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クループ症候群で現れる咳の特徴と対処法

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年11月22日

風邪のような症状が出た後に、犬の遠吠えやオットセイの鳴き声のような咳が現れたら、クループ症候群の疑いがあります。

ただの風邪だと思っていたのに、突然このような咳が出たら驚いてしまうでしょうし、何か深刻な病気なのでは?と不安になるかもしれません。

この記事では、クループ症候群と呼ばれる症状と特徴について解説します。病院を受診する目安や咳を和らげる対処法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

1.クループ症候群とは何か


クループ症候群とは、風邪などの呼吸器感染症により、のどが炎症を起こして気道が狭くなることで引き起こされる症状です。

◆「呼吸器感染症」について詳しく>>


【クループ症候群の原因となる主なウイルス】

 ・パラインフルエンザウイルス

 RSウイルス

 アデノウイルス

 コロナウイルス 


さらに、クループ症候群の新しい原因ウイルスとして、ヒトメタニューモウイルスも確認されています。
ヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus: hMPV)は、2001年にオランダで発見された比較的新しいウイルスです。

【hMPV感染によるクループの特徴】

・流行時期:春季(3月~6月)に多発
・年齢分布:1歳~2歳が感染しやすい
・症状の特徴:RSウイルスに類似した経過

RSウイルスと似た、咳や鼻水、発熱などで、息苦しさを感じるといった症状を引き起こします。

感染力が非常に強く、発症と再発を繰り返し、10歳までにほぼすべての子どもが発症すると言われています。
通常1週間ほどで回復しますが、発症した場合は水分を十分に摂り、安静にしましょう。

【参考情報】『ヒト・メタニューモウイルス』日本ウイルス学会
https://jsv.umin.jp/journal/v56-2pdf/virus56-2_173-182.pdf

【参考情報】『ヒトメタニューモウイルス感染症』千葉医師会
https://www.chiba-city-med.or.jp/column/154.html

ウイルスのほか、細菌やアレルギーが原因となって症状が引き起こされることもあります。

【参考情報】”Croup” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/croup/symptoms-causes/syc-20350348

【参考情報】”Croup: MedlinePlus Medical Encyclopedia” by U.S. National Library of Medicine
https://medlineplus.gov/ency/article/000959.htm

2.クループ症候群の症状


クループ症候群では、以下のような症状が現れます。

 ・声がかすれる

 ・声が出なくなる

 ・犬の遠吠えのような「ケンケン」という咳が出る

 ・オットセイの鳴き声のような「オウッオウッ」という咳が出る

 ・呼吸が苦しくなる

最初は軽い咳や鼻水、くしゃみなど風邪のような症状が現れ、その後、声がかすれていくようになります。

炎症により、のどの奥にある声を出す部分が狭くなると、犬の遠吠えのような咳やオットセイの鳴き声のような、特徴的な咳が出るようになります。

クループ症候群は、特に乳幼児によく見られます。

日中は元気でも、夜間に急に症状が悪化することがあるので、小さい子どもが風邪をひいたときは、呼吸の状態など症状の変化を注意深く観察してください。

◆「その症状、本当にただの風邪?」>>

【参考情報】”Clinical Overview of Human Parainfluenza Viruses (HPIVs)” by U.S. Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/parainfluenza/hcp/clinical-overview/index.html

3.クループ症候群の夜間悪化時の対処法

クループ症候群は夜間に症状が悪化しやすい特徴があります。

夜間に症状が悪化した場合、以下のリストを用いて状態をチェックしましょう。
ひとつでもチェックが入る場合重症化するリスクがありますので、すぐに受診しましょう。

【夜間悪化時のチェックリスト】

☐ 顔色は悪くないか?

☐ 息を吸うときに胸がへこんでいないか?

☐ よだれは出ていないか?

<夜間悪化時に即座にできる対処法>

・抱っこして安心させる :泣かせないことが最重要

・加湿する:湿度40~60%を目指す

・冷たい空気を吸わせる : 屋外に連れ出すか冷凍庫の前へ

<夜間の応急加湿方法>

・浴室の蒸気:熱いシャワーを出しっぱなしにする

・濡れタオル:部屋に濡れたタオルを数枚干す

・洗濯物:濡れた洗濯物を室内に干す

【参考情報】『クループ症候群について』杉並区医師会
https://www.sgn.tokyo.med.or.jp/hanasi/index.php?no=20240613

【参考情報】”Croup: MedlinePlus Medical Encyclopedia” by U.S. National Library of Medicine
https://medlineplus.gov/ency/article/000959.htm

4.診察と治療


クループ症候群の診察と治療について説明します。

4-1.診察


クループ症候群が疑われる時、病院では以下のようなことを確認していきます。

 ・息を吸うときに「ヒューヒュー」とした音(吸気性喘鳴)がないか

 ・声が枯れていないか

 ・息がしっかり吸えているか
 
 ・どのような音の咳がするか

 ・体内の酸素が足りているか(酸素飽和濃度) 

特徴的な咳が出たらスマホなどで録音しておき、診察時に医師に聞かせて確認してもらうのもいいでしょう。

また、クループ症候群の診察では、医師は症状の重症度を評価するために「Westleyクループスコア」という国際的な評価スケールを使用することがあります。
このスコアは以下の5つの項目で評価します。

1. 意識レベル:0~5点(正常~意識障害あり)
2. チアノーゼ:0~4点(なし~安静時あり)
3. 喘鳴:0~2点(なし~安静時にも聞こえる)
4. 空気の入り:0~1点(正常~低下)
5. 陥没呼吸:0~3点(なし~高度)

合計点数が0-2点なら軽症、3-7点なら中等症、8点以上は重症と評価します。重症度に応じて治療方針が決定されるため、この評価は非常に重要です。

【参考情報】『小児救急科におけるクループの転帰予測におけるウェストリースコアと臨床因子』National liberty of medical
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28556543/

4-2.検査


診察後、さらに体の状態を確認する必要があれば、検査を行います。

X線(レントゲン)検査では、首のあたりの画像を撮影し、気道の炎症や閉塞を確認します。

さらに、血液検査でウイルスの有無などを確認することもあります。

◆「レントゲン写真」から呼吸器内科でわかること>>

◆「呼吸器内科で行われる専門的な検査」について>>

4-3.治療


気道の腫れを抑えるため、ボスミンという薬剤を吸入したり、デカドロンというステロイド薬を内服することがあります。

その他、咳や痰を抑える薬や、気管支を拡げる薬を使用することもあります。

呼吸困難などで症状が重くなった場合は、入院や酸素投与が必要となることもあります。

症状が軽いときは、十分な水分補給と安静により回復を目指していきます。

【参考情報】”Diagnosis and Treatment of Croup” by Am Fam Physician / NCBI
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29763253/

5.受診の目安


クループ症候群が疑われる時の受診の目安と適した診療科は以下の通りです。

5-1.受診の目安


症状が軽い場合は自宅での療養も可能ですが、咳がひどくてつらそうな場合は病院の受診を検討しましょう。

特に、以下のような症状が現れて呼吸が困難な様子なら、すぐに病院を受診してください。


【呼吸困難時に起こる症状】

 ・息を吸うたびに「キューキュー」と大きな呼吸音が聞こえる

 ・呼吸時に鎖骨や肋骨のくぼみがへこむ(陥没呼吸)

 ・ぐったりしている

 ・くちびるの色が悪い

 ・苦しくて横になれない 


小さい子どもは、軽症だと思っていても急に症状が悪化することがあるため、咳や呼吸の状態をしっかり確認するようにしましょう。

【参考情報】”Croup in Young Children: Treatment and When to Call the Doctor” by American Academy of Pediatrics
https://www.healthychildren.org/English/health-issues/conditions/chest-lungs/Pages/Croup-Treatment.aspx

5-2.何科を受診すればいいのか


基本的には小児科、あるいは耳鼻科を受診してください。

呼吸が苦しくてつらそうなときは、すぐに治療が必要なので、直ちに救急外来を受診してください。

6.家庭でのケア


自宅で咳などの症状を和らげたいときは、以下の方法を試してみてください

6-1.部屋の加湿


部屋が乾燥していると、気道の粘膜も乾燥して刺激に敏感となります。すると、咳が出やすくなります。

加湿器を利用したり、濡れたタオルなどを部屋に干して、室内の湿度を40~60%に保つようにしましょう。

◆「加湿器を選ぶポイントと注意点」>>

6-2.水分補給


のどの乾燥を予防するためには、水分補給も大切です。

ただし、冷たい飲み物はのどを刺激するため、温かい飲み物がおすすめです。

温かい飲み物を摂ると、鼻やのどが加湿され、痰も出やすくなります。

6-3.背中をさする


背中をさすったり、軽くトントンとたたいて痰の排出を助けることも、咳や息苦しさを和らげるのに効果的です。

6-4.上半身を高くして寝る


上半身を少し高くして寝ることで、気道の圧迫がおさえられ、咳や息苦しさを軽減することが期待できます。

クッションや毛布などを背中に当て30~45°ほどに上半身を高くし、楽な姿勢を維持できるように調整してください。

上半身を少し高くして寝ると、気道の圧迫が軽減され、咳や息苦しさが和らぐ可能性があります。

背中にクッションや毛布などを置き、上半身を少し起こした状態で、安静に過ごしてください。

7.おわりに

クループ症候群は、軽症で済むことが多いのですが、急に悪化して呼吸困難を起こしてしまうと命にかかわることもあります。

小さい子どもが咳をしていたら、症状をこまめに観察し、少しでもおかしいと感じることがあれば、医療機関を受診してください。

喘息や咳喘息などの患者さんは、もともと気道に炎症があるので、風邪などによりクループ症候群が生じると、症状が悪化する恐れがあります。

声枯れなどの症状が治まっても咳がしつこく長引いている場合は、呼吸器内科を受診してください。

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【参考情報】”Croup in Children: Hopkins Medicine” by Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/croup

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