睡眠時無呼吸症候群の治療でうつ病の症状が改善?

睡眠時無呼吸症候群の症状として「日中の眠気」「集中力の低下」「やる気が出ない」などがありますが、これらの症状はうつ病の症状とよく似ています。
そのため、うつ病と診断された人が、実は睡眠時無呼吸症候群であることも少なくありません。また、睡眠時無呼吸症候群とうつ病を併発することもよくあります。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群とうつ病の関係について解説します。
「最近、眠りが浅い」「朝起きた時に気分が悪い」「うつ病の治療をしてもよくならない」という方は、ぜひ読んでください。
目次
1.睡眠時無呼吸症候群の影響とリスク
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、眠っている間に呼吸が何度も止まり、体が低酸素状態になることを繰り返す病気です。
この低酸素状態が続くと、脳や全身の臓器に慢性的なストレスを与え、睡眠の質を著しく低下させます。
1-1.睡眠時無呼吸症候群になりやすい人
睡眠時無呼吸症候群は、肥満によって空気の通り道である気道に脂肪がつき狭くなった人や、もともと下あごが小さい人に起こりやすい傾向があります。
また、更年期のホルモンバランスの変化や、加齢による筋肉の緩みも発症リスクを高めます。
1-2.睡眠時無呼吸症候群の症状とメンタルへの影響
この病気の主な症状は、日中の強い眠気や倦怠感、頭痛、激しいいびきですが、気分の落ち込みや抑うつ、不安、集中力の低下など、メンタル面の不調も現れることがあります。
また、睡眠が断片化されることで脳内の神経伝達物質のバランスが乱れ、うつ症状や情緒不安定が悪化することも報告されています。
さらに、睡眠不足による慢性的な疲労感や意欲低下は、仕事や日常生活のパフォーマンスにも影響を及ぼします。
1-3.放置した場合のリスク
睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放置すると、低酸素状態や交感神経の過剰活性化により、血管や心臓、脳に負担がかかります。
その結果、心筋梗塞や脳卒中、高血圧、糖尿病など、命にかかわる重大な合併症を引き起こすリスクも高まります。
さらに、うつや不安などのメンタル不調が慢性化すると、生活の質(QOL)が大幅に低下する恐れもあります。
2.うつ病とはどんな病気か
うつ病とは、「気分が落ち込む」「やる気が出ない」などの精神的な症状とともに、「眠れない」「疲れやすい」などの身体的な症状が続く病気です。
2-1.健康な人の気分の落ち込みとの違い
健康な人でも、気分が落ち込んだり、なんだか疲れやすいと感じることはありますが、通常は時間とともに回復したり、休養や気分転換でリフレッシュすることができます。
しかし、うつ病の場合はなかなか症状が回復せず、不眠や疲労のほか、「何もする気がしない」「何をしても楽しくない」「ちょっとしたことで怒ったり自分を責めたりする」という気分の障害が続きます。
その結果、職場や学校に行けなくなったり、仕事や身支度ができなくなるなど、日常生活に支障をきたすようになります。
2-2.うつ病の原因と発症のきっかけ
うつ病の原因は、まだはっきりとわかっていませんが、セロトニンやノルアドレナリンなどの脳の神経伝達物質の働きにトラブルが起きることで発症するのではないかと考えられています。
親しい人の死や離婚、受験の失敗、いじめ、闘病などのつらい出来事が、うつ病を発症するきっかけとなることがあります。一方で、結婚や昇進などの喜ばしい出来事も、環境が大きく変わることがストレスとなり、やはり発症のきっかけとなることがあります。
【参考情報】『うつ病』こころの情報サイト|国立精神・神経医療センター 精神保健研究所
https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=9D2BdBaF8nGgVLbL
3.睡眠時無呼吸症候群とうつ病の関係
うつ病などの精神疾患がある人は、睡眠時無呼吸症候群にかかるリスクが高いことが、複数の研究で報告されています。
3-1.精神疾患で睡眠時無呼吸症候群が発症するリスク
精神疾患が睡眠時無呼吸症候群のリスクを高める背景には、以下の要因があります。
<体重増加による気道狭窄>
うつ病や統合失調症などの患者さんは、症状によって日常の活動量が低下し、運動不足や食欲変化で体重が増えることがあります。
【参考情報】『Depression, emotional eating and long-term weight changes: a population-based prospective study』BMC
https://ijbnpa.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12966-019-0791-8
体重が増えて肥満体型になると、のどの周囲に脂肪がつくことで空気の通り道である気道が狭くなり、睡眠中に呼吸が止まりやすくなります。
<薬剤の影響>
精神疾患の治療薬や睡眠導入剤の中には、舌や喉の筋肉の緊張を緩める作用を持つものがあります。
このような薬を服用している人は、睡眠中に舌や軟口蓋が気道に落ち込み、呼吸が途切れることが発症の一因となります。
3-2.予防と対策
睡眠時無呼吸症候群によって睡眠が断片化されると、日中の強い眠気や倦怠感だけでなく、うつ症状や不安、集中力低下などのメンタル面の不調がさらに悪化する可能性があります。
精神疾患を抱える人が睡眠時無呼吸症候群のリスクを下げるためには、次のような対策を試してみてください。
・寝室の環境を整える:暗く静かで快適な温度にする
・寝る直前のスマホ・パソコンを控える:睡眠の質向上に役立つ
・仰向けを避けて横向きで寝る:気道の閉塞を軽減
・枕の高さを調整:首や顎の位置を安定させ、気道の圧迫を減らす
・アルコールの摂取を控えめにする:筋肉の緩みを防ぐ
・睡眠時無呼吸症候群の検査:病気の有無を早めに確認
・睡眠導入剤や抗うつ薬:呼吸への影響がある場合、医師に相談
これらの対策により、睡眠時無呼吸症候群の発症リスクや症状の悪化を抑えることが可能です。小さく簡単にできることから始め、積み重ねるのが効果的です。
【参考情報】『精神疾患と睡眠時無呼吸症候群』内村直尚
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1120090906.pdf
4.睡眠時無呼吸症候群の患者さんはうつ病になりやすい
一方で、睡眠時無呼吸症候群の患者さんが、うつ病を発症するリスクが高いことも報告されています。
4-1.睡眠時無呼吸症候群が脳と睡眠に与える影響
睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に呼吸が繰り返し止まることで低酸素状態が生じ、深い睡眠(ノンレム睡眠)が十分に確保できなくなります。
このように睡眠が途切れがちになると、脳の休息や神経伝達物質のバランスを乱す原因となり、日中の疲労感や意欲低下だけでなく、気分の落ち込みや不安感などの精神症状の悪化につながる可能性があると考えられています。
【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群(SAS)と精神疾患 ― SASとうつ病との関係 ―』内村直尚,土生川光成
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1100020094.pdf
さらに、睡眠不足が続くと、脳の感情をコントロールする部分である扁桃体の働きが弱くなることがわかっています。このことが、抑うつや不安などの強化につながるとされています。
【参考情報】『Sleep Debt Elicits Negative Emotional Reaction through Diminished Amygdala-Anterior Cingulate Functional Connectivity』PLOS ONE
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0056578
4-2.睡眠時無呼吸症候群と精神症状の関係
また、睡眠時無呼吸症候群によって日中の過剰な眠気や集中力低下が生じると、仕事や学業、家事などの活動が困難になり、それ自体が心理的ストレスとなって抑うつや不安を増幅させる要因にもなります。
加えて、慢性的な睡眠の質の低下は、脳内の神経伝達物質のバランスにも影響し、セロトニンやドーパミン、ノルアドレナリンなど気分に関わる物質の働きを乱すことで、気分の落ち込みや情緒不安定をさらに悪化させることが知られています。
このように、睡眠時無呼吸症候群は単に呼吸の問題だけでなく、睡眠の断片化や低酸素、脳機能への影響を通じて、うつ病などの精神症状のリスクを高める病態であると考えられています。
5.睡眠時無呼吸症候群の治療でうつ病の症状が改善
睡眠時無呼吸症候群の治療をすることで、うつ病の症状が改善されることがあります。その理由は2つあります。
5−1.うつ病と睡眠時無呼吸症候群を併発していた場合
うつ病などの精神疾患の患者さんは睡眠時無呼吸症候群にかかりやすいことは、研究の結果明らかになっています。
しかし、自分が睡眠時無呼吸症候群であるという自覚がない人や、問診や検査で病気を発見されていない人は、適切な治療が受けられません。
うつ病の患者さんは、「眠れない」「寝つきが悪い」などの睡眠障害を訴えることが多いのですが、睡眠時無呼吸症候群を併発している場合、この病気の治療をすることによって睡眠の質が改善し、うつ病の症状が軽減することもあります。
家族やパートナーから激しいいびきを指摘されている人や、自分のいびきの音で目が覚める人、夜中に悪夢で目が覚めることが多い人は、睡眠時無呼吸症候群の検査ができる病院で相談してみることをおすすめします。
5−2.うつ病ではなく、睡眠時無呼吸症候群だった場合
うつ病と診断された人が、実はうつ病ではなく、睡眠時無呼吸症候群のためよく似た症状に悩まされている場合もあります。
その場合、抗うつ剤を服用してもなかなか効果を感じられないのですが、睡眠時無呼吸症候群の治療を開始すると、日中の眠気ややる気のなさが改善される可能性があります。
うつ病の治療を受けている人で、「激しいいびき」「肥満」「下あごが小さい」など、睡眠時無呼吸症候群のサインがある人は、念のため、医師に相談するといいでしょう。
6.おわりに
睡眠時無呼吸症候群とうつ病の症状は似ているため混同しやすい上に、併発することもあるので注意が必要です。
うつ病の患者さんは、睡眠時無呼吸症候群のリスクがあることを認識し、自分に当てはまる可能性があると思ったら、検査ができる病院を受診してください。
診断を受け、治療を開始すると、睡眠の質が上がることが期待できます。睡眠の質が上がれば、心身の疲労などの症状が改善しやすくなるとともに、心筋梗塞や脳卒中のリスクを下げることもできます。










