喘息発作とパニック発作の違いと見分け方

喘息患者さんにとって、最も恐ろしいのが喘息発作でしょう。
急に息が苦しくなり、
✅このまま息ができなくなるのではないか
✅もしかして死ぬのではないか
そんな強い不安を感じた人もいるのでははないでしょうか。
また、喘息発作は強い息苦しさを伴うため、その苦しさから不安が一気に高まり、パニック障害の発作のような状態になることがあります。
そのため、「この苦しさは喘息によるものなのか?」「それともパニック発作なのか?」と混乱してしまう人も少なくありません。
この記事では、「喘息」と「パニック」がどのように異なるのか、どのような場面で関連して現れやすいのかを整理したうえで、それぞれの対処の考え方や注意点について解説します。
1.まず確認!喘息発作の基本対応
喘息発作は、発作の強度によって、小発作・中発作・大発作に分けられます。
発作が起こったら、まずは落ち着いて、自分の発作の程度を見極めましょう。
1-1.小発作(軽い発作)の場合
<主な状態>
・軽い息苦しさや咳が出る
・会話は問題なくできる
・横になることはできる
<対応>
・上体を起こした楽な姿勢をとる
・処方されている発作治療薬を、医師の指示どおりに使用
・症状が十分に改善しなければ、20分後に追加で薬を吸入
・追加吸入してもよくならなければ、速やかに救急外来を受診
1-2.中発作(やや強い発作)の場合
<主な状態>
・明らかな息苦しさがある
・会話が苦しく、息を継ぎながら途切れ途切れに話す
・苦しくて横になれない
<対応>
・小発作と同様に、上体を起こした姿勢を保つ
・処方されている発作治療薬を、医師の指示どおりに使用
・症状が十分に改善しなければ、20分後に追加で薬を吸入
・追加吸入してもよくならなければ、速やかに救急外来を受診
1-3.大発作(重い発作)の場合
<主な状態>
・息苦しくて動けない
・会話がほとんどできない
・呼吸が速く、肩で息をしている
・唇の色や顔色が悪い
・意識がぼんやりしている
<対応>
・緊急性が高いので、すぐに救急要請(119番)を行う
・救急隊が到着するまでの間、可能であれば、処方されている発作治療薬を使用
【参考情報】『発作が起こったら…』独立行政法人環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/control/attack.html
1-4.発作に備えて準備しておくこと
発作時は、メプチンなどの発作治療薬(リリーバー)の使用や救急外来への受診のタイミングなどが非常に重要となります。
万が一発作が起きた時にはどうすればよいのかということを、発作のレベル別に事前に確認しておきましょう。
中発作や大発作では、思うように話したり動いたりできないことがあります。自分だけで吸入薬を使うのが難しい場合もあるため、発作時の対応方法は家族や周囲と共有しておくことが大切です。
特に小児の場合は、学校などで過ごす時間が長いため、教師をはじめとする大人のサポートが欠かせません。入園や入学の前には、必ず事前に協力をお願いしておきましょう。
◆「喘息の子どもが保育園・幼稚園に入る前に知っておきたいこと」>>
2. 喘息発作とパニック障害の発作はどう違う?
喘息発作とパニック障害の発作は、どちらも息苦しさを強く感じるため混同されやすい面があります。
ただし、原因や体の中で起きていること、対処法は大きく異なります。
2-1. 喘息発作の特徴
喘息発作は、気道に慢性的な炎症がある状態で、アレルゲンや冷気、感染、運動などの刺激が加わることで起こります。
刺激により気道が収縮し、粘膜の腫れや痰の増加が生じるため、空気の通り道が狭くなります。その結果、特に息を吐くときに強い苦しさを感じやすくなります。
代表的な症状は、咳、息苦しさ、喘鳴(ぜんめい:ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音)で、夜間や早朝に起こりやすい傾向があります。
【参考情報】『Wheezing』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/symptoms/15203-wheezing
発作時は、メプチンやサルタノールなどの発作治療薬を使用すると、気道が広がり、比較的短時間で症状が軽減することが多いです。
ただし、改善が乏しい場合や症状が強い場合は、医療機関での対応が必要になります。
2-2. パニック障害の発作の特徴
パニック障害の発作は、自律神経の急激な乱れによって起こります。明確なきっかけがなく、突然、強い不安や恐怖が一気に高まるのが特徴です。
動悸、息が吸えない感じ、過呼吸、めまい、手足のしびれなどが同時に現れ、「このまま死んでしまうのではないか」という強い恐怖を伴うこともあります。
医療機関で検査を行っても、明らかな異常が見つからないケースが多く、吸入薬を使っても喘息のような改善は見られません。
発作は数分から長くても1時間程度で自然におさまることが一般的です。
パニック障害の主な治療法は、薬物療法(抗うつ薬や抗不安薬など)と精神療法(特に認知行動療法)の組み合わせとなります。
【参考情報】『パニック障害(不安障害)』こころもメンテしよう(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/know/know_02.html
2-3. 喘息発作とパニック発作を見分けるポイント
喘息発作とパニック発作の違いをわかりやすく比較しました。
| 項目 | 喘息発作 | パニック発作 |
|---|---|---|
| 喘鳴(ゼーゼー) | あり | なし |
| 咳 | 多い | 少ない |
| 発作治療薬の反応 | 改善しやすい | ほとんど改善しない |
| 発作の継続時間 | 長引く場合あり | 数分〜1時間程度 |
| 主なきっかけ | アレルギー・気道刺激 | 強い不安・ストレス |
症状の見分け方や、対応の参考としてご活用ください。
3. 喘息が引き金になってパニックが起こることはある?
喘息発作で強い息苦しさが起こると、身体的な症状だけでなく、場合によってはパニック障害の発作に似た症状が現れることもあります。
3-1.喘息発作の呼吸困難と心理的影響
喘息発作では、気道が炎症や収縮によって狭くなるため、「息が吸いにくい」「息が吐ききれない」といった強い呼吸困難感が生じます。この呼吸の苦しさは身体的に辛いだけでなく、心理的な不安を誘発することもあります。
特に、過去に重い喘息発作を経験した人では、その記憶がトラウマのように残り、わずかな息苦しさでも「また発作が起きるのではないか」「このまま呼吸が止まるのではないか」と不安が一気に高まることがあります。
このように、喘息発作による呼吸困難と、息ができない恐怖や不安による心理的反応が影響し合うと、動悸、過呼吸、めまい、手足のしびれなど、パニック障害の発作に似た症状が出ることがあります。
そして、心理的な緊張や過呼吸によって呼吸パターンが乱れると、酸素と二酸化炭素のバランスが一時的に崩れ、症状がさらに強まることもあります。
【参考情報】『Hyperventilation in panic disorder and asthma: empirical evidence and clinical strategies』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20685222/
3-2.喘息発作とパニック発作の違い
しかし、似たような症状があったとしても、喘息発作とパニック障害の発作は、原因や仕組みが違います。
喘息は気道の慢性的な炎症による呼吸器の病気なので、不安や緊張の有無にかかわらず発作が起こることがあります。
これに対してパニック発作は、強い不安や恐怖がきっかけで自律神経が急に反応して起こる症状で、呼吸器の問題はほとんどありません。
喘息発作のときに不安が強くなることはありますが、それが必ずパニック発作というわけではありません。
3-3.ストレスと症状の関係
喘息とパニック障害はまったく違う病気ですが、どちらの場合もストレスや心理的な不安が症状に影響を及ぼす点は共通しています。
喘息発作を防ぐには、普段から喘息をしっかりコントロールしておくことが基本です。そのためには、吸入薬をきちんと使い、発作を誘発しやすい環境や状況を避けることが大切です。
また、ストレスや不安を軽くするため、深呼吸やリラクゼーション、姿勢の工夫などで心身を落ち着ける習慣を取り入れましょう。
4.喘息と不安・ストレスの関連性
喘息患者では、ストレスや不安が高まると呼吸症状が悪化することがあります。このため、心理的な要因は喘息管理において無視できない重要な要素です。
4-1.ストレスが喘息症状を悪化させる
長期的なストレスは、免疫や自律神経に影響を与え、気道の炎症を悪化させる可能性があります。その結果、咳や息切れ、喘鳴などの症状が増え、発作の頻度や重症度にも影響を及ぼすことがあります。
【参考情報】『Stress and inflammation in exacerbations of asthma』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17493786/
また、ストレスによる過呼吸や胸の緊張は、気道の狭まりを自覚的に強く感じさせ、実際の症状を増幅させる場合もあります。
4-2.ストレスコントロールで発作を予防
こうした背景から、日常的にストレスや発作のきっかけを把握することが有効です。日誌や記録をつけ、発作が起きた状況、気分の変化、環境の要因などを書き留めることで、自分の喘息症状とストレスの関連性を把握できます。これにより、発作の予防策や対処法を計画しやすくなります。
さらに、日々の生活でストレスを軽減する習慣を取り入れることも大切です。深呼吸やリラクゼーション法、軽い運動や散歩、十分な睡眠、趣味の時間などが心身を落ち着け、呼吸症状の悪化を防ぐ助けになります。必要に応じて、心療内科や呼吸器科で心理的サポートやカウンセリングを受けることも有効です。
5.おわりに
喘息発作とパニック発作は、症状が似て見えることもありますが、原因や仕組みはまったく異なる病気で。しかし、どちらの場合もストレスや不安は症状を強める要因となります。
ストレスや不安を軽くするため、日常的に深呼吸やリラクゼーションなどで心身を落ち着ける工夫は有効ですが、「呼吸が苦しい」「発作が多い」「発作の原因がはっきりしない」といった場合は、呼吸器専門医に相談してください。
安心して日常生活を送るためにも、気になる症状がある場合は早めの受診をおすすめします。













