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結核とはどんな病気?呼吸器内科の専門医が解説します

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年11月25日
結核菌1

かつて「不治の病」と恐れられた結核ですが、戦後に死亡者は大きく減りました。しかし、結核が過去の病気になったわけではありません。

欧米では、結核罹患率(新規・再発の発生率)が人口10万人あたり10例未満の「低まん延国」が大半を占めます。一方、日本は長らく10例以上の水準にあり、中まん延国と位置づけられてきました。

2023年の罹患率は約9.3例/10万人と、低まん延国に近い水準になりましたが、それでも年間1万人規模の新規患者が発生しており、高齢者や免疫力が低い人を中心に注意が必要です。

この記事では、結核についての基本的な内容から治療方法までを幅広く解説します。咳や微熱が続いている人や、風邪のような症状がなかなかよくならない人は、ぜひ読んでください。

1. 結核とは?いまも日本でみられる感染症


結核は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)という細菌によって、主に肺に炎症を起こす感染症です。

【参考情報】『About Tuberculosis』CDC
https://www.cdc.gov/tb/about/index.html

かつては日本でも死亡原因の上位に入っていましたが、抗結核薬の普及や生活環境の改善により大きく減少しました。

とはいえ、いまも年間1万人前後が発症しており、決して「過去の病気」とは言えません。

【参考情報】『2024年 結核登録者情報調査年報集計結果について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000175095_00016.html

近年では高齢者の発症が多い一方で、糖尿病や免疫抑制薬での治療を受けている人、長時間労働やストレスで体力が落ちている若年層にもみられるケースがあります。

結核は、感染してもすぐに発症するとは限らず、体の抵抗力が落ちたときに再び菌が活動を始めることがあります。

初期症状は風邪や気管支炎と似ているため、「単なる風邪」と思い込んでしまう人も多いです。しかし、放置してしまうと、周囲に感染を広げる恐れがあります。

2. 結核の初期症状と見分け方


結核の症状は、最初は咳や微熱など軽い体調不良から始まることが多く、風邪と見分けがつきにくいのが特徴です。

ただし、風邪が1〜2週間で治まるのに対し、結核では3週間以上咳が続くことがあります。

また、咳の回数が多くなったり、痰が濁ったりするほか、食欲不振や体重の減少を伴うこともあります。

肺炎との違いは、発熱の程度と経過にあります。肺炎は急激に高熱が出ることが多いのに対し、結核は微熱や倦怠感が長期間続く傾向があります。

病気の進行はゆるやかでも、肺の奥で炎症が広がっている可能性があるため注意が必要です。

3. 結核は何科を受診すればいい?


2〜3週間以上咳が治まらない場合や、夜間の咳・体重減少がある場合は、症状を放置せず医師に相談しましょう。

結核が疑われる場合、まず受診すべきなのは呼吸器内科です。

結核は主に肺に感染するため、呼吸器内科で行われる胸部X線(レントゲン)や喀痰(かくたん)検査によって、肺の状態を詳しく調べることができます。

◆「呼吸器内科とはどんなところ?」>>

もし近くに呼吸器内科がない場合は、まず一般内科を受診しても構いません。必要に応じて専門医への紹介が行われます。

受診の際は、発症の経過をできるだけ詳しく伝えることが大切です。咳の期間、発熱の有無、体重の変化、既往歴、身近な人の感染情報などが診断の手がかりになります。

結核は感染症法に定められた「二類感染症」に分類されており、医師が結核を疑った時点で保健所に報告し、診断や治療は公的な支援体制のもとで行われます。

【参考情報】『感染症の範囲及び類型について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/0000040509.pdf

感染が確認されても、医療機関や保健所のサポート体制が整っているため、必要以上に不安を抱える必要はありません。

結核は早期に治療を開始すれば回復が見込める病気です。自己判断で放置せず、早めに医療機関に相談しましょう。

4. 感染経路と「うつる」条件


結核は空気中に漂う微細な粒子を吸い込むことでうつりますが、日常的な短時間の接触で感染することはまれです。

感染が起こりやすい場面や、家庭・職場で患者が出た場合の対応、発症前の段階である潜在性結核感染症について概要を押さえておきましょう。

4-1. どの程度の接触で感染する?

結核は、感染者の咳やくしゃみに含まれる微細な飛沫を吸い込むことで感染します。一般的な飛沫感染よりも粒子が細かく、空気中を長く漂うため、空気感染の一種とされています。

ただし、会話程度の短い接触でうつることは少なく、密閉空間で長時間一緒に過ごすような場合に感染のリスクが高まります。たとえば、家族・同居人・職場の同じ部屋などで長く接していた場合が典型的です。

感染してもすぐに発症するわけではなく、体の抵抗力が落ちたときに潜んでいた菌が活動を始めることがあります。

4-2. 家庭・職場での感染リスク

家庭内や職場で結核の患者が確認された場合、保健所が中心となって「接触者健診」を実施します。これは、同じ空間で過ごした人たちに対して胸部X線や血液検査を行い、感染の有無を確認する仕組みです。

感染していても発症していない場合(潜在性結核感染症)は、予防のための内服治療が検討されることがあります。早い段階で感染状況を把握し、適切な管理を行うことが、周囲への拡大を防ぐうえで非常に重要です。

日常生活では、十分な換気と咳エチケットが基本的な感染対策になります。特に咳が出るときはマスクを着用し、人との距離をとることが推奨されます。

◆「咳エチケット」について詳しく>>

4-3. 潜在性結核感染症(LTBI)とは?

結核菌に感染していても、実際には発症していない状態を「潜在性結核感染症(Latent Tuberculosis Infection:LTBI)」といいます。

【参考情報】『潜在性結核感染症』日本医療研究開発機構
https://www.amed.go.jp/content/000138991.pdf

体の中に菌は潜んでいますが、免疫が働いているため症状は出ていません。この段階では人にうつす心配もありません。

しかし、加齢や病気、薬の影響などで免疫力が低下すると、菌が再び活動を始めて発症することがあります。

特に、高齢者、糖尿病患者・ステロイドや免疫抑制薬を使用している人では、発症リスクが高いといわれています。

潜在性結核感染症と診断された場合には、医師の判断で薬の予防内服が行われることがあります。主にイソニアジドという薬を6〜9か月服用し、体内の菌を完全に抑える方法です。

5. 検査と診断の方法


結核の診断は、画像検査と菌を直接確認する検査を組み合わせて行います。

保健所の支援体制もあるため、検査から治療まで一貫したフォローが受けられます。

5-1. 胸部X線・CT・喀痰検査

結核を疑う場合、最初に行われるのは胸部X線(レントゲン)検査です。肺に影(浸潤影)が見られる場合、さらに胸部CTで範囲や性状を確認します。

◆「レントゲン写真から、呼吸器内科でわかること」>>

診断の確定には、喀痰(かくたん)検査が欠かせません。痰を顕微鏡で調べて結核菌を確認する「塗抹検査」や、培養による菌の同定を行います。近年では、遺伝子検査(PCR法)によって短時間で結核菌を検出できる検査も普及しています。

このように、結核の診断には「画像」と「菌の検出」の両方が重要です。いずれか片方だけでは確定できない場合があるため、複数の検査結果を組み合わせて総合的に判断します。

5-2. IGRA(インターフェロンγ遊離試験)

感染の有無を調べるために行われる血液検査がIGRA(イグラ)です。結核菌に特有の抗原を使い、体の免疫細胞が反応するかどうかを確認します。

【参考情報】『IGRA検査について』免疫診断研究所
https://www.riid.or.jp/contents/category/about-igra/

この検査は、過去にBCG接種を受けていても影響を受けにくく、精度が高いのが特徴です。

主に、発症していないけれど感染の可能性がある「潜在性結核感染症(LTBI)」の診断に利用されます。

5-3. 保健所での検査体制

結核は感染症法に基づく届出対象疾患のため、保健所でも検査体制が整えられています。地域によっては、医師の紹介状があれば無料で検査を受けられる場合もあります。

結核と診断された場合、治療の経過は保健所が医療機関と連携して継続的にフォローします。

このように、結核の診断から治療・社会復帰までには公的な支援が整っているため、患者本人が費用や手続きの面で過度に心配する必要はありません。

6. 治療内容と期間


結核の治療は、複数の抗結核薬を組み合わせて長期間続けることが基本です。

治療を中断せず継続することが、再発防止と周囲への感染予防につながります。

6-1. 標準治療薬(抗結核薬)の基本

結核の治療は、複数の抗結核薬を組み合わせて長期間服用するのが基本です。

代表的な薬には、イソニアジド(INH)・リファンピシン(RFP)・ピラジナミド(PZA)・エタンブトール(EB)などがあり、通常は4剤を併用して菌の増殖を抑えます。

このように複数の薬を使うのは、薬への耐性(耐性菌)を防ぐためです。治療期間は一般的に6か月前後ですが、菌の種類や治療経過によっては1年以上かかることもあります。

【参考情報】『薬剤耐性(AMR)について学ぼう!』AMR臨床リファレンスセンター
https://amr.jihs.go.jp/general/1-2-1.html

6-2. 副作用と対処

抗結核薬は効果が高い反面、肝機能障害や発疹、視神経症などの副作用が起こることがあります。そのため、治療中は定期的に血液検査を行い、異常がないかを確認します。

【参考情報】『視神経症(視神経炎)』日本眼科学会
https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=32

もし副作用が見られた場合は、薬の種類や量を調整することで多くは対応可能です。自己判断で中断すると再発や耐性化を招く恐れがあるため、医師の指示に従って治療を続けることが大切です。

6-3. 入院・隔離の必要性

結核の中でも、喀痰検査で菌が検出される「排菌期」には、感染を防ぐため一定期間の入院・隔離が行われます。治療を続けて菌が出なくなれば、自宅療養に切り替えられます。

入院期間は個人差がありますが、一般的には2〜3週間程度で退院できるケースが多く、退院後も服薬を継続します。

治療を中断せず、最後までしっかり続けることで再発や周囲への感染を防ぐことができます。

7. 再発や感染を防ぐための予防策


日本では、生後1歳未満の乳児にBCGワクチンの接種が義務付けられています。BCGは重症化(髄膜炎や粟粒結核など)を防ぐ効果があり、子どもの命を守る重要な予防策です。

【参考情報】『BCGワクチン』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/bcg/index.html

ただし、BCGは成人の肺結核を完全に防ぐものではなく、免疫の効果も時間とともに弱まります。成人や高齢者では、ワクチンだけに頼らず、健康状態を整えることが重要です。

結核は空気感染するため、閉め切った空間で長時間過ごすことが最大のリスクになります。特に冬季など室内の空気がこもりやすい時期は注意が必要です。

発症を防ぐためには、体のサインを見逃さないことも大切です。「咳が長引く」「体重が減る」「微熱が続く」といった変化に気づいたら、早めに医療機関に相談しましょう。

◆「長引く咳の原因は?」>>

8. おわりに

結核は、いまも毎年多くの人が発症している感染症です。咳や微熱が長く続く場合、まずは呼吸器内科を受診し、胸部X線や喀痰検査で原因を調べることが大切です。

感染は空気を介して広がりますが、早期に発見して治療を始めれば回復が見込める病気です。長期間の治療には根気が必要ですが、医療機関や保健所の支援体制が整っているため、安心して治療を続けることができます。

「結核は昔の病気」と思い込まず、疑わしい症状があれば、早めに専門医に相談してください。自分と周囲を守る第一歩は、正しい知識と行動です。

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