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治らない咳の正体?咳過敏症候群の症状と治療

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2026年02月12日

「咳が治らず、何週間も続いている」

「病院を受診して、ちゃんと治療を受けているのに、咳がよくならない」

このように、原因がはっきりしない慢性的な咳の背景には、「咳過敏症候群」が隠れていることがあります。

この記事では、咳過敏症候群の症状や原因、治療法、そして日常でできる対策までをわかりやすく解説します。

1. 咳過敏症候群とは


咳過敏症候群(Cough Hypersensitivity Syndrome:CHS)では、乾いた咳が長期間続きます。咳が出るときに、喉のイガイガやかゆみを感じることもあります。

年齢を問わず見られますが、30〜60代の中高年に多く、女性にやや多い傾向があるとされています。

1-1.咳に関する神経が過敏になる

咳過敏症候群では多くの場合、風邪などの呼吸器感染症が治ったあとも咳だけが残り、「検査では明らかな異常が見つからない」「一般的な治療で十分な効果が得られない」といった経過をたどります。

咳過敏症候群の中心にあるのは、気道や咳反射に関わる神経の感受性が高まっている状態です。会話や電話、笑い、冷たい空気、においなど、本来であれば咳を起こさない程度の日常的な刺激でも、咳中枢が過剰に反応し、咳が引き起こされます。

加えて、睡眠不足やストレス、不規則な生活習慣も神経の過敏性を高め、症状を長引かせる原因になります。

ささいな刺激での咳が慢性的に続くと、睡眠が妨げられるほか、仕事中や接客、会話の最中に咳が出ることで精神的な負担が増し、人とのコミュニケーションを避けるようになるケースもあります。

【参考情報】『Cough: A Reflex That Disrupts Interpersonal Communication』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40576657/

命に関わる病気ではないと説明されることが多い一方で、日常生活への影響は決して軽いものではありません。

【参考情報】『Cough hypersensitivity and chronic cough』nature reviews disease primers
https://www.nature.com/articles/s41572-022-00370-w

1-2.咳過敏症候群の背景

咳過敏症候群の背景には、咳喘息、アトピー咳嗽、感染後咳嗽、胃食道逆流症(GERD)などが関与していることがあります。


<咳喘息>
喘息とよく似た病気ですが、喘息の症状である息苦しさや喘鳴(ぜんめい:ヒューヒュー・ゼイゼイという呼吸音)は見られず、咳だけが長く続く病気です。風邪やコロナなどの呼吸器感染症をきっかけに発症することがあります。

◆「咳喘息」についてくわしく>>

<アトピー咳嗽>
気道粘膜にある咳受容体が過敏になることで咳が出やすくなる病気です。アレルギー体質の人に多く見られます。

◆「アトピー咳嗽」の情報をチェック>>

<感染後咳嗽>
風邪などの呼吸器感染症が治ったあとに、咳だけが長引く状態です。ウイルス感染により気道の粘膜がダメージを受けて過敏になることが原因です。

【参考情報】『Postinfectious Cough』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/post-viral-cough

<胃食道逆流症(GERD)>
胃酸が逆流して気道を刺激し、慢性的な咳の原因となることがあります。

◆「胃食道逆流症(GERD)」とは?>>



これらの病態は単独で存在する場合もあれば、複数が重なって影響していることもあります。

特徴的なのは、気道の炎症の程度と症状が必ずしも一致しない点です。炎症が強くない、あるいは治療によって落ち着いているにもかかわらず、咳反射に関わる神経の感受性が高い状態が続き、わずかな刺激でも咳が出やすくなります。

すでに病院を受診し、咳喘息やアトピー咳嗽として治療を受けているにもかかわらず改善が乏しい場合は、診断や治療方針を一度整理することが重要です。

1-3.新しい治療概念としての位置づけ

咳過敏症候群は、比較的最近示された考え方です。以前は、検査で明確な異常が見つからず、標準治療にも反応しない咳は、原因不明の慢性咳嗽(がいそう:咳のこと)として扱われることが多くありました。

しかし近年、慢性的な咳の多くで咳反射に関わる神経の過敏性が重要な役割を果たしていることが分かり、咳そのものの出やすさに注目した概念として咳過敏症候群が整理されてきました。炎症やアレルギーが落ち着いていても咳が続く理由を説明できる点が、この概念の特徴です。

【参考情報】『British Thoracic Society Clinical Statement on chronic cough in adults』ThoraxBMJ
https://thorax.bmj.com/content/78/Suppl_6/s3

さらに、P2X3受容体拮抗薬(リフヌア)の登場により、神経の過敏性に直接アプローチする治療が可能になりました。これにより、従来は対応が難しかった難治性の慢性咳嗽にも、新たな治療の選択肢が加わったといえます。

このように、咳過敏症候群は「新しい病気」というより、慢性咳嗽をより的確に理解し、治療につなげるために生まれた新しい治療概念として位置づけられます。

【参考情報】『Cough Hypersensitivity Syndrome: A Few More Steps Forward』National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5500693/

2.咳過敏症候群の診断方法


咳過敏症候群は、特定の検査だけで確定できるものではなく、問診・診察・検査結果を総合して判断していきます。

2-1.問診

問診では、咳が続いている期間がどのくらいか、昼と夜のどちらに強いか、会話や運動、冷たい空気、においなどで誘発されるかといった咳の特徴を確認します。

あわせて、風邪や呼吸器感染症の後に咳が残っていないか、アレルギーの有無、喫煙歴、服用中の薬などについても詳しく聞き取ります。

2-2.検査

検査では、咳が出る他の病気の有無を確認します。

呼吸機能検査では喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器疾患、胸部X線検査では肺炎や肺がんなどの異常がないかを確認します。

◆「呼吸器内科で行われる専門的な検査について」>>

必要に応じて、胸部CT検査、血液検査、気道炎症の評価、胃食道逆流症(GERD)を疑う場合の追加検査が行われることもあります。

これらの検査で明らかな異常が認められず、一般的な治療を行っても咳が十分に改善しない場合に、咳過敏症候群が疑われます。

最終的には、検査結果だけでなく、咳の経過や治療への反応を含めて総合的に評価し、診断や治療方針が決定されます。

3. 咳過敏症候群の治療と対策


咳過敏症候群の治療では、まず一般的な原因疾患への対応を丁寧に行い、それでも改善しない場合に、咳反射そのものへのアプローチを検討します。

3-1.治療の基本的な考え方

咳過敏症候群が疑われる場合でも、治療はいっぺんに切り替えるのではなく、段階的に進められるのが一般的です。

慢性的な咳の背景には複数の病態が関与していることが多く、まずは原因となりうる病気を一つずつ整理しながら対応します。

最初の段階では、咳喘息やアトピー咳嗽など、咳の原因となる可能性のある疾患を想定し、それぞれに対する標準的な治療を一定期間行います。

この段階で咳が改善すれば、背景にある疾患が主な原因だったと考えられます。

こうした標準治療を十分に行っても咳の改善が乏しい場合には、咳反射に関わる神経の感受性が高まり、わずかな刺激でも咳が誘発される状態が続いていると推測されます。

3-2.リフヌアでの薬剤治療

咳過敏症候群のような難治性の慢性の咳には、咳反射に関与する神経の働きを調整し、過剰になった咳反射を抑制するリフヌア(ゲーファピキサント)という薬を使うことがあります。

リフヌアは、吸入ステロイド薬や抗アレルギー薬などの標準治療を行っても改善が乏しい難治性の慢性咳嗽に対して使われる薬で、従来の治療では効果が得られなかった人でも、咳の軽減が期待できます。

ただし、味覚異常などの副作用がみられることがあるので、使用の可否や継続は医師の判断のもとで慎重に行われます。

3-3.生活面での対策

薬物療法と並行して、生活習慣の調整も欠かせません。咳過敏症候群では、日常生活の中で気道への刺激をできるだけ減らすことが、症状の安定につながります。

まず基本となるのは、喫煙や受動喫煙を避けることです。加えて、冷たい空気、ほこり、香料、強いにおい、アルコールなどの刺激物は咳反射を高めやすいため、できるだけ避けます。

室内の湿度を適切に保ち、喉や気道の乾燥を防ぐことも重要です。特に乾燥しやすい季節は、加湿器の使用や就寝時の湿度管理が有効です。こまめな水分補給も、喉の潤いを保ち、咳の誘発を抑える助けになります。

◆「喉の乾燥対策完全ガイド」>>

また、声を使う仕事や長時間の会話は喉への負担となり、咳を悪化させることがあります。意識的に休憩を取り、無理に声を出し続けない工夫が必要です。

さらに、咳が出やすい時間帯やきっかけ、使用している薬とその効果を記録しておくと、診察時に役立ちます。経過を客観的に整理することで、治療効果の評価や方針の見直しがしやすくなり、より適切な治療選択につながります。

4.おわりに

咳過敏症候群は、原因がはっきりしない慢性的な咳として現れますが、対策が取れないわけではありません。気道の炎症だけでなく、咳反射の過敏が関与していることを理解することで、治療の方向性が明確になります。

これまで吸入ステロイド薬などの治療で咳が改善しなかった人でも、治療方針の見直しや新しい治療の選択肢によって、症状の改善が期待できます。また、生活環境の調整やセルフケアを組み合わせることで、負担を軽減することが可能です。

咳が長引いている場合は、自己判断であきらめず、治療経過を整理したうえで呼吸器内科へ相談することが、症状の悪化を防ぐために重要です。

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