65歳になったら肺炎球菌ワクチンを受けましょう

65歳になると、自治体から肺炎球菌のワクチンを接種するための案内が届きます。
しかし、予防接種の有効性を理解している人はまだ少ないようで、ワクチン接種率は最も高い65歳でも4割程度にとどまっています。
【参考情報】『65 歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方』国立感染症研究所
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/o65haienV/o65haienV_240401.pdf
この記事では、肺炎で亡くなる方や苦しむ方を一人でも減らすことができるよう、肺炎球菌の恐ろしさとなぜ予防接種が必要なのかを説明します。
目次
1.肺炎球菌は肺炎の原因第一位
肺炎球菌とは、その名の通り肺炎を引き起こす強力な細菌です。
肺炎を引き起こす病原体は、インフルエンザウイルスやマイコプラズマなどほかにもありますが、肺炎の原因第一位は肺炎球菌です。
図:市中肺炎の病因
出典:Pfizer HP(おとなの肺炎球菌感染症.jp)
http://otona-haienkyukin.jp/
1-1.肺炎球菌とは
肺炎球菌は「莢膜(きょうまく)」と呼ばれる厚い膜で覆われています。
そのため、細菌を攻撃する白血球から逃れることができ、より深く体内に侵入できるというやっかいな性質を持っています。
肺炎球菌に感染すると、肺炎のほか、中耳炎や副鼻腔炎、そして、命にかかわる疾患である髄膜炎や敗血症にかかることがあります。
治療には抗菌薬を用いますが、近年は抗菌薬への耐性を持つ毒性の強い菌が現れ、重症化が問題となっています。
実は、健康な人の鼻や喉にも肺炎球菌があることは珍しくないのですが、普段は何も悪いことはしません。
しかし体力が落ちてきたときや、インフルエンザなどにかかって気道の粘膜が傷ついたときに増殖を始め、肺炎を引き起こすのです。
1-2.高齢者のリスク
高齢者は免疫機能が低下しているため、肺炎球菌が肺へ侵入しやすくなり、肺炎にかかるリスクが高くなります。
65歳以上の侵襲性(しんしゅうせい)肺炎球菌感染症(IPD)の患者のうち、約半数が基礎疾患を持っており、特に糖尿病、慢性心疾患、慢性肺疾患、アルコール依存症、慢性肝疾患などが挙げられます。
また、免疫不全状態にある方(がん治療中、ステロイド療法中、透析中、自己免疫疾患など)は特に注意が必要です。
【参考情報】”About Pneumococcal Disease” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/pneumococcal/about/index.html
2.【最新版】肺炎球菌ワクチン2種類の違いと特徴
肺炎球菌には100種類以上の血清型があります。
ここでは、ニューモバックス(PPSV23) と プレベナー20(PCV20) の特徴をわかりやすくまとめます。
2-1.ニューモバックス
ニューモバックスは23種類の肺炎球菌に対応しているワクチンです。
長年使われている実績があり、特に 重い肺炎や、菌血症・髄膜炎といった侵襲性肺炎球菌感染症(IPD) を防ぐ目的で広く使用されています。
ニューモバックスは、1回の接種で5年ほど免疫が続き、肺炎球菌による肺炎が予防できます。
もし感染した場合でも軽症で済み、重症化を抑える効果があります。
対象年齢である65歳から5年ごとに接種することが推奨されています。
65歳以上で5歳刻みの対象年齢にあたる方は、初めてニューモバックスを接種する方に限り、多くの自治体で公費の補助があります。
対象となる年度以外の接種、2回目以降の接種は全額自費となります。
呼吸器や心臓などの持病や障害がある方も、助成の対象になることがあります。
詳しくはお住まいの市区町村のホームページで確認するか、かかりつけ医に問い合わせてください。
2-2.プレベナー20
2024年に成人向けに承認された、新しい“20価”の肺炎球菌結合型ワクチンです。
従来のプレベナー13(PCV13)から対象型が7種類増え、免疫がつきやすく、効果が長く続きやすいとされています。
プレベナー20は、日本では2024年から成人向けが使用できるようになりましたが、任意の摂取(自費)になるケースが多いです。
それでも、肺炎の重症化を防ぐ効果が期待できることから、65歳以上の方や、呼吸器や心臓などの持病や障害があり肺炎のリスクが高い方は、医師と相談しぜひ接種を検討してください。
【参考情報】「肺炎球菌ワクチンに関するQ&A」日本臨床内科医会
https://haienkyukin.info/
2-3.ワクチン接種の注意点
ニューモバックスとプレベナー20、この2種類の肺炎球菌ワクチンを接種することで、肺炎球菌による肺炎の予防効果はより高まると考えられています。
2種類をどのようなタイミングで接種すればよいのかは、ワクチンの接種歴や体調によっても変わってくるので、医師に相談してみましょう。
また、令和6年1月以降、成人用肺炎球菌ワクチンの定期予防接種がテレビCM等のメディアで扱われたことがありました。
既に定期接種を受けられたことのある方が未接種と思い込み、誤って再度定期接種を受けようとする事例がおきています。
成人用肺炎球菌ワクチンを定期接種として受けられるのは生涯1回限りです。
2回目以降は全額自己負担の任意接種でしか接種を受けられませんのでご注意ください。
【参考情報】「成人用肺炎球菌ワクチン予防接種」横浜市
https://www.city.yokohama.lg.jp/kenko-iryo-fukushi/kenko-iryo/yobosesshu/yobosesshu/seijinhaikyuu.html
【参考情報】”Pneumococcal Vaccination” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/vaccines/vpd/pneumo/index.html
【参考情報】”Recommended Vaccines for Adults | Pneumococcal” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/pneumococcal/vaccines/adults.html
3.肺炎球菌ワクチン接種を受けられない方・注意が必要な方
以下に該当する方はワクチンの接種を受けることができなかったり、注意が必要になります。
接種前に必ず医師と相談するようにしましょう。
■ワクチン接種を受けることができない方
・明らかに発熱している方(通常37.5℃以上)
・重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな方
・過去に肺炎球菌ワクチンでアナフィラキシーを起こしたことがある方
・過去5年以内に肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)を接種したことがある方
※5年以内の再接種は、注射部位の痛みや腫れなどの副反応が強く出る可能性があるため避けてください
■接種に注意が必要な方(慎重投与)
・心臓病、腎臓病、肝臓病、血液疾患などの基礎疾患がある方
・過去の予防接種で、接種後2日以内に発熱や全身性の発疹などのアレルギー症状が出たことがある方
・けいれん(ひきつけ)を起こしたことがある方
・過去に免疫不全の診断を受けた方、または近親者に先天性免疫不全症の方がいる方
・妊娠中または妊娠している可能性のある方
■接種前の確認事項
接種を受ける際には、必ず予診票に正確な情報を記入し、医師の問診を受けてください。
体調が優れないときや不安なことがある場合は、無理に接種せず、医師に相談しましょう。
【参考情報】「高齢者の肺炎球菌ワクチン」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/pneumococcus-senior/index.html
【参考情報】「肺炎球菌ワクチン再接種に関するガイドライン」日本感染症学会
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/pneumococcus_vaccine.pdf
【参考情報】”Pneumococcal Vaccine Safety” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/vaccine-safety/vaccines/pneumococcal.html
4.インフルエンザワクチンも接種して予防効果をアップ
インフルエンザは時期によっては猛威を振るうことがありますが、高齢者は特に注意し、かからないように努めるべきです。
インフルエンザで死亡する人のほとんどが、引き続き発症した肺炎のため亡くなっています。
その肺炎の原因で最も多いのが肺炎球菌です。
65歳以上の方、持病などで肺炎のリスクが高い方には、肺炎球菌ワクチンに加え、インフルエンザワクチンの接種も強くおすすめします。
インフルエンザにかかると気道の粘膜が傷つけられ、それをきっかけに肺炎球菌が肺に侵入しやすくなります。
高齢や持病などでもともと呼吸器が弱っている人がインフルエンザにかかり、さらに呼吸機能が低下したところに肺炎球菌が肺に侵入してしまうと、急な肺炎で命を落とすことも少なくないのです。
インフルエンザの予防接種は例年10月末頃から始まります。
肺炎球菌ワクチンと同時に接種しても健康には問題ないので、どちらも接種して予防効果を高めましょう。
肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンは、同日に異なる部位(左右の腕など)に同時接種することが可能です。
複数の研究により、同時接種による副反応の増加はなく、安全性と有効性が確認されています。
同時接種により、医療機関への受診回数を減らせるメリットもあります。
5.おわりに
肺炎球菌ワクチンの接種後、接種部位に痛みや赤み、腫れや筋肉痛など副反応が出る場合があります。
通常2~3日で治まりますが、体調の変化などがあれば、すぐに医師に相談してください。
肺炎は恐ろしい病気ですが、最も多い原因である肺炎球菌のワクチンを接種することで、感染のリスクを抑えることができます。
65歳以上の対象年齢の方、持病があり肺炎にかかりやすくなっている方は、ぜひワクチンで予防に努めましょう。











