朝の咳と夜の咳で、どんな違いがある?

肺炎や喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)など、ひどい咳が主な症状となる病気は多種多様です。
湿った咳や乾いた咳、コンコン、ゴホゴホという音など、咳の種類を判別することで病気を特定できることもあります。
病気を見分ける際に注目したい特徴のひとつに、咳がよく出るのが朝なのか夜なのかというタイミングがあります。
そこでこの記事では、病気の違いを判断する手がかりとなる「咳が出るタイミング」について分かりやすく紹介します。
目次
1.自分の咳のタイミングをチェックしてみよう
咳が出るタイミングによって、原因や症状が異なります。
朝起きた時、夜寝る前、日中と、それぞれのタイミングで咳がひどくなることがあるかもしれません。
それらの咳の違いを理解するために、どのタイミングで咳が出やすいのかを確認してみましょう。
【チェックリスト】あなたの咳はどのタイミングに出やすいですか?
朝〜起床時の咳
✅起きた時に喉がイガイガする、または痰が出やすい
✅寝室の空気が乾燥している
✅寝具や枕にほこりやダニがありそうだ
✅起きてすぐに咳が出て、しばらく続く
日中の咳(活動中)
✅朝起きた後や日中に咳が出やすい
✅外出先や仕事中に咳が増える
✅運動後や冷たい空気に触れた後に咳が出る
✅ストレスや疲れが溜まると咳が悪化する
夜〜就寝前や寝ている時の咳
✅寝る前に咳がひどくなる
✅横になると咳が増える
✅寝ている間に喉が乾燥したり、痰が絡んでくる
✅夜間に寝ている時に咳が目立ち、特に深夜〜早朝にひどくなる
上記のチェックリストにどのタイミングが当てはまりましたか?
朝・夜・日中、それぞれの咳には異なる原因や背景があるため、それぞれのタイミングに応じた原因をしっかり理解することが大切です。
「咳の違い」をしっかり把握することで、あなたの咳の原因を特定しやすくなります。
それぞれのタイミングにおける原因と改善策を次に見ていきましょう。
2.早朝に咳が出るタイプの場合
早朝にかけて咳が出る場合、いくつかの病気が考えられます。
ここでは、主な原因となる病気について詳しく見ていきましょう。
2-1.喘息による咳
早朝に激しく出る咳で一番考えられる病気は、喘息です。
喘息はアレルギーなどによって気道に炎症が起こる病気です。
気道に長期的な炎症が起こることで、気道の粘膜は刺激に対して敏感になります。
そのため、気道が日常的な刺激(ダニやハウスダスト、カビ、ペットのフケ、煙、冷たい空気など)にすら敏感になってしまい、激しい咳や痰、ゼーゼー・ヒューヒューといった呼吸、息苦しさなどが出現します。
特に、喘息の炎症は夜間や早朝に悪化しやすいことが分かっており、夜間から早朝にかけて発作的に激しい咳が出るという人は、喘息である可能性が高くなります。
また、喘息は季節の変わり目や気温の変化、朝の冷たい冷気などでも発作を起こすことがあります。
仮に喘息であった場合、市販の薬剤や一般内科で処方されるような咳止めだけで治療することは難しいです。
特に注意が必要なのは、市販の解熱鎮痛薬や風邪薬に含まれるアスピリンという成分です。
喘息の方がこれらの薬を服用すると、「アスピリン喘息」と呼ばれる重篤な発作を引き起こす危険性があります。
自己判断で市販薬を使用せず、必ず医師に相談しましょう。
適切な吸入薬を用いた専門的な治療を行うことで、喘息の無い人と変わらない生活を送ることができるようになります。
早めに呼吸器専門医に相談しましょう。
【参考情報】『喘息の症状/チェンジ喘息』アストラゼネカ
https://www.naruhodo-zensoku.com/zensoku/symptoms.html
2-2.心不全による咳
朝方の咳の中には、心不全が原因となっているケースもあります。
特に高齢の方は注意が必要です。
心不全による咳には以下のような特徴があります。
● 横になると咳や息苦しさが出て、起き上がると楽になる。
● ピンク色で泡状の痰が出ることがある。
● 足のむくみを伴うことが多い。
● 階段や坂道で息切れがひどい。
これらの症状がある場合は、すぐに循環器内科または呼吸器内科を受診してください。
心不全は命に関わる病気ですので、早期発見・早期治療が非常に重要です。
【参考情報】『心不全について』国立循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/heart-failure/
3.日中に咳が激しくなるタイプの場合
日中に咳が出る場合、活動に伴って症状が現れることが多く、その原因は様々です。
ここでは、日中の咳の主な原因について解説します。
3-1.活動時に出る咳
成人の場合、日中、特になんらかの活動に伴って息切れや咳が出るという人は、COPDや慢性気管支炎などの病気の可能性があります。
例えば、運動などの動作に伴って咳や痰が増え、息苦しさを感じるというのはCOPDなどに特徴的な所見です。
また、運動誘発性喘息(運動などの動作が引き金となって喘息発作が出る病気)では、運動などの身体活動が気道に影響を及ぼすことで、日中の活動時に突然咳が激しくなる可能性があります。
【参考情報】『慢性閉塞性肺疾患(COPD)』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html
3-2.副鼻腔炎による咳
副鼻腔炎が原因で咳が悪化する場合があります。
副鼻腔炎は「蓄膿症」とも呼ばれ、副鼻腔で炎症が起こることで発症します。
副鼻腔炎の症状は以下の通りです。
●黄色や緑色の粘り気のある鼻水が出る
● 鼻づまり
● 頭重感
● 後鼻漏(こうびろう)
● 喉の違和感
● 嗅覚障害
上記のような呼吸器症状に加え、咳や痰、微熱などもあらわれます。
後鼻漏のように鼻から喉の方へ鼻水が流れていくと、喉の神経が刺激され咳が悪化する場合があります。
3-3.ストレスによる咳
日中、特に緊張する場面やストレスを感じる時に咳が出る場合は、ストレスが原因の咳(心因性の咳)の可能性があります。
ストレスが原因の咳には以下のような特徴があります。
● 日中は咳が出るが、夜眠っている時や何かに集中している時には咳が出ない
● 検査をしても明らかな異常が見つからない
● 子どもや女性に多い傾向がある
● 発熱など他の症状を伴わない
このタイプの咳は、ストレスによって自律神経が乱れ、脳の咳中枢や気道粘膜が刺激されることで起こると考えられています。
ストレスは免疫機能を低下させ、喘息などの呼吸器疾患を悪化させる原因にもなります。
日頃からストレスを溜めないよう心がけることが大切でしょう。
【参考情報】『Chronic Cough: An Update』Mayo Clinic
https://www.mayoclinicproceedings.org/article/s0025-6196(13)00722-2/fulltext
4.夜中咳で眠れないタイプの場合
夜間に咳が激しくなって眠れないという悩みは非常に多く見られます。
喘息が原因のこともありますが、実は夜間はそもそも咳が出やすい時間帯なのです。
ここでは、夜に咳が激しくなる理由について詳しく解説します。
4-1.自律神経のはたらき
私たちの体は自律神経とよばれる神経によって支配されています。
自律神経のはたらきによって、自分の意志とは関係なく、呼吸や体温、免疫などの機能が調節されています。
そんな自律神経には、体を活発にする交感神経とリラックスさせる副交感神経があり、この2つがバランスを取りながら健康を維持しています。
交感神経は日中の活動時に優位となり、副交感神経は夜に眠っているときに優位となります。
副交感神経が優位になると、体の緊張がゆるんで筋肉が弛緩します。
そのため気管支や気道が狭くなり、咳が出やすくなるのです。
4-2.仰向けの姿勢による影響
仰向けに寝転がることで鼻水などが喉の奥に流れやすくなります。
特に風邪や副鼻腔炎、鼻炎などを起こしているときは、夜間に粘り気のある鼻水が喉に流れ込みます。
それらが刺激となるため、仰向けに寝転がるタイミングで咳が誘発される可能性が高くなります。
この仰向けによる影響や、気道が狭くなる現象を軽減するためにも、寝る姿勢を工夫することが効果的です。
● 横向きで寝る
鼻水や痰が喉に流れ込みやすくなることを防ぎ、気道も確保されやすくなります。
● 上半身を少し起こした姿勢
クッションや枕を使って上半身を30度程度少し起こすと、横隔膜が下がるため呼吸がしやすくなります。
● うつ伏せで寝る
うつ伏せの姿勢も、鼻水が喉に流れ込むのを防ぐ効果がありますが、長時間この姿勢を続けると首や腰に負担がかかるため、適度に姿勢を変えることが大切です。
● 肩の下に丸めたバスタオルを入れる
仰向けで寝る場合は、肩の下に細長く丸めたバスタオルを入れると、気道が確保され呼吸が楽になります。
4-3.夜間に咳が悪化するその他の理由
夜間に咳が悪化するその他の理由として、以下のようなものがあります。
● 布団やベッドに溜まったホコリやダニ
寝具にはホコリやダニが潜んでおり、布団に入ると気道を刺激して咳が出やすくなります。
定期的に寝具を洗濯し、ダニ防止カバーを使いましょう。
● 気温差や湿度の低下
夜間は日中に比べて気温が下がり、湿度も低くなりがちです。
冷たく乾燥した空気は気道を刺激し気管支を収縮させるため、咳が出やすくなります。
特に冬場は要注意です。
このように夜間や睡眠時というのは、そもそも咳が出やすいタイミングであり、咳で夜眠れなくなるという人は非常に多いです。
良質な睡眠を確保するためにも、睡眠時に咳が出ないように対処していきましょう。
【参考情報】『Why are you coughing at night?』Harvard Health
https://www.health.harvard.edu/diseases-and-conditions/why-are-you-coughing-at-night
5.咳が続く場合の受診の目安
咳が続くと「もう少し様子を見ても大丈夫?」と迷うことがあるかもしれません。
しかし、咳の中には緊急性の高いものもあるため、注意が必要です。
まず、血の混じった痰が出る、強い息苦しさを伴う、横になると苦しくて起き上がると楽になる、高熱が続く、泡のようなピンク色の痰が出るといった症状がある場合は早めの受診が必要です。
これらは肺炎や心不全など重い病気のサインで、放置すると危険なことがあります。
【参考情報】『Breathing difficulties – first aid』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/ency/article/000007.htm
一方、風邪の咳は通常1〜2週間ほどで治まります。
しかし、2週間以上長引く場合は、気管支喘息・咳喘息、COPD、副鼻腔炎、アレルギー、逆流性食道炎、さらには肺がんや結核が隠れている可能性もあります。
長引く咳は自己判断で済ませず、早めに専門科で原因を確かめることが大切です。
【参考情報】『せきとたんが3週間以上続きます』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q02.html
咳の診断は一般内科でもできますが、呼吸器内科では呼吸機能検査や呼気NO検査など専門的な検査が受けられ、気道の炎症の程度や肺の状態を詳しく調べられます。
その結果、喘息やCOPDなどの診断が正確にでき、適切な治療・吸入薬の選択につながります。
「咳の背景に何があるのか」を早く知るためにも、専門性の高い診療が受けられる呼吸器内科は大きな助けになります。
6.おわりに
最適な診断のためには、咳のタイミング(朝・夜)や音(乾いた・湿った)、痰の有無、その他の症状(発熱、息苦しさなど)といった咳の特徴をメモし、しっかりと呼吸器専門医に伝えることが重要です。
特に、2週間以上続く咳や血痰、激しい息苦しさがある場合は、早めに呼吸器内科を受診することをおすすめします。
適切な診断と治療で、多くの呼吸器疾患は良好にコントロールできます。









