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職業性喘息とは?職場で咳が出る人の原因と治療法を解説

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2026年04月19日

家では問題ないのに、職場にいる時だけ咳が出る人は、「職業性喘息」の疑いがあります。

喘息は、アレルギーの原因となる物質や、気道を刺激する物質を吸い込むことで発症・悪化する恐れがあります。

もし、職場に粉塵や刺激の強い物質などが多ければ、喘息のリスクが高い環境であると考えられます。

この記事では、職業性喘息の原因や治療についてくわしく説明します。

思い当たる人は、ぜひ読んでください。

1.職業性喘息とは


職業性喘息とは、職場での業務中に特定の物質にさらされることで引き起こされる喘息のことです。

症状は一般の喘息と同じで、咳や息苦しさ、喘鳴(ぜんめい:ゼイゼイ・ヒューヒューという特有の呼吸音)などが現れます。

職業性喘息の場合、職場で原因物質にさらされている間に症状が強くなります。

一方、仕事が休みの日は症状が軽くなる傾向にあります。

発症時期は、人によってさまざまです。

その仕事に就き始めてすぐに発症することもあれば、発症までに数年かかることもあります。

◆「喘息」についてくわしく>>

2.職業性喘息の3つの分類


職業性喘息は、「刺激物質誘発性職業性喘息(RADS)」「感作物質誘発性職業性喘息」「作業増悪性(ぞうあくせい)喘息」の3つに分類されます。

それぞれ発症のメカニズムや、原因物質、潜伏期間が異なり、この分類を理解することで、今後の治療や予防の方針を明確にすることができます。

ここからは、その3つの分類がどう違うのか解説していきますので、自分がどんな時、どんな場所で発症したのか想像しながらご覧ください。

2-1. 感作物質誘発性職業性喘息

これは職業性喘息の中で最も多いタイプです。

アレルギーの仕組みによって発症する喘息で、原因物質に繰り返し触れることで体が過敏に反応(感作(かんさ)という)し、免疫反応が起こります。

<特徴>
・原因物質に触れてから数週間~数年かけて発症
・一度感作されると、ごく少量の物質でも反応が起こる

<原因>
・動物の毛、フケ、尿タンパク
・小麦粉、そば粉、花粉、コーヒー豆
・ラテックス(ゴムの木由来)、酵素洗剤
・ニッケル、クロム
・各種医薬品の粉塵

2-2. 刺激物質誘発性職業性喘息(RADS)

これは、刺激の強い物質を吸い込むことで、気道に直接ダメージを与えて発症する喘息です。

アレルギー反応ではなく、細胞の損傷や炎症が原因です。

<特徴>
・高濃度の刺激物に触れてから24時間以内に症状が出現
・職場での事故や化学物質の流出などで突然発症することがある(「反応性気道機能不全症候群(RADS)」と呼ぶ)

<原因>
・煙
・塩素
・酢酸(さくさん)
・粉塵(ふんじん)
・漂白剤

また、中等度の量の刺激物に慢性的に触れ続けることでも発症する場合があります。

2-3. 作業増悪性喘息

このタイプは「新たに喘息が発症する」のではなく、「もともとの喘息が悪化する」という点が職業性喘息とは異なります。

<特徴>
・既に喘息を持っている人が、職場の環境によって症状が悪化する

<原因>
・極端な高温や低温
・湿度の高い環境
・塵埃(ちりやほこり)
・洗浄剤
・一般的な環境アレルゲン(ダニ、カビなど)

仕事との関連性を見極めることも重要です。

【参考情報】『作業関連喘息』MSDマニュアル
https://www.msdmanuals.com/professional/pulmonary-disorders/environmental-and-occupational-pulmonary-diseases/work-related-asthma

3.職業性喘息が引き起こされる可能性がある仕事


職業性喘息は、特定の職業に就いている人に多く見られます。

ここでは、職業性喘息のリスクが高い代表的な職業を紹介します。

もし、自分の職業がに当てはまる場合は、職場での症状に注意を払い、症状があれば早めに医療機関を受診することをおすすめします。

また、これらの職業に就いている方すべてが必ず職業性喘息を発症するわけではありませんが、リスクを知っておくことで、予防や早期発見につながります。

3-1.動物に触れる職業


動物と接する機会が多い職業に従事している人は、動物のフケや毛などのアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)に頻繁に触れるため、職業性喘息を発症する恐れがあります。

(例)
獣医師、トリマー、動物園職員、実験用動物を扱う研究者

◆「喘息とアレルギーの密接な関係」とは>>

3-2.小麦粉・そば粉を扱う職業


小麦粉やそば粉が原因となり、アレルギーが引き起こされることがあります。

パンやそば、うどん、ピザなど、小麦粉やそば粉を原料とする食べ物を作っている人は、粉を吸い込む機会が多いため、職業性喘息のリスクがあります。

【参考情報】『Baker’s asthma: Still among the most frequent occupational respiratory disorders』Journal of Allergy and Clinical Immunology
https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(98)70337-9/fulltext

3-3.ゴム手袋をつける職業


業務上、ゴム手袋をつける機会が多い人は、「ラテックス」として知られる天然ゴム製品に含まれる成分がアレルゲンとなり、喘息が引き起こされることがあります。

(例)
医師、看護師、清掃業、製造加工業、建設業

3-4.化学物質にさらされる職業


業務で扱う素材や薬品に含まれる化学物質に反応し、喘息が引き起こされることがあります。

(例)
 ・塗装業:ウレタンに含まれるイソシアネート
 ・美容師:髪の脱色剤に含まれる過硫酸アンモニウム
 ・クリーニング業:洗剤や漂白剤

◆「喘息の悪化と洗剤の影響」についてくわしく>>

3-5.金属を加工する職業


合金製造業、溶接業など金属を加工する職業の人は、金属の粉塵によって症状が引き起こされることがあります。

原因となる金属の例
 ・タングステン
 ・コバルト
 ・ニッケル 

4.職業性喘息の検査


職業性喘息の診断には、検査のほか、問診も非常に重要です。

医師が職業性喘息を疑うためには、患者さんの仕事内容や職場の環境を把握し、症状がいつどのような状況で現れるのかを確認する必要があります。

4-1.画像検査

胸部X線(レントゲン)やCTで肺の画像を撮影して確認します。

喘息の場合、通常は画像上で明らかな変化は見られませんが、他の呼吸器疾患と区別するために必要な検査です。

4-2.血液検査

血液を採取して、アレルギーの有無や、どんな物質に対してアレルギーがあるのかを調べます。

4-3.肺機能検査

以下のような検査で、肺の機能や気道の状態などを確認します。

 ・呼気NO検査:吐いた息の中に含まれる一酸化窒素の量を測定する
 ・スパイロメトリー:肺活量など、肺の機能を調べる
 ・モストグラフ:息が吐きだしにくくなっているかどうかを調べる

◆「呼吸器内科で行われる専門的な検査」についてくわしく>>

5.職業性喘息の治療と予防


職業性喘息の治療は、一般の喘息の治療と同様に、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬などを使った薬物療法が中心となります。

吸入ステロイド薬は、気道の炎症を抑える薬です。

気管支拡張薬は、気道や気管支を広げて、呼吸をしやすくする薬です。

ただし、病気の原因となる物質を職場で吸い込み続けていれば、薬物治療だけでは症状が改善しづらいため、原因物質を避けることも重要です。

5-1.職業性喘息の治療の基本方針

① 原因物質を避ける
感作物質誘発性職業性喘息の場合、原因物質を完全に避けることが最も重要です。

<具体的な対応>
・配置転換(原因物質を扱わない部署への異動)
・職場の変更
・作業内容の変更

ただし、原因物質を完全に避けることができても、すぐに改善効果が出るわけではありません。

② 投薬治療の継続
原因物質を回避しても、喘息の症状は2年以上続くことが一般的です。

そのため、原因物質を避けた後も、吸入ステロイド薬などの治療を継続する必要があります。

◆「喘息治療に使う吸入薬の種類と特徴、副作用」>>

③ 原因物質に触れる場面を減らす(完全回避が難しい場合)
完全に仕事を変えることが困難な場合は、以下の対策で原因物質に触れる場面をできるだけ減らしましょう。

<具体的な対策>
・適切なマスクの着用
・換気の改善
・作業方法の工夫
・防護具の使用

【参考情報】『知っておきましょう、「職業性ぜん息」のこと』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202307_2/

④ 産業医・安全衛生担当者との連携
職場に産業医や安全衛生担当者がいる場合は、必ず相談しましょう。

職業性喘息は、職場環境の改善が治療の鍵となるため、以下のような支援を受けられる可能性があります。

<受けられる支援>
・作業環境測定
・配置転換の調整
・職場の換気・防護具の改善
・労災認定の手続き支援

5-2.職業性喘息の予防法


職業性喘息は、予防しうる病気です。

粉塵などの原因物質を吸い込むことが多い仕事では、マスクや防護服の着用など、職場で指定された対策があれば、規則を守って毎回手順通りに行いましょう。

また、原因物質を吸い込む量を少しでも減らすため、可能なら換気をすることもおすすめです。

一度発症してしまうと、同じ環境では何度も発症を繰り返す可能性のある病気です。

まずは発症しないように、普段から予防を心がけましょう。

【参考情報】『Preventing Work-related Asthma』CDC
https://www.cdc.gov/niosh/asthma/prevention/index.html

6.よくある質問(FAQ)

職業性喘息について、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

診断後の仕事のこと、治療期間のこと、労災認定のことなど、多くの方が不安に感じる点について、分かりやすく解説します。

ここに載っていない疑問や不安がある場合は、遠慮なく主治医にご相談ください。

職業性喘息は、正しい知識と適切な対応により、症状をコントロールしながら生活の質を維持することが可能な病気です。

Q1. 職業性喘息と診断されたら、必ず仕事を辞めなければいけませんか?

A1.いいえ、必ずしも仕事を辞める必要はありません。やめる以外に以下のような対応が考えられます。

・配置転換:原因物質を扱わない部署への異動
・作業方法の変更:原因物質への接触を減らす工夫
・防護具の徹底:適切なマスクや防護服の使用
・職場環境の改善:換気システムの改善など

ただし、症状が重い場合は、原因物質の完全回避が必要になることもあります。

職場の産業医や主治医とよく相談して、最適な対応を決めましょう。

Q2. 職業性喘息は労災認定の対象になりますか?

A2.はい、職業性喘息は労災認定の対象になる可能性があります。
業務に起因して発症した喘息であることが認められれば、治療費の補償や休業補償などを受けられます。
労災認定を受けるためには以下の手続きが必要です。

・労災を会社に報告する
・病院を受診
・会社が申請書を作成し、労働基準監督署へ提出
・労働基準監督署が審査し、支給もしくは不支給を決定

詳しくは、職場の労務担当者や最寄りの労働基準監督署にご相談ください。

【参考情報】『職業病リスト(労働基準法施行規則別表第1の2)』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30055.html

Q3. 原因物質を避けても、症状は完全に治りますか?

A3.残念ながら、原因物質を完全に避けても、多くの場合、喘息の症状は2年以上続きます。

特に、長期間原因物質に触れ続けてから対応した場合、症状が残りやすい傾向があります。

そのため、原因物質を避けた後も、定期的な通院と吸入ステロイド薬などの治療継続が必要です。

ただし、早期に発見して対応すれば、症状をうまくコントロールできる可能性が高くなります。

7.おわりに

職場で業務中に咳や息苦しさが現れるなら、職業性喘息を発症している可能性があります。

思い当たる人は、呼吸器内科を受診して相談してください。

職業性喘息は、原因となる物質を避け、適切な治療を行えば症状は改善します。

しかし、仕事上、原因物質を避けるのが難しい場合は、その物質に触れない環境での仕事が可能かどうか、検討してみてください。

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