喘息患者のめまいとは?気圧・薬の影響など医師目線で解説

「咳が続いたあとに、めまいがする」と訴える喘息患者さんがいます。
実は、喘息の症状としてめまいが現れるとは言えないのですが、それでも発作や天気の変化をきっかけに、「ふらつく」「頭がぼんやりする」と訴える人は少なくありません。
その背景には、呼吸の乱れだけでなく、自律神経や気圧変動、吸入薬の副作用など、複数の要因が関わります。
この記事では、喘息とめまいの関係を整理してまとめました。喘息以外の病気でめまいが生じている可能性もあるので、ぜひご確認ください。
目次
1. 喘息の人がめまいを感じるのはなぜ?
めまいはさまざまな要因で起こりますが、喘息と関連して生じる代表的な原因を解説します。
1-1. 発作時にめまいを感じる理由
喘息発作が起こると気道が狭くなり、息をうまく吐けなくなります。その結果、呼吸は乱れ、特に重症の発作時は、必要な酸素をうまく取り込めなくなることがあります。
こうした変化で体内の酸素や二酸化炭素のバランスが一時的に崩れ、頭がぼんやりしたり、ふらつきを感じたりする場合があります。
1-2. 咳のしすぎによる一時的なふらつき
咳が続くと、胸やお腹に強い圧力がかかることがあります。このとき、一時的に血圧や心臓への負担が変化し、数秒間だけ脳への血流がわずかに減ることがあります。
そのため、ふわっとした感覚や軽いめまいを感じることがありますが、通常は短時間で回復する一過性の現象です。
1-3. 睡眠不足やストレス
喘息は夜間や明け方に症状が出やすい特徴があります。そのため、咳や息苦しさで眠りが浅くなったり、夜中に目が覚めることが続くと、自律神経のバランスが乱れ、日中にふらつきや頭がぼーっとする感覚を感じやすくなります。
また、「いつ発作が起きるのだろう」という不安から呼吸が浅くなり、体が緊張した状態が続くと、めまいや頭の重さを強く感じることもあります。
2. 喘息の薬とめまいの関係
喘息の治療薬は発作を防ぎ、日常生活を安定させるために重要ですが、人によっては使用中に「めまい」「ふらつき」を感じることがあります。
2-1. β2刺激薬の影響
喘息の治療で使う吸入薬のうち、気道を広げる作用のあるβ2(ベータツー)刺激薬の副作用として、めまいやふらつきを感じることがあります。
これは、薬が心拍数を一時的に上げたり、血管を広げる作用を持つため、その影響で軽い立ちくらみや手足のふるえ、ふわっとした感覚が起こる場合があります。
特に、吸入薬を多く使ったときや、初めて使用したとき、高齢者や循環器疾患のある人は症状が出やすくなります。
2-2. 経口ステロイド薬の副作用
喘息治療で用いられる経口ステロイド薬(プレドニゾロンなど)では、副作用としてめまいが生じる可能性があります。
◆「喘息治療に用いるステロイド薬・プレドニゾロンの特徴と効果、副作用」>>
めまいはステロイド自体が直接引き起こすわけではなく、薬の影響で心拍数や血圧が変動したり、体液や血糖のバランスが変わることによって起こると考えられています。
2-3. テオフィリン製剤の副作用
喘息治療で用いられるテオフィリン製剤は気管支を広げる作用を持つ薬ですが、血中濃度が高くなると中枢神経や心臓に影響を及ぼし、めまいや動悸、吐き気、不眠などの症状が現れることがあります。
安全に使用するためには、処方された用量を守り、定期的に血中濃度のチェックを行うことが重要です。
3.気圧の変化とめまい・喘息の関係
喘息の症状は、気候や気圧の変化で変わることが知られています。
特に、低気圧や高湿度、寒暖差などの影響で、喘息発作のリスクが高まるだけでなく、めまいを引き起こす原因にもなることがあります。
3-1. 低気圧で喘息が悪化しやすい理由
低気圧や天候の急変は、喘息患者の気道を刺激し、普段なら反応しない程度のアレルゲンにも過敏になりやすくなります。
また、低気圧が近づくと気温が急に変化することがあります。この温度差は自律神経に負担をかけ、体調の変動を引き起こすことがあります。
3-2. 気圧の変化でめまいが起こる仕組み
気圧が急激に下がるときや季節の変わり目など、環境が大きく変動するときには、体がその変化にうまく対応できず、めまいやふらつきを感じることがあります。
また、気圧が下がると、内耳がその変化に敏感に反応し、体のバランスを保つ役割をもつ前庭器官に負担がかかることがあります。すると、めまいが起きることがあります。
【参考情報】『Vestibular System』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/body/vestibular-system
4.めまいの原因となる病気
喘息の患者さんがめまいを感じるとき、喘息とは別の病気が原因となっていることも少なくありません。
この章では、めまいが生じる主な病気を紹介します。
4-1. 貧血
貧血になると、血液中の赤血球が減って酸素を運ぶ力が弱くなるため、体のすみずみまで酸素を十分に運ぶことが難しくなります。
そのため、頭のふらつきや目の前が暗くなる感じ、立ちくらみなどの症状が出ることがあります。
<貧血の主な症状>
・立ち上がったときにふらつきやすい
・顔色が悪い、疲れやすい、手足が冷える
・進行すると動悸や息切れが出る
貧血は血液検査で簡単に確認できます。めまいが頻繁に起こる場合は、早めに検査を受けて原因を確かめることをおすすめします。
4-2. 内耳性めまい
内耳は体のバランスを保つ役割を持つ器官で、ここに異常や炎症が起こるとめまいが生じます。こうしためまいを「内耳性めまい」と呼び、主に以下の病気が関係しています。
<良性発作性頭位めまい症>
加齢や頭部の打撲、耳の感染症などがきっかけで、内耳の中にある小さな耳石(カルシウムの粒)が本来あるべき場所からずれて三半規管の中に入り込むと、頭の動きに応じて異常な信号が脳に伝わり、めまいが起こります。
<メニエール病>
内耳の液体バランスが崩れることで起こる病気です。耳鳴りや難聴とともに、めまいが生じることがあります。
【参考情報】『メニエル病とは?』日本医師会
https://www.med.or.jp/forest/check/meniel/01.html
<中耳炎・内耳炎>
感染症による耳の炎症が原因で平衡感覚が乱れ、めまいを引き起こします。
これらの病気では、めまいと同時に耳鳴りや耳の違和感などが現れます。耳に異常を感じた場合は、早めに耳鼻科での検査を受けることが重要です。
4-3. 中枢性めまい
脳神経に異常が起こるとめまいが生じることがあり、これを「中枢性めまい」と呼びます。
<脳卒中(脳梗塞・脳出血)>
脳の血流が妨げられることで、突然の強いめまいのほか、意識障害や言語障害、片側の手足の麻痺などが現れることがあります。
<脳腫瘍>
めまいに加え、頭痛や視力障害、手足の麻痺が伴うことがあります。慢性的にめまいが続く場合は、神経科や脳神経外科での検査が必要です。
4-4. 脱水・低血糖・起立性低血圧
めまいは、脱水症状や低血糖、起立性低血圧でも起こることがあります。
<脱水>
暑い日や運動後に水分補給を怠ると、血液量が減って血圧が下がり、めまいやふらつきを感じやすくなります。
<低血糖>
食事を抜いたり、長時間食べないことで血糖値が下がると、めまいやふらつきが起こることがあります。
<起立性低血圧>
急に立ち上がったときに、血液が下半身に集まり脳への血流が一時的に減ることでめまいを感じます。高齢者や元々血圧が低めの人に多く見られます。
【参考情報】『Orthostatic hypotension (postural hypotension)』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/orthostatic-hypotension/symptoms-causes/syc-20352548
これらの症状は、日常生活での工夫で予防可能です。水分補給や食事のタイミングに注意することが大切です。
4-5. 精神的な原因
不安障害やパニック障害など、精神的な要因がめまいの原因になることがあります。
<不安・ストレスによる過換気>
強い不安が生じると呼吸が浅く速くなり、体内の酸素と二酸化炭素のバランスが乱れます。その影響で、めまいや息苦しさを感じることがあります。
<パニック発作>
突然の強い不安や恐怖により、体が過敏に反応し、めまい、動悸、息切れなどの症状が現れます。
【参考情報】『パニック障害』国立精神・神経医療研究センター
https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease09.html
精神的な要因によるめまいは、ストレス管理やリラクゼーションで改善することがあります。しかし、症状が長引く場合や強い場合は、専門医への相談が重要です。
5. 受診を急いだ方がいいケース
めまいは、疲労や睡眠不足、空腹などでも感じることがあるので、必ずしも病気のサインとは限りません。
しかし、めまいが頻繁に起きる場合や、以下の特徴が見られる場合は、早急に病院で診察を受けることをおすすめします。
<めまいが数日間続く、または再発を繰り返す>
1回だけではなく、数日続けてめまいを感じる場合は、耳の病気や脳神経疾患の可能性があります。
<めまいが突然強くなり、動けなくなる>
ふわふわした軽いめまいではなく、物が回るような強いめまい(回転性めまい)が起こると、脳や内耳の異常が疑われる場合があります。
<薬を使い始めてからめまいが強くなる>
新しく使用した薬がめまいを引き起こしている可能性があります。薬の副作用である可能性が高い場合は、医師に相談し、薬の見直しを検討します。
<めまいに吐き気や頭痛、しびれを伴う>
めまいに加えて、吐き気や激しい頭痛、体の片側のしびれが現れる場合は、脳神経に関する問題があるかもしれません。急いで受診が必要です。
<めまいに胸の痛みや息苦しさを伴う>
めまいに加えて胸痛や息切れ、強い動悸を感じる場合、心臓や肺に関する疾患が疑われます。迅速に医療機関を受診してください。
【参考情報】『めまいとは』日本神経学会
https://www.neurology-jp.org/public/disease/memai_detail.html
6. おわりに
めまいは喘息の症状や治療薬に関連するとは限らず、他の病気が原因であることもあります。
めまいが続いたり強くなったりした場合は、自己判断で放置せず、早めに受診することが大切です。
喘息の患者さんは、体調の変化や気になる症状がある場合は、主治医に相談しましょう。
そのうえで、必要があれば、耳鼻科や脳神経内科など、適切な診療科を紹介してもらいましょう。










