喘息の方がやるべき新型コロナウイルス感染症対策

新型コロナが広がったことで、喘息患者さんの中には「自分は重症化しやすいのでは?」と心配する人が多くいます。
実際には、症状が安定している軽めの喘息であれば、特別に重症化しやすいわけではありません。
ただし、重症の患者さんや、ふだん症状がよくコントロールできていない人は注意が必要です。
この記事では、喘息と新型コロナの関係をわかりやすく整理し、毎日の生活で気をつけたいポイントをまとめています。
目次
1.喘息はコロナの重症化リスクなのか?
これまでに発表された国内外の研究では、喘息そのものが新型コロナの強い重症化リスクになるとは言い切れないとされています。
【参考情報】『ID-19 in people with asthma: systematic review and meta-analyses』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34933924/
特に、吸入薬をきちんと使い、症状が安定している軽度〜中等度の喘息では、感染した場合の経過は一般の人と大きく変わらないという結果が多数報告されています。
ただし、状況によってはリスクが上がるケースもあります。例えば、発作が起こりやすい人、夜間に咳が続く人、病院で重症と診断されている人など、普段からコントロールが不十分な場合は注意が必要です。
【参考情報】『Covid-19 pandemic and asthma: What did we learn?』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37154075/
また、肥満・高血圧・糖尿病・心臓病といった他の病気を抱えている場合は、喘息との組み合わせで重症化しやすい可能性があります。
【参考情報】『Comorbidity defines asthmatic patients’ risk of COVID-19 hospitalization: A global perspective』National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9632231/
さらに、重症喘息の治療で使われる経口ステロイドの長期使用は、免疫の働きに影響するため、感染症に対する注意度が上がります。
【参考情報】『Risk of serious COVID-19 outcomes among adults and children with moderate-to-severe asthma: a systematic review and meta-analysis』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36323417/
一方、一般的に使用される吸入ステロイドは重症化リスクを高めるという証拠はなく、治療は継続すべきとされています。
2.喘息は基礎疾患なのか?
国は「基礎疾患を有する人」を、新型コロナワクチン優先接種の対象としています。
<新型コロナワクチンの優先接種対象となる基礎疾患>
■ 呼吸器系
・慢性呼吸器疾患(喘息、COPD、間質性肺疾患など)
・気管支拡張症、嚢胞性線維症など
■ 循環器系
・高血圧症で管理が不十分な場合
・心不全、虚血性心疾患、弁膜症など
■ 代謝・内分泌系
・糖尿病(血糖コントロール不良を含む)
・肥満(BMI 30以上が目安)
■ 腎・肝臓疾患
・慢性腎臓病(透析含む)
・慢性肝疾患(肝硬変など)
■ 免疫系
・免疫抑制状態(がん治療中、移植後、免疫抑制薬使用など)
・先天性免疫不全症
■ 神経・神経筋疾患
・脳血管障害や重度の神経疾患で呼吸機能が低下している場合
・筋ジストロフィーなど呼吸筋が弱い疾患
■ その他
高齢者(65歳以上)や医療従事者・介護従事者も優先対象に含まれることがある
【参考資料】『新型コロナワクチンについて』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html
この基礎疾患の中には「慢性の呼吸器の病気」が含まれており、喘息もこの分類に入ります。
喘息は気道に慢性的な炎症があり、感染症がきっかけで症状が悪化しやすいという特徴があります。
特に、普段から発作が起こりやすい人や、治療を中断して症状が不安定な人は、感染時に負担が大きくなる可能性があります。
そのため、ワクチン接種によって重症化を防ぐことは重要な対策の一つです。
また、喘息の人は花粉症やアレルギー性鼻炎などを併せ持っていることが多く、これらも呼吸器の負担を増やします。
ワクチンはこうした背景を持つ人の感染時のリスクを下げるのに役立ちます。
3.喘息は重症化のリスク因子ではない
喘息は慢性的な呼吸器疾患として基礎疾患の分類には含まれますが、必ずしも新型コロナウイルス感染症の重症化リスク因子として明記されているわけではありません。
3-1.新型コロナの重症化リスク因子
「新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き」第4版では、重症化リスク因子として以下の項目が示されていますが、喘息は含まれていません。
・65歳以上の高齢者
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・慢性腎臓病
・糖尿病
・高血圧
・心血管疾患
・肥満(BMI 30以上)
【参考情報】「新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き」第4版
https://www.mhlw.go.jp/content/000702064.pdf
つまり、喘息を持っているからといって、必ず重篤な状態になるとは限らないことが示されています。
3-2.コロナ後遺症のリスク
一方で、喘息を持つ人が新型コロナウイルスに感染した場合、感染後に長引く症状、いわゆる「ロングコロナ(Long COVID)」が出やすい可能性があると報告されています。
【参考情報】『Risk of long covid in patients with pre-existing chronic respiratory diseases: a systematic review and meta-analysis』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39884720/
特に、咳や息苦しさ、倦怠感など呼吸器系の症状が長期間続くケースがあり、日常生活や仕事に支障をきたすこともあります。
このように、喘息患者は感染予防だけでなく、感染後も適切な管理を続けることが、重症化や長期的な健康リスクを減らす上で欠かせないとされています。
◆「新型コロナウイルス感染症が呼吸器の病気に及ぼす影響」>>
4.基本的な感染対策と健康管理
しかし、喘息の患者さんが新型コロナウイルス感染症を患うことで、肺などの呼吸器にに大きなダメージを受けてしまうことは間違いありません。
だからこそ、喘息の患者さんと家族など周囲の人は、基本的な感染対策や健康管理、体調を崩さないような生活習慣が重要となります。
4-1.基本的な感染予防対策
新型コロナウイルスの感染を防ぐためには、基本的な対策を日常的に実践することがまず重要です。
・手洗いやアルコール消毒で手指を清潔に保つ
・マスクの着用で飛沫を防ぐ
・人混みや換気の悪い密閉空間を避ける
・定期的に室内の換気を行う
・共有物やドアノブなどをこまめに消毒する
さらに、十分な睡眠やバランスの良い食事、適度な運動で体の免疫力を維持することも、感染リスクを下げるうえで大切です。
4-2.ワクチン接種
喘息の患者さん、特に症状が安定していない重症喘息や基礎疾患を併せ持つ方には、感染時のリスクを下げるためにワクチン接種が有効です。
ワクチンの安全性についても、一般の成人と同様に副反応の大半は軽度で、重篤な合併症の発生は非常にまれであるとされています。
さらに、日本では基礎疾患のある人や高齢者を中心に、追加接種(ブースター接種)が推奨されています。
追加接種によって、感染や重症化をさらに防ぐ効果が高まることが示されており、喘息を持つ人も適切な時期に接種を受けることが望ましいとされています。
【参考情報】『Effectiveness of mRNA COVID-19 Vaccine Boosters Against Infection, Hospitalization, and Death: A Target Trial Emulation in the Omicron (B.1.1.529) Variant Era』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36215715/
5.おわりに
新型コロナウイルスの流行を受けて、「通院するのが怖い」と感じる喘息患者さんもいらっしゃるかもしれません。
しかし、喘息は慢性的な呼吸器疾患であり、症状を安定させるためには長期間にわたる治療と定期的な管理が欠かせません。
感染を恐れるあまり治療を中断してしまうと、発作のリスクが高まったり、急な症状悪化で入院が必要になる場合もあります。
通院に不安を感じる場合は、自己判断で診察をキャンセルしたり、処方薬を中止したりせず、必ずかかりつけの医師に相談することが重要です。









