咳が止まらない時に起きている炎症とは?
咳が止まらない場合に考えるべき病気はたくさんあります。
特に、気管支の中に炎症が起こっている気管支炎や、気道の炎症によって発作が起こる喘息など、炎症によって咳が止まらない病態が発現している呼吸器疾患はいくつか存在します。
この記事では、「炎症」という現象について紹介をしながら、咳が止まらずに悩んでいる方が考えるべき呼吸器疾患について解説します。
1.炎症とは
炎症というのは、生物が本来備えている防御的な生体の反応です。広い意味では免疫反応のひとつともいえます。
たとえば、体に侵入した細菌やウイルスと免疫細胞が戦うことで炎症が生じ、発熱などのさまざまな症状が出現します。感染症だけではなく、激しいスポーツや外傷などで細胞がダメージを受けた時も体の防御反応が働き、炎症が起こります。
このように、炎症とは人体に必要不可欠な防御反応なのです。
2.炎症によって生じる症状
炎症が生じている部位にはいろいろな症状があらわれます。具体的には、発赤(赤く腫れる)、熱感(熱をもつ)、腫脹(腫れ上がる)、疼痛(痛みが出る)、などです。
また、細胞が腫れ上がることで、細胞の隙間が離れるため、そこから浸出液が漏れ出します。その浸出液が鼻水であり痰となります。鼻水や痰には、体液だけではなくウイルスや細菌と戦った免疫細胞などが含まれています。
発熱が起こり、鼻水が出て、痛みが出て、傷口が腫れる。これらは炎症という反応によって起きている症状であることが理解できます。
【参考情報】『Inflammation』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/symptoms/21660-inflammation
3.炎症が関連している呼吸器疾患
先にも述べたように、炎症とは生体が持つ防御システムです。
そのため、全ての病気や体の異常によって炎症が起こる、すべての病気に炎症が関与しているといっても間違いではありません。
この章では、吸器系の機能に特徴的な炎症が起きている病気という、より限定的な範囲で解説していきます。
3−1.気管支炎
気管支炎とはその名の通り気管支に炎症が起きている病気で、咳や痰などの症状が現れます。通常の風邪であっても気管支に炎症が起きるため、気管支炎は炎症の中心が気管支にある病気とイメージすると良いでしょう。
気管支炎の中でも、比較的短い間(数日から数週間)で症状が収まる「急性気管支炎」の多くは、インフルエンザなどのウイルスや細菌の感染によって起こります。
◆「インフルエンザ」について>>
インフルエンザウイルス感染症による劇的な症状は、タミフルなどの治療薬を使用することで、数日から1週間程度で軽快しますが、気管支付近の炎症は残ります。
そのため、インフルエンザの症状(発熱や倦怠感など)が治まった後も、数週間ほど咳や痰などの症状が続くことがあります。インフルエンザが治っても咳がいつまでも止まらないという場合は、気管支に炎症が起きている可能性があると考えられるでしょう。
また、長期間気管支に炎症が起きている場合を「慢性気管支炎」といいます。喫煙などによって気管支がダメージを受け続けることで、気管支は常に炎症が起こっている状態になります。
慢性気管支炎になると、普段から咳が止まらなくなったり、痰がからんだり、などといった症状が出るほか、季節の変化や花粉などの些細な刺激でも激しい炎症が起こりやすくなります。
日常的に咳と痰が出ており、すぐに風邪を引くようになってしまったという人は、慢性気管支炎の状態になっているかもしれません。
【参考資料】『病気が見える vol.4 呼吸器』Medic Media
https://www.byomie.com/products/vol4/
3−2.喘息
喘息には、「咳が止まらなくなる」というイメージがありますが、その病気の主体は気道の炎症です。
喘息の人の気道は、症状がないときでも常に炎症を起こしています。炎症が起こった気道は健康な人の気道よりも狭くなっており、空気が通りにくい状態になっています。
そのため、正常な気道なら問題にはならないようなホコリやタバコ、ストレスなどのわずかな刺激に対しても、気道が敏感に反応してしまうようになります。
これが喘息という病気の病態であるため、喘息の治療は気道の炎症を抑えるための薬が処方されます。
【参考情報】『Asthma』WHO
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/asthma
3−3.肺炎
肺炎とは何らかの原因により肺に炎症が起こる病気で、主に細菌やウイルスなどの感染症が原因となって肺に炎症が発生します。
また、食べ物や唾液など、物を飲み込む時に誤って気道に入ってしまうことで、肺に炎症が発生することもあります。これを、誤嚥性肺炎といいます。
肺炎の症状としては、高熱や胸の痛み、激しい咳、息切れなどの他、重症化すると呼吸困難を伴うこともあるため、入院治療が必要となることも少なくありません。
できるだけ早く原因を特定し、その原因に対する治療(細菌が原因であれば抗生物質を使用するなど)を行うことが重要ですが、具体的な原因菌やウイルスが特定できない症例も多いため、栄養療法など患者さん自身の免疫力を上げるような対策も大切です。
高齢者や嚥下機能の障害(物を飲み込む力が低下している状態)などで誤嚥性肺炎を引き起こしやすい場合は、食事の内容や食事の姿勢にも注意しましょう。
4.熱が下がっても咳が止まらない時は?
風邪の後に熱が下がって体調も改善しているのに咳だけが止まらないという場合は、気管支などに炎症が残っている可能性が考えられます。
このような状態の場合は、細菌やウイルスなどに感染しやすくなっていますので、普段以上に体調管理が重要になります。
それだけではなく、「咳だけが止まらない」「痰がいつまでも続く」という状態の時は、慢性的(長期的)に呼吸器官に炎症が起きている可能性も考えられますので、専門的な検査や診断を受けておくことがおすすめです。
5.まとめ
咳の原因が気管支炎や喘息、その他呼吸器系の炎症性疾患であった場合、呼吸器専門医による専門的な治療(吸入薬などを用いた治療)が必要になりますので、「止まらない咳」を自覚した際には、早めに呼吸器内科を受診しましょう。