睡眠時無呼吸症候群の治療に使う「マウスピース」とは?

睡眠時無呼吸症候群は、寝ている間に何度も呼吸が止まったり、浅くなる病気です。
初期には、いびき、睡眠の質の低下、日中の眠気や頭痛などの症状が現れます。
さらに、無呼吸により体が低酸素状態になることで心臓や血管に負担がかかるため、治療せずに放っておくと、脳卒中や心筋梗塞など重大な合併症を引き起こすリスクがある病気です。
この記事では、代表的な3つの治療法を紹介し、特にマウスピースについて詳しく解説します。
目次
1.睡眠時無呼吸症候群・3つの治療法
睡眠時無呼吸症候群の治療では、寝ている間に空気の通り道である気道が塞がるのを防ぐため、CPAP(シーパップ)、ASV、マウスピースなどの装置を用います。
【参考情報】『Sleep Apnea Treatment』National Heart, Lung, and Blood Institute
https://www.nhlbi.nih.gov/health/sleep-apnea/treatment
1-1.CPAP(シーパップ)
CPAPは睡眠時無呼吸症候群の治療の中でも、最も代表的な治療法です。
寝る前に鼻にマスクを装着し、専用の装置から空気を送り込んで気道を広げ、睡眠時の無呼吸を防ぎます。
【参考情報】『CPAP(シーパップ)とはどのような治療法ですか?』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q30.html
1-2.ASV(Adaptive servoventilation)
ASVは、もともとは慢性心不全の患者さんの呼吸困難感を改善するために開発された、マスク式の人工呼吸器です。
CPAPと同じように、鼻から空気を送り込むことで、睡眠時の無呼吸を防ぎます。
1-3.マウスピース
歯列矯正などに使用されるマウスピースと同じような歯型の装置です。
スリープスプリントとも呼ばれます。
就寝時に口の中に入れて装着すると、寝ている間に下あごが前に出て、舌がのどの奥に落ちづらくなることで、舌の位置が上がって気道が広がり、空気が通りやすくなります。
また、装着中は口が閉じた状態になるため、自然と鼻呼吸が促されやすくなるケースが多いです。
【参考情報】『マウスピース』無呼吸なおそう/TEIJIN
https://659naoso.com/medical/treatment/mouthpiece
2.マウスピース治療のメリット・デメリット
「CPAPの装着感が苦手」「外出先でも手軽に治療を続けたい」という方にとって、マウスピースは治療の選択肢の1つとなります。
ご自身に適した治療法かどうかを判断するために、まずは特徴と注意点を確認しておきましょう。
2-1.マウスピース(口腔内装置)による治療のメリット
マウスピース治療には、標準的な治療法であるCPAPやASVとは異なる、以下のような利点があります。
・携帯性に優れている:
装置が小型で軽量なため、出張や旅行などの外出時にも手軽に持ち運びが可能です。
・装着時の負担が少ない:
マスクを顔に固定する必要がないため、寝返りが打ちやすく、装着時の圧迫感やストレスが抑えられます。
・周囲に気づかれにくい:
口の中に収まるコンパクトな設計のため、装着中も外見からは目立ちません。
2-2.知っておきたいデメリットと適応の限界
メリットがある一方で、症状や口腔内の状況によっては適応が難しいケースもあります。
・重症例への効果:
重症の睡眠時無呼吸症候群の場合、マウスピース単独では十分な改善が得られにくいことがあります。ただし、どうしてもCPAPが体に合わない方の代替案として検討される場合や、普段はCPAPを使用している方が外出時のみ併用する場合もあります。
・口腔内の健康状態に左右される:
装置を歯に固定する仕組み上、土台となる歯や歯茎が健康でないと装着自体ができない可能性があります。
2-3.マウスピース治療を受けるための条件
睡眠時無呼吸症候群の治療としてマウスピースを作製するには、一般的に以下の条件を満たす必要があります。
・適切な診断:
まず呼吸器内科等の医療機関で検査を受け、医師による睡眠時無呼吸症候群の診断を受けることが必須です。
・一定以上の残存歯:
上下合わせて概ね20本程度の健康な歯が残っていることが目安となります。
・口腔疾患がない:
進行した歯周病や、治療が必要な大きな虫歯がないことが条件です。
・下顎の可動域:
下の歯を上の歯よりも8ミリ以上前に出せる柔軟性が必要です。
※最終的な適応の可否については、連携する歯科医師が詳細に判断いたします。
2-4.長くお使いいただくためのメンテナンス方法
マウスピースを清潔に保ち、変形を防ぐために、日々のお手入れには以下の点に注意してください。
・起床後の水洗い:
毎朝、外した後は流水で丁寧に洗ってください。
・磨き方に注意:
歯磨き粉の使用は避けましょう。研磨剤によってマウスピースの表面に細かな傷がつき、細菌が繁殖する原因となります。
・熱を避ける:
煮沸消毒や熱湯の使用は、装置の変形を招く恐れがあるため厳禁です。
・専用洗浄剤の活用:
汚れやニオイが気になる場合は、市販のマウスピース専用洗浄剤を使用すると、素材を傷めず清潔に維持できます。
【参考情報】『Mouthpieces and Dental Devices』American Sleep Apnea Association
https://www.sleepassociation.org/sleep-apnea/mouthpieces/
3.マウスピースの治療について
本章では、いびきや睡眠時無呼吸症候群の治療に用いられるマウスピースの種類と、治療を検討してから実際に装置が完成するまでの具体的な流れについて解説します。
3-1.マウスピースの種類とそれぞれの特徴
マウスピース治療を検討される際、知っておきたいのが装置の種類です。
大きく分けて「上下顎一体型」と「上下顎分離型」の2種類があり、それぞれ使い心地やコストが異なります。
【上下顎一体型(保険適用)】
もっとも一般的なタイプで、上下の装置が固定されています。
・メリット:
保険適用で作製できるため、窓口での費用負担が1~2万円程度と比較的安価です。分離型に比べるとサイズが小さく、扱いやすいのが特徴です。
・デメリット:
上下の顎が固定されるため、装着時に特有の圧迫感を感じやすいという点があります。
【上下顎分離型(自由診療)】
上下のパーツが分かれており、可動性があるタイプです。
・メリット:
下顎の位置を微調整できるため、使用感が非常に良いのが魅力です。口を動かしやすいため、圧迫感も軽減されます。
・デメリット:
原則として保険適用外となるため、一体型に比べると費用負担が大きくなります。また、装置自体に厚みやサイズがあるため、装着時にやや目立ちやすいという側面もあります。
このように、マウスピースは種類によってメリット・デメリットがはっきりと分かれています。
「まずは手軽に始めたい」のか、「多少コストがかかっても装着感を重視したい」のかなど、ご自身のライフスタイルに合わせて選ぶことが大切です。
作製の際には、歯科医院でよく相談し、最適なものを選ぶようにしましょう。
【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020』日本睡眠歯科学会
https://jadsm.jp/iryo/guideline_pdf/guideline_2020.pdf
3-2.治療開始までの流れ
マウスピース治療を始めるには、まず「医科(呼吸器内科など)で睡眠の状態を確認し、その診断結果をもとに専門の歯科で装置を作る」という手順が基本です。
①診察と睡眠検査
まずは、眠っている間の呼吸の状態を詳しく調べます。
検査には、ご自宅で手軽に行える「簡易検査」や、脳波なども含めてより詳細に分析する「精密検査(PSG:ポリソムノグラフィー)」があります。
当院では通常、入院が必要な精密検査も、専用の検査機器を貸し出すことで、入院せずにご自宅で受けていただくことが可能です。
お仕事などで忙しい方も、普段に近い環境で検査が行えます。
これらの検査で、寝ている間にどれくらい呼吸が止まっているかを数値化します。
【知っておきたい用語:AHIとは?】
検査結果で最も重要なのが「AHI(無呼吸低呼吸指数)」という指標です。
これは「1時間あたりに、呼吸が止まったり(無呼吸)、浅くなったり(低呼吸)した回数」を平均したものです。
この数値によって、重症度が以下のように分類されます。
5回以上 15回未満: 軽症
15回以上 30回未満: 中等症
30回以上: 重症
一般的に、マウスピース治療は「軽症〜中等症」の方に推奨されます。
◆「睡眠時無呼吸症候群の重症度がわかる指標「AHI」について」>>
② 診断・紹介状の発行
検査の結果、医師の判断により マウスピースによる治療が適していると判断された場合は、歯科医院宛ての「紹介状(診療情報提供書)」が発行されます。
保険適用でマウスピースを作製するためには、医科からのこの紹介状が必要となります。
③歯科でのマウスピース作成
紹介状を持って歯科を受診し、型取りや噛み合わせの記録を行います。
完成までは通常1〜2週間程度かかることが一般的です。
④調整と治療効果の確認
装着後は下顎の位置を少しずつ調整し、フォローアップの睡眠検査で効果を確認します。
【参考情報】『I-05 睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/i/i-05.html
4.市販品との違いと注意点
市販のマウスピースを自己判断で使用することには、リスクが伴います。
【噛み合わせの変化への対応】
マウスピースを長期間使用すると、噛み合わせが変化することがあります。
歯科医師が定期的に顎の状態を確認しながら進めることが、トラブルを防ぐために重要です。
【「いびきが消えた=治った」ではない】
いびきが静かになっても、実は無呼吸(低酸素状態)が改善されていないケースがあります。
無呼吸が放置されると、高血圧や心血管疾患、脳卒中などの深刻な病気のリスクが高まることが報告されています。
そのため、専門外来では「歯科による数ミリ単位の微調整(タイトレーション)」と、「医科による再検査(効果判定)」を組み合わせて、治療が正しく機能しているかを客観的に評価します。
このように、歯科と医科が連携して進めることが、安全で確実な治療への近道です。
【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群の口腔内装置治療―内視鏡検査による上気道評価と治療効果―』日本口腔・咽頭科学会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology/36/2/36_166/_pdf
5.CPAPが優先されるケース
マウスピース治療の選択肢もありますが、睡眠時無呼吸症候群の治療において、一般的に第一選択とされるのはCPAP(持続陽圧呼吸療法)です。
専門医がマウスピースよりもCPAPを優先的に推奨するのは、主に以下のような基準に基づいています。
①重症(AHI 30以上)の場合
重症の患者様の場合、マウスピース単独では気道の閉塞を十分に解消しきれないケースが多く報告されています。
そのため、重症例では「鼻マスクから一定の圧力をかけた空気を送り、物理的に気道を広げる」CPAP治療が標準的な方針となります。
②高血圧などの合併症がある場合
睡眠時無呼吸症候群は、心血管疾患や脳梗塞といった循環器疾患のリスクを高めることが指摘されています。
特に高血圧などの持病がある方は、睡眠中の無呼吸状態をより安定的にコントロールすることが求められるため、治療実績の多いCPAPが推奨されます。
【参考情報】『CPAP』National Heart, Lung, and Blood Institute
https://www.nhlbi.nih.gov/health/cpap
6.おわりに
マウスピースはCPAP等に比べて手軽に取り入れやすい反面、歯の状態によっては適応外となることがあります。
なお、重症の睡眠時無呼吸症候群に対しては、マウスピース単独では十分な改善が得られにくいケースもあるため、医師と相談の上で適切な治療方針を決定することが大切です。
また、あわせて忘れてはならないのが、症状の根本的な改善に向けた生活習慣の見直しです。
肥満の解消や規則正しい生活を並行することで、治療効果はより高まります。
医師や看護師、管理栄養士と協力しながら、健やかな眠りを取り戻すための食生活やリズムを一緒に整えていきましょう。




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