【医師監修】COPD治療薬「スピオルト」の特徴・副作用・続け方を徹底解説

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、ゆっくりと進行する呼吸器の病気です。症状が落ち着いていても、肺の機能は確実に低下していきます。
しかし、早期に治療を始め、吸入薬を正しく使い続けることで症状の悪化を防ぐことが可能です。
この記事では、COPDの治療薬「スピオルト」の特徴のほか、吸入を続ける工夫や治療を続ける大切さを解説します。
正しい薬の使い方を知り、無理なく生活に取り入れることで、呼吸を安定させるために役立ててください。
目次
1. COPDとは?息苦しさの原因をもう一度理解する
COPDは初期症状が軽くても、徐々に進行する病気です。まずはその仕組みと治療の重要性を理解することが欠かせません。
1-1. COPDの基本的な仕組み
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、主に長年の喫煙によって引き起こされる病気です。
肺の奥にある「肺胞(はいほう)」が壊れて弾力を失うことで、息を吐き出しにくくなり、その結果、咳・痰・息切れなどの症状が出現します。
最初は、「朝の咳が少し気になる」「階段を上ると息が上がる」といった軽い症状から始まることが多いです。
しかし、徐々に呼吸の苦しさが進み、活動量が減って筋力が低下し、さらに息切れが強くなるという悪循環に陥ります。
【参考情報】『Chronic Obstructive Pulmonary Disease (COPD)』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/8709-chronic-obstructive-pulmonary-disease-copd
1-2. 症状が軽くても進行する病気
COPDの怖い点は、症状が落ち着いていても、病気そのものは進行しているということです。
息苦しさがない日があっても、肺の機能は少しずつ低下していくので、定期的に呼吸機能検査を行い、数値の変化を確認することが非常に重要です。
また、症状が安定しているからといって治療を中断すると、再び息切れや咳が悪化する可能性があります。これは、炎症が再び進行してしまうためです。
「症状が出なくなったから薬はやめる」のではなく、「症状の進行を抑えるために薬を続ける」という意識が欠かせません。
1-3. 病気を理解することが第一歩
治療のモチベーションを保つためには、「なぜ吸入薬を続けるのか」を理解することが大切です。
COPDを発症すると、完全に元の肺機能に戻すことは難しいですが、早期治療と継続的なケアで進行を遅らせることはできます。
その支えとなるのが吸入薬であり、特にスピオルトのような長時間作用型の薬が大きな役割を果たします。
2. スピオルトとはどんな薬か
スピオルトは、COPDの治療を日常的に続けやすくするために設計された吸入薬です。
2種類の有効成分と独自のデバイス構造により、高い効果と使いやすさを両立しています。
2-1. スピオルトの基本構成
スピオルトは、「ティオトロピウム(LAMA)」と「オロダテロール(LABA)」という2種類の薬を組み合わせた吸入薬です。
ティオトロピウムは気道の筋肉をゆるめることで空気の通り道を確保し、オロダテロールは気道を長時間広げて息苦しさを軽減するはたらきを持ちます。
これらを1つにまとめたスピオルトは、1日1回の吸入で24時間作用が持続するのが特徴です。
【参考情報】『レスピマット®(吸入器)の使用方法』日本ベーリンガーインゲルハイム
https://pro.boehringer-ingelheim.com/jp/product/spiriva/how-to-use-respimat-inhaler
2-2. 他の吸入薬との違い
スピオルトの最大の強みは、「使いやすく、続けやすい」点にあります。1日1回の吸入で済むため、服薬の手間を減らし、日々の習慣に取り入れやすくなっています。
COPDの治療では「継続」が何よりも大切ですが、忙しい生活の中では吸入を忘れてしまうこともあるでしょう。
その点、スピオルトのようにシンプルな服用スケジュールであれば、治療を長く続けやすいでしょう。
また、スピオルトは「レスピマット」という独自のデバイス(容器)を使用します。
これは霧のようにやわらかいミストをゆっくり吸い込む構造になっており、力を入れずに吸入できるため、高齢の方や手先の不自由な方にも使いやすい設計です。
【参考情報】『スピオルト®レスピマット®28吸入・60吸入』日本ベーリンガーインゲルハイム
https://pro.boehringer-ingelheim.com/jp/product/spiolto
吸入の勢いが強くなくても薬剤を肺に届けやすい点も、患者さんに支持されている理由のひとつです。
2-3. スピオルトの副作用
スピオルト主な副作用は以下となります。
・口や喉の乾き(口渇)
・咳やのどへの刺激
・頭痛
・動悸、心拍の増加
・手や足のふるえ(振戦:しんせん)
・便秘
振戦や動悸は特に初期に起こることがありますが、吸入を継続するうちに軽減することもあります。
また、前立腺肥大のある方は尿が出にくくなることがあります。
めったにありませんが、以下の副作用も報告されています。
・アレルギー反応:発疹、かゆみ、呼吸困難など
・心疾患の悪化:狭心症、心房細動など
副作用が強く出る場合や体に異常を感じた場合は、必ず医師に相談してください。
2-4. 服薬指導の大切さ
スピオルトの効果を最大限に引き出すには、正しい吸入方法の理解が欠かせません。デバイスの使い方を誤ると、薬が十分に肺に届かず、「効いていない」と感じてしまうことがあります。
吸入薬は見た目が似ていても使用方法が異なることが多いため、初めて使う際には医師や薬剤師の指導を受けることが重要です。
また、吸入に慣れてきた頃に自己流の使い方になってしまうケースも少なくないため、定期的に吸入チェックを受けることをおすすめします。
3. スピオルトの真価は「続けること」で発揮される
COPD治療のカギは「症状を一時的に抑える」ことではなく、「病気の進行をゆるやかにする」ことです。
この章では、治療を長く続けるポイントを解説します。
3-1. COPDは「治す」のではなく「進行を抑える」病気
COPDにより一度傷ついた肺の機能を元に戻すことは難しいのが現実です。
しかし、吸入薬を正しく続けることで病気の進行をゆるやかにし、息苦しさを軽減しながら生活の質を保つことができます。
スピオルトのような長時間作用型の吸入薬は、症状の改善だけでなく、肺機能の低下を防ぐ目的でも使用されます。
言い換えれば、吸入薬は「その日の症状を和らげるため」というより、「将来の呼吸を守るため」に使う薬なのです。
3-2. 「調子がいいからやめた」が一番危険
実際の診療現場では、症状が落ち着いた時期に吸入をやめてしまう方が少なくありません。
しかし、薬を中断すると気道の炎症や収縮が再び強まり、数週間〜数か月で息切れや咳が再燃することがあります。
スピオルトは、体の中に薬が一定に行き渡ることで効果を維持するタイプの薬剤です。
そのため、数日間吸入を忘れたり、自己判断でやめたりすると、効果が途切れてしまう可能性があります。
また、COPDは自覚症状が変化しやすく、「良くなった」と思っても目に見えない部分では悪化していることもあります。
継続することが最も大切な治療そのものであることを理解することが重要です。
3-3. 家族の支えも治療の一部
吸入薬を毎日続けるのは、思っている以上に根気が必要ですが、家族が一言声をかけたり、吸入時間を共有するだけでも、患者さんのモチベーション維持に大きく役立ちます。
定期受診の際には、家族も一緒に参加して医師から説明を受けると、病気や薬の理解が深まり、安心してサポートできるようになります。
4. COPD治療を「続ける」ための工夫
スピオルトの効果を最大限に引き出すには、毎日の継続が欠かせません。
この章では、習慣化の工夫や定期受診、さらに運動・禁煙・栄養といった生活習慣のポイントを組み合わせ、無理なく治療を続ける方法を紹介します。
4-1. 習慣化のコツ
吸入薬の効果を最大限に発揮するためには、毎日欠かさず吸入することが何より大切ですが、忙しい日々の中では、つい忘れてしまうこともあるでしょう。
しかし、生活の中に吸入を自然に組み込む工夫をすることで、無理なく継続できるようになります。
たとえば、「朝の歯みがきの前後に吸入する」「朝食の前に行う」「テレビのニュース番組を見る前に吸う」など、決まった行動とセットにすると習慣化しやすくなります。
【参考情報】『Everything You Need To Know About Habit Stacking for Self-Improvement』Cleveland Clinic
https://health.clevelandclinic.org/habit-stacking
スマートフォンのリマインダーを利用するのも効果的です。
4-2. 定期受診でモチベーションを保つ
病院で定期的に呼吸機能検査を受けると、自分の肺の状態が数字として見えるため、「続けてきてよかった」という実感につながります。
努力が見える化されることで、継続のモチベーションが維持できるのです。
また、医師や看護師、薬剤師に吸入手技を確認してもらうことで、自己流のクセを修正できます。こうした小さな積み重ねが、将来的な症状悪化の防止につながります。
もし「吸っても変わらない」と感じた場合も、自己判断で中止せず、主治医に相談して吸入方法や治療方針を見直しましょう。
4-3. 運動・禁煙・栄養も治療の一部
スピオルトをはじめとする吸入薬は、息をしやすくする基盤をつくるものです。その上で、生活習慣の改善を組み合わせることが、より良い呼吸状態の維持につながります。
たたおえば、軽いウォーキングや呼吸リハビリ(息をゆっくり吐く練習)を日常に取り入れると、肺の換気がよくなり、運動耐性が上がります。
また、禁煙は最大の予防策です。喫煙を続けると、どんな薬を使っても炎症が再燃してしまいますので、禁煙外来やサポートアプリなどを活用し、医療機関の支援を受けながら進めましょう。
さらに、栄養バランスも呼吸機能の維持に深く関わります。やせすぎると筋力が落ち、呼吸に必要な筋肉も弱くなるため、適切な体重を保つことが重要です。
管理栄養士による食事指導を受けながら、エネルギーやたんぱく質をしっかり摂るよう心がけましょう。
5. よくある質問
Q1. スピオルトを吸入後に咳き込む・むせることがあります。
吸入の勢いが強すぎたり、息を止める時間が短いと、薬が喉に残ってしまい咳き込みやすくなります。吸入手技を確認し、ゆっくり深く吸うことがポイントです。
Q2. 喘息や花粉症用の薬と併用できますか?
薬の種類や成分によっては併用可能ですが、気道への影響や副作用のリスクがあるため、医師の指示なしに併用することは避けるべきです。
Q3. スピオルトの効果が切れる時間には個人差がありますか?
24時間作用を目安にしていますが、肺の状態や吸入の習慣、体質によって体感が異なる場合があります。
Q4. 吸入薬をずっと続けるのは不安です
多くの方が「一生薬を続けなければいけないのか」と不安を感じます。しかし、スピオルトは長期使用を前提に設計された薬であり、定期的に医師の診察を受けながら続けることが安全かつ効果的です。
薬をやめるかどうかは、症状や呼吸機能の数値を見ながら主治医が判断します。
6. おわりに:スピオルトは「未来の呼吸」を守るための薬
スピオルトは1日1回の使用で続けやすい吸入薬であり、日常生活に無理なく取り入れやすい特徴があります。ただし、効果を実感するには、正しい吸入方法と継続が欠かせません。
当院では、正しい使い方を理解できるよう丁寧にサポートしますので、吸入器の操作に不安を感じる場合は遠慮なくご相談ください。
治療を続けることで、日常生活での自由度や快適さが向上します。たとえば「買い物や外出が楽になった」「趣味が長く楽しめるようになった」といった実感は、継続の大きな励みになります。
こうしたポジティブな体験を積み重ねながら、私たち医療スタッフと共に生活の質を守っていきましょう。










