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在宅酸素療法とは?適応・費用・注意点を正しく理解しよう

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2026年04月27日

在宅酸素療法とは、肺や心臓の病気などで慢性的な酸素不足がある人が、自宅で酸素吸入を行う治療法です。

治療を始める前に、「対象となる人はどんな人か」「費用はどのくらいかかるか」「日常生活で気をつけることは何か」を事前に把握しておくことが大切です。

この記事では、在宅酸素療法の適応・費用・注意点を軸に、基本的な知識から実生活のポイントまでわかりやすく解説します。

1.在宅酸素療法とは


在宅酸素療法は、体に取り込まれる酸素が慢性的に不足している状態を補うための治療です。

1-1.なぜ在宅酸素療法を行うのか

肺や心臓の病気があると、体内に十分な酸素を取り込めず、少し動いただけでも息切れが起こりやすくなることがあります。

こうした場合、酸素を使用することで呼吸が楽になり、心臓や脳などの重要な臓器への負担も軽くなります。

酸素が不足した状態が続くと、心臓に過度な負荷がかかり、病気の進行や悪化につながることがあります。

そのため、酸素療法は息苦しさといった症状を和らげるだけでなく、体全体の状態を安定させる目的でも行われます。

在宅で酸素療法を行うのは、治療を継続しながら、できるだけ普段の生活を維持するためです。

自宅であれば、自分の体調や生活リズムに合わせて治療を続けやすく、生活の質をできる限り保ちながら、病状を管理していくことができます。

【参考情報】『Oxygen Therapy: Using Oxygen at Home』American Lung Association
https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-procedures-and-tests/oxygen-therapy/using-oxygen-at-home

1-2.携帯用酸素とは

自宅では据え置き型の酸素装置を使いますが、外出時は持ち運びできるタイプに切り替えます。肩にかけたり、カートに乗せたりして持ち歩ける大きさです。

携帯用酸素には主に2つの種類があります。


<ボンベタイプ>
あらかじめ酸素が充填されたタイプ

<濃縮器タイプ>
空気中の酸素を取り込んで濃くして送り出すタイプ


外出先でも酸素が必要な方にとって、携帯用酸素は行動範囲を広げるための大切な道具です。安全に注意しながら使うことで、買い物や通院、旅行なども可能になります。

2.在宅酸素療法が適応される主な病気


在宅酸素療法は、慢性的に低酸素状態が続く病気を対象に行われます。

2-1.COPD(慢性閉塞性肺疾患)

COPDでは、気道や肺胞が傷つくことで酸素を十分に取り込めなくなります。すると、血液中の酸素が慢性的に不足し、安静時や少し動いただけでも息切れが起こりやすくなります。

低酸素状態が続くと心臓への負担が増し、肺高血圧症や心不全を引き起こすこともあります。在宅酸素療法は不足した酸素を補うことで息切れを和らげるだけでなく、心臓への負担を軽減し、病状の進行を抑える目的でも行われます。

◆「咳がとまらない・しつこい痰・息切れは、COPDの危険信号」>>

2-2.間質性肺炎

間質性肺炎では、肺が硬くなって十分に広がらなくなるため、酸素を血液に取り込みにくくなります。その結果、血液中の酸素が慢性的に不足し、安静時や少し動いただけでも強い息切れが生じます。

低酸素状態が続くと体や心臓への負担が増し、日常生活がさらに制限されることもあります。在宅酸素療法は不足した酸素を補うことで息切れを和らげ、体への負担を軽減しながら、病状の進行や生活の質の低下を防ぐ目的で行われます。

◆「間質性肺炎」についてもっとくわしく>>

2-3.肺高血圧症

肺高血圧症では、肺の血管が狭くなり、血液がスムーズに流れなくなります。そのため、肺での酸素交換がうまく行われず、血液中の酸素が不足しやすくなります。

低酸素状態が続くと、心臓に強い負担がかかり、心不全を引き起こす原因になります。在宅酸素療法は、不足している酸素を補い、息切れを軽くするとともに、心臓への負担を減らし、病状の悪化を防ぐ目的で行われます。

【参考情報】『肺高血圧症』国立循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/pph/

2-4.気管支拡張症

気管支拡張症では、気管支が広がったまま元に戻らず、痰がたまりやすくなります。その結果、空気の通りが悪くなり、肺の中で十分な酸素交換ができなくなります。

低酸素状態が続くと、息切れが強くなり、体や心臓に負担がかかります。在宅酸素療法は、不足している酸素を補い、呼吸を楽にするとともに、全身への負担を減らす目的で行われます。

◆「気管支拡張症」の情報をチェック>>

2-5.肺結核の後遺症

肺結核の後遺症では、結核によって壊れた肺の組織が元に戻らず、肺が十分に広がらなくなります。そのため、呼吸をしても酸素をうまく取り込めず、血液中の酸素が不足しやすくなります。

低酸素状態が続くと、息切れが起こりやすくなり、心臓にも負担がかかります。在宅酸素療法は、不足している酸素を補い、呼吸を楽にするとともに、体や心臓への負担を減らす目的で行われます。

◆「結核」について>>

2-6.慢性心不全

慢性心不全では、心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液と酸素を送り出せなくなります。そのため、肺に血液がうっ滞しやすく、呼吸が浅くなって血液中の酸素が不足しがちになります。

低酸素状態が続くと、息切れや疲れやすさが強くなり、さらに心臓への負担が増します。在宅酸素療法は、不足している酸素を補うことで呼吸を楽にし、心臓の負担を軽減しながら病状の悪化を防ぐ目的で行われます。

【参考情報】『心不全とはなにか』日本心臓財団
https://www.jhf.or.jp/check/heart_failure/02/

3.在宅酸素療法適応の判断基準


在宅酸素療法の適応は、慢性的な低酸素血症があるかを客観的に確認したうえで判断されます。主に、動脈血ガス分析やパルスオキシメータによって血液中の酸素の状態を評価します。

◆「血中酸素飽和度とは?パルスオキシメータでチェック!」>>

一般的な基準として、安静時の動脈血酸素分圧(PaO₂:血液の中にどれくらい酸素が取り込まれているかを数値で表したもの)が55mmHg以下、または酸素飽和度(SpO₂)が88%以下の場合、在宅酸素療法の適応とされます。これは、安静にしていても体に十分な酸素が行き渡っていない状態を示します。

PaO₂が56~60mmHg程度とやや高めでも、肺高血圧症、心不全、赤血球増多症(多血症)など、低酸素による合併症がある場合は適応となることがあります。

【参考情報】『血液が濃いと言われたら? 「多血症」について』国立長寿医療研究センター
https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/31.html

また、安静時は基準を満たさなくても、歩行などの軽い運動で著しく酸素濃度が低下する場合や、睡眠中に低酸素状態が繰り返し起こる場合も導入が検討されます。

評価には、6分間歩行試験などでの運動時酸素低下の確認や、夜間パルスオキシメトリーによる睡眠中の酸素低下の測定が用いられることもあります。

最終的には、検査結果だけでなく、病気の種類、症状の強さ、日常生活への影響、予後への影響などを総合的に考慮し、医師が在宅酸素療法の必要性を判断します。

4.在宅酸素療法の注意点


在宅酸素療法を安全に続けるためには、酸素を使うこと自体だけでなく、日常生活での注意点や異変への対応を正しく理解しておくことが欠かせません。

4-1.火気と安全管理

在宅酸素療法で最も重要なのが、火気に対する安全管理です。酸素そのものは燃えませんが、周囲の物が燃えやすくなり、火災のリスクが高まります。そのため、酸素使用中は火気厳禁が原則です。

特に注意が必要なのは、喫煙、ガスコンロ、ストーブ、線香やろうそくなどです。使用中だけでなく、酸素が流れている環境全体で火気を避ける必要があります。家族や同居者にも十分に周知しておくことが重要です。

【参考情報】『在宅酸素療法における火気の取扱いについて』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000003m15_1.html

4-2.チューブの取り扱い

チューブの取り扱いにも注意が必要です。踏んだり引っかけたりすると、酸素が正しく供給されなくなるだけでなく、転倒の原因にもなります。

転倒防止のため、床に物を置かない、チューブの長さを適切に調整するといった工夫が必要です。

4-3.体調変化への対応

酸素療法を行っていても、息苦しさが改善しない、あるいは悪化する場合があります。このようなときは、自己判断で酸素量を変更せず、早めに主治医に相談してください。

在宅酸素療法は導入して終わりではなく、定期受診によって効果や状態を確認し、治療内容を調整することが不可欠です。

5.在宅酸素療法の費用


在宅酸素療法は、健康保険が適用される治療です。ただし、医師が必要と判断し、指示を出した場合に限られます。

5-1.自己負担額の目安

在宅酸素療法の月額費用は、主に装置のレンタル料+在宅管理料で構成されます。

保険適用後の自己負担額は、負担割合によって異なりますが、一般的な目安は次の通りです。


 ・1割負担:月数千円程度

 ・2割負担:月1万円前後

 ・3割負担:月1万5千円前後


実際の金額は、酸素の使用量や外出用酸素の有無などによって多少前後します。

使用する酸素濃縮器や携帯用酸素ボンベは購入ではなくレンタルが基本です。

患者自身が機器を管理する負担を減らすため、保守点検やトラブル対応も含めて、医療機関や業者が管理する仕組みになっています。

5-2.高額療養費制度

在宅酸素療法は長期間続くことが多いため、高額療養費制度の対象となります。この制度を利用すると、1か月の医療費自己負担額が一定の上限を超えた分は払い戻され、負担が抑えられます。

特に、長期継続が必要な方にとっては重要な制度で、所得区分に応じた自己負担上限が設定されています。制度の申請方法や上限額については、医療機関や加入している健康保険で確認することができます。

【参考情報】『高額療養費制度を利用される皆さまへ』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000333280.pdf

6.在宅酸素療法はいつまで続く?


在宅酸素療法は、必ずしも一生続ける治療とは限りません。

たとえば、以下のようなケースでは一時的に使用し、回復後に中止されることがあります。


<肺炎や急性増悪後の回復期>
炎症が落ち着き、肺機能が改善すると酸素が不要になることがあります。

<心不全の治療後>
薬物治療やリハビリで心機能が改善し、低酸素状態が解消される場合があります。

<手術後・入院後の体力低下>
一時的な呼吸機能低下に対する補助として使われ、回復に伴い中止されます。

<呼吸リハビリや運動療法の効果>
呼吸筋や運動耐容能が改善し、酸素濃度が安定することがあります。


このような場合、定期的に動脈血ガス検査やSpO₂測定を行い、基準を満たすようになれば医師の判断で減量・中止されます。

6-2.長期継続が必要なケース

一方で、COPDや進行した間質性肺炎などでは、肺の構造そのものが損なわれているため、病気を根本から回復させることは困難です。

こうしたケースにおける在宅酸素療法は、「病気を治す」ための手段ではありません。不足した酸素を補い、体への負担を和らげることを目的としています。息切れを軽くし、動作時のつらさを減らすことで、日常生活における自立を保つ役割を担っています。

また、低酸素状態を放置すると、心臓に負担がかかり、肺高血圧症や心不全を合併するリスクが高まります。酸素療法を継続することで、こうした合併症の進行を抑え、全身状態を安定させる効果も期待できます。

実際の使用では、安静時・動作時・睡眠時など、場面に応じて酸素量をきめ細かく調整します。日々の体調の変化を丁寧に観察し、医療者と連携しながら取り組んでいくことが大切です。

7.おわりに

在宅酸素療法を開始した最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、正しく使い続けることで、息苦しさの軽減や体への負担の軽減につながります。

日常生活をできるだけ保ちながら過ごすための、大切な支えでもあります。

体調や生活環境は時間とともに変化します。不安や困りごとがあれば、一人で抱え込まずに医療スタッフに相談してください。

適切な調整を重ねながら、自分のペースで治療を続けていくことが大切です。

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