因物質ごとの対策例を紹介します。
ご自身のケースに合わせて、可能な限りの対策をとりましょう。
【鳥類(鳥飼育や羽毛製品)が原因の場合】
・鳥に近づかない:
アヒル、インコ、オウム、ニワトリなどの飼育は中止し、全ての鳥を避ける様にしましょう。
公園や神社など野鳥が大量に飛来する場所も注意が必要です。
・鳥由来の製品を処分:
羽毛布団やダウンジャケット、枕など鳥の羽毛を使った製品は家族の分も含め廃棄するのがよいでしょう。
袋に入れて押入れの奥にしまっておくのは、おすすめできません。
・ハウスクリーニング:
鳥製品を処分した後は、家に残った鳥抗原を除去するためハウスクリーニングを行いましょう。
患者様ご自身が掃除をすると、その最中に抗原を吸い込んで病状が急激に悪化する恐れがあるため、決して自分で掃除しないことが重要です。
家族や専門の清掃業者に依頼するとよいでしょう。
・鳥糞の肥料は避ける:
庭仕事で鳥の糞が混ざった肥料などは使わないようにします。
ホームセンター等で購入する肥料も成分を確認しましょう。
・必要ならば転居も検討:
家の周囲に野鳥が多くいる環境では、屋内に鳥抗原が残り続ける場合があります。
そのようなケースでは転居が必要になることもあります。
【住居のカビが原因の場合】
・ハウスクリーニング:
鳥抗原の場合と同じく、自分で掃除は行わず、ご家族や業者に依頼しましょう。
エアコン内部の清掃や、風呂・洗面所など水まわりのカビ取りもプロに任せる方が安心です。
・リフォーム、転居:
室内環境のカビ汚染がひどい場合はリフォームの検討や転居せざるを得ないケースもあります。
【その他の原因の場合】
原因抗原が職場の化学物質や農作業の粉塵など特殊なケースでは、必要な防護策(防塵マスクや作業工程の見直し等)について産業医や専門医と相談しながら対策を考えます。
状況によっては仕事環境の改善や転職を検討する必要があるでしょう。
4-2.薬物療法
重症の場合や慢性過敏性肺炎が進行した場合は、ステロイド薬や免疫抑制薬、抗繊維化薬が使用されます。
・ステロイド剤や免疫抑制剤:
急性期の症状が強い場合や、慢性過敏性肺炎で炎症が目立つ場合に使用。
アレルギー性の炎症を和らげる効果があります。
・抗線維化薬:
肺が硬くなる線維化が目立つ場合、線維化を抑える薬を使用します。
・酸素療法:
咳や息切れが強く日常生活に支障をきたす場合、在宅酸素療法が行われることもあります。
他の間質性肺炎と同様に状況に応じて、呼吸リハビリテーション(運動療法)、栄養療法を行うのもよいでしょう。
60歳未満であれば肺移植が検討されることもあります。
5.おわりに
過敏性肺炎は、原因となる物質を吸い込み続けることで肺に炎症が起きる病気ですが、早期に気づいて適切に対処すれば、改善が見込める病気です。
特に急性型では、原因物質を避けることで自然に症状が良くなることも少なくありません。
ただし、症状を繰り返すうちに慢性化したり、肺が硬くなる「線維化」が進行すると、呼吸機能が低下してしまうこともあります。
そのため、早めの受診や検査、そして原因物質を見つけて避けることがとても大切です。
「咳が続く」「家にいると体調が悪くなる」といった症状に心当たりがある方は、一人で悩まず呼吸器内科を受診してみましょう。
ご自身の体を守る第一歩として、ぜひ早めの対応を心がけてください。




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