喘息治療のカギとなる「気道の炎症」を抑えるには?

喘息とは、気管支が慢性の炎症を起こして気道が狭くなり、呼吸がしにくくなる病気です。
治療の基本は、気道の炎症をコントロールする薬を毎日服用して、重症化や難治化を防ぐことです。
この記事では、喘息治療で知っておきたい「炎症」について解説します。
病気を知り、治療の意味を理解して、炎症を上手にコントロールするために役立ててください。
目次
1.喘息と気道の炎症
まずは、「喘息ってどんな病気なの?」「気道の炎症って何?」ということを、日常生活のイメージを使いながら整理していきましょう。
1-1.気道は空気の通り道
気道とは、鼻や口から入った空気が、のど・気管・気管支を通って肺へ届くまでの「空気の通り道」のことです。
この「空気の通り道」を「道路」に例えてみましょう。
健康な状態の気道は、よく整備された道路のようなイメージで、道幅が広く、表面もなめらかです。
そのため、空気(車)は抵抗なくスムーズに進むことができます。
ところが、喘息ではこの気道の内側に炎症が起こり、状態が変わってきます。
炎症が続くと、例えば次のような変化が生じます。
・道の端に土砂がたまって道幅が狭くなる
・路面がデコボコして、車が進みにくくなる
・わずかな揺れや風でも影響を受けやすくなる
これが、喘息でみられる「気道の炎症」による状態です。
この慢性の炎症を抑えるために、気道の炎症をコントロールする薬を毎日服用します。
【参考情報】『気管支ぜんそく』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-01.html
1-2.炎症は症状が無くても続く
症状が出なくなったからといって、自己判断で薬をやめたり、決められた回数や量を守らなかったりすると、炎症が悪化して気道が狭くなり、刺激に敏感になっていきます。
喘息は、症状が無いときでも気道の中では炎症が続いている状態と考えられており、治療を継続することが大切なのです。
炎症というと、痛みや熱のように分かりやすく感じるものもあります。
しかし、気道の炎症は自分では気がつきにくいことが多いのです。
気道では、次のようなことが起こっています。
・気道の粘膜が、少しむくんだ状態のままになっている
・粘液(たん)がたまりやすくなっている
・気道の筋肉が、ちょっとした刺激にも反応しやすくなっている
このような状態が続くと、ちょっとしたきっかけで激しい咳が出たり、息苦しくなってしまうようになり、重症化する恐れがあります。
そうなると、炎症のコントロールがますます難しくなってしまうのです。
1-3. 大人と子どもの違い
同じ喘息でも、大人と子どもでは、症状の現れ方に違いがあります。
幼少期には、風邪をきっかけにヒューヒューという音が出たり、夜に咳き込んだり、走ったときに息苦しさを感じやすい傾向があります。
一方で成長するにつれ、咳が長く続く、胸が締めつけられるように感じる、階段や坂道で息切れする、夜中に咳で目が覚めるといった形で現れることもあるのです。
症状の現れ方はさまざまですが、その背景には共通して「気道の慢性炎症」が関わっています。
この炎症が長く続くと、年齢を重ねたときに呼吸機能が低下しやすくなることが報告されており、早い段階から炎症を抑えていくことが大切だと考えられています。
2.炎症とは
炎症とは、細菌やウイルスなど有害な異物が体に侵入した際の防御反応です。
例えば、「肺炎」は肺に侵入した細菌やウイルスと戦って肺が炎症を起こした状態、「中耳炎」は、耳の中の中耳という部分が、細菌やウイルスと戦って炎症を起こした状態を指します。
2-1. 炎症の仕組み
細菌やウイルスが体に侵入すると、体を守るために白血球がそれらと戦います。
すると、反応した場所に以下の変化が現れます。
・赤くなる
・腫れる
・熱を持つ
・痛くなる
炎症には、短期間で終わる「急性炎症」と、長引く「慢性炎症」があり、喘息は「慢性炎症」にあたります。
2-2.慢性炎症とは
炎症とは、本来は一過性のものですが、長期間にわたって続き、慢性化することがあります。
急性炎症は、痛みや腫れなどわかりやすい反応がありますが、慢性炎症は、最初のうちは反応がわかりにくく、自覚症状がないまま進行してしまう恐れがあります。
慢性炎症がある病気には、喘息のほかに、アトピー性皮膚炎、関節リウマチ、歯周病などがあります。
また、がんや糖尿病、アルツハイマー型認知症などの病気や、肥満や老化のメカニズムにも、慢性炎症が関わっていることがわかってきています。
【参考情報】『老化した細胞が炎症を引き起こすしくみを解明―非翻訳RNAが炎症関連遺伝子のスイッチをオンにする―』日本医療研究開発機構
https://www.amed.go.jp/news/release_20210824.html
2-3.炎症が続くとどうなる?
炎症が長いあいだ続くと、気道の構造そのものが少しずつ変化してしまう場合があります。
これを「気道リモデリング」と呼びます。
イメージとしては、 道路工事で何度も掘り返されるうちに、道路そのものの形が変わってしまう
表面が固く厚くなり、元のような柔らかさが失われる
といった状態です。
こうなると、治療をしても元の状態に戻るまでに時間がかかったり、完全には戻りきらなかったりすることがあります。
そのため、症状が軽いうちから炎症をしっかり抑えることがとても重要です。
【参考情報】”Pathobiology of Airway Remodeling in Asthma: The Emerging Role of Integrins” by National Institutes of Health
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9112045
3.気道の炎症の程度を調べる~呼気一酸化窒素ガス分析
喘息の疑いがあるときに、気道の炎症がどのくらいのレベルなのかを調べるには、呼気一酸化窒素ガス分析(呼気NO検査、FeNO)を行います。
3-1.呼気NO検査でわかること
呼気NO検査は、吐いた息の中に含まれる「一酸化窒素(NO)」の量を測る検査です。
気道に炎症があると、その刺激により、吐いた息の中に一酸化窒素(NO)が大量に生じます。
呼気一酸化窒素ガス分析では、専用の機器に息を吹き込み、吐いた息に含まれる一酸化窒素の数値を調べることで炎症の程度を評価します。
日本呼吸器学会では、数値が22ppb以上なら喘息の可能性があり、37ppb以上なら喘息の可能性が高いとしています。
炎症の程度が強いほど、数値が高くなります。
【参考情報】”Increased Carbon Monoxide in Exhaled Air of Asthmatic Patients” by American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine
https://www.atsjournals.org/doi/10.1164/ajrccm.156.4.96-08056
喘息の治療効果を判定するときにも、呼気一酸化窒素ガス分析を行うことがあります。
3-2.他の検査との違い
喘息や長引く咳の原因を調べる際、呼吸器内科では複数の検査を組み合わせて状態を評価します。
【胸部レントゲン・CT検査】
胸部レントゲンやCT検査は、肺炎・肺がん・腫瘍など、喘息以外の病気が隠れていないかを確認するために行います。
ただし、喘息や気道の炎症は画像検査では写らないことが多いため、画像に問題がないからといって気道に炎症がないとは限りません。
そのため、画像検査は他の病気を除外する目的で用いられるケースが多くなります。
【スパイロメトリーなどの呼吸機能検査】
スパイロメトリーなどの呼吸機能検査は、息をどれだけ強く、どれだけ多く吐けるかを測定し、気道がどの程度狭くなっているかを調べる検査です。
呼吸機能検査では、実際に空気の通り道がどれくらい影響を受けているかや、気管支を広げる薬を使った後にどの程度改善するかを確認します。
「気道の狭さ」や「呼吸のしづらさ」を評価する検査だといえます。
【呼気NO検査】
一方、呼気NO検査は、症状の有無にかかわらず、気道内で起きている炎症を「見える化」できる検査です。
喘息は、症状が落ち着いている時期でも気道の炎症が続いていることがある病気です。
呼気NO検査は、そうした目に見えない変化を数値で把握し、治療の必要性や経過を判断するための重要な手がかりとなります。
4.気道の炎症を抑える治療薬
検査で気道の炎症が分かったら、その炎症をしっかり抑える治療が必要です。
ここでは、薬の役割を整理していきます。
喘息の治療には、気道の炎症をコントロールして発作を予防する長期管理薬(コントローラー)と、発作が起きた時に治療する薬(リリーバー)が使われます。
4-1.長期管理薬(コントローラー)
長期管理薬には、吸入ステロイド薬や吸入気管支拡張薬、さらに、この2つを配合した薬があります。
長期管理薬を服用すると、荒れた気道の粘膜が修復され、狭くなった気道が広がり、炎症が抑えられます。
長期管理薬は、長く続けて使うことで効果を発揮する薬です。
症状がなくなっても、医師の指示通りに毎日服用し、気道の炎症をコントロールしてください。
【参考情報】『気管支喘息について~発作と安定期治療について~』日本呼吸器学会
https://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-gotocyuoh-200207.pdf
4-2.発作治療薬(リリーバー)
一方で、リリーバーは、喘息の発作が起きたときに、その場のつらい症状をすばやく和らげるための薬です。
急に息苦しくなったり、ゼーゼー・ヒューヒューといった呼吸音が出たりしたときに使用します。
リリーバーの主な働きは、発作によって急に収縮した気道の筋肉をゆるめ、空気の通り道を一時的に広げることです。
そのため、使用後は呼吸が楽になり、咳や息苦しさが速やかに改善します。
ただし、リリーバーは気道の炎症そのものを治す薬ではありません。
症状を一時的に抑える効果はありますが、炎症が続いている状態では、時間が経つと再び発作が起こりやすくなります。
リリーバーを頻繁に使っている場合は、気道の炎症が十分にコントロールできていないサインであることもあります。
そのため、喘息治療では、発作時にリリーバーを適切に使いながら、普段は長期管理薬を継続して使用し、気道の炎症を抑えておくことが重要です。
症状が出たときだけ治療するのではなく、症状がないときこそ炎症をコントロールするという考え方が、喘息治療の基本になります。
5.おわりに
喘息との付き合いは、いかに気道の炎症をコントロールできるかがカギとなります。
長期管理薬を毎日服用し、気道の炎症を上手にコントロールできれば、発作が起きず、元気に日々を過ごすことができます。
しかし、服薬を中断したり、生活習慣が乱れることで気道の粘膜が荒れれば、いったんよくなった症状が再び現れることがあります。
さらに、炎症を放置して発作を繰り返していると、だんだん症状が悪化して、気道の炎症をコントロールするのが難しくなります。
そうなると、今までより強い発作が現れたり、最悪の場合、呼吸困難で死に至ることもあります。
治療を中断した人は、ぜひ毎日の服薬と定期的な通院を再開し、重症化を防いでください。












