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新型コロナウイルス感染症に関する10の用語集

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年11月11日
コロナウイルス用語集

新型コロナウイルス感染症のニュースが日々報道されていますが、専門用語や聞き慣れない言葉が多く使われているので、少々わかりにくいと感じることもあると思います。

この記事では、報道でよく使われる基本的な専門用語をわかりやすく説明します。情報を正しく理解するために、ぜひ役立ててください。

1.これだけは知っておきたい10のキーワード


新型コロナウイルスの報道でよく使われる用語の中で、特に話題となったものを選んで解説します。

1-1.パンデミック

「パンデミック」とは、感染症や伝染病が特定の地域にとどまらず、世界的に広がり大流行している状態を指します。

地域的な流行(エピデミック)や国単位での流行(アウトブレイク)と比べ、パンデミックは複数の大陸や国に影響を及ぼすのが特徴です。

その影響は健康面だけでなく、経済、社会、教育、国際関係にも及ぶことがあります。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については、2020年3月11日、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が公式にパンデミックと認定しました。

【参考情報】『Coronavirus disease (COVID-19) pandemic』WHO
https://www.who.int/europe/emergencies/situations/covid-19

これにより、各国政府は緊急対策や国境管理、医療体制の強化を進め、ワクチン開発や社会的距離の確保、マスク着用などの予防措置が世界的に推奨されるようになりました。

パンデミック宣言は単なる言葉ではなく、国際社会全体で感染拡大を抑えるための行動指針としての意味を持っています。

さらに、新型コロナのパンデミックは、従来のインフルエンザなどの流行とは異なり、無症状者からの感染や変異株の出現によって、感染拡大のスピードと範囲が予測しにくいという特徴も持っていました。

これが、世界各国でのロックダウンや緊急事態宣言、医療リソースの逼迫など、社会生活全般に大きな影響を与える要因となりました。

1-2.クラスター

小規模な感染者の集団を「クラスター」と呼びます。クラスターは、限られた場所やコミュニティ内で複数の感染者が発生する現象で、学校、職場、医療施設、飲食店、イベント会場など、さまざまな環境で起こり得ます。

実際に、新型コロナウイルスの初期段階では、クルーズ船やナイトクラブ、ライブハウス、スポーツイベントなどで多くのクラスターが報告されました。

狭い空間に大勢の人が長時間滞在し、会話や食事を行うと、ウイルスが他の人に広がりやすくなります。

特に換気が不十分で距離が近い環境では、1人の感染者が多数の人に感染させることがあり、「スーパースプレッダー」と呼ばれる現象もクラスター発生の一因となります。

【参考情報】『スーパー・スプレッダー(Super Spreader)』東京都感染症情報センター
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/sars/spreader/

また、クラスターは単なる人数の問題ではなく、感染経路や環境条件によって発生リスクが大きく変わります。

例えば、手指消毒やマスク着用、換気の徹底、参加者の健康状態の把握などの対策を行うことで、同じ場所でもクラスターの発生を大幅に抑えることが可能です。

このため、クラスターの分析は感染症対策の基本であり、感染拡大を防ぐ上で重要な指標となります。

1-3.濃厚接触者

新型コロナウイルスに感染した患者に対して、特定の条件下で接触した人を「濃厚接触者」と呼びます。

具体的には、患者の発症の2日前から症状が出る前までの間に、約1メートル程度の距離で、マスクをせずに15分以上会話をした場合などが該当します。

過去には、濃厚接触者と判断されると、感染拡大を防ぐために保健所から自宅待機や外出自粛の指示が出されることが一般的でした。

特に家庭内や職場での二次感染を防ぐことを目的に、待機期間中の行動制限や健康観察が義務付けられていました。

しかし、2023年5月8日より、新型コロナウイルスはインフルエンザと同じ「5類感染症」に移行したことにより、濃厚接触者に対して従来の自宅待機や外出自粛の義務は求められなくなりました。

【参考情報】『新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/corona5rui.html

現在は、発症者や接触者自身の健康状態を観察しつつ、症状がある場合はマスクの着用や医療機関への相談を行うことが推奨されています。

この変更により、社会活動や経済活動への影響を最小限に抑えながら、個人の自己管理と感染防止策を組み合わせる形での対応が進められています。

◆「新型コロナウイルスに感染しない・させない予防法」>>

1-4.PCR検査

PCR

(写真)富士レビオ株式会社 エスプライン® SARS-CoV-2
https://www.fujirebio.co.jp/

体液の中に含まれるウイルスの遺伝子を検出する検査です。

検査では、主に鼻の奥の上咽頭(のどの奥)や喉の粘液を、長い綿棒で採取します。この粘液中のウイルス遺伝子を増幅させることで、微量でも感染の有無を判定できるのが特徴です。

検査の結果が陽性であれば感染している可能性が高く、陰性であれば現時点で感染していないと判断されます。しかし、PCR検査にはいくつかの注意点があります。

たとえば、感染初期や発症前の段階では体内のウイルス量が少ないため、十分にウイルスを採取できず、陰性となる場合があります。

また、採取方法や検査機関の精度によっても結果が左右されることがあります。

さらに、PCR検査は感染の有無を判断する方法として非常に高精度ですが、ウイルスが体内に存在していても、すぐに症状が出るわけではありません。

感染後すぐの検査や、軽症者・無症状者の場合には、複数回検査を行うことが推奨される場合もあります。

加えて、陽性判定が出ても感染力の強さや症状の重さを直接示すものではないため、医師や保健所の指示に従った行動が重要です。

PCR検査は、迅速で正確な感染状況の把握に欠かせない手段であり、感染拡大防止や早期対応の基盤として社会全体で活用されています。

1-5.3密

新型コロナウイルス感染症が特に発生しやすい条件として、「密閉・密集・密接」の3つの場面、いわゆる「3密」が指摘されています。

これらは、ウイルスが飛沫やエアロゾルを介して人から人へ伝わりやすくなる環境を表しています。


<密閉>
換気が不十分で空気が滞留する場所を指します。具体例としてはカラオケボックス、エレベーター、地下街、密閉型の飲食店などがあります。

換気が悪いとウイルスが空気中に長く漂い、感染リスクが高まります。

<密集>
人が多く集まって混雑している状態を指します。テーマパーク、コンサート会場、通勤電車、スポーツイベントなど、人と人の距離が十分に取れない環境が該当します。

多くの人が近くにいるほど、感染者がいた場合の拡大の可能性が高くなります。

<密接>
近距離での会話や発声、身体的接触を伴う状況を指します。立ち話、合唱、会議でのディスカッション、接客業での対応などが例です。

息を吐くことでウイルスが飛沫や微小な粒子(エアロゾル)として周囲に広がるため、距離が近いほど感染しやすくなります。


これらの3密は単独でもリスクになりますが、複数の条件が重なると感染リスクはさらに高まります。

たとえば、換気の悪い室内で大勢が密集し、近距離で会話をしている場合は、感染が急速に広がる典型的なクラスター発生の場となります。

そのため、日常生活や職場、公共の場では、換気の徹底、人数制限、マスク着用、会話を控える工夫などを組み合わせることで、3密の条件を避け、感染リスクを下げることが推奨されています。

【参考資料】『3つの密』首相官邸
https://www.kantei.go.jp/jp/content/000061234.pdf

1-6.ソーシャル・ディスタンス

ソーシャルディスタンス
感染症の拡大を防ぐために、人と人との間に一定の物理的な距離を保つことを指します。

具体的な例としては、スーパーやコンビニのレジで前の人との間隔を空ける(目安として1〜2メートル程度)、レジや受付カウンターに透明の仕切り板を設置する、などがあります。

また、飲食店やイベント会場でも、テーブルや座席の間隔を広く取る、行列では足元に目印を付けて距離を意識させる、といった工夫が行われています。

さらに、ソーシャル・ディスタンスは単に距離を取るだけでなく、人が密集しやすい時間帯や場所を避けることも含まれます。

たとえば、混雑する通勤時間をずらす、人気の商業施設のピーク時を避けて買い物する、オンライン会議やリモート学習を活用して対面での接触を減らす、といった行動も距離を保つ効果があります。

こうした対策を組み合わせることで、飛沫や接触による感染を減らし、個人だけでなく社会全体の感染拡大を抑えることが可能です。

◆「コロナと呼吸器の病気」の関係>>

1-7.集団免疫

ある感染症に対して、地域の人口のうち大部分の人が免疫を獲得すれば、その地域での流行は広がらず、感染症の拡大が収まっていくという考え方です。

【参考資料】『Herd immunity and COVID-19: What you need to know』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/coronavirus/in-depth/herd-immunity-and-coronavirus/art-20486808

集団免疫を獲得するには、自然に感染する人が増えた結果そうなるのと、ワクチンを打つことで免疫を獲得した人を増やす方法があります。

スウェーデンでは、外出禁止などの厳しい制限を設けずに、緩やかに集団免疫を獲得しようという独自の対策がとられていました。

◆「新型コロナウイルス感染症の咳の特徴」>>

1-8.変異株

新型コロナウイルスは、複製の過程で遺伝子に変異が生じやすい性質があります。

そのため、世界各地で感染が広がる中、ウイルスの性質が少しずつ変化した「変異株」が次々に出現しました。

変異株とは、従来の株と比べて感染力や症状、ワクチンへの反応などが異なる可能性のある株を指します。


【代表的な変異株】

・アルファ株(B.1.1.7)
2020年にイギリスで確認され、従来株より感染力が高く、急速な拡大を引き起こしました。

・デルタ株(B.1.617.2)
インドで出現し、感染力が非常に強く、重症化リスクも高いことが報告されました。

・オミクロン株(B.1.1.529)
南アフリカで確認され、感染力は極めて高いものの、重症化率は比較的低い傾向があります。


最近注目されている変異株の一つに、NB.1.8.1(ニンバス) があります。ニンバスは海外で報告されている監視対象株で、感染力が高いことが示唆されています。

また、喉の痛みなど特徴的な症状が報道されていますが、重症化リスクやワクチン効果への影響についてはまだ明確なデータは出ていません。

◆「ニンバス株」の情報をチェック>>

変異株は、感染力の変化や再感染の可能性に影響することがあるため、最新情報を確認しつつ、マスクの着用、手洗い、換気など基本的な感染対策を継続することが重要です。

1-9.ブレイクスルー感染

ブレイクスルー感染とは、ワクチンを接種して十分な免疫を持っているにもかかわらず、感染してしまうことを指します。

【参考資料】『ワクチン接種後の「ブレイクスルー感染」に注意』東京都保健医療局
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/031202_01

ワクチンは重症化や死亡リスクを大幅に下げる効果がありますが、感染そのものを完全に防ぐわけではありません。

特に感染力の強い変異株(オミクロン株やニンバスなど)が広がると、ワクチン接種者でも一時的にウイルスに感染する可能性があります。

ブレイクスルー感染が起きた場合でも、多くの場合は症状が軽く済む、あるいは無症状で済むことが多いと報告されています。

また、ワクチン接種者は、感染しても重症化リスクや入院リスクが低いことが確認されています。

ブレイクスルー感染はワクチンの効果がないわけではなく、あくまで感染リスクを減らしつつ、重症化を防ぐ手段の一部と考えることが重要です。

1-10.エアロゾル感染

エアロゾル感染とは、感染者が呼吸、会話、咳、くしゃみなどで排出する非常に小さな飛沫粒子(5μm未満程度)を介して感染が広がる経路を指します。

これらの微小な粒子は空気中に長時間漂い、遠く離れた人が吸い込むことで感染する可能性があります。

新型コロナウイルスは、飛沫感染だけでなくエアロゾル感染によっても広がることが確認されており、特に換気の悪い室内や密集した場所で感染リスクが高まります。

たとえば、会議室、飲食店、カラオケボックス、ジムなど、空気が滞留しやすい環境では、1人の感染者が多くの人にウイルスを広げる可能性があります。

【参考資料】『Recognition of aerosol transmission of infectious agents: a commentary』BMC
https://bmcinfectdis.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12879-019-3707-y

2.おわりに

新型コロナウイルス感染症の研究が進むにつれ、今後もさらに新しい言葉や考え方が生まれてくるかもしれません。また、新しい薬や治療法が開発される可能性もあります。

◆新型コロナウイルス感染症治療薬「パキロビッド」の特徴と効果、副作用>>

基本的な用語を押さえておくと、最新のニュースも理解しやすくなります。この記事をベースに、ぜひ今後も有益な情報をキャッチしてください。

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