夜間のトイレの原因は?睡眠時無呼吸症候群と頻尿の関係

夜中に何度もトイレに起きてしまい、ぐっすり眠れない日が続くと、「年齢のせい?」「寝る前に水分を摂りすぎたのかも」と考えるかもしれません。
しかし、夜間の頻尿の背景には、睡眠時無呼吸症候群が関係していることがあります。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群と夜間の頻尿の関係、その仕組みや治療による改善の可能性について、順を追って解説します。
目次
1. 加齢に伴う夜間の頻尿の原因
年齢を重ねると、夜間にトイレへ行く回数は増えやすくなります。これにはいくつかの理由があります。
<膀胱に尿をためられなくなる>
加齢により膀胱の筋肉の弾力が低下すると、十分に尿がたまる前に尿意を感じやすくなります。
<夜間の尿量が増える>
本来、夜は尿の量を減らす働きのある抗利尿ホルモンが多く分泌されます。しかし、年齢とともにその分泌リズムが弱まり、夜でも昼間に近い量の尿が作られることがあります。
<眠りが浅くなる>
加齢により深い睡眠が減ると、わずかな尿意でも目が覚めやすくなります。
このように、夜間頻尿は膀胱・ホルモン・睡眠の変化が重なって起こることが多く、一定程度は加齢に伴う自然な変化といえます。夜間の頻尿自体が、すぐに病気を意味するわけではありません。
【参考情報】『Nocturnal polyuria in older people: pathophysiology and clinical implications』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11037022/
ただし、回数が急に増えた場合や、日常生活に支障が出ている場合は、他の病気が隠れている可能性もあります。症状の程度や経過をみながら判断することが大切です。
2. 睡眠の質と夜間頻尿の関係
眠りが浅いと、わずかな膀胱の刺激でも目が覚めやすくなります。
<目が覚めると尿意を感じやすくなる>
本来であれば朝まで気づかない程度の尿量でも、一度目が覚めてしまうと尿意を強く意識し、トイレに行きたくなります。そのため、実際の尿量が多くなくても、夜間の排尿回数が増えてしまいます。
<睡眠分断で体内リズムが乱れる>
睡眠が細切れになると、自律神経やホルモン分泌のリズムが乱れ、夜間に尿が作られやすくなります。本来、夜は抗利尿ホルモンの働きで尿量が抑えられますが、睡眠が安定しない状態ではその調節がうまくいきません。
【参考情報】『Disruption of circadian rhythm as a potential pathogenesis of nocturia』nature reviews urology
https://www.nature.com/articles/s41585-024-00961-0
<膀胱が敏感になる>
睡眠不足や中途覚醒が続くと、体は交感神経が優位になりやすく、覚醒しやすい状態が続きます。そのため、わずかな膀胱の刺激にも気づきやすくなり、少量の尿でも尿意を強く自覚しやすくなります。
3. 睡眠時無呼吸症候群と頻尿の関係
夜間頻尿の原因はさまざまですが、その一つに睡眠時無呼吸症候群(SAS)があります。
3-1.睡眠時無呼吸症候群とはどんな病気か?
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に無呼吸や低呼吸が繰り返し起こる病気です。呼吸が止まったり浅くなったりすることで体内の酸素が不足し、そのたびに脳が覚醒して呼吸を再開させます。
このため睡眠が細かく分断され、十分に眠っているつもりでも深い睡眠が得られません。その結果、日中の強い眠気や集中力の低下、起床時の頭痛などが現れやすくなります。毎晩のように繰り返される激しいいびきも特徴です。
3-2.睡眠時無呼吸症候群で夜間頻尿が起こる仕組み
無呼吸が起こると、体は強く息を吸おうとするため、胸の中(胸腔内)の圧が大きく変動します。この変化が心臓、とくに心房に負担をかけ、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)というホルモンの分泌が増えます。
ANPには、体内の余分な水分やナトリウムを尿として排出しやすくする働きがあります。そのため、本来は尿量が減るはずの夜間でも、腎臓で多くの尿が作られるようになります。これが、睡眠時無呼吸症候群で夜間頻尿が起こりやすくなる重要な仕組みの一つです。
【参考情報】『Clinical predictors of nocturia in the sleep apnea population』National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3963340/
さらに、無呼吸による低酸素状態や睡眠の分断は、交感神経を過剰に刺激します。交感神経が優位な状態が続くと血圧が上がり、心臓や腎臓への負担も増します。これも尿の増加や夜間覚醒の増加につながります。
また、睡眠が浅くなることで、わずかな尿意でも目が覚めやすくなります。つまり、睡眠時無呼吸症候群では「尿が多く作られる」ことと「目が覚めやすくなる」ことの両方が重なり、夜間にトイレへ行く回数が増えてしまうのです。
3-3.睡眠時無呼吸症候群と夜尿症
睡眠時無呼吸症候群では、夜間に作られる尿の量が増えやすくなるため、さらに重症の場合、睡眠構造が大きく乱れ、膀胱に尿がたまっても尿意への反応が十分に起こらないことがあります。
その結果、頻度は高くないものの、成人でも夜尿症がみられるケースが報告されています。
【参考情報】『Adult Monosymptomatic Nocturnal Enuresis with Obstructive Sleep Apnea Syndrome』National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4989438/
4. 睡眠時無呼吸症候群の治療で夜間頻尿は改善する?
睡眠時無呼吸症候群の治療によって、夜間の頻尿が改善する可能性はありますが、その効果は治療法によって異なります。
4-1.CPAP
CPAP(シーパップ)療法は、寝ている間に鼻や口にマスクをつけ、装置から空気を送り続ける治療です。空気の力でのどの奥がふさがるのを防ぎ、呼吸が止まらないようにします。
呼吸が安定すると、体の酸素不足や胸の中の強い圧の変化が起こりにくくなります。その結果、夜に尿が多く作られる状態が改善しやすくなります。
実際に、夜間頻尿の回数が減ったという報告も多く、最も効果が期待できる治療法とされています。
4-2.マウスピース
マウスピース(口腔内装置)は、寝ている間に口の中に装着し、下あごを少し前に出すことで、のどの空間を広げる治療器具です。主に軽症から中等症の睡眠時無呼吸症候群で使われます。
この装置によって無呼吸が改善すれば、夜間頻尿が軽くなることもあります。ただし効果には個人差があり、無呼吸が強い場合には十分な改善が得られないこともあります。
4-3.手術
睡眠時無呼吸症候群の手術では、のどや鼻の通りをよくするために、扁桃を切除したり、軟口蓋の余分な部分を切って形を整える治療をします。
手術により気道が広がり、無呼吸が軽くなれば、夜間頻尿が改善することもあります。
ただし、手術の効果には個人差があり、どの程度よくなるか、どれくらい効果が続くかを事前に正確に予測するのは難しいのが実情です。
そのため、夜間頻尿の改善だけを目的として選ばれる治療法ではありません。
5. 夜間頻尿がある場合の受診の考え方
夜間頻尿の原因として睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、睡眠外来の受診が適しています。
◆「呼吸器内科で睡眠時無呼吸症候群の検査と治療ができます」>>
これらの診療科では、睡眠中の呼吸の状態を詳しく調べるために検査が行われ、検査の結果をもとに、CPAPをはじめとした治療方針が検討されます。
ただし、夜間頻尿は必ずしも睡眠時無呼吸症候群だけが原因とは限りません。過活動膀胱や尿路感染症、男性では前立腺肥大などの泌尿器系の病気でも同様の症状が現れることがあります。
そのため、排尿時の痛みや違和感、血尿などの症状がある場合は、先に泌尿器科で相談しておくと安心です。泌尿器科で異常がないと確認できれば、次のステップとして睡眠や呼吸に関する詳しい評価につなげることができます。
6.睡眠時無呼吸症候群以外で夜間頻尿が起こる病気
夜間頻尿は加齢に伴って増えやすい症状ですが、原因は一つではありません。睡眠時無呼吸症候群以外にも、さまざまな病気が関係しています。
6-1.前立腺肥大症
男性にみられる加齢性の病気です。前立腺が大きくなることで尿の通り道である尿道が圧迫され、排尿に影響が出ます。
尿の勢いが弱い、尿が途中で途切れる、残尿感があるといった排尿障害のほか、夜間頻尿もよくみられます。
【参考情報】『Benign prostatic hyperplasia (BPH)』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/benign-prostatic-hyperplasia/symptoms-causes/syc-20370087
6-2.過活動膀胱
自分の意思とは関係なく膀胱の収縮が起こることで、突然強い尿意を感じたり、我慢できずに尿が漏れてしまう病気です。夜間頻尿もみられます。
過活動膀胱は男女とも発症しますが、特に加齢や骨盤底筋の弱化、出産歴のある女性で多くみられます。
【参考情報】『過活動膀胱』日本臨床内科医会
https://www.japha.jp/doc/byoki/039.pdf
6-3.糖尿病
糖尿病で血糖値が高くなると、腎臓で尿に糖が漏れ出すことがあります。尿に糖が入ると、水分も一緒に引き寄せられるため、尿の量が増えやすくなります。
その結果、昼間だけでなく夜間も尿が多くなり、夜中に何度もトイレに行く夜間頻尿が起こることがあります。
6-4.心不全
心臓のポンプ機能が低下して血液を十分に送り出せなくなると、体に水分がたまりやすくなります。
特に、横になると腎臓に戻る水分が増えるため、夜間に尿が増えることがあります。
【参考情報】『Nocturia, Sleep and Daytime Function in Stable Heart Failure』National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3389347/
6-5.パーキンソン病
脳の神経細胞が減少することで、運動や自律神経の働きに影響が出る病気です。
膀胱の働きを調節する神経にも影響が及ぶため、尿意を我慢しにくくなる、頻尿、夜間頻尿が起こりやすくなります。
【参考情報】『パーキンソン病』難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/169
7. おわりに
夜間頻尿や大人の夜尿症は、加齢や生活習慣だけで説明できるとは限らず、睡眠時無呼吸症候群のサインとして現れていることがあります。
夜中に何度もトイレで目が覚める、無意識のうちに尿が出てしまうといった症状は、睡眠中の呼吸の乱れが影響している可能性も考えられます。
こうした症状を「年齢のせい」「水分を摂りすぎたから」と自己判断で片付けてしまうと、背景にある病気を見逃してしまうことがあります。
特に、いびきや日中の強い眠気を伴う場合は注意が必要です。
睡眠時無呼吸症候群は、適切に診断し治療を行うことで、睡眠の質だけでなく、夜間頻尿や夜尿症が改善するケースも少なくありません。
気になる症状が続く場合は、泌尿器の問題だけでなく、睡眠の視点も含めて医師に相談することが大切です。











