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外来

気胸について

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年11月22日

突然肺に穴が開き、肺から空気が漏れてしまうことで胸痛や呼吸困難が生じる状態を気胸といいます。

気胸の原因はさまざまで、ほとんどの肺の病気が原因となり得ます。原発性自然気胸という、特定の原因がなく発症する気胸もあります。

1.気胸の症状


気胸の症状として、突然の胸痛、背中や脇腹の痛み、呼吸困難、肩こり、咳などの症状が起こります。

痛みの時間は短く、数分以内に終わります。同時に呼吸困難が生じ、その程度は肺がどの程度しぼんでいるかによります。

自覚症状は感受性やもともとの病気によるため、重症度と自覚症状は必ずしも相関しません。

また、「胸がポコポコする」「空気が皮膚の下で動く感じがする」といった“皮下気腫(ひかきしゅ)”が生じることもあります。

これは胸腔内(きょうくうない)から漏れた空気が皮下組織に入り込むためで、首や鎖骨周辺まで膨らみを感じることもあります。

【参考資料】”Pneumothorax – Symptoms and causes” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/pneumothorax/symptoms-causes/syc-20350367#:~:text=A%20pneumothorax%20(noo%2Dmoe%2D,a%20portion%20of%20the%20lung.

【参考情報】“Collapsed lung (pneumothorax) – Symptoms” by U.S. National Library of Medicine (MedlinePlus)
https://medlineplus.gov/ency/article/000087.htm

2.気胸の種類と原因


気胸と一口に言っても、その原因や背景はさまざまです。ここでは、さまざまな気胸の種類と、特徴について解説します。

2-1.代表的な気胸の種類

気胸は、原因や背景により次の4種類に分類されます。

・原発性自然気胸

特別な病気がなくても突然発症するタイプで、10〜20代の若年・高身長・痩せ型男性に多くみられます。

肺の表面にある「ブラ」や「ブレブ」と呼ばれる小さな空気の袋が破れることで起こります。

「ブレブ(bleb)」は肺の表面近くにできる直径1cm未満の小さなふくらみ、「ブラ(bulla)」は肺の内部にできる1cm以上のやや大きな空気の袋を指します。

喫煙歴のある人は発症リスクが高く、ある研究では患者の約7割が喫煙者とされています。

・ 続発性自然気胸

すでに肺の病気(COPD、間質性肺炎、結核後遺症、喘息など)をもつ中高年者に多く、肺がもろくなっているため再発や重症化しやすい傾向があります。

◆「COPDの原因と治療」について詳しく>>

・ 外傷性気胸

交通事故や転落、胸部打撲・刺創(しそう)など、外部からの衝撃で肺が損傷し、空気が漏れるタイプです。

・ 医原性気胸

医療行為(中心静脈カテーテル挿入、気管支鏡検査、人工呼吸器管理など)が原因で起こるもので、病院内で発症するケースです。

このように、年齢・体型・性別・喫煙習慣などが発症の背景に関わることがわかっています。

特に、BMIが低い・喫煙者・高身長の若年男性は、原発性自然気胸の典型的なリスク群です。

2-2.特殊な気胸

・異所性子宮内膜症

子宮内膜症が原因で気胸を発症することがあります。
子宮の組織が肺に紛れ込むことで、月経時の出血に関連して気胸が発症します。

このような「月経随伴性気胸」は、右肺に多く、月経の始まりに合わせて繰り返す特徴があります。再発しやすく、胸腔鏡手術とホルモン療法の併用が行われます。

【参考資料】『難治性稀少部位子宮内膜症』厚労科研(研究代表:国立保健医療科学院等)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/download_pdf/2017/201711002A.pdf

・ リンパ脈管筋腫症

リンパ脈管筋腫症は、妊娠可能な女性に発症することが多い病気で、異常な細胞(LAM細動)が肺やリンパ節、腎臓などで増殖することが特徴です。

LAM細胞が肺で増殖することが原因で気胸が発症します。

LAMによる気胸は再発率が高く、片側だけでなく両側に繰り返すことがあります。気胸治療に加え、mTOR阻害薬(シロリムス)による薬物治療が検討される場合もあります。

【参考資料】『リンパ脈管筋腫症(LAM)』難病情報センター|厚生労働省
https://www.nanbyou.or.jp/entry/339?utm_source=chatgpt.com

【参考情報】“Spontaneous Pneumothorax – StatPearls” by NIH/NCBI Bookshelf
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK459302/

3.気胸の検査


胸部レントゲン写真により、気胸とその程度を診断することができます。

胸部CT検査では、肺の内部を詳しく確認します。また、異所性子宮内膜症やリンパ脈管筋腫症でないかも確認できます。

◆「呼吸器内科で行われる専門的な検査について」>>

画像診断では、肺のしぼみ具合(虚脱率)から「軽度」「中等度」「高度」「緊張性」に分類します。

軽度は肺尖部(はいせんぶ:肺の最も上部にある、とがった部分)が鎖骨と同程度、中等度は鎖骨下にまで虚脱、高度では肺がほぼ完全にしぼんだ状態です。
緊張性気胸は縦隔が反対側に偏位する危険な状態で、緊急処置が必要です。

◆「レントゲン写真からわかること」について>>

【参考情報】“Acute Pneumothorax Evaluation and Treatment” by NIH/NCBI Bookshelf
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK538316/

4.気胸の治療


肺がしぼんでいる期間が短く、軽度の場合には安静にして様子を見ることで自然に回復することがあります。

一方で、肺のしぼみが中等度から高度の場合には、胸腔ドレナージと呼ばれる処置を行います。これは、胸の外から細い管(チューブ)を挿入して、胸の中にたまった空気を体の外に抜く方法です。

症状が比較的安定している場合には、外来通院で使用できる携帯型の排気装置(外来通院用携帯ドレナージキット)を利用することもありますが、空気漏れ(エアリーク)が続く場合や肺の虚脱が大きい場合には、入院してドレナージ治療を行うのが一般的です。

こうした治療でも改善がみられない場合や、再発を繰り返す・両側に気胸が起こる・緊張性気胸を伴うといったケースでは、胸腔鏡手術を検討します。

手術では、肺の表面にできたブラを切除し、再発を防ぐために胸膜の一部を刺激して癒着を促す処置を行います。

手術時間はおおよそ1〜2時間、入院期間は5〜7日程度が目安です。開胸手術となるとやや長めになることがあります。

気胸は再発しやすい病気で、治療法によって再発率が異なりますが、手術によって再発のリスクを大幅に減らすことができます。

【参考情報】“Spontaneous Pneumothorax – StatPearls” by NIH/NCBI Bookshelf
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK441885/

5.生活上の注意と再発予防

気胸は治療によっていったん改善しても、再発することが珍しくありません。

特に若年男性や喫煙者では、肺の表面に再び「ブラ」ができることがあり、再発率は保存的治療の場合で30〜50%程度といわれています。

そのため、治療後は「どのように日常生活を送るか」がとても大切です。ここでは、再発を防ぐために気をつけたいポイントをご紹介します。

〈禁煙:最も大切な再発予防〉
喫煙によって肺の組織が傷みやすくなり、肺の表面にブラができるリスクが高まります。

気胸を繰り返す方の多くに喫煙歴がみられることから、再発を防ぐためには禁煙が欠かせません。

当院でも、禁煙外来やサポート体制を活用しながら、少しずつ無理のない禁煙を目指すようお勧めしています。

◆「当院の禁煙外来」について>>

〈気圧変化:飛行機や登山はタイミングを慎重に〉
飛行機の搭乗や登山、スキューバダイビングなど、気圧が変化する環境は注意が必要です。

治療直後は肺の状態が安定しておらず、気圧の変化によって再び気胸を起こす可能性があります。

一般的には、治療後1〜2か月ほどは控え、再発の兆候がないことを確認してから行うのが安全です。旅行や運動を再開する際には、必ず主治医に相談しましょう。

〈運動・体の使い方:焦らず少しずつ〉
激しい運動や重労働も、術後4〜6週間は控えることが望ましいとされています。

胸の内部が完全に回復するまでに時間がかかるため、無理をすると再発や痛みの原因になることがあります。

体調をみながら、軽いストレッチやウォーキングから再開し、医師の許可を得て徐々に元の生活に戻していきましょう。

〈日常動作:咳やくしゃみにも注意〉
咳やくしゃみを強くこらえることも、胸に圧がかかり再発のきっかけになる場合があります。
風邪や花粉症の時期などは早めに治療を受け、胸に負担をかけないよう注意しましょう。

〈再発を防ぐために〉
このように、日常生活でのちょっとした工夫が再発予防につながります。
治療後も無理をせず、違和感や息苦しさを感じたときは、早めに医療機関を受診してください。

6.よくある質問(Q&A)

Q.気胸は「イケメン病」と呼ばれるのはなぜですか?
A.俗に「高身長・痩せ型の若い男性に多い」ことからそのように呼ばれますが、医学的には肺尖部にできたブラが破れる体型的特徴が原因と考えられています。

Q.痛みはどのくらい続きますか?
A.気胸による胸の痛みは、発症直後が最も強く、時間の経過とともに落ち着くことが多いです。
軽い痛みや違和感が数日〜1週間ほど残る場合もありますが、痛み止めを使いながら無理なく生活できます。

一方で、痛みが強くなったり息苦しさが再び出てきたりした場合は、再発の可能性もあるため早めの受診をおすすめします。

Q.気胸は遺伝しますか?
A.多くの場合、気胸は遺伝性ではありません。
ただし、ごく一部に「マルファン症候群」など、結合組織の性質に関連する体質的な要因を持つ方もいます。

家族に気胸の既往がある場合や、体が非常に細長いなどの特徴がある方は、一度呼吸器内科で相談するとよいでしょう。

Q.気胸は再発しやすいのですか?
A.はい。保存的治療では3〜5人に1人が再発します。手術後の再発は5〜10%前後ですが、禁煙や体調管理により再発リスクを減らせます。

7.おわりに

気胸は、健康な人でも突然発症する場合もあります。
急な胸の痛みや息苦しさを感じたときは、無理をせず、できるだけ早めに呼吸器内科を受診しましょう。

治療によっていったん改善しても、気胸は再発することがあります。
再発を防ぐためには、禁煙をはじめとした生活習慣の見直しが大切です。

喫煙によって肺の表面が傷つきやすくなり、気胸を繰り返すリスクが高まるため、当院では禁煙支援や再発予防のための生活指導にも力を入れています。

胸の違和感や息苦しさを感じたとき、「またかな」と不安になる方も少なくありません。

そうしたときこそ、ひとりで抱え込まずに専門の医師へご相談ください。早めの受診と適切なケアが、安心して過ごせる毎日につながります。

◆横浜で呼吸器内科をお探しなら>>

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