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なぜ、睡眠時無呼吸症候群の人は悪夢を見るのか

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2023年05月11日

「何かに追われる」「誰かに叱られる」など、不安や恐怖を伴う夢を「悪夢」と言います。

悪夢は誰でも見るものですが、頻繁に見るようなら、強いストレスや何らかの病気が原因となっている可能性があります。

この記事では、悪夢を見る原因のひとつとして考えられる病気である睡眠時無呼吸症候群について説明します。

「最近、いやな夢ばかり見る」「悪夢でしばしば睡眠が中断する」という悩みがある方は、ぜひ読んでください。

1.人はなぜ悪夢を見るのか


人間は、体を休める「レム睡眠」と、脳を休める「ノンレム睡眠」を繰り返しながら眠ります。そして、起きた後でもはっきり覚えているような夢は、レム睡眠中に見ることがわかっています。

レム睡眠中には、脳の中の「扁桃体」という感情を司る部分の活動が活発になります。そのため、不安や恐怖などの感情が起こりやすくなります。

レム睡眠は、一晩に3、4回ほど訪れ、私たちはそのたびに夢を見ているのですが、通常は内容を忘れてしまいます。しかし、悪夢は印象が強烈なので記憶に残りやすくなるのです。

悪夢をよく見る原因としては、仕事のストレスや生活の不安、病気や事故などのネガティブな出来事が挙げられます。その他、寝不足やお酒の飲みすぎ、降圧剤や抗うつ剤、抗ヒスタミン薬の副作用などもあります。

【参考情報】『夢の情動体験発生起序と機能的意義に関する研究』小川景子
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24730622/

2.睡眠時無呼吸症候群と悪夢の関係

睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に一時的に呼吸が止まり、無呼吸状態を繰り返す病気です。

無呼吸になるたびに、体が低酸素状態となるため苦しくなり、患者さんは自分では気づかなくても一瞬目が覚めています。この時の「苦しい」という気持ちが悪夢を引き起こし、記憶に残っている可能性があります。

重症になると、1時間に30回以上無呼吸を繰り返すため、そのたびに苦しくなります。すると、一晩中悪夢やうめき声、いびき、寝言などを繰り返し、熟睡できなくなります。

◆「睡眠時無呼吸症候群」についてもっと詳しく>>

◆「あなたの危険度チェック!」>>

3.睡眠時無呼吸症候群の症状

睡眠時無呼吸症候群になると、睡眠の質も量も低下するため、昼間の眠気や起床時のだるさなどの症状が現れます。

◆「昼間の眠気」について>>

また、全身の低酸素状態が続くことで、心臓や血管、脳に負担がかかるため、心筋梗塞や脳卒中のリスクが上がります。

◆「合併症」について>>

睡眠時無呼吸症候群を放っておくと、心筋梗塞や脳卒中による突然死の危険があるだけではなく、仕事中や運転中に眠ってしまい、社会的信用を失う恐れもあります。

悪夢のほか、「昼間の眠気」「激しいいびき」「起床時の疲れ」が続いている方は、なるべく早く検査のできる病院を受診してください。

◆「そのいびき、病気のせいかもしれません」>>

4.検査と治療

睡眠時無呼吸症候群の疑いがあれば、まずは問診で症状や生活習慣などをお尋ねします。

問診で病気の可能性があると判断したら、患者さんの自宅でできる簡易検査を行います。

◆「簡易検査」について詳しく>>

簡易検査の結果、睡眠時無呼吸症候群の可能性が高いと判断されたら、医療機関で精密検査を行います。

◆「精密検査」について詳しく>>

治療には、CPAP(シーパップ)をはじめとした睡眠中の呼吸を助ける装置を用います。それと同時に、生活習慣を見直したり、肥満や鼻の病気など、病気を引き起こすもととなる原因を改善していきます。

◆「治療のゴール」について

5.悪夢を見るほかの病気


睡眠時無呼吸症候群以外の病気でも、悪夢が増えることがあります。

5−1.レム睡眠行動障害

高齢の男性に多くみられる病気です。「追いかけられる」「けんかをする」などの悪夢を見て、夢の内容と同じような行動をしたり、叫んだりします。パーキンソン病やレビー小体型認知症の早期症状として現れる場合もあります。

【参考情報】『レム睡眠行動障害』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-070.html

5−2.心臓の病気

狭心症や心不全など、心臓の病気が原因で悪夢を見ることがあります。就寝中に「攣縮(れんしゅく)」と呼ばれる冠動脈の異常な収縮が起こり、その時に胸が苦しくなって目が覚めたり、悪夢を見ることがあります。

5−3.夜間低血糖

夜間睡眠中に低血糖になると、血糖値を上げるためにアドレナリンやノルアドレナリン、コルチゾールなどのホルモンが放出されます。すると、眠りが妨げられ悪夢を見やすくなります。

◆「糖尿病予備軍は「血糖値スパイク」を要チェック!」>>

5−4.その他の病気

その他、うつ病や統合失調症、てんかん、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)などの病気で悪夢を見やすくことがあります。

子どもは大人より悪夢を見ることが多いです。悪夢のせいで泣いたり叫んだりすることがあっても、多くは成長につれ減っていきます。

【参考情報】『Nightmare disorder』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/nightmare-disorder/symptoms-causes/syc-20353515

◆「睡眠時無呼吸症候群の治療でうつ病の症状が改善?」>>

6.おわりに

悪夢の原因として、ストレスやうつ病、PTSDなどメンタルヘルスの問題も考えられますが、意外な病気が潜んでいることもあります。

特に、肥満の方、糖尿病や高血圧などの持病がある方、激しいいびきを繰り返している方は、睡眠時無呼吸症候が原因で悪夢に悩まされている可能性があります。

思い当たる方は、早めに睡眠時無呼吸症候群の検査ができる病院を受診して相談してください。放っておくと、ますます睡眠が妨げられ、日常生活に支障が出てくる可能性が高いです。

◆「当院の睡眠時無呼吸症候群治療について」>>

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